怪力無類と壊れの双子   作:カリラシ

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 鬼瓦輪との矯正という名の手合わせから数日。

 寧々里理光は、今日も今日とて面倒くさそうに頭を掻きながら廊下を進んでいた。

 

「……めんどくせぇなぁ」

 

 頭を掻きながら、後ろを眼だけで確認すれば廊下の出っ張った柱の陰に隠れるようにして小さな頭が見え隠れ。

 ここ数日、こんな可愛いストーカーが後をついてくるのだ。

 別に話しかけるわけでもなく、近付いてくることもない。一定の距離、というにはお粗末なこの尾行は寧々里が放置する間こうして続けられていく。

 彼としても、思い当たる節が無い訳ではない。というか、十中八九鬼瓦関係だろうというのが見解だった。

 とはいえ、面倒くさい。分かり切った尾行を無視し続けるというのは、煩わしいと言う他なかった。

 

「おやおや~?リコちゃんじゃ~ん」

「よう、眠目。相変わらず、どこ見てるか分からねぇな」

 

 どうしたものかと頭を捻る寧々里の道を遮るように現れたのは、眠目だった。

 いつもの通り、どこを見ているのか見ていないのか分からない目をした彼女だが、その視線がほんの一瞬、それこそ瞬きをすれば気付きもしない一瞬だけ彼の背後へとむけられる。

 

「大変だね~、リコちゃんも」

「だったらどうにか……いや、良い。こっちで何とかする」

「リコちゃんの頼みなら、ボクが何とかしてあげるよ~?」

「断る。視線は煩わしいが、困っちゃいねぇからな」

「ひゅ~♪リコちゃんやっさすぃ~」

「茶化すんじゃねぇ…………まあ、アレが何か分かるのか?」

「まあね~。これでもボクは天下五剣の一人だし~」

「……で?」

「鬼ちゃんの所の子だよ~。大方、リコちゃんが鬼ちゃんに勝ったから気になるんじゃない?」

「やっぱりか……めんどくせぇなぁ」

 

 ため息をつく寧々里。彼としては、暴力的な手段で事を終わらせるのは正直避けたいところだった。それも、手合わせをしてある程度為人を知った相手の妹分をボコボコにするなど気が引けるというもの。

 そんな寧々里を眺めながら、眠目は何かをするつもりはない。

 彼女自身が決して善性の塊というわけではない、というだけでなく目の前の幼馴染がそんなことを望まないと知っているから。

 古風というべきか、寧々里は喧嘩するならばタイマンを好んでいる。無論、多人数が相手であっても相手の力量次第では殲滅できる程度には強いのだが、戦うならば一対一。

 策などの悪辣な手段を使われることにも特段、悪感情はない。自分で使うことはまず無いが。

 ただ一つ、嫌いなことがある。それは、多数対単独の場合の多数派になって一人を取り囲みたたいてしまう場合。

 なまじ、生まれつき強くなることが約束されていたからこそ、寧々里はリンチを嫌う。例え、ボロボロに追い込まれようとも一人で戦うことに拘るのだ。

 そして仮に、眠目がストーカーの様になっている鬼瓦の妹分を叩き潰したとしよう。その場合、敵となるのは鬼瓦だけでなく、寧々里もまた躊躇なくその拳を振るいかねない。

 利得を損害が軽く上回る事になるだろう。

 

「喧嘩しちゃう~?」

「そりゃあ、ねぇな。俺ぁ、弱い者いじめって奴をやらねぇのさ」

「鬼ちゃんは強かったのかな~?」

「さぁな。ただ、中学生に手を出すのはちげぇだろ。見ろ、パンチ一発でぶっ飛びそうだ」

「それを言ったら、ボクらもそうなんだけど。ま~いっかな~。リコちゃん頑張ってね~」

 

 ウインク一つを残して去っていく眠目。

 その若草色の髪を見送った寧々里は、一つため息をつくと振り返る。

 

「聞こえてたか?おめぇがどういう魂胆かは知らねぇが、俺は事を構える気はねぇぞ」

「……お前は、何なのですか」

 

 柱の陰より現れるのは、幼さの残る少女だった。

 

「ジブンは、天下五剣次席筆頭の百舌鳥野のの。輪お姉さまの妹分なのです」

「さいで。んじゃあ、俺に何か用か?やるってんなら構わねぇが……あんまり気乗りしねぇんでな」

「……ののも姉さまの刀を指の力でへし折るような輩に勝てるとは思っていないのです……ただ、お前の目的を聞きに来たのです」

「目的、ね……」

「天下五剣に挑むのは、無法者です。力を示すだとか、外出許可証だとかを求めてきたのです」

「悪ぃが、興味ねぇな。俺ァ、静かに過ごせればそれで良い。喧嘩はあんまり好きじゃねぇのさ」

 

 その言葉は、寧々里にとっての本心だ。

 彼は喧嘩が好きじゃ無い。元の学校で暴れたのにも、それ相応の理由があった。

 

「……嘘じゃ、ないのです?」

「嘘吐く理由が俺にはねぇな。まあ、信じろ、としか言えねぇわな」

 

 軽薄そうに笑う寧々里。百舌鳥野には、彼の内心を推し量る事は出来ない。

 彼女の姉貴分であり、敬愛する鬼瓦が敗れたと聞いたのは、その当人の口からであった。

 五剣筆頭というのは伊達ではない。百舌鳥野の同じクラスに怪物と称される天才が居るものの、その実力は疑いようが無いだろう。

 だからこそ、百舌鳥野は知りたかった。その為の尾行でもあった。

 

 この数ヶ月後、彼女は知る事になるだろう。この学園に潜む圧倒的な怪物たちの存在を。

 だが、それは少し先の話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 天下五剣は、矯正を行う。それは彼女らの実力故に与えられた一種の強権であり、使命でもあると言えるだろう。

 だがしかし、この強権は万能ではなく場合によっては発揮しても意味をなさない場合がある。

 

「まさか、貴方がそんな事を言い出すなんて思いませんでした、輪さん。寧々里理光の矯正から手を引く、と?」

「少なくとも、現状の自分では奴の矯正は不可能だと判断したまでだ。あの男を本格的に止めようと思うのならば、実力も装備もまるで足りない」

「……」

 

 天下五剣の会議場所にもなっている一室で、亀鶴城メアリは目を細める。

 五剣筆頭とされる鬼瓦に対して、亀鶴城は若干のライバル的な立ち位置にある事は否定できないが、その付き合いは決して悪いものではない。

 だからこそ、解せない。その実力、在り方を知るからこそ、分からない。

 

「何がありましたの?矯正に向かったとは、聞きましたが」

「そう、だな……まず、あの男は暴力の化身とも言うべき怪力の持ち主だった。何せ、屋上を拳で砕いてしまったからな。そして、それらを容易に振るわない理性がある事も奴は証明した。何より、刃挽きした刀では、あの男には通用しない」

「ちょ、ちょっと待ってください……情報が多すぎます……ええっと…………最初の報告はデマではなかった、という事ですの?」

「ああ、そうなる。ハッキリ言って、奴は異常だ。括りというならば、因幡や……業腹だが天羽に近いだろう」

 

 苦々しく呟く鬼瓦。因みに、寧々里と先二名の強さの根底は真逆だ。

 その二人は、磨き上げた技と天賦の才が噛み合う事で、強者(怪物)へと至った。

 一方で、寧々里といえば、彼の場合は純粋な肉体が怪物染みている。力こそパワー。

 

「だからといって、引き下がる訳にはいかないでしょう?私たちは、天下五剣。相手が強者であるからと言って引き下がる訳にはまいりませんもの」

 

 亀鶴城の言い分は尤もだった。鬼瓦とてその事が分からない蒙昧ではない。

 しかし現実問題として、寧々里に勝てる天下五剣など、“怪物”因幡位のものではないかと彼女は考える。

 沈黙。実際に実力を知る鬼瓦と、彼女の言葉の真偽はともかく嘘を吐くタイプではない事を知っている亀鶴城だけでは、少なくともこの場で判断は下せない。

 とにかく、他の三人を招集して話し合う。そう決めた鬼瓦が息を吸い込み、

 

「ッ!?」

「な、何ですの!?」

 

 突然の爆発、というか破裂音にうろたえる事になった。

 慌てて、窓から外を見れば垂れ幕が、窓の一部を塞いでいるのが確認できる。同時に、マイク特有のハウリング音が響いた。

 

『あー、あー、マイクテス、マイクテス。聞こえておるかのう、諸君!わらわじゃ!花酒蕨さまじゃよ!』

 

 スピーカーより響くのは、天下五剣の一人で最年長でもある花酒蕨の声。

 そして、二人は嫌な予感がした。

 というのも、花酒は役職持ちでありながら同時にトラブルメーカーでもある。

 

『ひょっひょっひょっ!皆も、この学園へと新たにやって来た者を知っておるだろう?あ奴の矯正が、遅々として進まぬ。という訳で!このわらわが一肌脱いでやろうという訳じゃ!』

 

 何より、彼女の主催するイベント。コレが中々に派手で危険。その上、天下五剣としての権力もあるのだから教員も止められない。

 

『それでは~~~……第拾弐回!ワラビンピックの開幕じゃあーーーーッ!!!』

 

 die運動会が始まろうとしていた。

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