脚に痛みが走る。恐らく、嫌、確実に折れたであろう感覚、アドレナリンがドバドバと出ている今の状況ですら感じる痛み、一度自覚してしまえば意識を全てそちらに持っていかれる。
「おい、テイオーが伸びてこないぞ!」
「まさか?」
「スタミナ切れですの?」
「いや、違う!脚だ!」
「怪我?」
「………折れたかもしれない」
「「「「え?」」」」
「僅かだが左脚に力が入っていない、庇いながら走ってやがる!」
トレーナーの言う通りテイオーは左脚に力が入らず思うように走れなくなっている。普通に見ているとスタミナ切れを起こしているように見えるが実際はそうではなかった。
痛い、痛い痛い! こんな大事な時に脚が!どうして! どうして!
痛みに意識を持っていかれスピードが落ちてくる。後方から集団が迫ってくる中テイオーはがむしゃらに脚を動かした。
「ここまでか」
「ああ、テイオーはよく頑張った」
ファンからは諦めと頑張ったとの声がちらほら聞こえてくる。もうここまでだと。
「大丈夫、テイオーは勝ちます」
「マックイーン」
「テイオーにはまだ秘策があります」
「秘策って、あれか」
「ええ、あれです」
秘策、シャオリー、しかしこのままだと使うどころか一歩間違えれば選手生命を絶たれる恐れがある。最後の賭け、希望の一手。ゴールまでまだ距離があるとはいえ、今の状況では使うのはほぼ無理であろう。
「可能性を」
「ゴールドシップ?」
「あいつはここで使うしか勝ち目はない」
「ああ、けど」
「あたしらが諦めてどうすんだ、応援してあいつに元気を与えるしかねーだろ!」
「……………そうだな」
「それにゴルシちゃんに任せな!」
チーム一丸となって声を張り上げ応援する。僅かでも可能性があるなら、絶望的な状況にあった中でも彼女は這い上がってきた。仲間を信じて応援する。
痛い、苦しい、もうここまでなのかな、カイチョーのように無敗で三冠は取れないのかな、嫌だな、負けたくないな
まるで何かが足を掴んでいるようなイメージ、実際折れているだけなのだが、マイナス的な感情が生み出した幻影がテイオーの脚を掴んでいる。幻聴も聞こえてくる。
もういいよ、頑張った。仕方ない、諦めよう。
嫌だ嫌だ、勝ちたい、勝ちたい、けどこのままじゃあ勝てない、シャオリーは使いたくても使えない、集中できない、どうすれば!
「アホウが」
「………………」
「くだらんことを考えやがる」
「しかしだなオーガ」
「少しとはいえ、この俺が手伝ったんだ、負けることは許されない」
「むう」
「見せてみろトウカイテイオー、貴様の執念を、勝ちへの欲望を」
痛みに意識を持っていかれようと諦めない、ただ勝ちたい、夢を、あと少しで届く夢をあきらめたくない、けれどどうすればいいのか分からない、脚を止めることなく走り続けるテイオー、思考が早く、現実の世界のスピードが遅く感じる。まるでスローモーションの世界にいる状態、世界が暗くなっていく。
ふと気が付いた。目の前にもう一人の自分がいることに、諦めた表情をし、目に光がないまま話しかけてくる。
「もうあきらめなよ」
嫌だ
「頑張ったよ」
うるさい
「所詮夢だったんだよ、僕にそんな力はない」
なんで?
「折れたんだ、もういいよトウカイテイオー、楽になろう?」
黙れ!
感情のこもっていない言葉が吐きつけられてくる。諦めたくない、もしここで諦めたらきっと二度と立ち上げれない、どれだけ恐ろしい恐怖が待ち構えているのか分からない、確実に走ることはなくなるだろう。
「シャオリーだっけ、使えないよ、今のキミじゃあ」
じゃあどうしろっていうんだよ!
「どうしようもないよ」
…………
「後ろを見てごらん?」
え?…………ヒっ!
そこには無残な脚で倒れている自分の姿があった。脚は折れるどころかもっとひどいことになり出血している。
「その光景は未来のキミの姿だよ」
…………
「走れなくなりたくないでしょ?」
…………うん
「あんな風になりたくないでしょう」
うん
「だからさ、今回はあきらめようよ、もう二度と走ることができなくなることより全然いいよ」
……………………
「さ、ボクの手を取って、走るのはここまでにしておこう」
手が震える。震えながら逆らえず。ゆっくりと手を伸ばしていく、ああ、ここでこの手を取ればきっとボクは駄目になる。でも、もうわからないよ
「え?」
震える手を突如誰かに握られた。温かい手だ。それも一つじゃない、複数の手だ。肩に、脚に、手に、いろんな温かい手が触れられる。
「マックイーン?」
「!」
「マックイーンだけじゃない、スピカのみんな?」
応援してくれるみんなだ、優しい表情でこちらを見てくる。優しくそして心にしみこむような温かい声がかけられる。
「みんな」
「テイオー、さっさとこんなところおさらばして勝ちに行こうぜ」
「ゴルシ!」
「おうおう、お前何もんだよ、うちの舎弟をいじめてんじゃねえよ!」
「いや、舎弟じゃないし」
「テイオーのドッペルゲンガーか? そんなヤンデレみたいな表情しやがって、曇らせ怪文書系はお呼びじゃないんだぞコラ!」
「ちょっと待って何の話!」
「消え去れ、エクスなんちゃら・パトなんとか~」
「ええええええええ!!!!!!!」
ゴルシの指先からまばゆい光が放たれ消え去っていく。もうワケワカンナイヨー
「よし!」
「よしじゃないよ!」
「あんだよ、シリアス系は苦手なんだよ、そろそろ甘い系の話を執筆したいんだよ」
「そういう問題じゃないよ、最後作者の心境だよね!」
「こまけーことはいんだよ、テイオー頑張れ」
「!」
急にまじめな表情で話すゴールドシップ、みんなも話しかけてくる。頑張れと、諦めるなと、スタンドにいるみんなの方を見る。声を枯らさんとばかりに応援してくれている。周りは諦めていなかった。チームのみんなが、仲間が、ライバルが、応援してくれていた。
「ははっ」
嬉しさのあまり涙が溢れてくる。きっとみんな今の状況を知っていてもボクが勝つって信じて応援してくれている。なのにどうしてボクは諦めようとしていたんだろう。もう幻聴も脚を掴まれている感覚もない、世界に色が戻ってくる。明るい色が、希望が、すべてが変わっていった。
「ありがとうゴルシ、それとみんな」
光となって消えていき、左脚にその光が纏わりつく、痛みが引いていく感じがした。最後にゴルシも光となって消えていく。
もう迷わない、夢をあきらめない、勝利をあきらめない、絶対に勝つと決めた。
すべて元に戻った今、やるべきことはただ一つ。ぶっつけ本番でシャオリーを使う、それだけでは駄目だ。テイオーはある日のルドルフの言葉を思い出す。どうして三冠を取れたのか、なんで強いのか、純粋な疑問だった。それに対してこう答えた。
「時代を作るウマ娘は必ずこの領域に入る」
「領域?」
「自分も知らない剛脚、限界の先の先、ゾーンへ」
「へ~ボクも入れるかな?」
「さあ?どうだろうな」
「じゃあボクも入る!だってボク天才だし」
「ふふっ入れるといいな」
「あ~バカにしてるでしょ~」
「そんなことはないさ、もしかしたらテイオーは可能性があるかもしれないな」
勝ちへの執念を燃やせ、引き出せ、欲望を、願望を、夢を、己のエゴを!勝利を求めろ、心の底から魂に至るまで!!!!!!!
「もっと」
小さな声で呟く、誰にも聞こえないほど小さな声で
ここまでこれたのはボクの力だけじゃない、みんなのおかげだ。だから恩返しがしたい。勝ってありがとうと伝えたい。
心臓が一段と強く音が鳴り、跳ねた。
トレーナー、ゴルシ、スぺちゃん、スズカ、スカーレット、ウオッカ、マックイーン、カイチョー、学園のみんな、見ててよ、目を離さないでよ
もう一段と強く心臓が音を鳴らした。
絶対に勝つ、勝つ、勝つ、勝つ、勝つ、勝つ、勝つ、勝つ、勝つ、勝つ、勝つ、勝つ、勝つ、勝つ、勝つ、勝つ、勝つ、勝つ、勝つ、勝つ、勝つ、勝つ、勝つ、勝つ、勝つ、勝つ、勝つ、勝つ、勝つ、勝つ、勝つ、勝つ、勝つ、勝つ、勝つ、勝つ、勝つ
世界にヒビが入り、ヒビは次第に大きくなっていった。
シリアスクラッシャーゴールドシップ
え~、領域名どうしようか考えていなかったのでアイデアください、あとガチャで理事長来てくれないのですが、どうしたら来てくれるんだ!!