今回はちょっと違った視点からー。
<スタッフルーム>
「どうだ?様子は?」
「各所、問題ありません。出現率もドロップ率も想定通りです」
「うむ」
とある空間でマスコットたちがせわしなく動いていた。
「第3回ともなれば慣れたものです」
「まあ油断はするな。こんな時に事故やらミスやら起こるからな」
「そうですね。まあ、今のところ順調です」
NWOのスタッフ達が、つい先ほど開始した第3回イベントの状況を見守っている。
イベント専用の牛モンスターが出るようになり、倒した時にドロップするアイテムを
収集することで、スキルやギルドボーナスがもらえるイベントだ。
早速プレイヤー達はフィールドで牛を見つけようと躍起になっている。
始まって時間は経っていないが、かなりの量の牛が既に狩られていた。
「…ちなみにメイプルとかなにやってんだ?」
「あー。今回はそこまで張り切ってないみたいだな」
メイプルの状況を見ると、のんびりシロップに乗って移動していた。
時々牛を見つけては倒している。
…そして目を離した隙に大天使とかになってしまうことは、
スタッフにも他のプレイヤーにも予想できなかった。
「今回はメイプルには厳しいイベントだろうからな」
「いつもは前線に出ない収集メンバーなども活躍できるはずだ」
「今は誰が上位なんだ?」
「えーと。ミィ、フレデリカがかなり倒してる。さすがだ」
「あー。1位はミィか。なるほど」
「いや。トップクラスだが1位じゃないな。1位は…え?ランチ?」
「うん?」
「なんだと?」
「ミィやフレデリカとも比較にならん。とんでもない数だぞこれ…。」
「ちょっと画面に映せ!何やってんだ一体!」
慌てて画面を付ける【赤】。そこには巨大なランチが映っていた。
「【食神の霧】消費HPは…10000!」
周囲が白い霧に包まれる。
そしてきっちり10秒後…
「【食材集合】!」
周りに居る牛がモンスターと一緒に集められる。
巨大化したランチはすぐに泡だて器を取り出す。
「混ぜ混ぜ!」
【料理の素を 420 個手に入れた】
「よーし、お肉ゲット。次行くよディナー!」
(わう!)
ポーションで素早くHPを回復したランチは
近くに待機させていたディナーに乗って次の場所へ向かった。
文字通り風を切るかのような速度でディナーが走る。
「次はここだね!【食神の霧】消費HPは…10000!」
そして、先ほどの場所から200m離れたところで、再度霧を発生させる。
周囲の牛がモンスターとともに集められる。
ランチは、イベントが開始してからずっとこれを繰り返していた。
イズに作ってもらった回復ポーションを限界まで所持しており、
何十回も繰り返せるようにしていた。
この後は1つの方向へ動き続け、ポーションが半分を切ったら
別の場所からギルドへ戻り、イズから追加ポーションをもらう予定だ。
イベントで動ける間はずっとこれを繰り返すつもりでいた。
イズには所持限界の数十倍の量が作成できる資金と素材を渡していた。
「ランチちゃんを本気にさせちゃいけないようね…」
イズですら見たことが無いお金と素材の量を見て、
ひきつった笑顔でイズがつぶやいていたりした。
「マジか…」
「あかん…」
文字通りフィールド全体の牛を狩る勢いで進むランチ。
そんなランチを呆然と見つめるスタッフ。
ミィやフレデリカも近いことをしているが、範囲と所要時間が違い過ぎる。
本人は気づいていないが、牛のイベントを知って色々考えた結果、
ランチがとっている行動は全プレイヤーでダントツの最高効率であり、
一人でそこら辺のギルド全体より多い数を仕留めていた。
「既に、他のプレイヤーとは桁が違う数集めています…」
「今回、個人ランキングもあるが既に決まったようなものだろう…」
「今後の収集イベントはちょっと考える必要があるな」
「というか、ここまで倒しているとレベルも相当高そうだな」
それを聞いたスタッフがランチのステータスを確認する。
「はい。レベルは46です。トップ5に入っていますね…【銀翼の魂】って何です?」
「はい?」
「なんだそれ…。聞いたこともないぞ」
「ちょっと待ってください。…なんだこれ!?また木のレストランから地下に行ってる!」
悲鳴を上げたスタッフが画面に動画を映す。
そこには、銀翼と海皇が落とした肉を料理する豚のモンスターが居た。
とても美味しそうに食べるランチ達。
そこでランチがスキルを得たメッセージが出ていた。
「アイツか?!」
「どうやら強敵が肉を落として、ここに持っていくと強敵の一部の力を得られる。というようなイベントのようです」
「マジか…。今後の強敵もランチに倒されると肉を落とすってことか…」
「下手に強いボスを出してランチが倒すと手を付けられなくなる可能性がある」
「肉を出さないようには?」
「…食べる仕組み自体を封印すれば…」
【黒】が考え込み…無理だ。という結論に至る。
食事はNWOの目玉の1つとなりつつある。今さら消すのは反発が大きすぎる。
ちなみにランチが美味しそうに食べる姿が広まっているのもかかわっていたりする。
「…ちなみにスキルの効果は?」
「銀翼のレーザー攻撃が放てるようになるようです…」
「待て待て!あのレーザーは銀翼最大の攻撃だぞ!それをランチが撃てるってことか?!」
トッププレイヤーが挑むことを想定して作られた攻撃であり、
狙われて生き残れるのは数えられるほどのプレイヤーしかいない。
「はい…。しかもHP消費型なのでランチの場合は…」
「マジか…。それこそメイプルでも倒せそうだな」
「そうですね。…同じギルドですが」
「そうなんだよなぁ…」
がっくりする【黒】。
よりによってメイプルを倒せそうなプレイヤーがなぜ同じギルドなのか。
ちなみに、水中でランチに対抗できそうな数少ないプレイヤーの
一人であるサリーもまた、同じギルドだったりする。
「まて。以前見落としてた気がするが、海皇も肉を落としていなかったか?」
「はい。同じく料理されたものを食べたランチが、
【海皇の魂】というスキルを取得しています。効果はこれです。」
「うわぁ…。これ火と水には無敵だ…。あと水中だと手が付けられない…」
元々取られることを想定していない海皇のユニーク装備が強化されたことで、
プレイヤーのスキル構成によっては最初から詰み得る性能になっている。
「とりあえず…見守るしかなさそうだな…」
「第4回イベントも荒れそうですね…」
「メイプルやランチというか【楓の木】が不気味すぎる」
今も駆け抜けているランチを見ながら疲れたように話すスタッフ達。
その後もランチはペースを緩めず、第3回イベントは過ぎていった。
そんなわけで胃薬がお供なスタッフさん達ですー。
ランチさん本気出す。