怪力無類と壊れの双子   作:カリラシ

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「……む?」

 

 特徴的な弾ける音に、寧々里理光は顔を上げた。

 昼休みは基本的にエネルギー補給に勤しんでいる彼だが、だからといって昼休みの最初から最後までモノを食ってる訳では無い。

 大抵の場合は、屋上で寝ているか、或いは今のように図書室へと足を運び適当な本へと目を通している。

 本棚の前で、片手で本を開いて立ち尽くしながら、寧々里は外から聞こえる音へと耳を澄ませる。

 

「……ああ、あの派手な金髪の」

 

 この愛地共生学園では、女生徒の警棒程度までの武装が認められている。例外は、天下五剣の帯刀だろうか。

 しかし、中には警棒ではない得物を装備する者が居る。その一人が今、外から聞こえる景気の良い音の主だ。

 屋上から何度か見た事のある鞭使いを思い出しながら、寧々里は考える。

 鞭というのは、戦闘には基本不向き。空気の壁を超えた先端が、極小の刃物のように相手を切り裂く事もあるが、そも本来の用途は、拷問であったり刑罰であったりと、対象を死に至らしめる、というよりも痛めつける事にある。

 ただ、裏を返すと痛めつける事に主眼を置くため、ぶっ叩かれると大の男であろうとも涙が滲むほどの痛みを与える事が可能。

 

(まあ、事を構えなきゃ問題はない、か)

 

 本を閉じて棚へと戻し、寧々里は次の本を選ぶ。

 余談だが、図書室へとよく足を運ぶものはあんまり彼を恐れていなかったりする。というか、重い書籍を運んだり、そもそも彼も本棚の前からほとんど動かない為、その棚に用事がある生徒以外にとっては置物同然であるからだ。

 そんな評価など知った事ではない寧々里は、とある本に惹かれた。

 内容としては、海外の小説で。所謂ところのファンタジー冒険譚。特別有名どころのものではないし、映画化やドラマ化の話などは出ないものの、それでも比較的長い巻数を重ねたタイトル。

 寧々里は、基本的に翻訳本は読まない。翻訳家の仕事にケチをつける気は無いのだが、どうにも文章が固く感じて読みにくいからだ。

 しかし、気になってしまえば手も伸びる。

 彼が見つけたのは、六巻目の上。そこから左へと指が動き、

 

「ん?」

 

 四巻、二巻と戻って、しかし一巻の部分だけすっぽりと穴が開いていた。

 右手でうなじを撫でる寧々里は、行き場を失った左手を下して首を傾げる。無いとは思わなかったから。出鼻を挫かれた形だ。

 とはいえ、図書室の本は彼のものではない。貸し出し申請なども受け付けているのだから、寧ろ歯抜けがあって当然というもの。

 少し釈然としないが、しかし無いモノを出せと揺するほど寧々里も落ちぶれてはいない。

 大人しく別の本を探して、

 

「お探しの本はこれですの?」

 

 横合いから差し出された一冊の本。彼が目を付けた一巻がそこにあった。

 受け取って隣を見れば、揺れる金髪。

 

「あー……誰だっけか」

「こうして、面と向かって顔を合わせるのは、初めてでしたわね。私は、亀鶴城メアリ。天下五剣の一席を預かる者です」

「……成程?」

 

 何でそんな相手が急に接触を持ったのか、寧々里には分からない。分からないが、しかし少なくともこの場でおっぱじめることは無いだろうと、希望的観測を持ってみたり。

 

「そう、警戒しなくてもよろしいのではなくて?」

「いや、警戒位するだろ。お前らと関わって碌な目に遭ってないぞ、俺」

「それは、貴方が矯正の対象だからですもの。今は止まっていますが」

「向かって来ねぇと思ったら、そういう事か」

「とにかく!貴方も、矯正の対象であることをお忘れなく!」

 

 それだけを言うと、亀鶴城は図書室を足早に出ていく。

 その背を見送り、寧々里は手渡された本へと視線を落とした。

 矯正の対象などとは言われたが、現状彼をどうこう出来るものなど、この学園には二人ほどしかおらず、片方は天下五剣ですらない。

 本を開き、そこで不意に彼の尻ポケットに突っ込まれた携帯が振動する。

 彼の携帯は、基本的に着信やらはあり得ない。電話帳に登録されているのも肉親含めても十を少し過ぎる程度。そして、両親とは殆ど断絶状態なのだから彼らからの電話もあり得ない訳で。

 しかし、事実携帯は振動した。それはつまり、数少ない相手からの呼び出しである。

 

「……はぁ」

 

 結局、読めなかった。寧々里は本を閉じ、本棚の空きに差し込む。

 そして、図書室を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっわ、まだベトベトしやがるし……」

 

 頭に着いた、()()()()()()()()()()()を拭いながら、納村はぼやく。

 どうにもこうにも間が悪い。

 今日も、彼としては謝罪と、それから校外へと出る事を可能にする外出許可証の発行を求めての行動だった。

 結果、最終的に後輩二人を泣かして、尚且つ学園中から上記の代物を投げられまくる事になったのだが。

 とはいえ、目的は果たした。許可証は入手し、その効力を発揮するために必要な判を鬼瓦に押してもらえたのだから。後は、残り四人の天下五剣からの判とそれから学園長印があれば外出可能となる。

 割と周囲から厳しい視線に晒されながら教室へと戻る、納村。その道中で見知った背中を見つける。

 

「おっ、寧々里。おたくも今から戻るところか?」

「あ?納村か……何やってんだ、おめぇ。頭にウンコ乗っけて」

「いや違うから、コレチョコ味のソフトクリームだから……だよね?」

「いや、知らねぇが」

 

 怪訝な顔をする寧々里ではあったが、それ以上は何も言わなかった。

 彼としては、昼休みに納村が何をやらかしていようと興味が無い。周りからの視線にしたって、興味が無いのだから質が変わろつとも気づきようが無かった。

 

「そういえば、寧々里は天下五剣からの矯正を受けたんだよな?」

「受けた……一応な。つっても、二人目以降でそれも止まっちまったが」

「止まった?」

「ちょっと派手に壊し過ぎたってだけの事だ」

 

 本当の所はちょっと処ではないのだが。

 納村としても、詳しく話さないのならば彼からはこれ以上聞き出す気も無い。まあ、後で増子寺に聞こう、なんて考えていたりする。

 

「なら、寧々里は外出許可証は持ってるのか?」

「いいや?でたけりゃ出れば良いだろ」

「マジかよ」

 

 納村が思い出すのは、鬼瓦の事。

 彼女含めた二人以上による天下五剣からの矯正を受ける事になるなど、彼としては正直避けたい事であったからだ。

 この辺りは、寧々里の無意識的な傲慢さの表れでもあるだろう。

 強すぎる肉体に加えて、事実として二人の五剣を退けているのだから。ぶっちゃけ、何人増えようが、そこまで恐れていなかったりする。

 もっとも、

 

「俺は別に、外に出る用事も無いんでな」

 

 前提として、許可証に興味が無いのだから。

 

「何だよ、外に出てキャッキャウフフしないのか?」

「興味ねぇよ。部屋で寝てる方がマシだ。というか、おめぇはその為に動いてるってか?」

「おう、ちょうど貰ってきたところでな」

「そりゃ、ご苦労なこった」

 

 肩を竦める寧々里。そろそろ、教室が見えてきた。

 教室の入り口で分かれて、自分の席へと座った彼は、少し前の携帯でのやり取りを思い出す。

 

(まあ、俺も興味があるしな)

 

 同じ境遇であろうとも、しかし仲間意識がある訳では無い。

 

 寧々里理光は、納村不動の味方ではないのだから。

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