男トレーナーの視点から見たら、担当ウマ娘の実家で、彼女の私室で膝枕、耳かき、お昼寝の三コンボって至福であると同時に相当怖い状態だろうなぁ。と思う今日この頃です。
俺はごく一般的な普通の男性トレーナー。しかし、そんな俺が今いる場所は、非常に女性らしい部屋の中である。あまりにも俺に似つかわしくないこの場所に居る理由。それは俺の担当であるメジロアルダンにある。
メジロアルダンは名家メジロ家の令嬢であり、現役のウマ娘である。その走りは非常に素晴らしいのだが、同時にその足には危うい脆さがある。この脆さを出さないため、それと同時にレースに勝つための走りを手にするため、彼女のトレーニングには一層の注意を払わなければならない。
そして忘れてはならないのが、定期的な検診が欠かせない事である。それはトレセン学園でも問題なく行えるが、やはりそれでは心配もあるだろう。その為、こうしてメジロ家でも定期的な検診を行うようにしてるのだ。
その間俺としては客間で待っていようと思っていたのだが……何をどうしたらこうなるのか、アルダンの私室で待つことになった。正直非常に目のやり場に困る。自分の担当である以上は色々なプライベートな情報を知ってはいるのだが、やはりプライバシーの塊である私室……それも思春期の女の子の私室と言うのは俺にとって居心地は良くない。非常にいたたまれない気持ちになる。なんでここに案内したんだ?
と言うわけで、持ち込んだパソコンで必死に仕事の集中する。こうしていればアルダンの私室に居るという事を忘れられる。この孤独な状況で仕事だけが俺の友……!
「うーん……次のトレーニング……うーん……」
ぶつぶつと呟きながら仕事に没頭していく。すると。
「トレーナーさん♪」
「おおう!? あ、アルダンか。びっくりしたー」
不意に後ろから声をかけられて、慌てて後ろを向くと、そこにはアルダンが居た。
「トレーナーさん、何をされているのですか?」
「ああ、アルダンのトレーニングの見直しとかだよ」
「まぁ、今日はオフなのですから、ゆっくりされていれば宜しいのに」
「いや、こないだのレースが終わったばかりだからね。次のレースに向けてのトレーニングを用意してからにしておこうと思ったんだよ」
本当はこの空間に居ることを意識しないために仕事に集中していただけなのだが、それをまさか本人に言えるわけがない。
「ダメですよトレーナーさん。今日はレースの事は忘れましょう。ほら、お茶とお菓子を用意しましたから、一緒にゆっくり過ごしましょう」
耳元で囁かれて、反射的に頷いてしまう。そして一度頷いた以上は無かった事にできず、パソコンを片付けると机の上にお菓子と紅茶が並べられた。
「さ、どうぞ。冷めないうちにお召し上がりください」
「ああ、頂きます」
促されてお菓子とお茶を口にする。うん、流石メジロ家で用意される物だ。庶民の俺が早々口にすることがないような高級品だな。それがわかるのはまぁ……俺も一応まがりなりにも中央のトレーナー、しかもアルダンのトレーナーともなれば、こういうのを口にする機会がないわけではない。
そうして馬鹿舌を披露するなんて事はなく、穏やかにアルダンとのおやつタイムを楽しんでいると、不意にアルダンが爆弾発言をしてきた。
「トレーナーさん、そろそろ以前のお耳の掃除から時間が経っていますし、今日やっていきましょう」
「え、ここで? いや、それは流石に……なぁ?」
「大丈夫ですよ。ここは私の部屋なんですから、家の者の目もありませんから」
「ん~……それなら……まぁ……」
正直ここでやってもらうのは非常に抵抗感があるのだが……それでもアルダンに耳かきしてもらう魅力には逆らえない。それにまぁ、ここならノックをせずに入ってくる無作法な方も居ないだろう。人目に付かなければ大丈夫、ヨシ!
「では、こちらへどうぞ」
「ん、ありがとう」
ベッドに座ったアルダンの横に寝転がり、彼女の膝に頭を置く……あれ、アルダンのベッドで寝てるこの体勢ってヤバくないか? 今更か。
ゴシゴシ……ゴシゴシ……
グリグリ……ギュッギュッ……
「トレーナーさん、気持ち良いですか?」
「ん、程よく温かくて、ちょうど良い感じだよ」
温かいタオルに包まれて、アルダンの白魚のような指で耳のツボを指圧されていく。普段は自分でもそんなに触るところじゃない部分をアルダンに触られているというのは中々に背徳感を感じてしまう。
「ん……この辺りにしておきましょうか。さぁ、お耳の中……掃除、していきますね」
耳穴を広げられ、じっくりと見つめられている気配を感じて、思わず生唾を飲み込む。ヤバいな……さっきよりも背徳感がヤバイぞこれは。
「それでは、見つけた汚れ、取っていきましょう」
広げられ、近くの距離から聞こえるアルダンの声に背筋がゾクッとするのを感じるが、それが収まるよりも更なるゾクッを感じてしまう。
カリカリカリ……カリカリカリ……
カリカリカリ……カリカリカリ……
コリコリ……ガリガリ……
ペリペリ……ペリペリ……
アルダンのすべすべした指で広げられた穴の中を念入りに掻かれていく。耳垢が固いのか、アルダンが自分の事を気遣ってくれているのか。いずれにしろ、なんとも気持ち良い時間が過ぎていく。
「剥がれていましたね。引き上げますから、動かないでくださいね」
「ああ、大丈夫だよ、動かないから」
こんな状態で動くつもりなんてない。おとなしくしていると……おっ、耳垢が静かに剥がれたな。
「おとなしくしてくださっていましたから、無事に耳垢を取れましたよ。でもまだありますから、続けていきますね」
「ん、わかった」
そう頷いた後も暫くの間掃除が続けられ……あ、耳かきが抜かれたな。
「えっと……耳垢は大体取れましたから……梵天で残りをやっていきましょう」
「あ、もう? あ、い、いや、わかった」
思ったよりも早く終わった事に思わず聞き返してしまったが、そもそもやってもらっているだけでもありがたいんだ、贅沢を言うべきじゃない。
「トレーナーさん? 聞いた話ですけど、ウマ娘の尻尾の毛を加工して梵天にするのが流行りらしいですよ? もし宜しければ、私もそうしましょうか?」
「え!? あ、えーと……やってくれると嬉しいけど……無理はしなくていいんだぞ? 色々と大変そうだし」
正直言えば是非ともやってほしい。でも、あれってけっこう手間暇かかるって言うしな……やっては欲しいが、アルダンに無理はさせたくない。
クルクル……スポスポ……
ススー…ズズー……
あー……梵天でゴソゴソされるの、耳かきで掃除されるのとは別のゾクゾクがあるよなぁ。これはこれで癖になるんだが……。
ふ~……ふ~……
ふ~……ふ~……
「うおっ……」
アルダンに息を吹きかけられるのがやっぱ一番癖になりそうだよ……癖になったらヤバイのわかってるのに……って、なんで頭撫でられてるんだ?
「ちょ、アルダン。別に頭を撫でる必要はなくないか?」
「おいやでしたか?」
「嫌じゃないです」
アルダンの言葉に反射的に答えてしまう。仕方ないだろ、アルダンに頭を撫でられて嫌なわけないじゃないか。
「では、失礼しますね。はい、ころりん」
アルダンの手が体の下に入ってきたと思うと、簡単に俺の体が引っ繰り返され、彼女の腹の方を向く形で膝枕される。これ……誰かに見られたら本当にアウトだな。でも逆らえない。
そうしている内に、また温かいタオルで俺の耳がマッサージされていく。
グリグリグリ……グリグリグリ……
モミモミ……モミモミ……
「……なぁ、アルダン。やけに耳たぶ揉んでるけど、そんなに効果あるのか?」
「え? 勿論、耳たぶにもツボはあるんですよ」
それは知っているんだが、それにしてもやけに念入りだった気がするが……こんなものだろうか? あ、耳かきが入ってきて……。
カリカリカリ……カリカリカリ……
カリカリカリ……カリカリカリ……
「耳の中をカリカリカリ……コリコリコリ……ペリッ♪」
「ッ……ふぅ……」
へばり付いていた耳垢が剥がされる時と言うのは、どうも力が入ってしまう。痛みがあるから仕方ないんだが、アルダンにそれが見られていると思うとちょっと恥ずかしい。
コシュコシュ……クルクル……
スー……スー……
「くすぐったくないですか?」
「大丈夫大丈夫」
あ~……梵天が気持ち良い……もしこれがアルダンの尻尾の毛で作られていたらと思うと……いや、ダメだダメだ。考えないようにしよう。
ふ~……ふ~……
ふ~……ふ~……
「はぁ……気持ち良い」
アルダンに息を吹きかけられるほど信頼されている。と言うのが更に気持ち良くしてくれる。あ~……トレーナー冥利に尽きるな。
「さぁ、終わりましたよトレーナーさん。それではこのままお休みしちゃいましょうか」
「あー……いや、今日はちょっと起きてようかなと……」
「お休み……しないんですか?」
「します」
耳かきも終わったことだしと立ち上がろうとするが、アルダンに再度尋ねられては反射的に答えてしまう。俺の意志の弱さに愕然とするが……アルダンに請われては仕方がないじゃないか。
「♪~~♪~~」
その後、アルダンの子守唄を聞きながら、俺は心からの安堵を感じつつ、眠りに落ちていった。