この二人、先輩後輩としてとても良い関係ですし、二人で切磋琢磨しながら高めあっていってもらいたいですね。
トレセン学園の保健室。そこではレースと言う過酷な競技、思春期の女性が大勢在籍しているという面から、多くのウマ娘達によって利用される施設の一つである。
当然その保健室は学園内に複数存在し、人気のある場所もあれば、人気のない場所も存在する。そんな人気のない保健室の一室に、今二人のウマ娘が居た。
「ふむ……ここは誰も居ないが……仕方ないな。ほらドーベル」
「あ、は、はい」
二人の内一人はエアグルーヴ、トレセン学園の副生徒会長にしてオークス、秋の天皇賞にして勝利した優俊である。そしてもう一人はメジロドーベル。ダブルティアラ、エリザベス女王杯二連覇を達成した、名門メジロの名に恥じない優俊である。
多くのウマ娘の中でも突出した成績を持つ二人であるが、そんな二人が保健室に居る理由はドーベルであった。エアグルーヴと並走トレーニングをしていたドーベルだが、走り切った後にバランスを崩して転倒、幸い大きな怪我はないが、念のためエアグルーヴと共に保健室へと向かう事になったのだが、近場にある保健室は偶然にもどこも満杯であり、仕方なく少し遠くの人気のない保健室へと来たのである。
「さ、ここに座れ。すぐに消毒するからな」
「あ、ありがとう……ございます」
エアグルーヴに促され、椅子に座るドーベル。そして、消毒液と絆創膏を持ったエアグルーヴが傷の手当てを行う。
「染みるぞ、少し我慢してくれ」
「ッ……大丈夫……です」
消毒液を掛けられたドーベルが僅かに顔をしかめるが、エアグルーヴはそのまま治療を続ける。そして無事に絆創膏を張り終えると、次はドーベルの顔を見つめる。
「ふむ、顔の汚れは……もうないな……ん? 耳が結構汚れているな」
そう言ってエアグルーヴがドーベルの耳を観察する。転んだ拍子に付いた土はその場である程度は払い落としていたが、それでも耳には幾分かの土汚れが付いたままになっている。
「す、すぐに払います!」
「落ち着け、どうも細かい所も汚れが付いているようだし……ふむ、折角だ。今日はもうトレーニングの時間も終わりだし、耳掃除をしておこうか」
「へあ!?」
エアグルーヴの言葉にドーベルの口から素っ頓狂な声が上がる。だが、それを意に返さずにエアグルーヴはタオルを濡らし、棚から耳かきと綿棒を取り出すと、ベッドの一つに腰掛ける。
「ほら、早く来いドーベル」
「え、あ、わ、わかりました」
促され、急いでエアグルーヴの隣に座り、そのまま彼女の膝に頭を乗せるドーベル。そして、エアグルーヴはタオルを手にしてドーベルの耳に顔を近づける。
「ふむ、やはり土汚れが細かい所に入っているな」
ゴシゴシゴシ……ゴシゴシゴシ……
ゴシゴシゴシ……ゴシゴシゴシ……
土汚れを取ると同時に、全体を拭いていくエアグルーヴ。繊細な耳を優しく擦られていき、ドーベルの顔に自然と赤みが差す。
「せ……先輩……」
「ほら、動くんじゃないぞ。手元が狂うからな」
鼓動が早くなり、顔を赤くするドーベル。だが、エアグルーヴはその様子に何か言う事はなく、耳の掃除を続けていく。
グリグリ……ギュッギュッ……
ゴシゴシ……ゴシゴシ……
「うん、大体これぐらいで良いだろう。後はまた風呂でしっかりと洗うように」
「わ、わかりました! それじゃぁ、どきますね!」
掃除が終わったことで起き上がろうとするドーベルだが、その額をエアグルーヴが抑える。
「え、ちょ、先輩?」
「慌てるなドーベル。今見たら耳の中に汚れが見えたから、折角だしそこも掃除しておこう」
「え、あ、ちょ……」
慌てるドーベルの頭を抑えつつ、エアグルーヴは耳かきでドーベルの耳の中を掃除していく。
カリカリカリ……カリカリカリ……
カリカリカリ……カリカリカリ……
「あ、先輩、そこ……気持ち良い……です」
「少し我慢してくれ。この辺に土が入り込んでいてな。それに耳垢も……ふむ、やはりあるな、これも纏めてやっていこう」
「は……はぃ」
エアグルーヴに汚れを指摘されて恥ずかしさを覚えるドーベル。だが、彼女のそんな心の内など知る由もないエアグルーヴは掃除を続けていく。
カリカリカリ……カリカリカリ……
ゴリ……ゴリ……ベリ……
「うん、汚れは徐々に取れていっているぞ。しかし、耳垢そのものはそんなにないな。普段からちゃんと手入れをしているんだな、ドーベル」
「は、はい。ちゃんと、自分で掃除しています」
「ああ、良い事だ。とは言え、やはりたまにはこうして他の者が掃除したほうが細かい部分まで取れるからな。ドーベルなら頼む相手にも困らないだろうし、定期的に頼んでおいたほうが良いだろう」
「わ、わかり、ました」
そんな事を話しながらもエアグルーヴの手は動き続け、程なくして大体の耳垢が剥がされ引き上げられる。
「さて……これで大体の汚れは取れたぞ。次は梵天だ、まだ動くんじゃないぞ」
「そ、そこまでしてなくても大丈夫ですよ! いつまでも先輩にご迷惑をおかけするのは……」
「何、これも後輩への世話の一環だ。それとも、私の耳かきは嫌だったか? それなら申し訳ないが……」
「そ、そんな事ありません! ありません……から……」
「そうか、それならやっていこう」
コシュコシュ……コシュコシュ……
クルクル……シュシュー……
耳かきを終え、熱を帯びて敏感になっている耳の中を梵天が掃除していく。
「あ……先輩、くすぐったい……です」
「あとちょっとだ、もう少しだけ我慢してくれ」
「はぃ……」
程なくして梵天が引き抜かれ、掃除を終えた耳の中にエアグルーヴが息を吹き込む。
「ふ~……ふ~……」
「ひゃぁぁぁ……」
そうして片耳の掃除を終えるころにはドーベルの顔も耳もすっかり赤く染まり、息も荒くなっていた。
「さて、それでは反対側をやっていくぞ」
「はぃぃ……」
そうしてドーベルの了解を得てから、エアグルーヴは耳かきを続けていく。
ゴシゴシゴシ……ゴシゴシゴシ……
グリグリ……ギュッギュッ……
「こちら側の汚れも、ちゃんと取っていかないとな」
「そ、そうです……ね」
カリカリカリ……カリカリカリ……
ゴリゴリゴリ……ベリベリベリ……
「ん? 少し痛かったか?」
「あ、いえ、大丈夫……大丈夫です」
クルクル……コシュコシュ……
スポスポ……ススー……
「こうして粉を毛に絡まないようにして……うん、取れたな」
「はぁぁ……」
ふ~……ふ~……
ふ~……ふ~……
「さて、これで掃除は終わりだ。少々時間がかかってしまったかな」
「いえ……気持ち良かったので……もっと……して欲しかった……かも」
エアグルーヴが耳かきの終了を宣言すると、ドーベルは顔を赤くしながらも呟く。
「こらこら、耳かきのやりすぎは耳を傷めるだろ。ああ、でも、ドーベルが望むなら、また次の機会にでも耳かきをしても良いぞ?」
「お、お願いします!」
エアグルーヴの提案に即座に乗るドーベル。最初こそ恥ずかしがっていたものの、すっかり骨抜きにされてしまった彼女は、これからもエアグルーヴの耳かきのお世話になるのだった。