ブライアンに振り回されながらも、信頼され、握るべき場面ではしっかりと手綱を握れるトレーナーがブライアンにとっては一番安心できるトレーナーになるのかなぁ? と思いながら書きました。
「それで? お前わかってんの? ナリタブライアンの才能を潰してるんだよ?」
俺のトレーナー室で俺に詰め寄っているのは、俺の同期で、最も優秀なトレーナーだ。俺と違って既に何人もの重賞勝利ウマ娘を担当している。その中にはG1勝利者も居る。
その一方で俺は長らく担当を持つ事すらできず、サブトレーナーとして過ごしていた。初めて担当となったナリタブライアンは先日クラシック三冠と言う快挙を成し遂げたが、その一方で彼女の才能はシンボリルドルフと同じ無敗三冠を達成しうるものがあったのはわかっている。だが、俺はそれを成し遂げれなかった。
「なぁ、わかるよな? お前の手にナリタブライアンは余るんだよ。もう無敗三冠は永遠に達成できなくなった。だが、ここから先のレースで無様な負けを晒させる前に俺のとこに移籍させろ。良いな?」
俺を見下し、あざ笑う同期に何も言えず、ただ俯く事しかできない。そんな時、不意に勢いよく部屋の扉が開かれ、ブライアンが入ってきた。
「ブ、ブライアン!?」
もっとも聞かれたくない相手が来たことに俺は慌て、立ち上がろうとする。だが、それより先に同期が動いた。
「ああ、良い所に来てくれたねナリタブライアン」
俺より先に動いた同期がブライアンの前に立ち、彼女の話しかける。
「クラシック三冠おめでとう……いや、残念だと言うべきかな。君の才能ならあのシンボリルドルフ同様無敗三冠もできただろう。なのに君はこんな才能のないトレーナーのせいでそれを失った。今からでも遅くない、君は私の元で……」
「黙れ」
同期が全てを話す前にブライアンが遮った。その表情は変わってないように見えて……めちゃくちゃ不機嫌だ。
「私が誰をトレーナーにするかは私が決める。お前の出る幕はない。わかったらさっさと失せろ。失せなければ力で追い出すぞ」
「な、何を言う! 私は君の為を思って……!」
なおも言い募ろうとする同期の胸倉を掴み、ブライアンは強引に同期を部屋の外に放り出した。
「もう一度言う。失せろ。貴様に用はない」
そう言い捨てるとブライアンは勢いよく扉を閉めて、流れるように鍵をかけた。そして、そのまま俺の方に向かって歩いてくる。
「それで、お前は何を言いたい放題されているんだ?」
「……あいつの言う事も確かだからな……」
俺はブライアンの目を直視できず、視線を逸らしたまま答える。
「ブライアン、正直わかっていたんだ。君は無敗の三冠になれるだけの才能がある。なのに、俺はそれをさせてやれなかった。それでも君が信じてくれるからトレーナーをしていたが……やはり俺には……」
「……どうやら私のトレーナーは頭が悪いらしいな。それとも、こないだ言った事をちゃんと聞いてなかったのか?」
「え? なんの事……うわっ!?」
俺が全てを言う前にわけのわからない事を言われたと思うと、不意にブライアンに持ち上げられ、そのままベッドに放り投げられた。碌に受け身も取れずにベッドに落ちた俺は突然の事に混乱しながらも体を起こそうとしたが、それより先に頭を掴まれ、ブライアンの膝に頭を押し付けられる。
「ちょ、痛い痛い痛い痛い!」
「喧しい。もう一度お前の耳の中をしっかりと掃除して私の声が聞こえるようにしてやるから、おとなしくしていろ」
「わかった! わかったから! 首が折れる! 頭が割れる!」
ウマ娘の力で変な体勢で押さえつけられるのはマズい。慌ててブライアンを叩き、必死に訴える。そうしたらようやく力が緩んだので逃げようと思ったが、恐らくその瞬間には押さえつけられている。それを自覚し、なんとか体勢を整えるだけに留めた。
「まったく……前にしっかりと掃除したはずなんだがな……ああ、また溜まってるのか。仕方がないな」
「いや、掃除は確かにしてないけど、そんな言うほど汚いわけでもないと思うんだが」
ブライアンの言葉に反論をするが、横目で見上げた先にあるブライアンの表情は非常にヤレヤレと言った感じだ。解せぬ。
「ふん、本当に汚れてないと思っているのか? 少し待っていろよ。カリカリ……カリカリ……」
カリカリカリ……ガリガリガリ……
ベリベリ……ベリッ……ガリッ……
荒い手つきで耳かきが動かされて、割と乱暴に耳垢が掻かれていく。ちょっとこれは、痛い。割と痛い。
「耳かきで順番にガリガリと……ベリッと……早速一個取れたか。次に行くぞ。おい動くな」
「いや、ちょっと痛い……」
痛みを訴えるが、ブライアンが耳かきを動かす手を止める様子がない。
「今回は貴様の要望は聞いてやらん。わざわざ二度言うなと言った事を言ったんだからな、許さんぞ」
うう……確かに前にも言われたが……でも、俺がブライアンのトレーナーを続けるというのは、彼女の才能を潰す事にもなる……。あ、痛い痛い痛い。
「ん、これも固いな……ガッ……ガリッ……よし、取れた」
耳の中でガリガリと耳かきで引っ掻かれ、けっこうに固いであろう耳垢がティッシュの上に捨てられる。あー……確かにこれは固いよなぁ。
「それで、貴様はあの男とどういう関係なんだ? 前にメールを送ってきたのもあいつだろ」
「なんでメールを知って……ああ、いやまぁ……そうだな……あいつはいつも俺の上に居たやつだよ。トレーナーになるための勉強も、トレーナーとしての実績も……全部アイツが上だ」
改めて声に出すと、本当にあいつは性格こそ最悪だが実力は本物で、俺が何一つ勝てないという事実を実感してしまう。あいつなら……ブライアンを無敗三冠にできただろう……。俺じゃなくて、あいつなら……。
「はぁ……バカらしいな。つまり、劣等感の象徴であるあの男にあれこれ言われて自信を無くしているだけか」
「いや、だが、実際にお前の才能を生かせれて無いのは事実で……」
「やかましい」
俺の心情などどうでもいいのか、ブライアンが梵天を耳の中に突っ込んできて、手荒に回してくる。痛い痛い痛い! 梵天で痛いって中々ないぞ! ちょ、突然体を持ち上げて反対向きにするな!
「これで無駄口を喋れないだろう。こっち側の耳の中を掃除していくぞ」
ムググ……! ブ、ブライアンの腹に顔が埋もれて息がし辛い……! 強引に息をしようとしたら彼女の匂いが……、ま、マズイ、絶対にマズイぞこれ……!
ガリガリガリ……ガリガリ……
ベリベリ……ベリッ……ガリガリ……
この体勢で耳の中を掃除される。ブライアンが体を前に倒してきて耳の中を覗き込んでいるせいか、体が余計に密着して……あ、頭がどこもブライアンで埋め尽くされて……!
「もご、もごごごごご!」
ヤバイヤバイヤバイ! 呼吸が苦しいだけじゃなくて、俺の理性的な物がヤバイ! 頭が、頭がおかしくなる! ヤッてはいけない事をやってしまう!
「カリカリ……じゃないな。お前の耳垢はどれもガリガリだ、まったく」
ガリガリガリ……ガリガリガリ……
ガリガリガリ……ベリッ
そんなブライアンの囁きとか、耳かきの音とかが聞こえてくるがそれどころではない。俺は必死に暴れて、ブライアンにタップしまくる。それでも梵天もされ、耳の中に息を吹きかけられ……そして、ようやく解放された。
「ブハッ! ブ、ブライアン! 流石にこれは怒るぞ!」
俺がブライアンを見上げながら怒っていると、彼女の眉間から皺が取れ、どこか機嫌が良くなっている。穏やかな表情になっていた。
「ああ、そうだ。お前は怒れるんだ。怒れるんだから、さっきの男にも怒って見せろ」
「トレーナー。私はお前がトレーナーになって良かったと思っている。だからあんな奴の言う事に一々気を取られるな。私はお前以外をトレーナーにするつもりはないからな」
そこまで言ってきた所でブライアンが再び俺を腹に押し付けてくる。再び息苦しさに襲われて逃げようとするが、さっきまで碌に呼吸もできてなかった上に暴れていたせいで余計に酸欠になり……あ、意識が……。
ブライアンに包まれ、彼女の匂いと柔らかさを感じつつ、俺の意識は暗闇に落ちていく。これ……起きた後にちゃんと距離感について……教えないと……。