怪力無類と壊れの双子   作:カリラシ

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 “超人”寧々里理光。文字通り、人を超えた存在。

 それがここ、愛地共生学園に新たに認められる事となったのは、ある種の必然だった。

 技もへったくれも無い、純粋な暴力。コレが如実に表れたのは、先のワラビンピックの事。

 暴走するトレーラーを、ドラッグレース用に改造されていたとはいえパンチ一発で殴り飛ばして横転させたのだから、その威力は推して知るべし。

 結果的に中止となったのは、彼が本気で暴れた場合を想定しての事。ぶっちゃけ、どの競技でもルール上ならば勝てても、純粋な勝負で負けるせいで相手の牙を折る事が出来ないと判断されたからだ。

 

(避けられてんな。まあ、そっちの方が都合が良いんだが)

 

 本気で殴られれば壁のシミにされてしまいそうな相手だ。寧々里が学園内を歩くだけで、自然と道が開くのも仕方がない。

 幸いな事といえば、当人が避けられる事を気にも留めない点。一男子高校生としての欲というものが千切れているのではと思える程度には、普通から乖離していた。

 とはいえ、周りが避けようとも彼を気に掛ける者というのは最低限存在する。

 

「おっはよ~、リコちゃん」

「よぉ、眠目」

 

 ペチペチと軽く背中を叩く眠目。周りは、ヒヤリとすれどもそんな事は彼女には関係が無い。

 

「う~ん、相変わらず、カッチカチだね~。ボクの手が痛くなっちゃうよ」

「だったら、叩くんじゃねぇ……で、何の用だ?向かってくる算段でもついたか?」

「それなんだけどねぇ~」

 

 ぼんやりしているような間延びした声色で、眠目は遠くを見る。

 寧々里と戦う算段を付けようとしていたのは、本当。問題は、どうすれば彼を自分の土俵に落とし込んで戦えるかどうか。

 交友関係的孤立は、そもそも彼自身が周りと距離を取っているせいで意味が無い。

 であるならば、物理的な妨害。それこそ、薬を盛るなどして弱体化させるというのもある、がこちらも難しい。

 薬の効果が発揮しづらい、というのが一つ。それから、エネルギー消費が激しいせいか代謝が良い為、生半可な薬では効果時間が激減してしまう。

 最後は、リンチのように多数で囲む。無理だ。パンチ一発でトレーラーを半壊させた人間?に挑みかかる者などいない。

 様々な観点から見て、触らぬ神に祟りなし。彼は人間だが、逆鱗に触れなければ危険はなかった。

 

「これで、リコちゃんは現在進行形で強くなってるなんて、悪夢だよねぇ」

「失礼な奴だな。それに、俺は誰彼構わず殴ったりしねぇよ」

「リコちゃんがそうでも、周りはそうじゃないって話~。蕨ちゃん位でしょ、ボクの他に話しかける子なんてさあ~」

「ああ?……いや、居るぞ」

「ええ~?見え張らなくてもいいのにぃ」

「見え張ってねぇよ。白髪の小さい奴と、それから長い黒髪の奴だ。どっちも強ぇ」

「ふ~ん?」

 

 気のない返事だが、眠目の脳内では正確に二人の姿が浮かんでいた。

 

(月ちゃんと、斬々ちゃんか~……)

 

 学園三強。教員にも認められた自治会でもある天下五剣だが、純粋な武力においては現状一歩譲る者達が居る。

 一人は、彼女の隣で欠伸を噛み殺す寧々里。もう一人は、彼よりも少し前に学園へとやって来た女帝。そして最後の一人は、現状最年少。

 寧々里は、先のワラビンピック後から大々的に学内で言われるようになった。そんな彼へと二人が接触を持とうとすることは、当然と言えば当然だった。

 ただ、

 

(リコちゃんは、()()()なんだけど~)

 

 面白くない。少なくとも、眠目には。

 実力など知った事じゃない。彼は元々()()()()()なのだから。

 

「ねぇねぇ、リコちゃん」

「あ?何だよ」

 

 見下ろしてくる彼。寧々里が、こうして気にするのは眠目位のものなのだ。

 それでも、足りない。もっと欲しい、そう思ってしまうのは人としての性だろうか。

 

 例えどんな手段で手に入れても、最終的に利益となればあらゆる方法を厭わない。

 彼女は、マキャヴェリズムに最も近いのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 超人、女帝、天下五剣。三竦みのようになっているが、そのうち前者二つはあくまでも非公式的に、周囲から呼ばれているだけ。立ち位置で言えば普通の生徒と変わりがない。

 だが、

 

「こうして顔を合わせるのは、初めて、か」

「何の用だ」

 

 こうして向かい合うだけでも、周囲の空気が重くなるのは彼らの力量、実力を表しているのかもしれない。

 どこへ行っても視線の雨。元来気にしない性格であるとはいえ、そう不躾に見られ続けていい気分のものなど居ない。

 適当にフラフラと動き回っていた寧々里は、自然と人気の少ない場所へと足を運び、そして辿り着いたのが仏像が設置された講堂。

 そこでこうして出会った二人。

 

「なに、そう警戒する必要も無い。私は静かなこの場が好きなだけだからな」

「……そーかよ」

 

 間を一つおいて、ステージの端に腰掛ける寧々里。

 その背を、“女帝”天羽斬々(あもうきるきる)は流し目に眺めていた。

 接触は少し前。彼が、トレーラーを素手で殴って半壊させたワラビンピックより少し経った頃。

 どちらも、天下五剣からの矯正を真正面から破った猛者。少なくとも、天羽は寧々里の事を前々から知っていた。

 武術ではなく、暴力。それだけで周りを圧倒するのだから、目を引かない方が難しい。

 そして、あの拳。如何に、軽量化を施されたドラッグレースのトレーラーであろうとも、その車重は数トンは下らないかもしれない。

 

「お前は、随分と奇妙な体をしているな」

「何だよ、静かな場所が好きじゃ無かったのか?」

「なに、ほんの戯れ、世間話のような物だ。それで、その体は生まれつきか?」

「……まあ、な。ガキの頃は、殆ど立てなくて、寧ろ自分の筋肉に骨が負けてたって話だ」

「ミスタチオン異常……いや、最早人間の中に生まれたバグか。筋繊維の発達は止まらずにその厚みと密度を増していき、しかし互いに縛り合う事で、さらに発達しながらも異常な密度で人としての形を保っている。そして、筋繊維に負けない為の骨格、そして押さえつける皮膚。くくっ……誰もが羨む肉体だなぁ?」

「舐めるように見るんじゃねぇよ……おめぇはどうなんだよ」

「私か?」

「随分と鬼瓦に嫌われてるみてぇじゃねぇか。何やったんだ、おめぇ」

「なに、少し戯れてやっただけの事だ。私の時には、五剣が二人がかりでな」

「で、勝ったと。素手か?」

「ああ」

 

 事も無げに頷く天羽だが、実を言うと彼女が五剣に嫌われるのはその部分だけではない。

 寧々里も勝利しているが、彼は比較的彼女らとは友好的に接する事が出来る。これは、彼が傲慢なタイプではなかったから。

 彼女は違う。伊達に、女帝とは呼ばれていない。

 

 天羽斬々は君臨する存在。それだけの力とカリスマ性を有しているのだから。

 

 だからこそ、かち合う。どうしても、天下五剣とは相いれない。

 

「どうだ、寧々里理光。私と来ないか?」

「あ?」

「その持て余した力、私が使い道をくれてやる、と言っているんだ」

 

 蛇のように、彼女は手駒を欲している。そして、ソレだけの魅力が寧々里にはあった。

 もっとも、

 

「断る。めんどくせぇ事言ってんじゃねぇよ」

 

 彼にとっては一切の魅力は無いが。

 並ぶ椅子を眺めながら、寧々里は頬杖をついた。

 

「別に俺は、暴れたい訳じゃない。天下五剣、だったか?アイツらと事を構えたのも、ただ折れてやるのは面倒だったからだ。それとも、なんだ?オメェは俺と事を構えたくないって言う意思表示か?」

「……ふっ、さて、どうだろうな」

 

 チリッ、とうなじの毛が逆立つような緊張感が辺りに満ちる。

 超人と女帝は相容れない。言葉を交えようとも、心は交わらないから。

 

 そして、時は訪れる。始まりは、とある男子の編入から。

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