「・・・・・・・」
「初めましてオーガ、私はファインモーションと言います」
「ほう、アイルランドの王族か」
「ご存じでしたか」
「してなにようだ、下らん宣誓なら受け付けんぞ」
「いいえ、王族とはいえ今はただの学生、そういうことはしませんがご挨拶だけしておこうと」
「毎度毎度神の誓いを聞かされるよりマシだ」
「あなた様のお話は父からよく聞いております」
「くだらん、消えろ」
「それではご機嫌よう」
廊下でのすれ違いでこの空気、普通の学生ですらこのようなことはならないがファインモーションだけは特別であった、彼女はアイルランドの王族、オーガの話は幼い頃から聞いていた。
「おいファイン、なんであんなやつにかしこまってたんだ?」
「シャカールにはわからないだろうけど、オーガはね神のような存在とも言えるのよ」
「はあ?」
「古くからなのか新しいのかよく知らないけれど、大国ですら恐れる存在」
「大国って、アメリカか?」
「ええ、けれどごめんなさいこれ以上は話せないの」
「ロジカルじゃね~、噂が盛られまくった話か」
「ふふ、なんでもいいのよ」
普段と変わらない表情ではあるが、内心ファインモーションは焦っていた。なぜあのような方がここにいるのか、機嫌を損なえば死者が出る。何が目的なのか、本国に早急に連絡するべきなのか、SP隊長に連絡するべきなのか、下手な行動を取って機嫌を損なえば本国が危険な目に遭うかもしれない、それほど強大な相手である。
しかしここにいる限りただの学生、王族の使命は果たすことはあるが、今回に関してはみなかったことにする方がいいだろう、下手に動いてしまえば国際問題に発展しかねない
「殿下、いかがなさいますか?」
「なにもしなくていいです」
「ですが!」
「これは命令です。普段どうりにしなさい、そしてあまり関わらないようにしましょう」
「承知しました」
考えた末、報告しないことに決めた。しかしどのような人物なのかを改めて知るため本国からの情報を貰うことにした。日が経ち、情報が届くと早速目に通した。
「オーガごと、勇次郎範馬・・日本だと範馬勇次郎か」
「殿下、関わらない方がよろしいのでは」
「ええ、けれどすでに手遅れ、どう転んでも接触はいくらでもあります。少なくとも私がいなくなるまでの間平和であればいいのですが」
「平和がお望みなら関わらないことだな」
「「!!!」」
振り返るとそこには少しばかり怒りの表情で立つオーガがいた。表情は怖く、今にでもこちらを叩き潰せるといった感じに捉えられた。すかさずSPがファインモーションを庇うために前に立ちはだかるが、震えが止まらなかった。
いったい、今まで生きてきた中でこれほどの恐怖があったのか、不謹慎、任務を放棄してでも今すぐにでもこの場から逃げ出したい。逃げろ逃げろと本能が告げてくる。ウマ娘は人間より強い、しかし相手はウマ娘以上に強い。
恐怖と全身からあふれる汗、今この場で震えながらも立っていられるのは己のわずかなプライドであった。一歩進んでくるたびに震えは加速する。しかし暖かく柔らかな手が肩に触れる。
「大丈夫です隊長」
「で、殿下」
「ご機嫌ようオーガ」
「学生風情が、下らん情報を集めよって」
「申し訳ございません。少し必要でしたので」
「余計な詮索は身を滅ぼす。長く生きたいなら余計な真似はするな」
「・・・・はい」
「そこのSP」
「!!」
「震えながら今にでも守るべき対象を捨てて逃げたいと思ってるだろう。一つ忠告だ。二度と俺の前に立つな、次目の前に立ち塞がるというのであればどうなるかわかるな」
ゴクリと喉を鳴らす。オーガの言うとおり次目の前に立ち塞がれば命はないであろう。しかしそれではSPとしての存在意義に問われる。今この瞬間において自身の命と護衛対象の命をかけた天秤が揺れ動く。
「隊長大丈夫です。いざとなれば私のことは見捨てても」
「そ、そのようなことは!」
「守るべき対象の方が肝は据わっているな、しかし所詮女子供震えてるぜ」
言われてから気がつく、肩に触れられている手が震えている。恐怖を感じないはずがない相手はあのオーガ、自分より年下の守るべき存在が勇気を出して守ってくれている。もしここで甘えてしまえば二度と祖国の地を踏むことは出来ず自信で命を絶つだろう。
微かに残っている護衛のプライド、心を奮い立たせ改めて守り通すことを誓った。