「ずいぶん下ったけど…あ、終わった」
レストランのテーブルの下、階段はかなり長く続いていた。
階段の先には、仄かに明るい部屋があり、奥に扉があった。
扉には、【食神ノ間】と書かれている。
「なんだろう?とりあえず入ってみよう」
ドアは普通に開いたので、部屋に入る。
バタンッ!
「うわっ!?扉が勝手にしまっちゃった」
すると、入ってきた扉が閉まり、部屋が明るくなった。
見渡すと、奥に何かいるのが分かる。
奥に進むと、一体の豚のモンスターが、
一段高いところにある椅子に座っていた。
でっぷりと肥え太り、漫画とかでみたオークのような姿だった。
しかし、きちんとした鎧を装備しているなど、
雑魚モンスターのような感じではなく、王のような雰囲気があった。
こちらに気づいたモンスターが話しかけてくる。
<我は「ヘンウェン」>
<ここまで来れた者よ。我に【食】を示せ。>
<示せば力を得よう。示せねば倒れよう。>
「おお、しゃべり方もなんかかっこいいぞ」
そんなことを考えていたランチのもとに、ポップアップ音が響いた。
【クエスト 食神の試練 を受けますか?】
「もちろん!」
出てきたメッセージに「はい」を返す。
すると、ヘンウェンが座っていた玉座の横にテーブルと椅子が現れた。
「わっ、なんかワープした?」
そして、強制的に移動させられ、椅子に座らされた。
テーブルを挟んだ向かい側には、ヘンウェンがたたずんでいる。
ランチの目の前にお皿と食器が現れる。
同時に、ランチとヘンウェン両方からダメージエフェクトの紫のポリゴンが噴出する。
「えっ?えっ?何かダメージ受けてる?!」
慌てるランチ。しかし、ランチのエフェクトはヘンウェンの前に、
ヘンウェンのエフェクトはランチの前に集まった。
そして、色とりどりの料理が現れた。
「わあっ!美味しそう!」
<互いの命を感謝し、食し合う。制して見せよ>
「はーい。いただきまーす」
ランチは目の前の料理を品定め中であまり気にしていなかったが、
ヘンウェンの言葉とともに、お互いのHPバーが表示された。
どちらもHPが多少減っていた。
そして、ヘンウェンとランチ、双方が目の前の料理を食べだした。
「美味しい!これは美味しいよ!ありがとう!ヘンウェンさん…だっけ!」
<美味である>
ランチが最初のお皿の上の料理を食べ終わった。
すると、お皿が消え、ヘンウェンの体から再度ダメージエフェクトが出る。
エフェクトはランチの前に集まり、新しいお皿と料理が出来上がった。
「あ、なるほど。どんどん食べて相手のHPをゼロにした方が勝ちなんだね。よーし、頑張るぞ!」
ルールを理解したランチは、どんどん食べていく。
ヘンウェンもどんどん食べている。
…しかし、ランチはHPに特化している上、戦いのときは8倍まで増加する。
食べる速度はヘンウェンの方が早いのだが、ランチのHPはあまり減っていない。
「さー、どんどん食べるよー!ってあれ?お皿が補充されなくなった」
それからおよそ1時間、食べ終わるたびに補充されていたお皿がついに補充されなくなった。
見ると、ヘンウェンのHPバーがゼロになっていた。ランチもかなり減っていたがまだ安全域だった。
「あ、これでおしまいなのかな。ちょっと残念だけど、最後までいただきまーす」
そして、残されていたお皿もすべてからになった。
<見事…。【食神】の称号とともに、証を授ける>
すると、ヘンウェンが言葉とともに薄らいでいった。
「ヘンウェンさん!美味しい料理をありがとう!」
<良い【食】に感謝を>
お礼を言うランチに、ヘンウェンもまた礼を返し、消えていった。
【クエスト 食神の試練 をクリアしました】
ポップアップとともにテーブルが消え、大きな宝箱が出現した。
「おお。これが、【食神】の称号なのかな?」
ワクワクしながら開けると、そこにはいくつかの装備が入っていた。
「おおっ!すごい!パティシエみたいなやつだ!」
銀色のボウルと泡だて器、白色のコックコートとシェフハット、
そして赤色のコックタイだった。
装備の説明には以下のようなことが書かれていた。
【ユニークシリーズ】
単独でかつボスを初回先頭で撃破しダンジョンを攻略した者に贈られる、
攻略者だけの為の唯一無二の装備。
一ダンジョンに一つきり。取得した者はこの装備を譲渡できない。
「やった!私だけの装備だ!ふふっ早速装備してみよっと」
まるっきりパティシエの格好になったランチは、装備の性能を確認する。
食神のボウル
【HP+200】【破壊不可】
【食材集合】
食神の霧の効果範囲から食材をボウルに集める。
相手のVITが消費HPの1/100以上の場合、成功しない。
集められた食材には、耐性無視の1分間の麻痺がかかる。
【相対成長】
食材集合で集めた食材の量に応じて、
使用者・装備・HP・MPの大きさが変わる。100%から小さくはならない。
ボウルの中の食材が無くなると大きさ・HP・MPが元に戻る。
HP・MPは最大値を超えていた場合、最大値まで戻る。
食神のウィスク
【HP+200】【破壊不可】
【食材分割】
この武器で食材とみなされた対象を攻撃すると、以下の効果が発生する。
モンスター…防御無視の割合ダメージ(10%)。
プレイヤー…防御無視の割合ダメージ(10%)。
スキル…消滅。
武具…1分使用不可。その後は通常の状態で戻る。
食材を分割すると、「料理の素」が手に入る。
食材以外にはダメージが与えられない。
食神のコックコート
【HP+300】【破壊不可】
【食神の霧】
HPを消費して、一定範囲に霧を発生させる。
HP100消費で1m。最大で100m。効果は1分。
霧に5秒以上触れたモンスター、敵プレイヤーは食材として扱われる。
パーティを組んでいるプレイヤーは対象外。
水中でも使用可能。一定範囲の水が霧と同じ効果を持つようになる。
食神のシェフハット
【HP+200】【破壊不可】
【食材観察】
食材のステータス、所持スキル、装備を確認できる。
食神のコックタイ
【HP+100】【破壊不可】
【料理生成】
料理の素を、任意の料理に生成できる。
料理の大きさによって、使用する料理の素の量が決まる。
消費HPは一定(1回5%)。
作成された料理にはランダムで特殊効果が付く。
「おお、さらにHPが増えるね。それに、食べることや料理のスキルばっかりだ!」
「今日は遅いから、明日また使ってみよっと!」
大満足のランチは、そのままログオフしてベッドへ向かった。
…そんな光景をハラハラしながら見ていた面々も、息をついた。
<スタッフルーム>
「…特別イベント終わりました」
「そうだな…どんだけ食べるのにこだわってんだよ!?」
そして、思わず突っ込みが入った。
凄い戦いを見た。
1時間の間、モンスターと少女がひたすらものを食べる戦い。
料理も古今東西あらゆるものを揃えたかのようなラインナップだった。
…NWOの世界的には、まったく関係ない方面だった気もするが、
動画にしておきたいレベルの戦いだったのは間違いなかった。
「あのユニーク装備、どう思います…?」
「そうだな…。まずHPがヤバい。実質、プラス8000だぞ」
「既にそこら辺のボスよりは多いです。レイドボスとかそんな感じですよ」
装備で強化されたランチの現在のHPは、戦闘時に12000を超える。
文字通り桁が違う。状態異常や割合ダメージなどがないと話にならないだろう。
「あと、あのスキル達はかなりまずい気がします。使うのを見てからではありますけど…」
「あのプレイヤーは注視しておいた方がよさそうだな…」
そして、スタッフが対応に追われる中、とあるプレイヤーが密やかにNWOに参戦した。
「もー、何だかんだで理沙に押し切られちゃったよ。まあ、美咲もやってるかもだし、仕方ない、始めますか!」
ということで食べ比べイベントでしたー。
次回はスキルを使ってみるランチさんですー。
そして、某プレイヤーがいよいよゲームに参戦します。