男トレーナーからしたらフジってけっこうに目の毒ですし、所謂男役としての魅力に迫られ続けたら、性癖がヤバい事になっちゃいそうですよね。
そんな彼女から、自分が貴方のせいで女の子にされちゃうって言われたら、多分ノックアウトしそうな気がする今日この頃です。
と言う妄想内容で前回書いたところ、お気に入りが六件も減ってガチ凹みました。
俺はしがない一般の中央トレーナー。一つ非凡な所を上げるとすれば、あのフジキセキの担当トレーナーであるということだろう。
彼女は素晴らしい逸材である。寮の寮長でもマジシャンでもなく、レースの勝利者として、多くの人々の心に残るであろう彼女のために俺は彼女が引退するその日までできる限りの事をしようと心に決めている。
その為にも、これから数日は自室に籠って様々な作業を行うつもりだ。誰も居ない状態、外界とは最低限の接触以外を絶って、彼女の今後のレースのために必要なものを調べ上げなければならない。彼女自身はマイル系の脚質だが、その心は長距離……菊花賞や有馬記念に向けられている。それを成し遂げるためにも、凡才に過ぎない俺はできることを全力で取り組まなければならない。
と言うわけで、フジに渡すための一週間分の練習メニューは作成しているし、彼女も寮長としての仕事とかもあるだろうから、俺に関わる必要がなくなれば少しは負担も軽くなるだろう。前回は色々言われて開始前に止められてしまったが、今回は大丈夫だろう。
……と思っていた時期が俺にもありました。
「……トレーナーさん? これはなんだろうね?」
「……カップラーメンです」
「それじゃぁ、これは?」
「……カロリーメイトです」
準備を進めていると、突然フジが訪ねてきた。断るわけにもいかずに部屋に入れて、買い置きしておいた保存食を見つけた途端、彼女は無言で俺を正座させたまま、部屋の中を物色、保存食を全部並べられて……あ、ヤバイ、笑顔の圧が凄い。圧だけで押しつぶされそう。
「ち、違うんだフジ! これは別にすぐに消費するものじゃないし……あ、そうだ、そう、非常時用の備蓄で……!」
「それじゃぁ、この一週間分の練習メニューは何なのかな? 別に、トレーナーさんって出張の予定とか何もなかったよね?」
「……ごめんなさい、トレーナー室に籠って集中するための備蓄です。安かったのでまとめ買いしました」
渡す予定だった練習メニューまで突きつけられては何も反論できず、俺は認めることしかできなかった。おかしい、前回もそうだが、どうしてここまで怒られるんだ?
「トレーナーさん。前にも言ったけど、私は寮長だから、不健康過ごす子を見逃すわけにはいかないの。それが自分のトレーナーであってもね」
「いや、逆に考えるんだフジ。俺が籠っている間は、俺の事を気にしなくていいと」
「何をどうしたら逆の考えになるのかな? 前に言ったのに同じことをしたわけだし……それじゃぁ……トレーナーさんには罰を与えないといけないかなぁ。取り敢えずは、トレーナーさんが私の言うことをしっかりと聞き取れるように、耳のお掃除からしようか」
俺の反論をばっさり切り捨てて、フジは非情な言葉を突き付けた。それを聞いた途端、俺の体は反射的に立ち上がり、入口に向けて全力ダッシュするのだが……。
「トレーナーさん? どこに行こうというのかな?」
後ろからがっしりと抱き留められ、体が強制的の止められる。ヤバイ、この体勢だけでヤバイ! 当たったらいけないものが押し付けられているし、フジの声が耳元で聞こえて……理性が! 理性がー!
「い、いやだー。このままじゃポニーちゃんにされちゃう! ポニーさんにされちゃう!」
必死に逃げようと懸命に腕を伸ばすが、伸ばした腕に沿う形でフジの腕が伸びてきて、そのまま指を絡めながら手をがっしりと握ってきた。そのまま抵抗空しく、俺の体はベッドに向けて簡単に放り投げられた。
「わぷっ!」
「もー、トレーナーさん。逃げようとする子を捕まえるのも寮長の仕事には含まれているんだよ。それに、なんで逃げるのかな? 私、傷ついちゃうなぁ。怖い事なんてしないよ」
「い、いや。別にフジが怖いとかじゃなくて……フジに耳かきされたりすると、ポニーちゃんにされちゃいそうで……」
そう、これが正直言って怖い。俺にも大人の男性としての矜持というものがあるし、トレーナーが担当ウマ娘にメロメロになったりしたらいけないだろう。何としてもその一線は守らないといけないのだ。
「もー、トレーナーさん、そんな事を言うなら、最初から部屋に籠るような真似をしなければいいだけでしょ。はい、それじゃぁトレーナーさんが私の言うことをちゃんと聞いてくれるように……耳かき、していこうか」
俺に困ったような笑みを向けつつ、フジは俺の頭を自分の膝の上に置いて耳の中を見てくる。感じる視線に、吹きかけられる吐息、伝わってくる体温に、俺の鼓動は跳ね上がる。
「トレーナーさん、前に掃除した時も思ったけど、もうちょっと耳の手入れはしたほうがいいんじゃないかなぁ?」
「いや、人間の耳はウマ娘のと違って別に殊更手入れする必要はないからな。そもそもの前提が違うんだよ」
「でも、私が前に言ったことは聞いてくれなかったよね」
「うぐむ……」
構造的な物から耳かきは必要ないと訴えるも、フジは聞く耳を持たず、それどころか前回の事を持ち出してくる。おかしい、聞き分けの良いフジは一体どこに行ってしまったんだ。
「えーと……うーん、こうしてみると耳の毛もちょっと濃いかな? 今度から耳の毛を剃っていくのもいいかもしれないね」
「そ、それはちょっと……怖いな」
流石に耳の毛をいきなり剃ると言うのは怖く感じる。自分で一回もやった事ないし、フジは言ってもプロというわけでもなんでもないし。
「あはは、そんな震えながら言われちゃうと、さすがにやらないよ」
カリカリカリ……カリカリカリ……
カリカリカリ……カリカリカリ……
そんな笑い声を聞きながら、耳の中で耳かきが耳垢をこそぎ落としていく。耳かきの音が気持ちよく、耳垢を掻かれて剝がされていくのが痛気持ちよくて、思わず体が震える。うう、自分でやるの全然違う。
「カリカリカリ……サリサリサリ……どうかな? トレーナーさん。私の声、気持ち良い?」
「あっあっあっ……ヤバい……この声を聞き続けてたらヤバイ……」
耳元で囁かれ、背筋にゾクゾクとしたものが走り抜ける。頭が、頭がおかしくなりそうだ。
「駄目だよ、トレーナーさん。体を動かしちゃったら危ないから。動かないでね」
そうやって囁かれ続け、だが、体を動かせば余計に囁かれると感じて、なんとか体に力を入れて動かないようにする。
「ほら、この固いのとかを……うん、無事に取れたよ。んー……これぐらいでいいかな?」
ベリッと音を立てて剥がされた耳垢が最後なのか、耳かきが抜かれ、フジの顔がさらに近づいてきたのを気配で感じる。
「最後は梵天で細かい汚れをクルクル~と」
ゴシゴシ……ゴゾゴゾ……
クルクル……スススー……
「はい、粉状の汚れも全部とれたよ、トレーナーさん」
「はぁ~……スッキリした」
梵天がゴゾゴゾと細かい汚れを取ってくれて……ふー、緊張を強いられてきたけど……それでも耳掃除が終わった後の解放感は格別である。あー……癒される……。
「ふ~……ふ~……」
「おっふ!?」
意識が解放されている時に吹きかけられた吐息の刺激は強烈で、思わず膝枕から頭がずり落ちそうになるが、フジの手がそれを支えてくれた。
「トレーナーさん、驚きすぎ。前もやってあげたでしょ?」
「いや、そうなんだが……気を抜いてる時に来るとびっくりしてな……」
フジに苦笑されてしまうが、仕方ないだろう。気を抜いてるときに耳掃除をして敏感になってる耳の中に愛バの吐息だぞ。
「駄目だよトレーナーさん。まだ反対もやらないといけないからね。はい、反対を向いてもらうから、動かないでね」
そう言うと、フジは俺を軽々と引っ繰り返して、俺の目の前にフジの腹部で埋め尽くされる。ヤバイってこれ。ガチでヤバイって。
「なぁ、フジ……やっぱり担当ウマ娘の腹を見ながら耳かきってのは、風紀的な意味で宜しくないと思うんだが……」
「今更だよ、トレーナーさん。そもそも、トレーナーさんが私の言うことを聞かずに不健康な生活をしようとするからいけないんだから」
ムムム……そう言われると辛いところはあるが……いやまて、本当に辛いか? そもそも、年頃の女の子がこういう距離感で居ることがそもそもおかしいんじゃないか? いくら寮長だからって、そういうものなのか? 研修のときとか、ウマ娘は距離感が近くなるとか、そんな説明聞いた覚えもないんだが……。
カリカリカリ……サリサリサリ……
ザリザリ……ザリザリ……
俺が訝しんでいる間にも掃除は始められていく。あー……気持ち良いけど……素直に味わうのはダメだよなぁ……。
「耳の粉だけじゃなくて、埃も付着してるみたいだね。部屋の掃除も後でちゃんとやろうか」
「いや、前もそうだが、そこまでやってもらうのは……」
「そう言うのなら、普段からやってくれてると嬉しいんだけどね。生徒でも居るんだよ? 口では言うけどやらない子は」
うぐ……痛い、その言葉はめちゃくちゃ痛い。心に思いきり突き刺さった。普段から心当たりのある行動が思いつくから、これはガチでクルものがある……!
カリカリカリ……カリカリカリ……
ゴリゴリ……ゴリゴリ……ベリベリ……ズリズリ……
「トレーナーさん、図星を突いちゃったからって、あんまりだんまりされると困っちゃうよ」
「年下の女の子に言われたら普通に傷つく……次からはマジで注意します……」
これまでの気持ちよさがどこかに吹っ飛ぶほど心に来たなぁ……はぁ……。
ふ~……ふ~……
ふ~……ふ~……
「はい、これで耳掃除は終わりだよ。えーと……このままお昼寝して欲しいんだけど……」
「いや、ちょっと部屋の掃除とかするから……フジ? フジ? ちょ、止め……!」
動こうとした俺の頭が抑えられ、そのままフジの腹に顔が埋められる。ヤバイ! 腹の感触とか体温とか匂いとか……頭が、頭がおかしくなる! 開けたらいけない扉が開いてしまう!
「ちょ、フジ、離してくれって……ヤバイって……! このままじゃポニーちゃんになっちゃうって!」
「うーん……トレーナーさん、前からそういうこと言ってるけど……逆なんだよ?」
必死に藻掻く俺の耳に、フジが囁いてきた。思わぬ静かな囁きに、つい俺の動きも止まり、その囁きに集中してしまう。
「トレーナーさんが相手だと、私がポニーちゃんになっちゃうの。今も、私がトレーナーさんと一緒に居たいから、離したくないんだ」
は? フジがポニーちゃんに? あまりにも想像の付かない言葉に、俺がなんとか頭をずらして、彼女の腹からずれる事のできた片目でフジを見つめる。その途端、再び頭が抑えられ、俺の視界がフジの腹で埋め尽くされた。
「だから……私に心配をかけた罰だと割り切って、このままで居てほしいかな。ね、たまには良いでしょ?」
「う……わかった……わかったから……耳元で囁くのは止めてくれぇ……」
これ以上逃げようともがいても無駄そうで、むしろこうやって囁かれ続けるほうが理性に悪いと判断した俺は、降参するしかなかった。
「ふふ、嬉しいな、トレーナーさん」
最後にそんな囁きを耳にしながら、俺は心の中で必死に念仏を唱える。理性理性理性理性……!