個人的にマルゼン姐さんはクリークの母性とは別の、年上としての包容力を持っていて欲しいと思う。思いません?
この形式に関して等、感想を頂ければ幸いです。
「疲れた……な」
生徒会室の中、椅子に座り一人仕事をしているシンボリルドルフの口からそんな言葉が漏れた。
「はぁ……」
ため息をつく彼女の目の前に置かれているのは生徒会の仕事の書類。それに加えて彼女自身のトレーニングメニューや体の調整メニュー等だ。
皇帝と呼ばれ、最強とまで噂される彼女。そんな彼女にはそれ相応の振る舞いが求められ、彼女はそれをこなしてきた。だが、それは同時に彼女に多大なる疲労を与えていた。
並みのウマ娘ならば疾うに潰れていてもおかしくないストレス。彼女はそれらを全て受け止めていた。だが、受け止め続けるには限界がある。それは皇帝であっても同じだ。
「……疲れた……」
椅子に体を預け、天井を見上げる彼女の口からもう一度、言葉が漏れた。一度口から出てしまった気持ちは、彼女の疲労を自覚させるのに十分で、そんな彼女はそのまま天井を見続けて……。
「ハーイ、ルドルフ、居るかしら?」
ふと、そんなシンボリルドルフの元に訪れたのはマルゼンスキーであった。肩からは鞄をかけてるという事は授業終わりなのだろう。それにしては鞄が大きく膨らんでいる事がシンボリルドルフには気になったが、彼女はそれを置いてマルゼンスキーに声をかけた。
「マルゼンスキー、どうかしたのか?」
「んー、ちょっと最近のルドルフ疲れてるかなぁと思って。お姉さん、疲れを取ってあげようって思ったのよ」
突然のマルゼンスキーの言葉にシンボリルドルフは首を傾げる。
「ふむ……心遣いはありがたいが、私も自分の体調管理ぐらいはしてるつもりだ。そんなに疲れてなどいないさ」
マルゼンスキーの言葉をありがたいと思いつつ、反射的に出てきたのは皇帝としての言葉であった。
「ふーん? 本当かしら?」
不意にシンボリルドルフに近づいたマルゼンスキーはシンボリルドルフの額に自分の額をくっつける。突然の彼女の行動に、シンボリルドルフは思わず椅子の上で仰け反ってしまった。
「な、何をする!?」
「ほら、絶好調の貴女ならもっと早く行動できたはずよ。さ、こっちに来なさいな」
狼狽するシンボリルドルフを立たせると、マルゼンスキーはソファーまで彼女を引っ張り、そのままソファーに寝かせると、生徒会室の扉にしっかりと鍵をかけ、それからシンボリルドルフの隣に座り込んだ。
「マルゼンスキー……私にはまだ仕事があるんだ、これ以上付き合っては……」
「あら、普段の貴女ならこうなるまでに抵抗できたでしょ? おとなしくされるがままになってる時点で体調不良は確定的に明らかなんだから、おとなしくお姉さんの言う通りにしなさいね」
そう言われ、シンボリルドルフは内心で認めざるを得なかった。彼女の体調が万全なら、確かにここに来るまでに抵抗してたはずなのだから。
「わかった……おとなしくしよ……む?」
不意にマルゼンスキーがシンボリルドルフの背中に手を回したと思うと、そのまま彼女の上半身を持ち上げ、自分の膝の上に頭を乗せた。
「素直になったご褒美にお姉さんの膝枕よ。それと、サービスで耳かきもしてあげちゃうんだから」
「む……いや、流石にそれは悪いが……」
「良いの良いの。今日のルドルフはお休みモードよ。お姉さんに任せなさい」
シンボリルドルフの言葉を意に介さず、マルゼンスキーは鞄の中から物を取り出す。それはプラスチック製の桶に大型の魔法瓶、タオルであった。
「じゃ、しっかりマッサージしてあげるから。体の力を抜いて頂戴ね」
そう言うと、マルゼンスキーは机の上に桶を置き、中に魔法瓶から出したお湯を注いでいく。そして、タオルをお湯にタップリと浸けると、固く絞り、そしてシンボリルドルフの耳に被せた。
「熱さ、これぐらいで大丈夫かしら?」
「ああ……ちょうどいい」
被せられたタオルから伝わる熱が心地よくシンボリルドルフの耳を覆っていく。
「ふふ、気持ちよさそうね。それじゃ、擦っていくわよ」
そう言うと、マルゼンスキーは被せていたタオルをもう一度お湯に浸け、固く絞ると、シンボリルドルフの耳を擦っていく。ゆっくりと、痛くない程度の力加減で擦られるたび、シンボリルドルフの口から小さく息が漏れ出る。
「お客さん、痒いところはないですかー?」
「ああ……大丈夫……」
ギュッギュッ。と、耳が軽く揉まれ、タオルからの熱だけでなく、耳そのものにも熱が篭っていく。更に、固まっていた耳の筋肉が揉み解される事により、滞り気味だった血液が循環されていく。
「もう、耳がこんなに凝っちゃって。だめよー、こんな若いのに耳バッキバキに固くしちゃったら」
「それは……いや……そんな大袈裟な事ではないだろう」
「何言ってるの。若い内から体のケアは大切でしょ。こんなに耳が凝ってるって事は、首とかも凝ってるんじゃないの? 耳のマッサージが終わったら、そっちも確認するわね」
そう言いつつ、マルゼンスキーは耳のマッサージを続ける。ギュッギュッと凝っている部分を念入りに指圧され、血が巡るたび、シンボリルドルフの頭が僅かに揺らぎ、口からは小さな喘ぎ声が漏れ出す。
「ん……ふ……ぁ……」
「あらあら、可愛い声。皇帝も、こうなったら形無しね」
「ああ……マルゼンスキーのマッサージが気持ちいいからな……力が抜けてしまう……」
自分で揉むことがぐらいはある。だが、他人からこうしてマッサージを受ける事の格別さ。長い事忘れていたこの気持ち良さに、シンボリルドルフの皇帝として仮面が剥がれ落ちていく。
「ねぇ……ルドルフ? ルナって、呼んでもいいかしら?」
「んな!? な、なぜその名前を!?」
気持ちよくマッサージを受けていたシンボリルドルフだが、マルゼンスキーの言葉に目を見開く。
「この間、シリウスが教えてくれたわよ」
「あいつ……!」
シリウスシンボリに対して怒りを覚えるシンボリルドルフ。だが、そんな彼女の頭を撫でながら、マルゼンスキーは言葉を続けた。
「それで、良いかしら?」
「いや……それは流石に……」
「遠慮しないの。こんなにふにゃふにゃになってるんだから。今だけよ、今だけ」
だから、今だけはルナになりなさいな。皇帝じゃなくて、ルナに。
不意にシンボリルドルフの耳元で囁かれた言葉。それは、皇帝という仮面が剥がれつつある彼女の心にどこまでも沁みていく。
「それ……は……」
「良いじゃないの。ここには私達しかいない。エアグルーヴも、テイオーちゃんも、理事長たちも、貴女のファンの子達も、誰も居ない、私達だけ。私しか見てないんだから」
耳元で囁きながら、マルゼンスキーはマッサージを続ける。彼女の指がシンボリルドルフの耳を揉み解すのに合わせるように、シンボリルドルフの心までも揉み解されていく。
「マルゼ……ン……!」
「お姉ちゃん、よ、ルナ。お姉ちゃんって呼んで頂戴ね、ルナ」
「お姉ちゃ……ん……」
「ふふ、良い子良い子」
ついに堕ちたシンボリルドルフ……ルナ。それを確認したマルゼンスキーは優しく、ルナの頭を撫でた。
「それじゃぁ、マッサージも程よく終わったし、次は耳かきをしていこうかしら」
そう言うと、マルゼンスキーはタオルを横に置き、耳かきを鞄から取り出した。そして、ルナの耳に顔を近づけ、穴の中を覗き込む。
「うん、良く見えるわね。それじゃぁ、耳かき始めるわよ」
カリカリカリ……カキカキ……
コリコリ……ガリガリ……
先程までお湯で温めたタオルで拭いていたおかげで、ルナの耳は程よく汗をかいている。それによって浮き出た汚れをマルゼンスキーは一つ一つ、耳かきで取り除いていった。
耳かきが動くたび、ルナの口からは小さな喘ぎと、妖しい吐息が漏れ出る。今の彼女を誰かに見られれば、彼女のイメージは一気に変わってしまうだろう。だが、この場には二人しかいない。居ないのだ。
「お姉ちゃん……気持ちいい……」
「ふふ、嬉しいわルナ。それじゃぁ、お姉ちゃんも張り切っちゃおうかしら。この辺、気持ちいい?」
「ふぁ……ぁ……ん……」
コリコリ……カリカリ……
ゾリゾリ……ペリペリ……
既に耳垢はほとんど取れていた。元々ルナは身だしなみを整えるほうであり、それは当然耳にも及んでいる。その上、発汗によって浮き出た汚れは非常に取れやすく、労せずマルゼンスキーは耳かきを終えていたのだ。
故に、ここからは耳かきを使って、ルナを気持ちよくさせている。
「ほら、ルナはこの辺が弱いみたいねぇ」
「んんっ……もっとつよ……く……」
「んー、あまりやりすぎるのも良くないわよ。ほら、この辺をコシコシって擦ってあげるわ」
「ひぁ……ひゃ……ん」
耳かきが動くたびに、顔を赤くして悶えるルナ。5分ほどだろうか、マルゼンスキーが耳かきを動かすのを辞めた時にはルナは呼吸を荒げ、力が完全に抜けていた。
「あらあら、すっかり蕩けちゃったわね。お茶、飲む?」
「ん……飲む……」
マルゼンスキーが新しく取り出した水筒のコップにお茶が注がれ、ルナの口元に運ばれる。そして、ルナはゆっくりとお茶を飲み干した。
「ふふ、可愛いわね、ルナ。でも、眠いのかしら? もう目元がトロンとしてるわね。お休みしちゃう?」
「うん……お姉ちゃん……手……握って……」
「ええ、良いわよ。ルナが起きるまで、お姉ちゃんずっと居てあげるからね」
そう言って、手を握るマルゼンスキー。その温もりに安堵したのか、ルナは徐々に自分の意識を手放していき……そして、完全に眠りに落ちた。
「ふふ、可愛いわね、ルナ……もう、肌もよく見たら荒れてるわね。今度お休み取らせて、ケアさせないと」
眠りに落ちたのを確認したマルゼンスキーは、ルナの頭を撫でつつ、もう片方の手でルナの顔を撫で、肌の具合を確認していく。その時、唇をなぞっていたマルゼンスキーの指に、不意にルナが吸い付いた。
「……あらあら、赤ちゃんみたい」
吸い付いた指を口に含み、舌を絡めるルナ。それを眺めるマルゼンスキーは、ルナの頭を撫でつつ、微笑みを浮かべながら彼女の好きにさせるのだった。
後日、チームリギルのトレーニングルームにて、シンボリルドルフ、マルゼンスキー、エアグルーヴの三人が、今後の事について話し合っていた。
「それで、今度のレースですが……私としてはスタミナを重点的に鍛えて挑むのが良いと思いますが……会長はどう思いますか?」
「そうだな、次のレースは長距離だし、他に出場するであろうウマ娘達も相応のスタミナがあるはずだ。私もそうすべきだと思うが……お姉ちゃんはどう……あ……」
シンボリルドルフがマルゼンスキーに視線を向けてはなった言葉。その中に含まれた普段のシンボリルドルフなら絶対に言わないであろう言葉にエアグルーブは目を見開く。
「あらぁ、ルドルフったら、私の事そんな風に見てたの? お姉ちゃん、嬉しいわぁ」
「た、単なる言い間違いだ!」
当のマルゼンスキーはシンボリルドルフの言葉に笑顔を浮かべ、シンボリルドルフに抱き着き、シンボリルドルフは顔を赤くして慌てる。そんな二人を見てエアグルーブはため息をついた。
「……会長、お疲れのようですね。最近は仕事も立て込んでいましたし……今日はもう休みましょう。私も……そうします」
そう言うと、エアグルーヴはため息をつきながら部屋を出ていった。それを止めようとしたシンボリルドルフだが、マルゼンスキーが抱き着いているために動くことができなかった。
「あららぁ、エアグルーヴったら、本当に行っちゃった」
「誰のせいだと……いい加減離れろ」
「もう、怒らないのルドルフ……あ、でもね」
いつでもルナになっていいのよ。お姉ちゃんが、癒してあげるからね
不意にシンボリルドルフの耳元で囁かれた優しい声。その声にシンボリルドルフの顔に一気に血が上る。
「それじゃ、エアグルーヴ呼び戻してくるわ」
そう言って部屋を出ていくマルゼンスキー。シンボリルドルフはしばし呆然とし、そして、体から力が抜け、その場にへたり込んだ。
「く……ずるいぞ……マルゼンスキー……」
耳まで真っ赤に染めながら、シンボリルドルフは扉を睨み続けるのだった。