非常に優秀だけど、骨折しやすいテイオーのトレーナーって、冷静に考えたらすっごい胃に負担掛かりそうですね。それか、俺が守護らねば。ぐらいの熱意が湧き出るんでしょうか?
俺はトウカイテイオーのトレーナーだ。ぶっちゃけそれ以外には目立って言えることがないのが何もないんでこういうしかないんだが。
テイオーは非常に優秀なウマ娘だが、彼女の独特の走り方を可能にさせる非常に柔らかい足。だがそれのせいで彼女は菊花賞を始めとしてレースを原因に骨折してしまった。そして、更にマックイーンとの戦いである春の天皇賞でも骨折……それによって心が折れそうになった彼女を支え、復帰させてくれたのはメジロマックイーンを始めとするテイオーの友人たちだ。良き友や仲間に恵まれた彼女のトレーナーを努められている今が俺にとってとても充実している時間と言えるだろう。
そんなわけで、俺は今トレーナー室でテイオーの次のレースをどうするかを真剣に考えている。秋の天皇賞……ジャパンカップ……宝塚記念……中距離から長距離に適性のあるテイオーをもっとも生かせるレースはどこになるか……。
そんな風にパソコンと睨めっ子してると、不意にスマホが鳴った。
「もしもし?」
「おー、元気にしてっか? 今日飲みに行かないか?」
電話の相手はネイチャのトレーナーだった。
「いや悪い。今日は色々とやりたい事があってな。今度また誘ってくれ」
「マジか。仕方ないな、また電話するよ」
そう言って電話が切れた。ふぅ、今日中にテイオーの次のレースの事を決めておきたいからな。ネイチャにはテイオーも世話になっているし、トレーナー同士での繋がりは大事にしたいし、次の誘いには参加しよう。
「トレーナー、元気ー?」
そんな事を考えていると、テイオーが部屋に入ってきた。なんだろうな、今日は自主練と伝えたはずだが。
「ん? テイオーか。ちょうどひと段落したとこだけど、何かあったか?」
俺が尋ねると、テイオーが俺の元に来て、なんか良い笑顔で俺を見てきた。
「ねぇねぇ、トレーナー。耳かきしたいよね? したいよね?」
「え……うーん……まぁ……したい、かな?」
笑顔で圧をかけてくるテイオーに思わず頷いてしまう。
「しょうがないなぁトレーナー。それじゃぁ僕が耳かきしてあげるから。ほら、早くこっちこっち」
ベッドで俺を呼ぶテイオーの姿に、俺の脳裏に以前の耳かきでかなり痛い思いをした事を思い出してしまうが……なんか断っても逃げられそうな気がしないので、覚悟を決めて大人しくテイオーの膝の上に頭を置いた。
「……しまったぁ、トレーナーの耳の中って見辛いんだった」
そうしてテイオーが俺の耳に頭を近づけてきて……そんな事を言われた。そう言えば前もそんなの言ってたな。
「前もそんなの言ってたけど、そんなに見辛いのか?」
「んー、頭を傾けないといけないんだよねぇ。それに光も入りづらいから……えーと、スマホスマホ」
そしてスマホのライトで俺の耳の中を照らしているようで、再びテイオーの顔が耳に近づいてきた。
「カリカリカリ♪ カリカリカリ♪」
テイオーがオノマトペを囁きながら耳の中を掃除していく。曲がっているって言われる耳の中を器用に耳かきが入っていって……お、痒い……!
「もうちょっとで剥がせそうだよトレーナー。ほら、大人しくしててねー」
痒みで体を捩りそうになるのを堪えて……あ、剥がれそう。剥がれそうな感覚が……。
「はい、綺麗に取れたよトレーナー。ニシシ、テイオー様は耳かきも上手なんだよ」
ペリッって音が聞こえたと思うと、痒みが収まって、テイオーが耳垢を捨てるのが見えた。これは……前回より上手になったな。
「お……おお、割と痛くなく取れたな。前回より成長したな、テイオー」
「もー、前の事は言わないでよー。僕だってちゃんと成長してるんだよー」
確かに、テイオーは成長率が高いよなぁ。なんていうか天才肌で努力家で仲間にも恵まれて……それでも勝てない辺り、メジロ家ってヤバいよな。
「ほら、トレーナー。まだ耳垢が残ってるんだから、もうちょっと大人しくしててよね」
「あ、ああ。ごめんごめん」
謝る俺の頭が抑えられ、再び耳かきが始められる。
カリカリカリ……カリカリカリ……
カリカリカリ……カリカリカリ……
テイオーが囁くオノマトペとは別に耳かきの音が耳の中で聞こえてくる。あー……心地良いなぁ。
「ベリッ♪ ベリッ♪ ……うん、これで大体汚れは取れたかなー。トレーナー、耳の中で痒い所とかない? 大丈夫?」
「ん、大丈夫大丈夫」
「えへへー、やっぱり僕は天才だね。さーて、それじゃぁ反対の耳を……うわわ」
体を回し、テイオーの腹の方を向く。前はこれでかなり恥ずかしがったけど、無敵のテイオーさんはここは成長したのかな?
「トレーナー。そうやったら僕がまた恥ずかしがるって思ったでしょ。残念でしたー。ほら、逆にこうしちゃうからねー」
てっきり恥ずかしがると思っていたテイオーだが、妙に明るい口調でそんな言葉が聞こえたと思ったら、頭が抑えられ、そのままテイオーの腹に思い切り顔を押し付けられた。
「ムググ……! ムグー!」
服越しに伝わってくるお腹の柔らかさに、何気に身だしなみを気遣うテイオーの体から良い匂いが鼻孔に侵入してきて……ヤバイヤバイヤバイ! 逃げようにもガッチリ抑えられて逃げれないし、呼吸が……色んな意味で呼吸ができない……!
「ほらほら、無敵のテイオー様のお腹に顔を埋めて気持ち良いでしょ。でも、今回は耳かきが目的だから、もう離してあげるね」
必死に手を叩いて出してくれと訴えていると、案外あっさりと放してくれた。すぐに頭を下げて全力で息をする。
「ぜー……はー……テ、テイオー……前は悪かったから、もうこれは止めてくれ」
「うーん、そこまで強く押し付けたつもりはなかったけど、ごめんねトレーナー」
素直に謝ってきたから……まぁ、良いとするか。こういう風に素直に謝ってきたなら次はないだろ。
「それじゃぁ改めて。耳かきやっていくよー」
「ん、頼んだ」
なんだかんだとあったが、反対側の耳かきが始められる。あー……最初に比べて安心して身を任せられるようになったのは、やっぱテイオーとの関係が深まったからなのかな……。
カリカリカリ……ガリガリガリ……
ゴリゴリ……ベリッ……ベリベリ……
「トレーナーの汚れは……これかな? それともここかな?」
「う……そこ……そこが痒い……」
「ここだねー。ペリペリペリ……お、取れたー♪」
身を任せている間に耳垢が綺麗に剥がされて捨てられていく。そのまま特に問題もないのか、カリカリ、ペリペリという音を聞きながら力を抜いていると、程なく掃除が終わったようだ。
「はい、トレーナー。耳の掃除終わったよー。どうだった? 気持ち良かった?」
「ああ、良かった……前みたいに痛かったらどうしようって思ってたよ」
「もー、それは言わないでよー。サイキョーの僕が同じ失敗なんてするわけないでしょー」
「ああ、そうだな」
ふぅ、まさかこんな形でもテイオーの成長を実感するとはな。これからもテイオーの成長が楽しみだ。
「トレーナー、これからも言ってくれたら耳かきしてあげるからね。楽しみにしててよ」
「ああ、その時には頼むよ」
数日後、俺はいつも通り仕事を続けている。テイオーに耳かきしてもらったせいか、最近は調子が良くて仕事が捗ってありがたい。
「ふぅ、テイオーの次のレースの目途も立ったし、練習メニューも大体確立させれたし……ん?」
鳴りだしたスマホに出ると、それはネイチャのトレーナーだった。
「おーい、今日飲みに行かないか? たまには互いの担当ウマ娘に関してでも話し合おうぜ」
「ああ、今日はいいぞ。仕事が終わったらまた連絡するな」
前は断った手前、二つ返事で了承し、俺は再び仕事に戻る。しかし、あいつもネイチャに首ったけだからなぁ。会ったらどんな惚気を聞かされるのか。
まぁ、今回は俺も耳かきをしてもらったって惚気話もあるし、あいつに一方的に惚気を聞かされる心配はないな、ヨシ!