支える片腕の恋愛事情 作:燕尾
ども、燕尾です。
お仕事、ツカレタ。
「カーナデー!」
Aqoursの練習の終わり際。元気な声をあげて絡んでくる鞠莉姉。
「抱きつくな。離れろ」
「嫌♪」
嫌♪ じゃないよ。そんな可愛らしく言っても駄目だから。
ほら、曜と千歌からの視線が痛いでしょうが。これ後からまた正座コースだよ。
「もう、カナデったら恥ずかしがり屋なんだから」
この反応のどこをどう見たら恥ずかしがっているように見えるのだろうか。
鏡を見なくても分かる。今俺の目は死んでいる。
「ねぇカナデ。カナデにお願いがあるの」
「断る」
「私と一緒にパーティーに参加してほしいの!」
断ると言ったはずなのに、それを無視して自分の要望を口にする鞠莉姉。
「今週の土曜日の夜19時からだから、17時には家に来て頂戴!」
「鞠莉婆さんや? 耳は聞こえてるかの? こ・と・わ・る、って言ってるんじゃよ?」
「何で奏がお年寄り口調なの?」
果南姉さんからそんな突っ込みが入るが、今は相手にしている場合ではない。俺の貴重な休日が掛かっているのだから。
「とにかく! そんな面倒くさそうなところ、付き合いたくない!」
「NOよ! もう参加受け付けにはカナデが参加するって伝えてあるんだから!」
自信満々に、悪びれもなく胸を張って言うこの能天気ぱつきんに俺、久々に堪忍袋の緒が切れました。
「毎度毎度、勝手になにしくさってんだこのアホンダラァァァ!!」
怒りの声をあげて、俺は鞠莉姉の顔を掴んだ。
「ノー! ノー!! 女の子に暴力振るうの!?」
「この義手の握力テストだ! 最近自分で確認してなかったからな! 丁度目の前に握りやすい顔面があるんだ。別にやってもいいだろう!!」
「人の顔は測定器じゃないわ! カナデの人でなし! 暴漢――」
どうやら、お仕置きが足りないようだ。
俺はさらに力を籠める。
「あいたたたた! ごめん! ごめんなさい! 謝るからその手を離して~!!」
「誰か、ボードと紙持ってこい!!」
「「……楽しそう」」
「なに、千歌と曜も奏にアイアンクローしてほしいの?」
「それは嫌! あれ、すっごく痛いんだから!」
「私ももうあれはされたくないかな…」
「もう経験済みだったずら……」
「で、事情を話して貰おうか」
「……はい」
"私は勝手なことして人に迷惑をかけました。ごめんなさい"というボードを首から下げた鞠莉姉はシュン、としながら事情を話す。
「えっと、知り合いの企業のトップの娘さんが今回結婚することになって、その披露宴に招待されたの」
「で?」
「その、そういうところって披露宴がメインなのだけれど、他の出会いの場とも言いうか、色々と欲望渦巻くところで……大企業とのパイプを作るために縁談を持ちかけたりするの」
話が見えてきた。恐らくこのポンコツぱつきんはそれを回避するために俺をお供にしようとしていたのだろう。
「はい、その通りデース……」
大きくため息を吐く俺。そんな俺に、鞠莉は異議ありと抗議する。
「だって、正直に言っても聞いてくれないし、いっつも逃げるじゃない!」
「面倒だからな」
「そう言うと思ったから、先に逃げ道を封じたの!」
「ドヤ顔で言うな、このドアホ」
「まあ、奏さんにはそれが一番有効ですわね」
「そこで納得しないでよダイヤ姉さん。毎回その餌食になっている俺の身にもなってくれ」
「もー、いいじゃない。何度も熱い夜を過ごしたマリーとカナデの仲なんだから♪」
「おいこら、変な言い方するな。そんな夜を過ごした覚えは――」
――ぐりっ
「痛った! 超痛い!!」
ねじ切れるほどの強さで両肩を掴まれた俺は声を上げる。
「そうくん……?」
「一体どういうこと……?」
その肩を掴んでいるのは曜と千歌。彼女たちは笑顔を浮かべて俺に顔を近づける。
「おい待て。一体どういうこともなにも、何もない。鞠莉姉言うことを信じるのは、馬鹿のすることだ」
「ひどいわ、カナデ! 私にあんなことやこんなことしておいて! なかったことにするの!?」
「なかったもなにも、そもそも何もしてねぇだろうがよ!! いい加減にしないと、その口塞ぐぞ!!」
「ああ! また私、乱暴にされるのね! でも、カナデになら…乱暴されてもいいわ……」
「「……」」
「痛い痛い痛い痛いっ!! もげる! 肉がもげるぅ!!」
エマージェンシー! エマージェンシー! 応援求ム! 助けてフレンズたち!!
助けを求め、ほかの皆にかをお向ける。が、
「さぁ皆、練習再開するよー」
「よーし、がんばルビィ!」
「触らぬようちかに祟りなしね」
「奏くん、骨はまるの家のお寺で永大供養するから、安心するずら」
「頑張ってね、奏くん」
願い叶わず、俺と千歌、曜、鞠莉を置いてほかの皆は離れていく。
「さて、そうくん?」
「しっかりと話してもらうよ?」
「だから、話すもなにも、何もないって言ってるだろ!」
「ひどいわ、カナデ――」
「ループさせるな!!」
場を荒らす鞠莉姉と、目がマジな幼馴染の相手に、俺のライフはゼロへと向かっていくのだった。
「スーツの方はいかがでしょうか? どこか合わないところはありますか?」
「いえ、ピッタリです。流石ですね千景さん」
「小原家のメイドたるもの、このくらい当然ですよ。それに奏様のお世話は何度もさせていただいていますから――ではヘアアレンジの方もしていきましょう」
「お願いします」
土曜日――為す術もなく鞠莉姉に拉致された俺は小原家のメイドである千景さんからあれこれと改造を施されていた。
「奏様、ありがとうございます」
その最中、千景さんがなぜか感謝の言葉を口にした。
「どうしたんですか、急に? 俺、感謝されることなんてしてませんよ?」
「いえ、奏様にはいつもお嬢様のワガママを聞いて貰ってますから」
「聞いてると言うか、引きずられているだけですよ」
鞠莉姉の
結局どうしようもないからやっているだけなのだ。
「本当は家のお布団でゴロゴロしていたいです」
「当家の寝具は寝心地悪いですか?」
「いえ、最高です。寝具は最高なんですけど外的要因が…」
「ふふ…微笑ましいですよ?」
「微笑ましい歳はもう越えましたよ」
「私からしたら変わりませんよ、昔も、今も」
静かに笑う千景さんに俺は敵わないな、と小さく呟く。
その瞬間、控え室のドアが勢いよく開かれた。
「カナデー!」
「出ていけ」
ノックもせずにズカズカ入ってきた鞠莉姉に即レスポンス。
だが、このぱつきんお嬢は止まることを知らない
「NOよ! 千景とだけイチャイチャしてるなんてずるいわ!」
「してないだろうが」
どっからどう見ても身だしなみを整えてもらってるだけだ。
しかし鞠莉姉を前にした千景さんは残念そうな顔をする。
「残念です。折角の奏様との時間が終わってしまうのですね」
千景さん? いま一瞬、悪い顔をしたのはちゃんと見えたましたぞ、おい。
「あ、ちょっと、千景さん!?」
「……」
それだけではじゃ飽き足らず千景さんは俺に抱きついてくる。
「私じゃ、不服でしたか?」
そこらの男ならば誰もが狼狽えてしまうほどの感情を見せる千景さん。だが、
「小原家のメイドから女優に転職を勧めますよ」
「あら、残念ですわ」
俺には通じない。日々異性に囲まれている男は勘違いなどしないのだ。
鞠莉姉だって、これが冗談なくらい分かっているはず――
「……」
鞠莉姉は何の感情もない真顔で、ただただ俺を見つめていた。
どうやら全然分かっていらっしゃらなかった。
「ふふ、お嬢様かわいいですわ。さて、からかうのもここまでにして私は失礼します」
そんな主を見て満足したのか、俺から離れた千景さんは優雅に一礼をして控え室をあとにした。
「カナデ」
そしてやってくるのは鞠莉姉からの異様な
「覚悟はいい?」
後ずさる俺を追い込むように詰めてくる鞠莉姉。
「いや、待ってくれ。千景さんも言ってただろう? からかうのはここまでって。ほら、鞠莉姉もいつも言ってる"イッツアジョーク"だよ。だから俺は悪くない!!」
「そうじゃないわよ! カナデのバカ! この鈍感!!」
「ノオオオオオー!!」
俺の叫びが部屋に響く。
何をされたかは、言葉にはしないでおく。
いかがでしたでしょうか?
のんびりしたーい。
のんびり書いていたーい
ではまた次回に
PS 話は次回に続きます