怪力無類と壊れの双子 作:カリラシ
私立愛知共生学園。元は女子高であったここは、共学になる際に男子生徒を恐れた女生徒たちによって“天下五剣”と称される風紀組織が設立され、各学校からの問題児の“矯正”を行う施設の側面を持つようになった学園だ。
この学園に送り込まれる男子生徒は、総じて問題児。そして、牙の折られた男たちは女装をすることで服従を示す。
「本日の五剣会議は、
「サボりじゃろ。兎姫は気まぐれじゃからな」
この場に集うのは、
鬼瓦輪、亀鶴城メアリ、眠目さとり、花酒蕨。以上四名がこの場に集まっている。
天下
「寧々里理光。今回のこの男は、今まで通りではない」
「乱闘騒ぎを起こしただけの男ではありませんの?」
「ああ、確かに乱闘騒ぎを起こしている。だが、それだけじゃない。この男は賊徒七十名に加えて教員にも手を出し、在籍していた校舎を半壊させている」
「半壊?」
「文字通り、鉄筋コンクリートの校舎を
「そ、れは、立派な犯罪ではありませんか!?」
「だが、相手校は寧々里に対して一切の賠償請求をしなかった。手を出された教員も同じくだ」
思ったよりも化け物が転入してきた事に、亀鶴城と花酒の二人を眉を顰める。
一応、この学園へとやって来る不良たちは、地元で割と名の知れた存在であることが珍しくない。やらかしている事も決して小さくはないのだ。教師を殴った不良だって居た。
だが、今回の相手は
「手ぇ出さない方が良いんじゃないかな~?というか、多分リコちゃんには敵わないと思うよ?」
「………どういうことだ、眠目」
「そのまんま~。ボクらの詰め上げてきたものが武術なら、リコちゃんの持ってるものは暴力。柔よく剛を制すなんて言うけど、リコちゃんは剛よく柔を断つ。手弱女は戦わないのが手だよね~」
「随分な言い草じゃな。そなたの知り合いか、さとり姫」
「幼馴染~。まあ、リコちゃんはこっちから手を出さないなら何もしてこないと思うけどね~」
事も無げにへらへら言い切る眠目だが、残り三人の反応は芳しくない。
「幼馴染だと?」
「うん、そ~。がっちりして、背も高くなったけどそれ以外変わってないからすぐに分かった~」
「では、その幼馴染に天下五剣に口添えしてくれと頼まれたのか?」
「ん~ん。というか、リコちゃんって多分ボクらの事知らないと思うよ?興味の無い事って、本当に興味持たないから」
誰それ、と面と向かって言われることになるだろう、というのが眠目の予想。
別に冷たいだとか、他人に興味がないだとか、そんな事ではない。ただ、寧々里という男にしてみれば、自分の処遇など些事でしかない。ただそれだけだった。
思考が、幼馴染へと向いたからか眠目はついでに昔の事を思い出していた。
(リコちゃんって、ボクに対してもあの時含めて変わらないよね~)
自覚のある異常者。変わっていると自分で理解しているからこそ、彼女はこうしてこの地位に立っているとも言えるのだが、件の幼馴染は最初から最後まで徹頭徹尾気にも留めてはいなかった。
だからこそ―――――
(………言わないけどね~)
それ以上の思考を、眠目は打ち切った。代わりに考えるのは、この後の事。
十中八九、天下五剣は寧々里理光という男の矯正に動くことになるだろう。その際に自分はどう動くのか。どう動くのが正解なのか。
思い出したのは、今朝の事。明らかに
一方で、残りの三人はというとやはり眠目に言われようともそう簡単に引き下がる訳にはいかないというのが主なところ。
「この男は、私のクラスに転入する。ならば、自分が矯正するのが筋だろう?」
「私は、どちらでも構いませんが」
「妾としては、さとり姫にそこまで言わせる男に興味があるのう。ぜひとも、ワラビンピックを開催したいところじゃ」
「必要ない。自分が終わらせてやる」
(無理だろうけどね~)
既に会議の内容に興味のない眠目は、窓から空を見上げた。
もしも、自分に
@
天下五剣の会議があってから暫く、学園では朝のホームルームの時間となる。
転入生は、大抵この時間で自己紹介を行うのだが、この学園における男子というのは基本的に矯正の始まりの時間となる。
「なんだなんだ、おめぇら。朝からご機嫌じゃねぇか」
教壇に立ち見下ろす寧々里。そして、そんな彼を取り囲むのは刃引きした刀を突き付ける鬼瓦と、彼女を中心として警棒を向ける女生徒たち。ちなみに、野郎どもは、教室の後方で縮こまって見て見ぬふり。
「なに、単なる確認だ。今からお前には、二つの選択肢が与えられる。一つは、後方の男たちの様に“共生”を選ぶ道。こちらならば、このまま自分も刀を引こう。一つは、自分に“矯正”される事。さあ、選べ」
「まあ、待てよ。態々、教室で血の雨を降らせることも無いだろ?朝のさわやかな空気はそのままにしとくべきだ。少なくとも、俺はそう思うんだが、おめぇらはどうだ?」
「だとすれば、前者を勧めよう。さもなくば、学園を去る事だな」
「………はぁ~あ……めんどくせぇなぁ」
刃引きされているとはいえ、刀を突き付けられているこの状況でありながら、寧々里は大きく溜息を吐いた。それどころか、無造作に右手で頭を掻きつつ露骨に面倒という色を浮かべた目で鬼瓦を見下ろす。
「めんどくせぇよ。俺の事は放っておけ。別段、おめぇらに暴力振るおうなんざ欠片も考えちゃいねぇんでな」
「ならば―――――」
「だがなぁ」
無造作な手が鬼瓦の刀、その刀身を掴む。
瞬間、独特の威圧感とでも言うべきものが、寧々里より発せられた。
「
「ッ!」(この男、どんな握力をしている……!?)
腰を曲げ、突き付けられた刀身を顔の脇へとずらして、鬼瓦へと顔を近づける寧々里は仮面越しの彼女の目を真っすぐに見つめる。
「おめぇらが、どんな理由で矯正なんぞしたいのかは、知らねぇ。興味もねぇ。だがな、舐められてるのは、よ~く分かった」
言いながら、寧々里は刀身を掴んでいた手を先端へとスライドさせ切っ先の側面へと親指を添えた。
「そこ、ちょっと退いてな」
「え?」
「怪我するかもしれねぇからな」
空いた手でちょいちょい、と自信を囲む女子の一角へと指示を飛ばし寧々里はニヤリと笑う。
力の籠められる親指。直後、軽いともとれる音と同時に、何かが教室の床に転がった。
「なっ………」
「まあ、なんだ。こっちとしても、おめぇらに手ぇ出す気はねぇんだわ。仲良しこよしをしようって訳でもねぇがな」
絶句する鬼瓦を無視しつつ言葉を紡ぎながら、寧々里は日本刀の刀身をまるで棒切れでもへし折るかのように
刀身の凡そ半分が均等な長さで折られたところで、そこで漸くその手は止まった。
ずいっと近づく寧々里の顔。
「選びな、風紀の
寧々里理光の理。暴力をもって向かってくるのならば、暴力をもって返す。無関心であるのなら、無関心を返す。
少なくとも、現状で彼の気を引くのは一人だけ。いや、