GATE 地球連邦軍 彼の地で 斯く戦えり   作:急行根府川(青い鳥)

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イタリカ攻防戦 後編

赤銅色に染まり、満ち足りた月が紅く大地をボンヤリと照らす。満月は人々を狂わせる。西暦だった地球の中世ヨーロッパではそんなことがよく言われたそうだ。

不気味な静けさを火矢が切り裂く。イタミ達が見た通り、東門に兵士たちが来たようだ。東門を護衛するは正騎士 ノーマ・コ・イグル。ノーマの指揮で警備兵や民兵の反撃の弓射がおこなれる。民兵はいわゆる民間兵のことであり全員がシロウトだが、いないよりかはマシである。

射撃戦が続く。矢に体を抉られた者は盗賊だろうが民兵だろうがうめき声を上げ、倒れてゆく。弓を持った盗賊の間から円形、方形それぞれバラバラな盾を持った盗賊達が歩み出てくる。それを女性や年長の子供が石を投げ熱湯や溶けた鉛を下にぶっかける。当たらぬ矢よりもこちらの方が有効打になるのだ。

 

今ここにいる盗賊…いや、諸国連合軍の敗残兵達が見たのは異様なものだった。人が巨人が使う直線的な魔法によって消される。それは人だけでは無い。馬、人外、竜までもがそれに触れただけでその部位が消滅する。人間ぐらいの大きさなら瞬間的に消滅するのだ。そしてその消えた場所を巨人達が歩いてくるのだ。もはや理不尽を超えた何かに、連合軍は敗北した。そして全てを失った。その時から彼らは俗に言う“無敵の人”となった。もはや何も失うことは無い。何も奪われることは無い。俺たちを縛るものは何も無い。ならば何をやる?ならば戦争だ。もはやアルヌスの敵も帝国もどうでも良い。これからは俺たちだけの事だ。俺たちの戦争だと。

これこそが戦争。矢が飛び合い、剣で切り裂き、盾で防ぐ、血で血を洗い、じぶんがどうなろうと気にせずに相手を斬る、斬る、斬る。

死を恐れぬ兵士が大地を往く。城壁にハシゴをかけ、登る。1人の民兵がハシゴを斧で壊せば

「おみごとっ!」

と喝采をして腹を切り裂く。ハシゴは倒れ、そしてヒトだった物が地面に散らばる。

歓声が上がる。そして兵士達が歓呼をを述べてゆく。これこそが戦神エムロイへの賛歌。戦いの熱狂はモノを焼いてその霊魂と共に燃え上がる。そして彼らを橙に照らすのだ。

 

使徒、ロウリィ・マーキュリーはしばし耐えていた。この狂乱を前にして、オアズケにされているのだから。

 

「な、なんでぇ!?」

 

甘い声で、苦しみ、悶える。

 

「んっ、くぅ」

 

彼女達が心配で待機を命じたのは残念ながら悪影響だったようだ。

 

「大丈夫なのか?」

 

出発しようとしていたイタミがMSから降りようとするがレレイとテュカに停められる。

 

「彼女は使徒だから…」

 

よく分からないが、それがロウリィが苦しんでる理由らしい。

彼女はここにいるからこの状態だが、もしも、戦場の真っ只中にいたなら、敵とみなしたもの全てを衝動的に殺戮して回る。それは本能のようなものなのだと。

レレイの説明にイタミは慄然とした。

 

「クソっ!盗賊なら農村辺りを襲ってりゃいいんだ!城市を堕とそうとするとは生意気だ!」

 

そう言って盗賊を斬る。しかし背後から別の奴が斧で斬りかかってくる、それを剣で受け止めるが、棍棒、双剣、半月刀、長槍、などなど様々な武器を持った兵が次々と襲いかかり、ノーマはその波に飲まれてしまう。途方もないほどに湧き出てくる盗賊にイタリカの住民が抑えることは出来なかった。

 

作戦通りにはいかない。というのはピニャもよく知っている。ピニャは敵は慎重に攻めてくるだろうと考えてこの二重の防衛に決めた。しかし蓋を開けてみれば彼らに慎重のしの字もなかった。ただただ、襲ってきては斬られ、そして死ぬ。

 

「味方が脆すぎる…士気は上がっていたはずなのに…」

 

民兵も、警備兵も最初から腰が引けていた。それに来たのが死を恐れぬもの達である。その気迫に気圧され、そして戦えずに地に伏せてゆく。

ピニャは予定通り主戦力を東門内側に作り上げた防塁へと移動させる。

壁の上にいた民兵達や兵士は自分たちがどんな状況に置かれているかに気づき、絶望し、やり場のない怒りを覚えた。自分たちは捨て駒だったのだと。

最初から第1の壁は捨てることを前提として考えられていた。それを聞いた人達は最初はよくわかっていなかったが、今になったら分かる。あの皇女は最初から自分たちを捨てる気だったと。

 

ノーマは驚いた。なんと味方である警備兵から攻撃を受けたのである。その攻撃を何とか剣で受け止めるが、また別のところからの攻撃が来る。ノーマもはやここにいるのは不可能と判断して飛び降りる。もはや民兵も女性や子供は殺され、兵士でも生き残ったものは怒りをそのままに寝返ったものまでもいる。

東門を占拠した彼らは破壊した門扉を押し開けて来る。騎兵達は女、子供、男問わず、その死体を見せつけ、投げて山にする。友人、親戚、親、子の死体が山積みにされる。卑怯者だと罵声を浴びせ来いよと煽り、死体を弄ぶ。

「こんちくしょっ!!!」

1人の若者がフォークシャベルを片手に飛び出していく。そこからはもう誰も止められない。雪崩のように人が飛び出して行く。ピニャの作戦は完全に破綻したのだ。

 

イタミ達はロウリィの喘ぎ声が無線に響いている状態で出ることになってしまった。

全員が色々とすごい表情になっている。

クリバヤシが「色々と不味くないですか?これ」と声をかける。イタミは「後でこの部分の無線の記録消さなきゃなぁ」と赤くなった顔で言う。正直いってそろそろ無線を停めたいのだがそれも出来ないのだ。それに何故か異様にあの声を無線がキャッチする。

 

「と、とりあえずクロカワ、ロウリィの傍にいて欲しい、今そっちで女の子を見れるのクロカワしかいない。」

 

「了解しましたわ。ロウリィさん、もう少し、我慢できますわね?」

 

ロウリィはすっと立ち上がり、すごい速度で飛んで屋根を走り始めた。

 

「ロ、ロウリィさんが急に動き始めて…!」

 

クロカワが焦った声で言う。

 

「と、とにかく急がなきゃまずいよ!」

 

「あ、ああ、とにかく走るそ!」

 

屋根の上を走るロウリィとその横をズカズカとMS達が走る。

タカモトは合流ポイントに到着し、武装を受け取る。長い筒にジョウロみたいな先っぽ、タカモトの第一印象は「まるで害虫駆除用の農薬散布マシーンみたいだ」と。

諸君はビームスプレーガンを知っているだろう。アレは収束率が低いためビームライフルほどMSに有効打を与えずらい。しかし、それを対人戦に向けてみるとどうだろう?むしろその場合、わざと収束率を下げて周りに散布する。そうしたら人を一網打尽にできるのではないかと。

 

「人にスプレー状のビーム撒いて殺すか…ある意味非人道的だな。」

 

イタミ達が東門に向かう頃、MSとファンファンが赤さが抜けてきた月を横目に進む。

 

「ケングン大佐!あと5分で到着します。段取りとしては東側から接近して城門と門外の目標を掃討しようと思っとります。」

 

ケングンは「中佐に任せる」とだけ返す。

あと2分、となったところでその曲を流す。ワルキューレの騎行が始まる。

 

[ここからは実際にワルキューレの騎行を聞いた方が楽しめると思います。by青い鳥]

 

柵と門の間ではもはや何が敵で何が味方か分からないほどの乱闘が起きていた、

そこらにいた敵を殴り、蹴飛ばしそして斬る。そして死体を踏む。それが味方だったのか敵だったのかすら分からない。そんな状態の彼らに曲が空気を叩く音など気づくはずもない。

所が、時が、空間が全てが止まった。柵を飛び越え、彼女が降り立った瞬間に。そして巨大な何かが

その破壊力と衝撃に音が止み、戦いに関係する一切の音が途切れた。そして聞こえるはオーケストラの調べ。

 

「Ho-jo to-ho! Ho-jo to-ho! 」

 

突如現れた真っ黒な何かにみなが目を向ける。

 

「Ho-jo to-ho! Ho-jo to-ho! 」

 

それはフリルにフリルを重ねた漆黒の神官服を纏った少女。

 

「Ho-jo to-ho! Ho-jo to-ho! 」

 

更に上を見やると?

 

「Ho-jo to-ho! Ho-jo to-ho! 」

 

それは2つ目の巨人(ツインアイ・オーガー)だった。その巨人は腕の爪を赤く、赤く光らせていた。

 

「Ho-jo to-ho!!」

 

彼女は地に足をつけていた。左手を大地に置き、後ろにまわした右手は鉄塊の如きハルバードを握っていた。彼女は顔を上げ、神々しいまでの狂気を湛えた顔を正面へと向ける。彼女の黒髪は、禍々しいまでの神聖さで白銀のように輝いていた。その瞬間、ファンファーレと共に城門は爆発し、そしてピンク色の雨が降り注ぎ始める。

 

「ヒャッハーってか?」

 

タカモトは無心状態でビームのシャワーを盗賊にかける。その盗賊たちは爛れ、そして死ぬ。その間をファンファンの誘導弾がすり抜け、的確に爆発し、殺してゆく。前後、左右、様々な場所から綺麗な軌道を描いて爆発するミサイルに盗賊達は消えていった。

城門内ではロウリィが敵を蹂躙し、クリバヤシがMSの腕のシールドSクローを赤熱化させ騎兵を馬ごと切り裂き、そして地面につき刺す。月は白くなりながら沈んでゆき、太陽がまた大地を照らす。鉛玉が空を切り裂き、かべにめり込む、そしてピンク色の雨が降り、大地を歪に浄化してゆく。絶対的で一方的な攻撃。そして心のなく凶暴な攻撃。巨人と空飛ぶ何かにあらゆるもの全てが破壊されていく。死の交響曲とともに。

 

「Ho-jo to-ho! Ho-jo to-ho! Hei-a ha! Hei-a ha!!」

 

ピニャはもはや立つことしか出来なかった。正と負の感動が入り交じった無茶苦茶な感情が彼女の精神を揺さぶる。

 

「Ho-jo to-ho! Ho-jo to-ho! Hei-a ha! Hei-a ha!!」

 

ピニャの霊魂が鉄の連打とともに打ちのめされる。人はちっぽけで無意味な存在なのかを、絶対的な無力感を突きつけられていた。

 

「Hei-a ha! ーーーー Hei-a ha ! ーーーー」

 

今までの敵は等身大だった。だが、アレは違う、あまりに強大で多数で、そして進んでいる。追いかけようにも一生追い越せない「壁」。

 

ワルキューレの嘲笑とともにピニャの精神は打ちのめされた。意味のわからぬ歌詞は

なんと矮小なニンゲンよ!無力で惨めで、情けないニンゲンよ!

お前の権力、権威など何ほどのものか、お前たちが代を重ねて気づきあげたものなど、我々の力には一瞬でこうよ!

彼女にはこう聞こえた。彼女は崩れ落ち、涙を流した。

 

テンションの上がりすぎたクリバヤシはバキッという鈍い音を立てながら飛び出し、銃剣をふるう。この時代(宇宙世紀)に銃剣なんぞ必要なのかと言われそうだが、全てはもしもの備えである。MSで蹂躙などクリバヤシは満足出来ない。自分は白兵戦こそ本領を出せると言わんばかりに敵を切り裂く。猫のような俊敏さで相手を寄せつけず、離れれば銃を乱射し、近づけばナイフで突き刺す。もはや彼女には誰も手を出せない。2人ともいっちゃった顔をしている。残りのMS部隊は危ないのでどうすることも出来ない。するとファンファン達が内部の殲滅を開始するために顔を出す。イタミ達は急いでみんなに下がるように伝える。ロウリィはクリバヤシを抱えてひとっ飛びでMSの肩に着地し、クリバヤシを突っ込んでから飛び降りようとするも、イタミのMSに妨害される。そして行われたのはバルカン砲の一斉射撃。ガンダムにも使われた火器が容赦なく敵に降り注ぐ。バルカンがなり止むと、それと同じくしてオーケストラの演奏も終わる。

そしてファンファンからロープが垂れ落ち、軍人達が滑り降りてくる。

もはや軽い調子で「薄茶の人」などと声をかけられなくなっていた。窓から弓を射っていた人があんたらは何者なんだと呟く。

トミタは「地球連邦軍さ」と答える。

イタミのMSの手の上に乗ったロウリィはローターの風でスカートが巻き上がらない様に手で抑える。もう敵が動く様子もない。

 

「ロウリィ、気分は大丈夫か〜?」

 

後ろからイタミの声がする。

 

「出来れば、もうちょっとしたかったわぁ」

 

「そっか、だけど、取り逃すのはごめんだからね。」

 

「まあ、久々に狂えたし、今回はこれぐらいで許してあげるわねぇ〜」

 

「まっ、許す人間がいるのかわかんないけどね」

 

太陽が城市の中を暖かく照らす。

また、新しい朝が来たのだ。

 

続く。




次回予告。戦いを終えた彼らは条約を結ぶこととなる。ピニャは彼らの出す要求が帝国のそれと全く異なることに驚く。その後イタミ達は帰還途中に謎の女性の集団に遭遇するが…
次回!GATE 地球連邦軍 彼の地にて、斯く戦えり 「戦いの後始末」 君は彼の地で何を見るか?

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