「いってきまーす」
「いってらっしゃい」
玄関に挨拶がこだまする。
ゲームでは大イベントが終わった後だが
美咲は普通にご飯を食べて普通に登校していた。
いつも通りの光景だったが今日はすこしだけ違っていた。
母が美咲を呼び止めたからだ。
「あ、美咲、明日はいつものがあるわよ」
「あ、そっかぁ。はーい。わかったー」
「早く帰ってらっしゃいね」
「はーい」
それを聞いた美咲は、今日はゲームとかあまりできないなーと
思いながら歩き出した。
「いい天気だねー」
日差しに目を細めながら歩いていく。
NWOの中でも日は照っているが、やはり現実のものは強く明るいと思った。
「昨日は色々美味しかったなー」
ゲームの中で食べたもの(主に武器)を思い出しながら
歩いていると二人が待っていた。
「あ、ラン・・・じゃなくて美咲、おはよ!」
「おはよう、美咲。」
「楓、梨沙、おはよー」
メイプルこと楓とサリーこと理沙が待っていた。
いつも通り3人で歩き出す。
「楓さん?ここは現実ですよー?」
「もう理沙ったら、ちょっと間違えただけだって!」
ちょっと赤くなる楓だったが、
ゲーム内で5日間も濃厚な日々を過ごしたので、
暫く経った今でも思わずゲーム内の名前を呼びそうになっていた。
「まあ、仕方ないか。すごい長く感じたからね。色々あったし」
「うん!すごかった!戦ってパーティして・・・楽しかったね!」
「色々食べれてよかったよねー」
話題はやはり第4回イベントのことばかりだった。
ギルド戦での大立ち回りや打ち上げ、その後の大パーティなど話題は尽きない。
ゲーム外でも話題は収まらず、翌日の時点ですでに様々なまとめ動画やサイトが作られていた。
そんな一大イベントの主役とも言える3人はマイペースに進んでいた。
放課後になり、3人は道すがら今日のことについて話をしていた。
「んで、今日はどうする?どっか回る?」
「んー、イベントでいっぱい戦ったし、しばらくは色々見て回りたいかも!」
「いいねー。食べられるものとか料理探したいなー」
「なら、しばらくは探索かな。3層とかあまり行ってないし、どう?」
「いいね!今日はそこ行こうか。美咲もいいかな?」
美咲はしかしすこし申し訳なさそうに答えた。
「あー、ごめん。今日はゲーム入れないかも。用事あって」
「そっか。じゃ、また今度だね!」
「じゃあ、また明日ね美咲」
「うん。またねー」
楓、理沙と別れて家へ。
「おかえり、美咲。すぐ行く?」
「うん。早い方がいいし」
「わかった。じゃあ準備するから着替えてらっしゃい」
「はーい」
制服から外出用の普段着に着替えた美咲は、
そのまま母の運転する車に乗り込む。
「着いたわよ」
「んー」
そのまま車を走らせて数十分、郊外にある大きな病院の前にいた。
「それじゃ、定期検診頑張ってね」
「はーい。行ってきまーす」
そのまま病院の入り口を潜る美咲。
「いらっしゃいませ。あら、美咲ちゃん。こんにちわ」
「こんにちわー。検診で来ましたー」
「はい。それじゃあ、いつも通り3階にお願いね」
「わかりましたー」
手慣れた様子で書類を受け取り3階へ向かう。
美咲は手術を受けた後も経過を診るため定期的に病院で診察を受けている。
といっても術後は極めて良好で、基本的に何もないことを確認するためと、
最先端の手術を受けた後の経過を見る研究的な意味もあった。
「こんにちわ、美咲ちゃん。調子はどう?」
「先生こんにちわー。ご飯美味しいです」
手術から担当してくれている女医さんへ元気に挨拶する美咲だった。
「うん。それは良かった。じゃあ、もう大丈夫そうかな」
「ん?」
「実は、検査については今日が最後で良いかなって話が出てたの」
「本当ですか!?」
「うん。経過が良好ならって思ってたけど、問題なさそうね」
思わぬ話に食いつく美咲に、女医は笑顔で返した。
「やったぁ!ありがとうございますー」
「こっちこそありがとうね。それで、今日の検査なんだけど、
いつもの検査に加えて、ちょっとお話を聞かせてほしいのよね」
「お話ですか?」
「うん。実は今日、一人ゲストが来ているのよ。
美咲ちゃんの受けた手術を作った人。
その人ができれば話を聞きたいって」
「そうなんですねー。大丈夫ですー」
「ありがとう。それじゃ、手続きとかもあるから奥の診察室で待っててね」
「はーい」
女医がホッとした様子で机に向かい、
美咲は看護師によって診察室へと案内された。
「お待たせ。それじゃ、行きましょう。6階の奥になるから」
「はーい」
女医さんに連れられて病院の上へ奥へと入っていく。
すれ違うのも病院関係者だけの廊下を進むと奥にある部屋へ通された。
「失礼します。烏丸さんをお連れしました」
部屋の中は研究室といった感じの様相で、
左には様々な薬品が入ったと思わしき棚、
右にはVR用のゴーグルや機材が山と積まれていた。
「はい。ありがとう。よく来てくれました、烏丸さん。」
そして、奥には柔和そうな笑みを浮かべる男がいた。
「はじめまして。鈴鳴と言います。」
「こんにちわ、烏丸美咲です。よろしくお願いします」
鈴鳴と名乗った男はスーツ姿に白衣の上着を着ていた。
その姿は研究員のようで会社員ともとれる姿だった。
背は高めだがスラッとしていて、短髪と相まって爽やかそうな印象を受ける。
「ご挨拶ありがとう。少し話を聞きたいのですが、よいですか?」
「はい」
「ありがとう。ああ、あまり畏まらなくてよいですよ。自然な方が私も聞きやすいので」
「はーい」
「では私もご一緒いたしますね。」
「わかりました。」
わりとすぐにいつも通りの雰囲気になった美咲が椅子にかける。
「さて、まずはそうですね。ご飯は食べられていますか?」
「はい!食べるの大好きです!」
元気よく答える美咲に、思わず男は目を細めた。
それが見たいがために始めた研究の集大成とも言える光景に目を瞑る。
男もまた、食事に関して苦労をした人の一人であった。
彼自身は食べられないと言うより、食べると拒絶反応が出る類いの病だった。
主となる穀物にも影響を受けてしまうのが不幸だったところで、
食べられるものは特定の肉類とか野菜といったようにかなり限定されていた。
しかし、医薬品の進歩が彼をその辛さから解放してくれた。
はじめてお腹いっぱい好きなものを食べたときの気持ちは忘れられなかった。
そこで彼は思った。食べることに苦しんでいる人のちからになりたいと。
幸い、彼には才があった。
最新のフルVR技術とそれに必要な超精密スキャン技術などを理解し、
脳波による手術具の精密操作などで具現化することまでできた。
「鈴鳴さん?」
「ああ。失礼。少々思うところがありまして。楽しまれているようで何よりです」
「はい、ありがとうございました」
「こちらこそ」
礼をする美咲に男も礼で返えしながら、
数奇な、いや奇跡的とも言っていい縁を噛み締めていた。
知人の紹介で入ったプロジェクトで食に関するシステムを組み上げ、
彼はそこで技術的なことを研究し実装するようなことをやってのけた。
それは医学とは全く異なる分野だったが得た知見は決定的なもので、
今まで不可能だったような手術を可能する革新的な技法を開発した。
その成果を彼は食事に関する難病や奇病に費やした。
「後ひとつだけ。烏丸さんは、どうして手術を受けようと決めたのですか?」
「ん?」
「あの手術は革命的なものでした。少なくともあの時は前例がない未知の手術。
しかしその危険性を説明した後、すぐに貴女は決めてくれたと伺っています」
「そうですねー。やっぱり、食べてみたかったからですねー。
家族や友人が食べてるの楽しそうだなーと思ってて。
一緒に食べれたらもっと楽しいだろうなーと」
そして新しい技法はすぐに実践の場を得た。
危険を省みず、挑戦してくれた患者さんがいたからだ。
彼と医師達は全力で答え、今の結果があった。
なおその結果は食に関する分野とVR手術の分野に激震をもたらしている最中である。
「それに、先生の皆が優しいし、任せたいって思いました」
「そうでしたか。。。ありがとうございます、お話伺えて良かったです」
「こちらこそー。お礼言えたので良かったですー」
「では鈴鳴さん、こちらでよろしいですかね」
「はい。ありがとうございました。」
最後に深く礼をした男は、改めて目を閉じる。
自分の長い研究が一定の区切りを迎える感覚があった。
今回の成果は医療関係者によってさらに洗練され、
新しい1つの技術として定着していくことだろう。
「・・・あれ、ドラぞうだ。ぬいぐるみ出てるんだー」
次のことを考える必要がある。と思っていると、
美咲が呟いた言葉で現実に戻ってくる。
それはVR機材の机に置かれた1つのぬいぐるみだった。
「美咲ちゃん、知ってるの?」
「はい。今やってるゲームのマスコットです。
NewWorldOnlineって言うんですけど、色々食べれて楽しいんですよー」
それを聞いた男の顔がすこし変わる。
「・・・ちなみに何が食べられるんですか?」
「料理作ったりー飲み物飲んだりー、あ、私は武器も食べられますよー!」
男の顔が一瞬大きく変わった。
「そうなんですね。そちらも楽しそうです」
「はい。楽しいですよー。おすすめでーす!」
「食べるゲーム・・・なのかしら?」
女医さんによく分からないイメージを植え付けつつ話は終わった。
お礼を言う女医さんと別れた美咲は、そのまま母の待つ車へと向かった。
「おかえり。遅かったわね。」
「うん。何か今日が最後の診察になるってことで色々話してた」
「あら!良かったじゃない!」
「うん!あ、それで来週お母さんに来てほしいって。手続きがなんとか」
「分かったわ。それじゃ、帰りましょうか」
「はーい。」
一方、病院の中では男が電話を掛けていた。
「もしもし、ご無沙汰しています。ああ、色々あるかとは思いますが、まずは・・・」
その後、NewWorldOnlineはしばらく運営側の動きが消える。
今までの頻度から見ると数回あっても良さそうなアップデートもなく、
告知などもない時期がしばらく続いた。
第4回イベントが大きかったからその反動ではないか?
といった憶測が流れるなか、プレイヤー達は穏やかな日々を過ごしていた。
「ほんと?ホントなの理沙?」
「うん。間違いない。来てたよ、告知」
「じゃあ本当なんだね!第4層が実装されたんだ!」
そしてしばらくの後、全体告知と共にアップデートが実施された。
メインは第4層の追加。それに伴うアイテムやスキルなどの追加だった。
「久々のアップデートだから盛り上がってるみたい。もう探索してる人もいるみたいだよ」
「よーし!じゃあ早速みんなと行ってみよう!」
「新しい料理とかお店とかあるかなー。」
それを見た美咲達3人は意気揚々とギルドホームへ向かう。
そんなこんなで新時代を迎えるNewWorldOnline、
そのスタッフ達に増員があったことは無論プレイヤー達はだれも知らなかった。
ということで、新しくお一人登場ですー。
色々変わっていくなかで、次回から第4層を攻略ですー。
新しいキャラの名字はとある大食いキャラの名字から。
ちなみに主人公の名字と名前も、とある2人の大食いキャラから
名字と名前をとってきていたりします。
名字はともかく名前は知ってる人少なそう。