支える片腕の恋愛事情 作:燕尾
ども、燕尾です。
珍しく今日明日と休みじゃ
「ねぇ、奏」
「なんだ、善子」
ヨハネよ! といつものように突っ込みを貰った俺は話を促す。
このやり取りのテンポはもはや長年組んだ相方とやるようなコント並みにスムーズになっている。
「コントにしないで欲しいのだけれど…」
「まあ、いいじゃないか。お互いに分かってやってるんだから」
今日はいつもの幼馴染み達ではなく、善子、花丸、ルビィ、梨子の4人と一緒にお茶をしていた。
元々5人で示し合わせていたわけではなく、善子たち一年生が集まっていたところに偶然梨子と俺がそれぞれ遭遇したのだ。
そして折角だから一緒に遊ぼう、となって今は休憩の優雅なティータイムを過ごしている、というわけだ。
「で、改まってどうしたんだ?」
「そろそろ聞かせてほしいなって思ってたのよ。
「ぶふっ!」
「よ、善子ちゃん!!」
「そ、それは……!!」
ストレートに言う善子に梨子は口に含んでた紅茶を吹き出し、花丸とルビィは泡食ったように慌て始める。
「千歌や曜、それから果南や鞠莉にダイヤは知ってるみたいだけど教えてはくれないし。丁度ここに居るのが奏の事情を知らない人間だけだから聞くなら丁度いいかなって思うのよ」
「ちなみに、聞いてどうするんだ?」
「なにもしないわよ。ただ理由が知りたいだけ」
「善子ちゃん、もっとマシな理由なかったの?」
「それはないずら、善子ちゃん」
「ルビィもそう思う」
善子を批難している三人を余所に、俺は彼女をじっと見つめる。
善子は顔を反らすこともなく、いつも通りの表情で俺の顔を見返している。
これはそういうことなんだろうな。全く、名前の通りいい子だよ。こいつは。
「わかった」
「……いいの、奏くん?」
「無理してないずら?」
「話したくなかったら話さなくてもいいんだよ?」
「別にいいよ、もう時間も経って割り切ってるし。ちょっとした昔話をするだけさ。それに気になっているのは間違いないんだろう?」
「まあ、それは気になってないって言ったら嘘になるけど」
「ならせっかく善子がその機会を作ったんだから、梨子たちも丁度いいだろ」
あ、でも話すにあたって問題があるといえば一つだけあった。
「話すのはいいが、面倒だから三行でまとめてもいいか」
「……とりあえずそれで聞かせて頂戴。それから詳しく聞くから」
えー、それ二度手間なんだけど。
文句を垂れるも善子から早く言えと促され、しぶしぶ俺は口を開く。
「えーっと――小学校6年に上がる前、両親と家族旅行に行くことになったんだけど
道中飲酒運転の爆走車と俺たちの車が正面衝突して
両親と俺の左腕が見事にぺっしゃんこになりました、まる」
二度手間にならないように、簡潔ながらもちゃんと伝わるように三行にまとめる。
『……』
かなり優しくオブラートに伝えたのだが、脳内変換されたのか梨子と花丸、ルビィは気まずそうな顔をする。そこまで気まずくならなくてもいいと思うのだけど。
「普通はそうなるでしょう」
「なぜ俺の心が読めたのかは置いておいて、善子は普通だな」
「聞き出した人間が同情や憐れみを向けるなんて失礼でしょう? 聞くと決めた以上、どんな話でも受け止めるだけ。そう考えているだけよ」
「やばい。善子さん、まじイケメン。惚れてまうやろ」
「ふふん、ようやくヨハネの魅力に気が付いたのかしら? リトルデーモンになる?」
「あ、それは遠慮しておく」
「なんでよ!!」
だって、頻繁に動画配信とかに呼ばれそうだし。善子の動画内でのあのノリについていくにはまだ俺のレベルが低すぎる。
「あの、奏くん。一つ聞いてもいいかな?」
再び俺と善子のコントが広げられそうなところに梨子からの質問が飛んできた。
「その、答えたくないならいいんだけど、その相手は……」
「相手もぺっしゃんこだよ。生き残ったのは俺だけ」
俺からしたら死んだ相手のことなんてどうでもいい。そうなっても当然の結果だし、原因からして情状酌量の余地なしだし。
「結果的に言えばぺっしゃんこになってよかったと思うよ。生き残ってたら大変なことになってたからね。生き証人が言ってるんだから間違いないよ。あはは」
「笑えないわよ……」
「奏くんは、事故の後どういう生活をしていたの?」
「直後は俺も人並みに死にたがってたなぁ。2、3年ほど荒んでいたりして、まともな生活はしてなかったな」
「そこで人並みっていう言葉は普通使わないずら」
「そういえば、お姉ちゃんもポロっと零してた。奏さんにも大変な時期があったって。もしかしてその数年のこと言ってたのかな」
「ルビィに教えるには生々しいって思ったんだろうね――体は動かないし、動かないのに死ぬほど痛いし、リハビリは死ぬほどつらいし、ようやく一段落したと思ったら今度は両親の遺産に
ことの大きさに新聞社やらテレビ局やらが殺到して、俺や周りの生活を荒らすわ、好き勝手なこと言うわ、もうなんなん? みたいな状況だった。
そんな糞みたいな状況に置かれていたせいで、あのときの俺は肉体的にも精神的にも疲弊しきっていた。
「奏、よく生き延びたわね」
そういう感想が出るのは理解できる。俺もそう思うし。
「そこは幼馴染みとその親たちに感謝だな。頭が上がらないよ、ほんと」
「千歌ちゃんたち?」
「そう」
自分から終わりに向かおうとする俺を何度も引き戻してくれた。
俺が拒んでも諦めずに、見捨てもせずに、何度も、何度も。
そして最後は千歌と曜の二人と、果南姉さんとダイヤ姉さん、鞠莉姉の三人と大ゲンカをして、皆に真正面から生きてほしいと言われた俺はそこでようやく目を覚ました。
その時恥も外聞もなく大泣きしたのは、さすがに内緒にしておく。
「じゃあ、たまに千歌ちゃんたちがすごく奏くんを心配するのは……」
「そういう事情だな。もう大丈夫って言ってるのに聞かないんだ。一人で何かしようとすると、必ず口出してくる」
「まあ奏くんはよく無茶するから、千歌ちゃんたちが心配するのはわかるずら」
「私たちでも心配になるときあるから、仕方ないと思う」
「そういう方面で言えば奏は信用ないものね」
「うゆ」
おうおう、皆さん好き勝手言いなさる。
そこまで俺信用ないかね。
『うん』
声をそろえて頷く四人に、俺はがっくりと項垂れた。
いかがでしたでしょうか?
ではまた