「ふっ!」
森の中の沢で、闇夜に紛れて短い声。
「がっ!?」
「な!?奇襲!?」
「敵はおそらく一人だ!だがどこにいるか分からん!」
直後、悲鳴と怒号がこだまする。
その場所に陣を構える中規模ギルドは、
謎のプレイヤーことサリーの奇襲を受けていた。
「【超加速】!」
「朧、【狐火】!」
サリーはギルドを外から回り込むように素早く移動し、
全然別の方向へ火の手をあげる。
「奇襲だ!」
「敵は複数?!」
陸側を警戒するギルドをよそに、
サリーはそのまますぐそばの川へそっと入る。
【水泳X】【潜水X】を持つサリーにとって、川は自分のフィールドだ。
川がある程度深かったことも幸いし、相手ギルドに気づかれないまま、
あっという間にオーブの間近まで到達する。
「なっ!?ぎゃあ!!」
「なんだと!?」
少し様子を見たサリーは、オーブ近くの防衛が数人しかいないことを確認し、
うち一人を素早く倒す。
「オーブが!!」
「追え!!」
ほんの少しの間だが混乱するギルドの隙をつき、オーブを掠め取って川へダイブ。
後はサリーの遠泳タイム。真っ暗な川の中を逃げるサリーを追えるプレイヤーはいなかった。
その後、フィールドの様々な場所で短剣使いのプレイヤーによる奇襲が発生した。
被害にあったギルドは10を超えていた。
そして、その情報は様々なギルドに伝わり、
「悪夢の再来」「徘徊型モンスター」などと呼ばれることとなる。
プレイヤーの情報は、優秀な諜報員が揃う、とある大規模ギルドにも届いていた。
「ふぅん。頑張ってるプレイヤーがいるんだねー。横取りタイムかなー」
にまにま笑いを浮かべる幹部プレイヤーことフレデリカ。
「念のため…。」
そのままフレデリカはウィンドウを開いてチャットを送る。
相手は同じく幹部プレイヤーのドラグだった。
<[フレデリカ]ドラグー、ちょっといい?いまどこー?>
<[ドラグ]うん?今は森ン中だ。あー、マップだとFとか印付けたとこ>
<[フレデリカ]あー。ここ。ちょうどいいなー。手伝ってー>
<[ドラグ]なんかあったのか?>
<[フレデリカ]偵察組からの情報なんだけど、オーブいっぱい奪取してる単独プレイヤーが近くに居そうなのー>
<[ドラグ]そいつを狙うってか?>
<[フレデリカ]そー。横取りー。でも、一人でいくつもギルドからオーブ奪ってるっぽいからさー。>
<[ドラグ]あー。そりゃ厄介そうだな。分かったぜ>
<[フレデリカ]はーい。じゃ、うちの面子つれて、私たちも出るよー>
<[ドラグ]おー!>
そして、フレデリカ+ドラグ+集う聖剣プレイヤーからなる集団が、
秘かに徘徊プレイヤーことサリーを狙って動き出した。
「ふぅ…大体回れたかな。」
空が白んできたころ、サリーはギルドから離れた森の入り口に居た。
インベントリにはオーブが10個以上。もう1つの目的も達成できた。
「さすがに少し疲れてきたな…。一度帰ろうか、朧」
朧を撫でるサリー。しかし、いつもはすり寄ってくる朧は歯を立てて威嚇している。
「朧…? …いる!」
不思議に思ったサリーだがすぐに気が付く。
辺りを囲まれていることに。数は100を超えている。
サリーはまず【ドーピングシード】を取り出す。
イズから大量にもらった【ドーピングシード】は、
一定時間、あるステータスを10%アップする代わりに、
別のステータスを10%ダウンするアイテムだ。
イズがサリーに渡したのはVITをダウンするものばかり。
サリーにとって実質デメリットは無い。
動きにズレが出ないよう、AGIはそのまま。
STR増加の【ドーピングシード】を限界まで使用する。
「朧!行くよ!」
そして立ち上がるとすぐさま移動を開始する。
反応するかのように森の中でざわめく音が響く。
囲んだプレイヤー達がサリーを追ってきているのだ。
「振り切れない!?装備も統一されてる…この人たち、強い!」
そして、サリーの速度と動きをもってしても彼ら彼女らは振り切れない。
走っている中で見えた服装は統一され、ギルドによる統率の取れた連携であることが分かった。
走る中、サリーはウィンドウを開いてメッセージを送る。
時間が無く、メイプルとランチにだけそのメッセージは届いた。
しばらくして立ち止まったサリーは、四方八方を囲まれていることに気が付く。
(あれー。サリーちゃーん?)
「っ!?フレデリカさん!?」
「あーそうだな。あんたが噂の青い子か」
声だけ聞こえたので周りを見渡す。
すると背後からも声がかかった。
振り返ったサリーはギョッとする。
「あなたは…!確か…ドラグさん!」
「おー。喫茶店ぶりだな。なんか近くドレッドとも会ったんだって?」
「…逃げられましたけどね」
「アイツも同じこと言ってたな。」
そこまで言うと斧を構えるドラグ。
「…さて、お喋りも楽しいが、ここでは他にやることがあるからなぁ!!」
「…………」
対して無言で短剣を構えるサリー。
(さて、生き残ろう!)
【集う聖剣】の精鋭部隊 vs サリーの激闘が始まった。
<[サリー]囲まれた!死んだらゴメン!>
「!!ディナー!!」
(わうう!!)
サリーと逆側でオーブ集めをしていたランチは、
サリーからのメッセージを受け取ると即座に踵を返す。
「サリーのもとへ!ディナー、これおやつだよ!」
「【調味料】!」
そう言うと、ディナーの目の前に【ドーピングシード】をいっぱい放り投げる。
全てAGIアップの効果が付いたものだ。
【調味料】で塩味が付いた【ドーピングシード】を食べたディナーは、
一気にAGIをアップさせフィールドを駆け抜ける。
「サリー、無事でいてね!(もむもむ)」
自らディナーの背にまたがり【ドーピングシード】を食べつつ祈る。
ちなみにランチは全ステータス 0 のため食べても意味はないが、
余りがちなシードをおやつ感覚で貰っていたりする。
「狼だ!って、なんだ?」
「敵襲!?ぎゃあああ!!!」
「うわ、来るなぁ!!ぎゃああ!!!」
途中でプレイヤーがいた場合は、避ける・跳ね飛ばす・すれ違いざまに食べるなど、
様々な方法で対処しながら最速でサリーのもとへ向かっていた。
「サリー、今行くからね!」
そして、メイプルもまたサリーのもとへ高速で向う。
「【ダブルスラッシュ】!」
「ぎゃあ!!」
「あああ!!」
サリーのスキルが、周りのプレイヤー達を切り刻む。
敵に囲まれている中でも縦横無尽に動き回り、
敵を翻弄する。
「【多重炎弾】!」
「【流水】!」
「【グランドランス】!」
「【攻撃誘導】!」
そして、フレデリカ、ドラグからの攻撃はスキルを使って避ける
…ように見せていた。
(当たらない…。でも、スキルならクールタイムができる!)
そしてそれは、スキルと思い込んでいるフレデリカ相手に、
スキル切れを待たせ貴重な時間を稼ぐことができていた。
「弓隊!撃てぇ!」
「ふっ!」
「【バーンアックス】!」
「朧、【影分身】!!」
「ぶ、分裂!?」
「ぎゃああ!!」
「貰った!…なっ、消えっ!?ぐああ!!」
「ちっ、こんなのも持ってるのか!」
周りのプレイヤー達やドラグが波状攻撃をかけるが、
サリーは避け続ける。
挙句の果てに、5体に分裂して攻撃を仕掛けてくる。
(…というか、避け続けている!クールタイムが無い!)
「まさか、ただの反射神経なの!?」
「どうしたフレデリカ!」
ことここに至りようやく気が付いたフレデリカが思わず大声をあげる。
反応したのはドラグだった。
「サリーちゃん、スキルで避けてると思ってたけど、違うっぽい!」
「なんだと?じゃあさっき喋ってたスキルは」
「本物もあると思うけど、攻撃を避けるためのスキルは多分偽物。
スキル切れを待ってても意味ないはず!」
「マジか。あれをスキルとかの補正なしでやってんのか…。どうするよ?」
「とにかく、攻撃を続けるしかないなー。いくら何でもずっとは動けないはず」
「オッケー。やることは同じってか」
そう言うと二人は改めてサリーに対する攻撃に参加する。
その間にもギルドメンバーが攻撃を続けていて、
サリーの疲労は大きくなっていった。
(まずい…。少し鈍ってきてる…。それでも前以上なんだけど…!)
今のサリーはあらゆるところからの攻撃が読めていた。
イベント内でドレッドと戦ったことでヒントを得た危機察知。
極限の集中力と相まってサリーの勘は研ぎ澄まされている。
そんなサリーは自分の状態をもある程度正確に把握していた。
戦闘を始めた時よりほんのわずかだが察知能力などが低くなっていた。
(周りのプレイヤーも強いけど、ドラグさんとフレデリカさんがキツい!!)
原因は疲労。周りのプレイヤーからの波状攻撃も厳しいが、
特にトッププレイヤーであるドラグ・フレデリカの攻撃をしのぐのに、
体力と神経を使わされてきた。
(ランチに感謝かな…。それでもこのままじゃ厳しいな)
しかし、ある程度体力を残せていたおかげで今も戦い続けられている。
途中何度か休憩を進めてくれたランチのおかげだった。
(できれば、どこか一か所を崩して突破したいけど…)
チラっと防御が薄いところを見る。
そこにはしっかりドラグとフレデリカが居た。
(あの二人は簡単に撒けない!どうする?!)
だんだん焦りが募るサリー。
そしてそれ以上に体への負担は積み重なっていった。
「!?」
「あん?」
突然片膝を付いたサリー。
怪訝そうにドラグが見つめていた。
まるで糸が切れたかのようにサリーは動けなくなった。
限界を超えて動いていたサリーの体力が尽きたためだった。
「存在しないスキルとはねー。ほーんと手こずらせてくれるんだから。」
「はっ、よく頑張ったな、嬢ちゃん!」
「…次は、負けないから」
「【多重炎弾】!」
「【重突進】!」
立ち上がったサリーは、二人が使うスキルをただ見ていた。
(メイプル、ランチ、ごめん…)
せめて最後まで諦めまいと、迫りくるスキルを見ていたサリーは、
突如真っ白なものに視界を奪われた。
「サリィーーー!!!」
そして、親友の声を聞いた。
ということでサリーちゃん大ピンチな回でしたー。
原作とちょっと違って追っかける【集う聖剣】側も気合入ってます。
果たしてこのピンチを脱出できるのか?
次回お楽しみにー。
ちなみに【ドーピングシード】はクルミとかのナッツ類のようなイメージで。
素焼きも良いのですが塩味付きだとやはり美味しい。