犯罪者は好きですか? 作:目から醤油
何かが体中を駆け巡ったような感触がして、気づいたら「僕」は助産婦の腕の中にいた。
それから母らしき女性の腕に渡ったけど、「僕」には何がどうなっているのか分からなかった。ただ、それからすぐに悟った。これは転生だと。二度目の生だと。
そのことに「僕」は歓喜した。
何もかもがリセットされ、残ったのは前世の記憶のみだというのに「僕」の胸はこれ以上ないほどに高鳴っていた。この世界には魔法はあるのだろうか。それとも異能なのだろうか。湧き出る知識欲に溺れてしまっていた。
だけど、もう「僕」はおしまいだ。
「やっと見つけたぞ……
足裏から炎を噴出し、逃げる「僕」を追いかけてくる大男。彼の名前は『エンデヴァー』。ヒーロービルボードで二位のプロヒーローだ。「僕」みたいな弱虫ヴィランには過剰戦力だと思う。
「僕」は個性である霧を発生させ姿を隠そうとするも、エンデヴァーの熱で蒸発してしまう。「僕」の個性は彼の個性と相性最悪だ。
「赫灼熱拳ジェットバァーン!」
「がはっ」
炎を纏った拳が「僕」の背中に突き刺さり、思わず呻き声が出てしまう。
非常にマズい状況だ。
唯一の味方である
逃げられる可能性があるのは短期決戦しかない。でも「僕」にはあの炎に近づくことさえ厳しい。他の個性ならまだやりようはあったのだが彼だと不可能だ。絶対に会わないように気をつけていたのに……。
非常に、マズい状況だ。
「観念するんだなオボロガスミ」
後ろから押し倒され、馬乗りで押さえつけられる。
「やっべ……」
この至近距離だと、「僕」の個性は全く役に立たない。そもそも目くらましのための個性なのに捕まったらそこから抜け出す方法はない。ここで、終わり……
なわけないだろぉ?
「あははははははははっはははははっはははははははっは!」
「むっ!?」
「俺」ならいける。ここから逃げ出すことだけでなく、コイツを殺せる。身体中から霧が溢れ出る。それを見たエンデヴァーは炎で蒸発させようとするが、消える気配はない。むしろ留まることを知らないように広がっていく。
この霧は先程のような霧じゃない。「俺」が出せる特有の霧、色だって黒色に変色しているし一番重要なのはこれは元素が水じゃないことだ。「俺」でもこの霧の発生理由は分からない。分かっているのは「僕」ではなく「俺」にしか出せないこと。それぐらいだ。
「おらよぉっ!」
エンデヴァーに押さえつけられていた「俺」の身体から、地面に向かって勢いよく霧が吹きだし「俺」とエンデヴァーは空中に放りだされる。
「……は?」
「呆けてる場合じゃねぇよな?」
足裏から霧を直線上に噴出し加速、そのままの勢いのままエンデヴァーの腹を蹴る。気分は敵を打ち倒す仮面ライダーだ。まあ、「俺」が悪でエンデヴァーが正義なんでけどな。
蹴り飛ばされたエンデヴァーは吹き飛ばされるも逆噴射で勢いを殺すことでその場にとどまる。流石はプロヒーロー、簡単には倒れないってことか。
「赫灼熱拳、ジェットバァーン!」
俺との距離を考慮して、一気に距離を縮める技を選んだようだが
「それはもう視たんだよ」
横に突き出した右手の平から霧を噴射して横っ飛び気味に避ける。その技は全体攻撃ではなく、一点集中の攻撃だ。スピードは「俺」の方が速いしまだまだ余裕だ。
避ける際に右手の角度を少し変え、丁度エンデヴァーの
「……っ」
だが、完璧には避け切れなかったようだ。エンデヴァーは右目から流れる血を拭うが、傷からはとめどなく血が溢れ出る。
彼女が見たら喜びのあまりナイフで突き刺しそうな光景だな。でもまあ、首を切断されなかっただけでもすげぇよ。むしろ右目しか捉えられなかった自分が恥ずかしくなる。
「ははっ、これ以上戦ってもアンタににゃ勝ち目はねぇ……どうだい?ここは引き分けってことにしないか?」
「はっ、笑えない冗談を言うな。そんな気などサラサラないだろう」
エンデヴァーは一応話はする気はあるようだが、いつでも応戦できるように構えを取る。足裏から炎を下に継続的に噴射することで落下するのを防いでいるようだ。まあ、「俺」もなんだけね。
「ここ最近起こっている真夜中の連続殺人事件……被害者は呼吸困難での死因がほとんどだった。それに、死体が発見された場所には煙草の臭いがひどくしたと聞いている」
「へえ、それが?」
「お前の仕業だろう。だから、俺はお前を逃がす訳にはいかない」
こちらを強く睨みつける目は、「俺」への憎悪に満ちていた。
家族を兵器のようにしか扱っていないお前もそんな目が出来るんだな。いや、これはどちらかというと連続殺人に対しての憎悪ではないな。あ、もしかしてだけどまだ「俺」がお前の息子である
「証拠は?」
「ない。俺の勘だ」
「勘かぁ」
まあ、お考えの通り犯人は「俺」なんですけどね。いつのまにか殺っちゃったっていうか、不可抗力だったんだよね。本当に困るよなぁ。
「……で、時間稼ぎは出来たか?」
「はっ、何のことだ」
「何って……そりゃ普通そう考えるでしょ。戦力的に乏しいアンタは救援を待つために話にのったんじゃないのかな」
「俺」の問いには答えず、沈黙するエンデヴァー。その反応はYesってことで良いんだよな?
右手を前方に突き出し、力を籠める。
「ほらぁ、救援がいるなら早く出て来いよ。そうじゃいとナンバー2が死んじま「デトロイトスマァッシュ!」ぐおぉぉぉぉぉぉぉ!?」
突然頭に強い衝撃が走り、勢いよく吹っ飛ばされる。何が起こった?そのままの勢いで地面に落ちていくのを感じ、咄嗟に地面にぶつかる直前に霧を全身から噴出させ衝撃を緩和させる。
「ぐはぁっ!」
それでも勢いを殺しきれず地面に叩きつけられ、何度もバウンドし車に突っ込んだことでなんとか収まった。まだ視界が揺れて上手く復帰することが出来そうにない。こりゃ脳震盪起こしてるか?どんだけ強く殴ったんだよ……。
揺れる視界で辺りを見渡すと、もう人衆は消え去っていて「俺」が叩きつけられた場所には大きなクレータが出来ていた。
「HAHAHAHA!まさか街中でばったり会うとは驚きだよエンデヴァー」
「……減らず口を叩くな」
上空から金髪の大男が降ってきて、その数秒後に先ほどまで戦っていた炎に身を包んだ男が降りてくる。……こりゃマズいな。
金髪の大男の正体はナンバーワンヒーロー『オールマイト』。事実上最強のヒーローだ。個性の詳細などの個人情報も秘密に隠されていて、「俺」達ヴィランの恐怖の象徴だ。世間ではコイツのことを平和の象徴と呼ぶらしいがこんなバケモノのことを崇めてていいのだろうか。本当、普通の人間の思考は分かんねぇな。
「やっぱ、過剰戦力過ぎじゃねぇか」
「む?まさか私の拳を受けて意識を保っているとは、またもや驚きだな」
「はっ、どんだけ自分の拳に自身があるんだよ……」
実際、オールマイトにはその自信があるのだろう。その拳一つで何百人もの人間を助けてきた偉業は、誰にも真似できるモノじゃない。そんなこと出来るのは過去未来においてオールマイトのみだろう。「俺」だって無理だ。だって、「俺」は殺し専門だからな。人命救助なんて柄じゃない。
「さて、出来ることなら抵抗しないで欲しいんだが」
「……もう、指一本も動かねぇよ。さっさと手錠持ってこい、痛いのは勘弁だ」
抵抗する素振りを、余力があるのを悟られぬように、疲れたような顔をしてオールマイトに応える。
「む、意外と潔いな君。だが、今はまだ警察が来てないから少しの間だけ眠っていただけるかな?」
直後、首に何かが下ろされ視界の歪みが悪化する。
「く……そが……」
負け惜しみのように悪態を吐き、目の前が真っ暗になった。
呪術廻戦とヒロアカで迷いましたが、耳朗の魅力に押されヒロアカのSSを投稿しました。