怪力無類と壊れの双子 作:カリラシ
「――――それから、これだけは言っておくわ」
雰囲気が若干真面目になった増子寺に、納村不動は眉を上げた。
「アタシが知る中で五剣の矯正を真正面から退けたのは二人だけよ」
「へぇ?二人も居るのか。結構多いじゃんか」
「馬鹿ね。この二人は、文字通りの化物級よ」
「心配しなくても、おたくも相当だよ」
「面の話はしてないわよ!!とにかく!その二人とは、なるべく関わらない事ね。どっちもそこまで干渉するって話は聞かないけど、事を構えるのは得策じゃないもの」
神妙に忠告してくる増子寺に、納村は辺りを見渡しそしてある一点でその視線を止める。
彼が見るのは、不自然に周りが開いて、尚且つ周りの女子よりも頭一つは背が高いであろう男子の背中。
「なあ、マスコ。女装してない奴が居るんだが……もしかして、アレが今言ってた片割れか?」
「はあ?……ゲッ」
露骨に顔を顰めた増子寺に、納村は自分の予想が正しかったことを悟る。
割とナンパな性格をしている彼だが、だからといって異性とばかり知り合いたいという訳でもない。
「なあ!そこの、おたく。ちょっといいか?」
「ちょっと!?何声かけて――――」
「――――俺か?」
増子寺が焦るが、件の彼は足を止めて振り返ってしまう。ついでに、納村から彼へと向けて一本道が出来あがった。
これ幸いと、その道を真っ直ぐに進む納村と、腕を引っ張られて逃げるに逃げられない増子寺。
「……新顔だな。転入生じゃねぇか?」
「へぇー、マスコもそうだけど、おたくも分かるのか」
「この学園の男子は、大抵女装してるからな。それをしてない男子は入って来たばっかり。そう考えるのが当たり前だろ」
「おたくは、どうなんだい?」
「俺は、別だ。勝てばいい、それだけだからな」
若干猫背の納村を見下ろしてくる、黒い瞳。
暫く二人は見つめ合い、
「納村不動。アクセントは
「寧々里理光だ」
自己紹介する二人だが、その一方で増子寺は生きた心地がしなかった。
妙に肝が据わっている納村は兎も角、寧々里に関しては静かではあるがその剛腕を知っているから。変に気を損ねれば、ひき肉にされてしまう。そんな恐怖があった。
「なあ、寧々里。おたくはさっき、勝てば良いって言ったよな?」
「ん?ああ」
「それって、天下五剣、だったか。そのかわいこちゃんたちに、って事か」
「かわいこちゃん……そこまでナンパな奴らじゃないぞ。俺は、五人全員を知ってる訳じゃねぇが」
「そうなのか?」
首を傾げる納村だが、これは仕方がない。寧々里への矯正は、二人目の花酒が行ったワラビンピックで止まっているのだから。
直接対決した鬼瓦、花酒は勿論、馴染みのある眠目、それから彼は知らないが最年少。以上が彼が出会った天下五剣。あと一人とは、顔を合わせる事が無かった。
ひやひやとする周りだが、それに反して二人の間の空気は和やか。
「それにしても、俺の学生生活は、どうしてもこうも血腥くなっちまうのかねぇ」
「よく言うわよ。ここまで落ちてきてる癖に!」
「だな……学校放逐されてる時点で、何かしらやらかしてるんだろ?」
「俺は、自由と平穏を愛してる平和主義な男だぜ?ま、暴力を背景にした脅しってのが俺は嫌いでね。とりあえず、職員室に行ってくる。マスコも寧々里も後でな」
ひらりと手を振り先に行く納村。
「……アンタ、意外と話せるのね」
「話す必要が無けりゃ、話さねぇだろ。つーか、学園で俺に話しかける奴なんざ、殆ど居ねぇよ」
「そりゃ、当然じゃない。あのワラビンピック見てた奴なら、怖がって話しかけないわよ。というか、教室でも、アンタ鬼瓦輪の刀を指でへし折ってたし」
「アレは、仕方ねぇだろ。おめぇさんらみたいに、女装するのは御免被る」
肩を竦める寧々里に、ソレは実力あってこそと内心で呟く増子寺。
如何に不良としてならした者達でも、武装女子には敵わない。
裏を返せば、天下五剣含めて、彼女らを退けられるものは、屈指の猛者という事。
「……荒れそうだな」
納村の入っていった入り口を眺め、寧々里は呟く。
明らかに
実力のほどは知れないが、しかし仮に天下五剣を退けるだけのものがあるのなら、明らかにそこから先の学園は荒れる事だろう。
@
(へぇ……)
窓枠に頬杖をついて、その光景を眺める寧々里は内心で感嘆の息を零す。
突然始まった、納村VS鬼瓦の矯正対決は前者に軍配が挙がった。
その決り手は、納村の奥の手ともいえる技“魔弾”。終始鬼瓦が押していた様にも見えたが、たった一発で事を決めるあたり、相当の破壊力なのだろう。
注目するのは、完全な密着状態と不完全な力の入りにくいであろう体勢から、人一人を吹き飛ばすだけの威力を発揮できる点
ただ、
(俺に通じるかは、また別か)
窓枠から離れ、自分の席へと戻った寧々里は欠伸を一つ零す。
彼の体は、密度が違う。体質によるものだが、要するに常人とは体の構造が違っていると言っても過言ではないのだ。
真剣ならともかく、刃挽きしてあるのならば刃物も殆ど通じない程度には寧々里の体は強靭。
そんな彼にとってみれば、純粋な打撃などは当然効かない。人体の急所を狙うならば、股間と顔面が精々で、鳩尾に打ち込んでも大したダメージにはならないだろう。
再度、欠伸を零したところで窓の外から大声の鬼瓦の声が聞こえた。何故かその内容は“矯正”ではなく“去勢”だったが。
そのままチャイムが鳴り、一日が始まる。と言っても、女装男子や武装少女が居ようとも、学園は形式的に高等学校の域を出ない。つまり、特段珍しい事は、早々起きなかったりする。
時は流れて昼休み。
いつものように屋上でパンを食べる寧々里。その隣では、フェンスの上に腰掛けた眠目の姿があった。
「それで~、リコちゃんから見て、あの転入生の子ってどんな感じ?」
「どんな……まあ、割と普通じゃないか?ナンパな感じではあっても。後は、まあまあ腕が立つ、か?」
「鬼ちゃんにも勝ったからねぇ……アレも見た?」
「最後の一発か?生憎と、俺は武術なんてしてねぇから、詳しいことは分からねぇぞ。寧ろ、あの手の技はおめぇの方がよく知ってるんじゃないのか?」
「剣術と体術は別物だよ~?」
「そういうもんか」
硬めのバゲット生地を食い千切って咀嚼する寧々里。彼にしてみれば、武術というのは大きく一括りのものでしかない。流石に、剣術と体術を完全に混同したりはしていないが。
寧々里が、眠目に話を振ったのは、彼女の目だ。
常人よりも視野の広い彼女。加えて観察眼にも優れている。
だが、そんな眠目の目をしても件の彼の術技は見抜けていない。
「見た感じ、寸勁かなぁ?とも思うんだけど」
「すんけい?」
「ワンインチパンチとか知らない?まあ、密着状態から発揮できるんだから相当だよねぇ」
「……でも、納村って根っからのステゴロ系じゃねぇだろ?見た感じだが、俺とはちっと毛色が違う」
「リコちゃんと同じタイプなんて早々居ないよ~ゴリラだし」
「誰が、ゴリラだ」
頭を掻く寧々里だが、彼のような怪物が二人も三人も居たら事だ。
チラリと、眠目は傍らの彼を見やる。
眠目さとりは、他人の感情が分からない。これは、生まれながらの疾患とも言うべき部分。
そして、分からないからこそ彼女はマキャヴェリズムを体現するともいえる。
今、眠目が知りたいことはこの胸の内。
その為ならば、どんな手段も厭わない。