支える片腕の恋愛事情 作:燕尾
ども、燕尾です
7話目です
鞠莉姉からの理不尽な仕置きを受けてから30分後、ついに披露宴が始まった。
「なあ、鞠莉姉」
「なにかしら、ダーリン?」
誰がダーリンだ。こちとらまだ結婚もできない学生だってのに。
俺の腕に自分の腕を絡ませて抱き着く鞠莉姉に俺は早々に疲れた顔をしてしまう。
「そんなことより鞠莉姉。俺、すごい場違い感ハンパないんだけど、これ、大丈夫なのか?」
俺は鞠莉姉だけが分かるように溜息を吐く。
「大丈夫よ、カナデ。今のあなたは私の恋人なんだから」
「いや、その設定も無理があるだろ。俺、ただの学生やで? こんな自分のステータスのことしか考えていないボンボン共の場は合わねーよ」
そう言うと、鞠莉姉は不満そうに頬を膨らませた。
「まるで私の恋人はそういう人のほうがお似合いみたいないい方ね? ひどいわ、カナデ」
「いや、この場では合わないって話だよ。一般家庭出の人間がパートナーとして来る場所じゃないだろ」
別に鞠莉姉の恋人にそういう人間がお似合いとは言っていない。
むしろちゃんと鞠莉姉が望む人間と恋人になるのが一番だと思っている。
「私の恋人にカナデ以上の人はいないわ」
「はいはい」
「もう! 本当なのに!!」
適当に流すと、鞠莉姉の頬がさらに膨らんで、俺の腕に抱きつく力を強めた。
「おい、今回はあくまで披露宴を乗り切ることが目的だろ。あまり目立つようなことするなよ。絡まれないことが重要なんだから」
それに鞠莉姉の柔らかい二子山が形を変えるほどに押し付けられているせいか、俺の理性もかなり危うい。
「あ……」
その理性が吹き飛ぶ前に、鞠莉姉を引っぺがす。
寂しそうにする鞠莉姉に、俺は腕を出した。
「ほら、あくまで自然にしとけって。それくらいできるだろう?」
「っ! もうっ、カナデは卑怯だわ!」
「なにがだ」
「何でもない! カナデのプレイボーイぶりに危機感を覚えてるだけデース!」
「そう思われていることに俺は危機感を覚えてるよ」
不名誉な称号をつけながら俺の腕を取る鞠莉姉に苦笑いした。
披露宴は
「……」
俺はその中で一人辟易していた。
欲望渦巻く、なんて鞠莉姉は言っていたけれど欲望っていう話じゃない。こりゃある意味戦争だ。
言葉や自信の子供など、ありとあらゆるものを使って取り込もうとする者、取り入って伸し上がろうと野心を燃やす者。
なんか本当に披露宴なんてそっちのけだった。まったく知らない赤の他人だけど主役の二人が少し不憫に思っちゃうよ。
俺が内心涙を流している間にも、そんな連中は当然こっちにも来るわけで。
「――流石小原さんのご令嬢だ。その若さで学校経営とは。どうですか、今度一度私の息子と会ってみませんか? ぜひ貴女の考えを学ばせたいですし、貴女もうちの息子となら話が弾みましょう」
「ええ――その機会があれば喜んで」
※訳 お前の経営能力を息子の糧にしてやろう。そしてあわよくば結婚させて小原家の力もゲットだぜ!
※訳 そんな機会は一生来ないけど精々期待だけしておけ、バーカ
くわばらくわばら、関わりたくない世界だ。恐ろしい。
てか、仮にもパートナーがいる中で自分の息子を紹介しようとするとは。
「悪い鞠莉姉、トイレ行ってくるわ」
「早く戻ってくるのよ? 逃げたりしたら――分かってるわよね?」
怖いわ、マジで怖いよ。耳元で囁くな。
まあ、もともと俺は男避けの番犬として連れてこられたのだから、その役割は果たさないといけない。
席を立ち、出すもの出しに行った俺は鞠莉姉の元へと戻る。
が、しかし――
「……おいおい、マジか」
俺は頭を抱える。
なんか鞠莉姉が面倒くさそうな男に引っ掛かっており、それから変な険悪ムードが漂っていたのだ。
「――納得いきませんね。どうして彼が貴女の隣にいるのか」
「あら、そうかしら? 私は隣にカナデがいてくれてハッピーなのだけれど?」
相手も鞠莉姉も、笑顔だけど、その背後ではどす黒いなにかが渦巻いていた。
「いいえ。本当に貴女を幸せに出来るのは僕。僕こそがあなたの隣に相応しい」
うわー。今どきあんな人間がいるんだ。最近の漫画とかじゃほとんどお目にかかれないレアキャラだよ。
「家柄も能力も、相応のものを持っている。彼にはないものを」
おいおい、そんな鼻にかけた言い方したって同調する人間なんて――いや、結構いたな。
トイレ行く前のどこぞの父親も"何でこいつが?"みたいな目で見てたし。他の連中もそんな感じだった。
まあ、そうしないと上流には残れないのだろう。常に上を目指す人間は凄いなぁ。
「貴女に相応しいのは彼じゃない。まして――」
だけどそろそろ止めておいた方がいいと思う。鞠莉姉の黒いオーラがどんどん濃くなっていってるから。
「――あんな欠損人間は貴女の隣に居て良い人間じゃない」
そして、決定的な言葉を放った瞬間、プツン、と何かが切れる音がした。
あ、ヤバイ。
「――あなたに、貴方なんかに」
「ただいま
爆発しかかった鞠莉姉を止めるため、俺は声をかけた。
それも、俺たちの関係を分からせるように。鞠莉姉を抱き寄せて。
「君は…」
「カナデ……」
「悪い。なんか会話中だったか?」
「……いいえ。丁度終わったところよ」
俺が出てきたところでその溜飲を下げてくれた鞠莉姉に一先ず安心する。
「じゃあ新郎新婦になる二人に挨拶して――俺たちは帰ろうか、鞠莉」
そう言いながら俺は鞠莉姉を抱き寄せる。
「っ、か、カナデ…?」
おー、珍しく狼狽えてるな。でもこのぐらいしないと目の前の奴は理解しないから、我慢してほしい。
「ま、待てっ! まだ僕の話は終わって――」
慌てて食い下がってくる男に、俺はため息を吐いた。
「あのな、鞠莉の気を引きたいならもう少しマシな話題を持ってきた方がいい。親の七光りを開けさせて、ただ貶めてるようじゃたかが知れてるぞ」
「なんだと…! 力も資産も品位もないくせに! 何が分かる!」
いや、知らないよ。家の力は自分の力ってか。まあ理屈は分かるが、そもそもあんたが言う力や資産とか自分で築き上げたものじゃないと言うのにあんたが威張ってどうする。あと、品性がある人間はそんなこと言わない。
「まあなんだっていいけど、もう鞠莉と俺はパートナーだから、あんたの入る余地なんて微塵もない」
「――ッ!」
「そういうことで、失礼」
こんな面倒臭いところからは一秒でも早く退散したい。
絶句している男を放置して、俺たちは主役二人に挨拶してから会場を後にするのだった。
「あー、疲れた」
部屋に戻ってから早々にソファに身を投げて、息を思い切り吐く。
「……」
窓際の装飾された椅子に座った鞠莉姉はどこか不機嫌そうだ。
その様子に俺はため息を吐いた。
「らしくないな、鞠莉姉。感情に任せて手を上げようとするなんて。あんな人間、適当にあしらえただろ」
「我慢できるわけないでしょう。あの人、よりにもよってカナデのことを欠損人間って言ったのよ……!?」
「まあ、腕が欠損してるのは事実だしなぁ。どこで知ったのかはわからないけど」
その情熱をもっと自分のことに使えば良いのにとは思うが。
「どうしてカナデは平気そうにしているの…?」
「平気と言うか、ああいう人間を相手にするだけ時間の無駄というか、馬鹿らしいというか」
周りから向けられる視線や言葉がまったく心にこないということはない。だがこちらから掴みかからず、言わせるだけ言わせておいて、関わらないでいれば、それ以上はないのだ。
それもこの数年の経験からでた答えだけど。
「だから、実害がなければどうでもいいだろ」
「むぅー……」
不満タラタラに立ち上がり、ソファに座っている俺の膝の上に座り込んでくる。
――これは、あれだ。
鞠莉姉がヘソを曲げたときにする奴だ。だがそんなことより――
「鞠莉姉、重いだだだだだ――!! そこ我慢ならぬ腿の内!!」
「それが恋人に言う男の子の台詞?」
「間違えました。天使の羽のように軽いぃいたいってば!!」
「もう! マリーはそんな薄い言葉を期待してないの!」
うわー…久々に現れたよ、ワガママリー(俺命名)。
こうなると面倒なんだよなぁ。
「ほら、分かるでしょう? いつものあれをやって」
「わかったよ。ほら――」
俺が両手を伸ばすと鞠莉姉はすっぽりとその中に納まった。
それから俺は鞠莉姉の頭に手を置く。
「――♪」
一瞬で機嫌を直した鞠莉姉は俺の頭を撫で始める。
そしてお互いに頭を撫で合うというよくわからない状況が出来上がった。
「……」
――実際には
こういうことがあっても俺より先に鞠莉姉たちが怒ってくれてるから、俺はそのままでいられるのだと思う。
そのことには申し訳なさを感じるも、嬉しく思っているし感謝している。
まあ、本人たちには言えないけどな。
千景さんが戻ってこないことを祈りつつ鞠莉姉が満足するまで撫で続けるのだった。
――2日後
「あの…曜さん、千歌さん。どうして俺は正座させられているんでしょうか?」
正座する俺の目の前に仁王立ちしている幼馴染's。
「わからない?」
はい。まったくわかりません。
わかるはずがない。来て早々、有無を言わさずこの状況なのだから。
「じゃあ、そーくん。これがなにか説明してくれる?」
そう言って千歌に向けられた彼女のスマホの画面に俺は血の気が引いた。
そこには、どういうわけか俺と鞠莉姉が頭を撫で合っている姿。それと、俺のベッドに潜り込んでいた鞠莉姉が俺を抱き締めながら寝ているところの画像だった。
一枚目は――本当は良くないが、別に良い。置いておこう。だが、二枚目はなんだ?
鞠莉姉の家に泊まらせてもらった次の朝、人のベッドに潜り込んできたことに始めて気づいたのだ。いつ入ったか、そしていつ写真を撮っていたかなんて俺に知る由もない。
説明を求め奥にいるポンコツぱつきんに目を向けると、
「てへぺろ♪」
フェイスクラッシャーをお見舞いしたくなるほどのうざい顔を返してきた。
大方予想は出来る。どうせ千景さんも絡んでいるのだろう。
「そーくん、昨日はお楽しみでしたね?」
「待て、千歌。俺は鞠莉姉が入ってくる前にもうそれは深い眠りについていたんだ。認知すらしてない。つまり、鞠莉姉が勝手にしたことなんだ」
「あら、パートナーなら一緒に寝るのも普通よ? それとも――私とカナデがパートナーだって言ってくれたあの時の言葉は嘘だったの? 酷いわ、カナデ!」
――――ピキッ!!
その瞬間、空気が凍った。
「………………そうくん?」
ドスの利いた声色に、俺の喉がヒュッと鳴る。
warning、warning! 命の危機に晒されている!!
防御プログラム作動! 助けて、フレンズたち――!!
「さて、皆さん。練習を始めましょう」
「がんばルビィ!!」
「千歌、曜。早く済ませてね」
「大丈夫よ奏、貴方の魂は我(わが)リトルデーモンとして復活させてあげるから」
「そんなことしたら奏くんが可哀想だよ、善子ちゃん。ちゃんと供養してあげないと。やっぱりまるのお家で永代供養を――」
「どうして花丸ちゃんはそこまで永代供養したがるの…? まあ、頑張ってね、奏くん」
「マイガッ!!」
くそう! プログラムがエラーだらけだ!!
「もういいかな、そうくん?」
「それじゃあ、O・HA・NA・SHIしよっか」
迫りくる二人に俺は後ずさる。
しかしそれも束の間。あっという間に角に追い込まれる。
逃げ場の無い状況に、俺は顔を青くしてガタガタ震える。
「ま、まて。落ち着け」
「大丈夫だよ、そうくん」
「そうだよ。ただO・HA・NA・SHIするだけだから」
「頼むから…やめ、ヤメロォー!!!!」
説得する間もなく、男の叫び声が全校に響き渡った。
いかがでしたでしょうか?
ではまた次回に
ばいなり~!!