支える片腕の恋愛事情 作:燕尾
どもー、燕尾です。
久しぶりの更新です。
日曜日。学生も社会人も基本的には羽を伸ばし、身体を休めることができる最高の曜日とともに、次の日のことを考えると絶望してしまう人が多数発生してしまう悪魔の曜日。
あっ、お仕事の人、お疲れ様です。
そんな曜日の午前中。普段は家に引きこもっている俺は沼津の中でも大きな商業施設に来ていた。
「んー、何にすっかな」
そして今は普段は絶対行くことのないアクセサリーショップの商品を眺めながら絶賛お悩み中だ。
「そ~く~ん!」
そんな時俺を呼ぶ声が聞こえた気がした。
うん、幻聴だろう。こんなところにあのみかん馬鹿がいるはずがない。それに、そーくんなんて呼び方の人間はこの世には五万といるんだ。振り向けば恥ずかしいことになること間違いなし。
「おーい、そーくーんってば!!」
おい、いい加減反応してやれよ、そーくんとやら。このままじゃさらに恥ずかしい思いをすることになるよ。
「そーくんっ!!」
「げぼぉ!?」
他人だろうとガン無視決めていた俺の横腹に大きな衝撃が奔り、猪のように突撃した奴とともに倒れ込んだ。
「もうっ! 何度も呼んでるのに無視するなんて酷いよ、そーくん!!」
「だからといって人の横腹にタックルしてくる奴の方が酷いと俺は思うぞ。このアホみかん」
「あー! みかんを馬鹿にした!!」
どうでも良いところに食いついてきた、幼馴染みのアホみかん(千歌)に俺はため息を吐く。
「で、なんだってこんなところにいるんだよ」
「いやー、次のライブの歌詞を考えてたんだけど全く思い付かなかったから、気分転換のついでになにかヒントになることを探しに色んな所に行ってたんだー」
あはは、と笑う千歌。
「……そうかい、練習も休みなのにご苦労なこって」
「そういうそーくんこそ、こんなところにいるなんて珍しい――っていうか、本当にどうしたの?」
本気で心配するような目を向けてくる千歌に俺はムッとする。
「俺が外に出てるのがそんなにおかしいか」
「うん。だってそーくんいつも休みの日に外に出ないじゃん。休日は休むためにあるんだって言って、挙げ句の果てには午後ぐらいに起きるようなだらしない過ごし方してるのに」
おい、そこまで言うことないだろ。俺は正しい休日の過ごし方を実行しているだけだというのに。
「それに、なによりおかしいのは――ここ、女の子向けのアクセサリーショップだよ? どうしてそーくんがいるの?」
抗議の目を向けていると、千歌は疑念の眼差しで俺を睨んできた。
「……まあ野暮用だ」
「嘘。そーくんは野暮用程度じゃ動かないもん」
嫌な信頼の仕方だな。いやまあ正しいけども。
以前の曜といい、お互いのことをよく知っていると誤魔化しが効きづらいのが辛い。
「まさか――」
詰まる俺に千歌の目がどんどん鋭くなってくる。
「私たちの知らない女の子にプレゼント――――!!」
「あほ。曜から頼まれたんだよ」
「ふぇ? 曜ちゃんから?」
「衣装のアクセサリーについてイメージできるもの見つけて買ってきて欲しいってな。なんか今日はどうしても外せない用事があるらしい。なら別に今日じゃなくたっていい話なんだけど、脅されてな」
「そう、だったんだ……」
事情を説明すると、あからさまに落ち込んだように俯く千歌。
「何かあったのか?」
「い、いや! なんでもないよ!!」
そう言いつつも、頭のあほ毛は萎れたようにへたっている。
分かりやすい奴、と思いながら頭を掻き、俺は目的を果たす。
「千歌、この後はどうするつもりだったんだ?」
「えっ? えっと…適当にブラついて、帰るつもりだったけど……」
ふむ、時間はまだまだありそうだ。
「じゃあ――折角会ったんだし、どこかに遊びに行くか?」
「――――っ!?」
俺の提案にあからさまに驚いた顔をする千歌。
「そ、そーくんが、そーくんから誘ってくれるなんて……!? まさか、目の前にいるのはそーくんじゃない、偽者……!? 本物のそーくんをどこにやったの!?」
「さて、目的も果たしたし、帰って寝るとするか」
「ああっ!? ごめんなさい、ちょっとした冗談だよ!」
「すみません、貴女はどちら様ですか? たぶん俺は貴女の知らない他人だと思うので肩を掴まないで放して貰えます?」
「ごめんってば! 私もそーくんと遊びたいから、他人の振りしないで~!」
全く、失礼極まりない奴だ。
「じゃあとりあえず、時間もちょうど良いことだし、昼を食べながら午後のプランを考えるか」
「う、うんっ、賛成! ……えへへ、そーくんとデートだ♪」
ご機嫌になった千歌は、俺の左手と自分の右手を重ねる。
「それじゃあ、しゅっぱーつ!」
「はいはい。わかったから小さい子供のようにはしゃぐな。高校2年生」
手を引こうとする千歌に仕方がないなと思いつつも、彼女の隣を歩いていく。
「わ、こっちに来た!? 危なっ、危ない!!」
昼を食べた後、俺たちがやってきたのはゲームセンターだった。
いま千歌は、焦りながらも必死に手持ちの銃を画面のあちらこちらに向けていた。
「ほらほら、早く処理しないと殺されるぞー」
その隣で俺は慌てる千歌をしり目に、自分に迫り来るであろうゾンビたちを出てきた瞬間、速攻で撃ち倒していく。
「ちょ、余裕なら助けてよー!?」
「まあまあ、慌てる姿が面白いからもう少し頑張ってみ」
「うなぁあああ!!」
叫びながらゾンビたちを倒していく千歌に俺は笑いながらプレイする。
「そーくん、もう限界! 限界だから助けて!!」
だがそれも束の間、千歌からヘルプが求められた。
確かにこのままだと千歌はゲームオーバになってしまう。
俺は銃口の向きを変えて千歌の周辺のゾンビたちを撃ち抜く。
「ぜ、全部一撃で……」
「ヘッドショットだからな」
「そーくん、このゲームやってたの?」
「いや? でも小学生ぐらいの頃、据え置き機のゲームでこういうガンシューティングをやってたから、慣れてはいる」
「それって、そーくんの年齢じゃできないゲームじゃ……?」
「気にしない気にしない。ああいうのはその後の教育が大切なんだから――ほら、ボスが来るぞ」
「う、うん! 絶対クリアしようね!」
「OK」
そして途中千歌が危なかったものの、俺たちはこのゲームのボスを打ち倒した。
「わっ、やった、やったね! そーくん!!」
手を上げる千歌にはしゃぎすぎだと思いながらも、楽しそうだからいいかと思い、俺はハイタッチをする。
「ね、ねっ! 今度はなにしよっか?」
「千歌が選んでいいぞ。俺はなんでもオッケーだ」
「ほんと!? それじゃあ――――」
そして俺たちはゲームセンターで遊び尽くした。
「ぷはー! 楽しかったー!!」
満足そうな笑顔を浮かべ、千歌はジュースをいっき飲みする。
「そうかい、それは良かった。まあ良かったが、ゲーセンで良かったのか?」
「うんっ、色んなゲームを楽しめたし、プリクラも撮れたし――それに、そーくんと二人きりで遊べるなら、どこでも楽しいよ」
「千歌が満足しているなら、俺も誘った甲斐があったよ」
「でも、本当に珍しいよね。そーくんから誘ってくれるなんて」
「そういう日もあるってことだ。その珍しい日に当たった千歌は運が良い」
なにそれ、と笑う千歌。
そんな千歌からそっぽ向いて、俺は時間を確認する。
時刻は午後三時。今から家に向かえばもういい時間だ。
「千歌、そろそろ帰るか」
「え、あ……もうこんな時間なんだ。楽しい時間って早いね」
「家まで送る」
「いいの? そーくんの帰る時間が遅くなるけど」
「問題ない。それに丁度、志満さんに話があるから。大丈夫だ」
「そっか…それじゃあ一緒に帰ろっか。あ、お風呂入っていく?」
「志満さんの許可が貰えたら入りたい」
「ふふっ、りょーかい♪ そーくんなら許可も必要ないと思うけどね」
すると千歌は再び俺の手を取り、俺たちは家路へとつくのだった。
バスに揺られ、海岸沿いを歩き、俺たちは千歌の家に帰ってきた。
あとは家にはいるだけの距離なのだが、千歌がピタリと足を止めた。
「そーくん、今日は本当にありがとう」
「どうした、いきなり。別にこうして遊ぶ日だって――ごく稀だけどあるだろ」
「それは、そうなんだけど……今日は、
「……」
「だって、今日は――」
「――――千歌の誕生日だからだろ?」
「っ! 分かってたの!?」
「むしろ忘れてると思ったのか?」
「だ、だって! なにも言ってくれないし、いつもと変わってなかったし!」
「あほ」
口ではそう言うが、千歌がそう思っていたのなら誤魔化した甲斐があったというものだ。
「本当に、曜に頼まれたからと言って、俺が一人で女子向けのアクセサリーショップに行くと思ってたのか?」
「そ、それも、曜ちゃんも外せない用があるからって、私断られてたし、そーくんもそう言うからほんとなんだなって……」
そもそも、リサーチなんて今日じゃなくてもいつでもできる。
まあ、何もないと思わせたのは俺たちだから、そこまで不安にさせたことは少し申し訳なく思う。しかし、
「バカ千歌」
そう言って俺は千歌の手を引いて、家の引戸に手を掛ける。
「ずっと隣に居た幼馴染みの誕生日を俺たちが忘れるわけないだろ」
――パンッ!
――パンッ、パパンッ!!
ガラリ、と戸を引いた瞬間、破裂音が鳴り響く。
『千歌、誕生日おめでとう――!!』
そして目の前には曜と果南を中心として、Aqoursの皆が居た。
「……」
「ま、こういうことだ」
呆然と立ち尽くす千歌。
「ふふ、サプライズ大成功かな?」
「奏、時間稼ぎありがと」
「今年は一味違う誕生日だ。どうだ、驚いたか?」
曜や果南とそう言いながら千歌の方を見た俺たちは目を剥いた。
「――ぐすっ、うぅ……」
「千歌ちゃん!?」
「どうして泣いてるの、千歌ちゃん!?」
千歌はただただ、涙を流していたのだ。
訳がわからず戸惑う俺たちに、千歌は口を開いた。
「よ、よかった……! ぐすっ、わ、わたし…私っ……! みんなからなにも思われてないのかなって、不安になって……! それで……」
「そんなわけないだろ……でも悪かったよ、まさかそんなに不安にさせるとは思わなかった」
「あーあ奏、千歌を泣かした~」
「は?」
「奏くん。女の子泣かせるのは最低ずら」
「いやいや、このサプライズ考えてたの皆やん」
「ノー! マリーたちに罪を擦り付けようとしてマース!」
「奏、男らしくないわ」
「事実だろ! 俺に連絡来たの最後だっただろうが! 偶然千歌と出会ったときも、時間稼ぎしてこいって言ったのもお前らだろ!!」
「奏くん、見苦しいわよ」
「うゆ、奏さん。人のせいにしちゃダメだよ」
「ルビィの言うとおりですわよ、奏さん」
「だぁー! もうっ! それでいいわッ!」
四面楚歌な状態に俺は声を上げる。こういうときに俺が勝てることはない。
「おいっ、千歌!!」
「は、はい!」
俺の声に驚きながら反応する千歌。
そして俺は落ち着くために息を吐きながら、懐からラッピングされた小箱取り出す。
「……俺からのプレゼントだ。誕生日、おめでとう」
千歌の手を取って、その手の上にラッピングされた細長の小箱を渡す。
「開けてもいい?」
「もちろん」
そう答えると千歌は丁寧に包装を剥がし、箱の蓋を開ける。
「みかんの、ネックレス……」
「ああ。千歌のイメージはと考えたらみかんしか出てこなくてな」
「それって、馬鹿にしてる?」
「してるわけないだろ。気に入らなかったら返してくれていい」
「そ、そんなことない! 絶対ないよ! すごく嬉しいもん!!」
「お、おおう。なら良かった」
物凄い食いつきに俺は思わず仰け反る。喜んでくれたのなら、考えた甲斐があったというものだ。
「ねえ、そーくん」
「ん、なんだ?」
「このネックレス、そーくんが着けてくれないかな?」
普段なら自分で着ければいいだろうと言うところだが、今日は千歌の誕生日。そのくらいの言うことを聞いてもいいだろう。
「わかった。それじゃあ後ろ向け」
ネックレスを受け取ると、千歌は俺に背を向けて自分の後ろ髪を掻き上げて、白いうなじを露にさせた。
どこか艶かしい雰囲気に俺は少しドキリとするも、落ち着いてネックレスを着けてあげる。
「どう、かな……?」
さっきまで泣いていたせいか、嬉しそうにも潤んだ瞳で見上げられる。
「ああ…いいと思う、ぞ……」
「よかった」
大人びたように微笑む千歌。いつもの雰囲気とは違うことに、俺はなんともいえなくなる。
「ありがとう。そーくん。ずっと大切にするね」
「ああ…そうしてくれ……」
俺たちの間に流れる不思議な空気。
しかし、
「――そうくん、千歌ちゃん」
その空気を壊すひとつの声と集められる視線。
「二人の世界を作ってるけど、私たちが目の前にいるってこと忘れてない?」
「「あっ……」」
曜に言われてようやく周りを見た俺たち。気づけば、曜と茉莉姉から不満げな眼差して見つめられ、他の皆からは呆れたように見られていた。
「まあ今日は許してあげるけど。これから皆でパーティーするんだから、二人だけの世界を作らないでくれる?」
「「はい…すみません……」」
とんでもない圧を放つ曜に俺たちは謝ることしかできなかった。
「はいはい、曜もそこまでにしておきなよ。何はともあれ、千歌。改めて――」
『誕生日おめでとう!!』
「うんっ! みんな、ありがとう!!」
祝福の言葉に千歌は最大限の笑顔で応えるのだった。
はい、というわけで今回は1週間遅れの千歌ちゃん誕生日回でした。
普段は誕生日の話は作らないんですが、あまりにもネタがなくて、頑張ってみましたw
ではまた次回に