イベントを見てる人たちが出てきますー。
【楓の木】のプレイヤーが、シンと戦ったカスミの報告を聞いて覚悟完了しているころ、
遠く遠く離れた町では様々なプレイヤーが談笑しながらモニタを見つめていた。
そこは今回のイベント用に用意された観戦専用の街。
全ギルドの状況などが確認できる代わりに、戦闘エリアには一切情報が伝わらない。
リタイヤしたプレイヤーもここに送られてくることになっていた。
イベントが開始して僅かだが、発生した幾多の戦闘を観戦していた
彼ら彼女らは興奮しながら話していた。
「おーやってるやってる!いやーすげえ!」
「見てるだけで楽しめるな!」
「ああ!戦うのも面白いだろうが、観戦も大正解だ!」
「ここに居るのはギルド未加入か参加してないギルドのプレイヤーだな」
「まあ参加してるギルドは強いとこばっかだ。特に大規模は」
「上位は大規模が独占するかもな。」
「1位は【集う聖剣】か【炎帝の国】か?」
「まあ小規模中規模にはキビシイだろ。…例外っぽいのも居そうだが」
「【楓の木】な…。とりあえずランチちゃんがスタートダッシュと
ばかりに霧出しまくってたな」
「あれなぁ。襲撃警戒してて霧が出たらとっさに反応しづらいよな」
「結構やられてたな。実際、繰り返されるだけでギルドによっちゃ厳しくないか?」
「襲撃してでも阻止したくなるな」
「襲撃したらメイプルちゃんがお迎え」
「アカン」
「てか、俺ランチちゃん映ってるモニタ見てたんだが、
あれただ単に襲撃してただけか?
何かウィンドウ見ながら色々メモ取ってたような気もするんだが…」
「…もしかして、あの霧でターゲットにした相手の場所ってランチちゃんにバレてる?」
「ああ、その場所をメモしてるってことか」
「引っかかった相手の場所を記した地図ができるな」
「それ、相手多いとこ=ギルドの位置じゃね?」
「…実質、ワイドエリアスキャンってことか。」
「1人でも霧に引っかかったプレイヤーがいるギルドは、【楓の木】に位置がバレたということだな。」
「メイプルちゃんがこんにちわ。撃退しないとオーブとられる」
「地獄かよ」
色々憶測が飛び交う一方、【楓の木】では早くも次にむけて動きだしていた。
時は夜。普段は皆お休みタイムだが、対抗イベント中の今は暗殺や襲撃がはびこる時間帯だった。
「じゃあ、そろそろもう1回行くから」
「え?もうちょっと休んだ方が…」
幾つかのオーブを持ってギルドへ戻ってきたサリーは、
そんな闇に紛れて動くべく、オーブの受け渡しとちょっとした
情報交換を終わらせると、またすぐにオーブ奪取に向かうつもりでいた。
「スタートダッシュが肝心だからね。取り易い時に取っておく!」
「う、うん。気をつけてね」
メイプルが心配そうに見送る。
今はフルプレイヤーが揃っていたが、それではオーブは奪えない。
どんどん動く必要があった。
ちなみに運悪くこの時にオーブ奪還に来てしまい、
ほぼ攻撃すらできず全滅させられたギルド達が幾つかいたりした。
「サリー、ちょっと待ってー。」
「うん?」
出発しようとしたサリーをランチが引き留める。
「おやつだよー。味わって食べてくれると嬉しいな」
【ショートケーキ】
食べ物。食べると美味しい。
付与効果:STR上昇 10分間 5%
【シュークリーム】
食べ物。食べると美味しい。
付与効果:STR上昇 10分間 5%
【水ようかん】
食べ物。食べると美味しい。
付与効果:STR上昇 10分間 5%
ランチがサリーに渡したいくつかのおやつは、
ちゃんとスプーンやフォークで食べる必要があるものが多かった。
走りながらでは食べにくく、立ち止まる必要があった。
また、付与効果はサリーの動きを変えずに支援できる、
STR上昇に限ったものばかりだった。
忘れずにサリーが好きなシュークリームも添えておく。
「ランチ…。ありがと」
貰ったお菓子を見て、少し肩の力が抜けたサリー。
「いってらっしゃーい」
「うん。行ってくるね」
サリーが出ていった入り口を見て、イズがつぶやく。
「サリーちゃん。頑張ってくれてるわね」
「ああ。俺たちも負けられないな!」
「ええ。私たちも打って出ましょう。
守りは…メイプルちゃん、マイちゃん、ユイちゃんが居れば大丈夫よね」
「はい!」
「「頑張ります!!」」
「ランチちゃんはどうする?」
「私も出てこようかなーと。ちょっとやってみたいこともあるので」
「あー。うん。分かったわ。」
何となくロクなことではなさそうだと思ったイズだが、
深くは追及しなかった。
「じゃあ、行きましょう!」
「ああ」
「うむ」
「僕も出てくるよ」
「はーい」
ギルドを出ていくものたち。
「頑張ってね!守りは任せて!」
「いってらっしゃい!」
「お気をつけて!」
見送る、ギルドを守るものたち。
どちらにも最初の試練が近づきつつあった。
「ディナー!【覚醒】×2!」
(わおお!)
外に出たランチは、ディナーに乗りながら近くのギルドへ向かう。
「はっ?狼!?」
「くそっ!!迎撃だ!」
「ぎゃああ!!!」
途中、偶然出会った不幸なパーティが食べられつつ、目的の場所へ向かう。
そこは先ほどマッピングした場所で、来てみるとそこそこ中規模のギルドで、
神殿の跡地のような石造りの場所に拠点を構えていた。
「着いたー。さて、まずおやつかな。」
近くの草原まで来たランチは、一度ディナーから降りてアイテムを取り出す。
食べたかったものを出しただけなので、付与効果などは考えていない。
【サンドイッチ(玉子)】
食べ物。食べると美味しい。
付与効果:VIT上昇 10分間 5%
【スコーン(プレーン)】
食べ物。食べると美味しい。
付与効果:DEX上昇 10分間 5%
【レモンティー】
飲み物。飲むと美味しい。
付与効果:VIT上昇 10分間 5%
「ディナーも一緒にね。いただきまーす」
(わうわう)
ディナーにも食べ物を渡すランチ。
【干し肉】
食べ物。食べると美味しい。
付与効果:STR上昇 10分間 5%
【牛ステーキ】
食べ物。食べると美味しい。
付与効果:AGI上昇 10分間 5%
「ごちそうさま。じゃあ、ディナー、行こう!」
(わう!)
おやつタイムを終えたランチは、
ディナーにまたがってギルドに向かって突進する。
「敵襲!敵は一人、狼に乗ってるぞ!」
「了解!」
「狼!?モンスターを仲間にするスキルか?」
「例のパティシエの奴か!」
「マズい!霧に警戒しろ!」
襲撃を受けたギルドは、しかしすぐに迎撃態勢を取ろうとする。
相手がランチと分かり緊張しつつも布陣を引こうとしていた。
しかし…
「いけーディナー!ジャンプだー!」
(わうう!!)
「なんだと!?」
防衛とかち合う直前、ディナーは大きく跳躍する。
AGI400を誇るディナーのジャンプは、
構えていた前線プレイヤーを軽く飛び越え、
オーブの近場にまで到達した。
「ありがとう、ディナー。一旦【休眠】×2!」
「越えられた!」
「狼も消えたぞ!挟んで倒せ!」
一気に距離を詰められ混乱するギルド。
しかし、見ようによっては自分たちの只中に飛び込んだだけである。
狼も今のでMPを使い切ったのか、一旦ひっこめられた。
プレイヤーは、周りを囲んで一気に倒してしまおうと詰め寄る。
それは通常正しい判断だったというべきであろう。
…しかしランチ相手では明らかに誤った選択肢だった。
「【封鎖海域】!」
周囲30mが深海へ置き換わる。
「うわあ!」
「す、水中!?息が…!」
「くそっ、動きが!」
「【AGI低下】だと!?」
唐突に水中へ放り込まれ、大混乱に陥いる中規模ギルドの面々。
そんな中でもランチを狙おうとしたプレイヤーはいたが、
水中+速度低下のせいでまともに攻撃すらできなかった。
「あーなるほど。オーブだけはそのままなんだねー」
そんな中、唯一自由に動くマーメイドランチはオーブを見る。
先ほどまで台座に鎮座していたオーブが、
今は水中で漂うかのように浮いていた。
「じゃ、オーブいただきまーす」
オーブの方へ泳いでいくランチ。
「ヤバい!オーブが!」
「止めろ!」
「無理だ!速すぎる!」
「い、息が!ちくしょう!」
ランチを止めようとするが追いつくことすらできない。
むしろ、【潜水】などのスキルを持たないプレイヤーが、
【窒息】によってやられ始めていた。
「…そういえばこれ食べられるのかな?」
オーブを見てふと考えるランチ。
「…じゃ、オーブいただきまーす」
先ほどと同じだが、どこか不穏な響きがあった。
「あ、触ると消えちゃった。手に入れたことになっちゃうのか。」
オーブは他のギルドプレイヤーが触ると消えてしまい、
つぼみのようなアイテムとして取得できる。
そのため、触った時点で消えてしまい、食べることはできなかった。
「次は直接食べてみようかな」
更に不穏なことをつぶやきつつ周りを見る。
「くそっ!オーブを返せ!」
「よくもみんなを!許さない!」
殆どのプレイヤーは【窒息】でやられていたが、
【潜水】などの水中スキルを持つ数人のプレイヤーは
まだ活動できるため、ランチに向かってきていた。
ちなみに最初は逃げようと思っていたが、
境界部分に攻撃してもダメージエフェクトが出ないと分かり、
半ば絶望しながら攻撃を仕掛るプレイヤーも居たりする。
「んー。どうしよう。やっぱこれかな。【食神の霧】!消費HPは…10000!」
水球を中心に巨大な霧が広がる。
「うわあ!またか!」
「霧を散らせ!」
「くそっ、戦闘中に!」
それは周囲のいくつかの戦場やギルドを巻き込んでいた。
「真っ白に!?」
「な、何も見えない!」
「くそぉ!!」
そして、霧は白色の水という形で、
水球の中に居るプレイヤーたちにも襲い掛かかる。
水には10秒以上触れないように対処が必要となるが、
それが可能なプレイヤーは残念ながらいなかった。
「じゃあ、【食材集合】!」
「うわああ!!!」
「混ぜまーす」
「あああ!!!」
「ぎゃあああ!!!」
【料理の素を、52 個 入手しました】
水中で麻痺状態の中、泡だて器で混ぜられて消えていくプレイヤー達。
「それじゃ、解除。ごちそうさまでした!」
フィールドが元に戻る。
しかし、オーブも、それを守るギルドのプレイヤーも周囲からは消えていた。
その後、復活したギルドのプレイヤー達。
しかし、オーブを取り返しに行くことは無かったという。
ランチが【封鎖海域】でオーブを奪取したシーンは、
モニタでもハイライトされ、様々な場所で話題になっていた。
それは巨大な空間の中で動くマスコットたちの間でもそうだった。
第4回イベントを陰から見守るスタッフ達である。
<スタッフルーム>
「ひでぇ…」
「うん?なんか問題か?」
「いや、トラブルじゃないんだが…」
そのうちの一人【青】は、ランチのスキルを見て思わずため息を漏らす。
何かあったかと思った【赤】はその映像を見せられて閉口していた。
「これはどうしようもないかもしれん…」
「今のところスキルに巻き込まれて生き残れそうなプレイヤーがいない」
「ペインとかは?」
「スキルなしなら勝つ可能性はあるが、これはなぁ…」
取られることを想定していなかった海皇のユニーク装備。
一応コンセプトは「楽しく遊泳する人魚」だったが、
そんな可愛いものではないのは先ほどの光景で明らかだった。
そして、リーダー格の【黒】はある点を気にしていた。
「…ちなみに、さっきオーブを食べようとしてた気がするが…」
「大丈夫です!オーブは触ると特殊な取得処理が入ります!深海の影響も受けません。」
「ランチが直接食べたらどうなる?【暴食】とバッティングした場合だ」
「大丈夫…と思うんですが一応確認します!」
暫くすると【青】から悲鳴が上がる。
「あああああっ!!!ダメです!」
「どうした!?」
「ランチが直接食べてしまうと、【暴食】が発動すると思います!」
「その場合どうなる?」
「オーブが一部食べられて、機能停止してしまうかも…」
「すぐ修正できるか?」
「頑張ります!」
「追加作業だ…」
「早くしないと!ランチが次のギルドへ向かってるぞ!」
「急げ!」
スタッフに安息の時は訪れそうになかった。
そんなわけで、観戦者とスタッフによる、ランチのスキル鑑賞会でしたー。
次回はイベントもさらに加速。ランチ達にも色々な試練が降りかかりますー。