とある競馬MADを見て書きたくなった。
やや設定にオリジナルがありますが、その部分は完全にフィクションです。
またウマ娘本編にこの作品に出てくるキャラが登場した場合でも、当作品は無関係です。

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台風の目、この時代を走り去って

 こんなにもジャパンカップというものは騒がしかったのか

 

 歓声に抱かれるターフに足を踏み入れたアーモンドアイはそんな今さらな事を考え、ふふっとほほ笑む。

 2年前にも同じジャパンカップに出走したというのに、いや昔は余裕というものが無かったのだと一人納得する。

 そして自分がリラックスした最上の、理想的な状態だという事を認識する。

 気負いや気後れなどどこにもない。

 

 今日この日を最後にレースから引退するというのに、不思議なほど怖さはなかった。

 ビートを刻む心音は心地よく。

 ただただ最後まで走りきってやろうと、ゴール板まで駆け抜ける事しか考えられなかった。

 

 有馬のリスグラシューも同じ気持ちだったのだろうか。

 

 自分を完全に打ち負かし、完璧な勝ち逃げを果たした優美な百合を思い出す。

 あの時の彼女もレース前は微笑みを浮かべていた。

 あの時から永遠に追いつけない背中を追って走っていたような気がする。

 柔らかな表情のまま、アーモンドアイは後ろに視線を向ける。

 そこには自分を鋭く見つめる2人のウマ娘がいた。

 

 クラシック三冠(トリプルクラウン)を頂くコントレイルと、自分と同じティアラ三冠(トリプルティアラ)を頂くデアリングタクト。

 共に無敗でここまでたどり着いた、明日を担う精神気鋭の後輩である。

 

 2人とも自分こそが速い(勝つ)のだとでも言うような自信に満ちた顔をしている。

 かつての自分も同じ顔をしていたに違いない。ああしかし―――。

 

勝つの(最強)は私だ」 

 

歓声も罵声も飲みこみ、ゲートに入り私はそう呟く。命が揺れるレースが始まる。

 

 

『グローリーヴェイズ収まって、ジャパンカップスタートしました。ポンとアーモンドアイが好スタートを切りました。しかしそれを制してキセキが飛び出していくかスタンド前です。外からヨシオが一気に前へと上がっていきます。キセキとヨシオの先行争い、2バ身差トーラスジェミニ3番手、4番手にグローリーヴェイズ、その内でアーモンドアイ追走の5番手、クレッシェンドラヴは中団になります。その内にデアリングタクトも中段の一角。カレンブーケドール1番コーナーを回っていきました。これらをやって2バ身差ポツンとコントレイル中団の追走です。さあ…』

 

 1、2コーナーの中間点で縦長の状態となったか。

 このままの状態でレースが続くとなるとキセキはスタミナ勝負に打って出たわけだ。

 キセキめ、ここで大逃げとはやってくれる。

 だがこの展開は悪くない。このまま前団を維持する!

 

『各バ3コーナーカーブに向かって行きました。コントレイルは中団の後ろで、あとは2バ身空いてパフォーマープロミス後方集団、その後ミッキースワロー。3バ身空いてマカヒキ、ユーキャンスマイルお終いから2、3番目、ウェイトゥパリスが最後尾です。さあ大逃げキセキのリードは、20バ身くらいあります。大きなリードを取っています。』

 

 

 レースも終盤に入った。

 

 コーナーを曲がり終えたらデアリングタクトもコンロレイルもスパートをかけてくるだろう。

 

 ああ、体がもう少し丈夫であったのならもっとこの2人と競いあえたのだろうか。

 

 心臓に爆弾ができなければ、もっとレースを駆け抜けられたのだろうか。

 

 今になってこうも欲が沸き出るのか、ならこの欲をも振り切り、大地を振るわせて駆け抜けよう!

 

 

『キセキ先頭!まだリードは10バ身以上ある!400を通過!追ってくるのはグローリーヴェイズ、アーモンドアイ!外を出してカレンブーケドール、デアリングタクト!大外はコントレイルが飛んできた!先頭キセキ!キセキが先頭!キセキ先頭!追ってくるグローリーヴェイズ!アーモンドアイ!さらにカレンブーケドール!さらにはコントレイル!真ん中アーモンドアイ!キセキをかわして先頭!外から一気にコントレイル!』

 

 コントレイルは前を行くアーモンドアイを捉えていた。

 最善の状態で最善の状況に持って行っていた。

 はずだった。

 

「なんで、追いつけない…っ!」

 

 残り100mを切った時に1バ身、その背中を追い詰めようとするも追いつけない。

 デアリングタクトも近くにいるのだろう、叫び声が聞こえた。

 彼女も前を行くアーモンドアイに並ぶ事すらできずにいるのだ。

 たった1メートル先に見える薄い青色、そこへ追いつけない事に絶望を抱く。

 

「あああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」

 

 堪らず叫ぶ声は、アーモンドアイがゴール板を駆け抜けるのを止められない。

 

『アーモンドアイだ!さようならゴールイン!』

 

 力が抜け、速度を落としていくコントレイルとデアリングタクト。

 彼女らは茫然とアーモンドアイ(最強の女王)の、永遠に追いつけない背を眺めるしかなかった。

 アーモンドアイは観客に手を振り、投げキッスをしていた。

 過去を祝う騒がしい歓声が止まることは無い。

 

 

『見事に!見事に!アーモンドアイ!有終の美を飾ってG1!9つ目!見事な勝利!』

 

『ありがとう!そして、さようなら!お疲れ様アーモンドアイ!』

 

『最後まで、アーモンドアイは強かった!』

 

『女王は女王のまま!その座を譲ることなく、ターフに別れを告げます!』




アーモンドアイ:オリジナルウマ娘、以下オリジナル設定。
G1 7勝目となるヴィクトリアマイル直後に心臓に爆弾がある事が発覚し走れても5回いけるかどうかという診断が下される。安全を確保して3回の出走で引退を決め、前人未到の記録へ挑戦した。

デアリングタクト:オリジナルウマ娘、史実と同じ。

コントレイル:オリジナルウマ娘、史実と同じ。


素晴らしい競馬MADをウマ娘で再現したらどうなるのだろうかという思いで書いた。
実況が前半と後半で別人になってしまったのは不覚なので、いずれどちらかに統一したいと思う。

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