心臓が一段と強く跳ねる。余計な音が聞こえなくなる。ただゴールを目指すのみ、世界にヒビが入っていく、徐々に徐々に割れていく、負けたくない気持ちと勝利への渇望、そしてチームのみんな、絶対に勝つ、そしてみんなに見せてあげたい、勝利し新たな歴史に名前が載る瞬間を!
「オーガよ」
「ああ、やつはもうスタミナも含めて限界だ」
「だが」
「やつはこじ開ける。ゾーンまたはフロー、ピーエクスペリエンスとも呼ばれる超集中状態」
「ああ、一度足を入れると感覚が研ぎ澄まされ普段以上のパフォーマンスを発揮できるあれか」
「そもそもだ、奴は脱力の段階で出来ていたんだ、やり方は違うだけで入ることはたやすい」
「なるほど」
会話の途中でオーガが不敵に笑いだした。
「クックっクッ、入るようだぜ」
「なに?」
「見せてみなトウカイテイオー」
初めは憧れからだった。子どもの頃、カイチョーの、シンボリルドルフのレースを見てあの人のようになりたいと思った。その為に一杯頑張った。レースにも勝った。G1にも勝った。皐月もダービーも勝った。けどを怪我した。でもいろいろあって治った。
練習は辛かった。正直わけがわからないこともいっぱいした。でもそのおかげで強くなれた。心が折れそうにもなった。さっきもそうだったけどみんなのおかげで立ち上がれた。ようやくここまで来れた。もう今からは余計なことは考えない、勝つこと以外何も考えない。
空気が変わった。それは一目瞭然、すべての人が、ウマ娘が気が付いた。先ほどまでの苦しそうな表情が一変し、ただ一点を集中し見つめている。その中で一人のウマ娘が呟く
「テイオー…………ようこそ領域へ」
脚が軽い、痛くない、まるで羽が生えたかのようだ。まるで折れていないかのようだ。先ほどまでの苦しさが消えた。音が聞こえない、嫌、応援が、歓声が聞こえる。それによく聞こえるみんながボクを応援してくれている声が聞こえる。
ああ、心地いい風が、応援が、力をくれる。ああ、なんだろうなんでだろう身体が妙に軽いや、しかもドロドロに溶けていく、どんどん水のように、あれ?この感覚は確か、似たようなことがあったような…………いいか♪
ゴールまであとわずか試しちゃおう今ここで、シャオリー!
踏み出す一歩に力が入る。地面を蹴り上げる瞬間に衝撃を、痛みを全身を使って分散、脚から体へ、身体から腕へ、腕から外へ、本来生じるはずであろう痛み、衝撃を全て分散、残るのは純粋な威力のみ!
極限までの集中状態に入ったテイオー、まるでスローモーションの世界の中でどんどんと加速していく、周りをどんどん抜いていく、ゴールまで駆け抜けていく
「おいトレーナー!」
「ああゾーンだ!それだけじゃない!」
「あれは、脱力…………いいえまたべつの」
「テイオーいけー!」
「そのまま駆け抜けなさーい!」
一体何が起こったというのかトウカイテイオーが再び息を吹き返した!驚異的な末脚で他の追随を許さず駆け抜けていく!ものすごいスピードだ、誰も追いつけない追い越せない、そしてついに先頭に立った~!
後続も追い抜きにかかって来るが追いつけない、完全に抜け出したトウカイテイオー!ゴールまで残り僅か、もう言葉はいらない完全な独走!
ああ、ああああ、やりました。やりました! トウカイテイオーがシンボリルドルフ以来の無敗の三冠を!再び京都競馬場に菊の大輪を花咲かせ新たな歴史の1ページを残しました~~~!!!!!!!
大歓声が響き渡った。駆け抜けたテイオーはゾーンが切れ一気に疲労と足の痛みが襲い掛かる。いったい何の歓声か、掲示板を見なくともわかる観客からのテイオーコール、自分は勝ったのだと確信した。
「……………やった」
不意に自分の名前を呼ぶ声がした。スタンドの方を見るとチームのメンバーが駆け寄りに来ていた。全員涙を流しながら名前を呼ぶ
「テイオ~~」
「よくやった!」
「「ああ~デイオー」」
「うう、テイオーさん、よかったです~」
「スぺちゃん、鼻水が‥あの待って………噓でしょ!」
「はは、みんな、ありがとう」
駆け寄る仲間、全員が涙し、顔をぐしゃぐしゃに汚し鼻水を流しながらスズカに抱き着くスぺちゃん。長年の夢が今果たされた瞬間であった。ターフにまで響き渡るテイオーコール、彼らはこのレースを、記憶を忘れることはないだろう。
「勝ったな」
「ああ」
「まさかこうなるとはな」
「少なくともこの俺が手を貸したんだ、負けは許さねー」
「………………なぁオーガよ」
「なんだ」
「君は一体、本当に何を考えている」
「………………」
「君らしくない、本当にだ、教えてくれないか、本当の理由を、ウマ娘という種族に、個人に、いったい何を期待している」
「…………最強を生み出すこと」
「なに?」
「いずれ芽吹くであろう世界中にばらまいた俺の種、奴のように俺に立ち向かってくる存在、ゼロではない、ウマ娘という種族、ならばレースと言う世界で血を証明できるか、範馬を名乗ることができるか、その為に下準備をしておくこと」
「つまりいずれ彼のような存在が産まれると」
「自ずと目指す最強、頂点に君臨する者を生み出しいずれ競わせる、俺を楽しませる存在として目の前に現れるのが楽しみだ」
「……………なるほど」
「ふん、おしゃべりが過ぎたな俺は帰るぜ」
「………………なんというか、末恐ろしいものだなオーガの血は」
オーガのいなくなった部屋で一人呟いたのであった。
はい、投稿遅くなってすみませんでした。ぼちぼちまた投稿しようと考えていますのでこれからもお願いします。テイオー編はこれでおしまいです。あまり面白くもなかったと思いますがこれからも頑張ります。