やはりトラン相手には他のウマ娘達とは違う距離感で接して欲しい。そう思う今日この頃です。
俺は中央のトレーナー。名前はまだない……わけではない。当然名前はあるんだが、恐らく覚えてる人ってそんなに居ないと思う。なぜなら、俺の担当ウマ娘のほうが圧倒的に知名度が高いからだ。
トランセンド。ウマ娘には珍しい走ることが好きじゃないし、レースの勝ち負け自体にもさして興味のないやつ。 でも、ドキドキを求めてレースを走る、非常に変わったウマ娘だと思う……けどまぁ、それもそれで個性だとは思う。
俺の部屋に出入りするのに未登録のまんまだと世間体とかの問題があるので登録して、レースに出るようになったけど、ダートでめちゃくちゃ実力と実績を伸ばしていっている。おかげで俺としても鼻が高いんだけど……でも最近、元々近かった距離感がバグッてきてるような気もする。
「トーレーちゃん。あーそーぼ」
「トランか。遊ぶのは良いけど……今日の課題は終わってるよな?」
「大丈夫大丈夫。ちゃんと終わらせてるよん。ほらほら、お邪魔するよー」
そう言って、俺の脇を通って我が物顔でトレーナー室に入るトラン。まぁ、そこまではこれまでとなんら変わりないから問題はない。
「トレちゃん、こないだのゲームのリベンジする? 負けたらもちろん、言う事聞いてもらう事になるけどね」
「む……よし、負けっぱなしなのも嫌だからな。今回は勝たせてもらうぞ」
「お、乗り気じゃん。じゃ、やっていこっか」
こうして一緒にゲームをするのも日常茶飯事だ。だからこれも問題はない。
「はーい、ウチの勝ちね。なんで負けたかは明日までに考えてください」
「煽るのは止めろ……あー、くそ……で、今回はどんな罰ゲームなんだ?」
「んー……そうだねぇ。前回と同じで良いんじゃない? ほらトレちゃん、こっち来て来て」
と、腕を掴まれ強制的にトランの膝枕に頭を乗せられる。うん、これは距離感がおかしいと思うんだ。俺の考え方は正常なはずだよな……な?
「なぁ、トラン。これって罰ゲームなのか? いやまぁ、俺にとってはやられると困る事ではあるんだが」
「んー。まぁ、罰ゲームって銘打ってウチがやりたい事をしてるのは否定しないよん。でも別に誰かに見られるわけじゃないんだから良いでしょ?」
「いやまぁ、嫌じゃないけど……」
「ほらほら、男なんだからウジウジ言ってても仕方ないよ。前にやってるんだからね」
トランに問いかけるも、なんやかんやで結局耳かきを受ける事になってしまう。本当に大丈夫だよな? ここでどこぞのウマ娘がいきなり扉や壁をぶち破ってきました。なんてなったら俺のトレーナー人生終わりそうなんだけど。
「まずはウェットティッシュで外側の掃除していくよん。ゴシゴシ~、ゴシゴシ~……うわ、汚れすぎじゃない?」
「急なマジトーンは心に来るのでやめてくださいお願いします」
いくら信頼関係があるとはいえ、マジトーンでお前汚れてるぞとか言われるのは非常に心に来る。言葉のナイフの鋭さを実感する。
ゴシゴシ……コシコシ……
ギュッギュッ……ゴシゴシ……
心の傷に悶えている間に耳が拭かれて行って、ごみ箱に捨てられていた。そして、トランの指が耳に絡んできた。
モミモミ……モミモミ……
グリグリ……グリグリ……
「あ~……トランの指が気持ち良い……」
「えへへ~、そう言ってもらえると嬉しいな」
やっぱアスリートなだけあって、トランは基本的な体温が高い。そんな高い体温の指で耳を揉まれると、それだけで気持ち良くなる。多分ツボを押してなくても気持ち良いよな。
なんて思っている間にも耳が揉まれ続けていって、すっかり熱くなる頃に指が離れた。
「じゃぁ、中の掃除を開始しようか」
カリカリカリ……ガリガリガリ……
ゴリゴリ……ゴリゴリ……ベリッ
「うーん……耳の中もなんか汚れてるのか? 俺」
「まあねー。こんだけ耳垢が取れてるのは汚れてるって言わざるを得ないかな? やっぱ人間って耳のお手入れしなさすぎじゃない?」
耳垢を剥がされる時の気持ち良さはとても良いんだけど、トランに何気に言われる言葉が割と来る。思春期の女の子の汚い言われて心に来ないほど俺の心は分厚くないのだ。
「掻けば掻く程汚れが出て……某お菓子のCMのノリで言ってあげようか?」
「いや、なんか遠慮しておきます」
なんのCMなのかはよくわからないけど、なんとなく某魔女が思い浮かんできたので止めておいてもらった。あのCMを見るたびに耳かきを思い出す事になりそうだ。
「よしよし、大きいのは大体取れたから。梵天使ってこっか」
「おー、やっと終わったか……」
うーん……これは多い。ティッシュに捨てられた耳垢の量が思ったよりも多くて、流石にこれはなぁ……と思ってしまう。うーん、定期的に耳鼻科で掃除してもらうほうが良いかな?
クルクル……クルクル……
コシュコシュ……ススー……
「どうよトレちゃん。気持ち良いっしょ」
「ああ。耳かきの後は特に気持ち良いな、梵天って」
耳かきの後の梵天は先にやるよりも耳がくすぐったくて、何というか幸せな気分になれる。これも癖になりそうで困るな。
ふ~……ふ~……
ふ~……ふ~……
「なぁトラン。やっぱこう、距離感と言う物がさ……」
「大丈夫大丈夫。バレなきゃいいんだよバレなきゃ」
いや、見られなきゃバレないと思うけど……トランの匂いが俺に移ってバレました。とかあっても困るからなぁ。嫌ではないけど。
「おっこいしょーっと。さぁ反対側をやっていくよん」
「お、おう。でもなぁトラン。やっぱこの体勢はどうかと思うんだよ。せめて体を反対側に……」
「ヘーキヘーキ。ウチはトレちゃんにお腹見られても問題ないよん。ほら、やっていくからおとなしくしててね」
なんとか体勢を変えようとしても、頭をしっかりと抑え込まれてはどうしようもなく、そのまま掃除が始められた。
サリサリ……コスコス……
スリスリ……ズリリ……
「こっちも黄色く染まるねぇ。白一色だから染まりやすいのはそうなんだけど、やっぱ汚れてるって事だよねー」
「あんまりマジマジと言わないでくれ、心に来る」
耳かきは気持ち良い……気持ち良いけど、言葉のナイフがグサグサと突き刺さってくる。
モミモミ……モミモミ……
グッグッ……グリグリ……
「耳のマッサージで血流促進。体の疲れをとっていくよん」
「あ~……確かに……気持ち良いなぁ」
はぁ~……傷ついた心が癒される……これ、なんてマッチポンプ?
カリカリカリ……ガリガリガリ……
ゴリゴリ……ゴリゴリ……
「トレちゃんの耳垢をこうしてガリガリと削って削って……ほいっと」
「ウッ……ふー……」
剥がされた時の痛みと快感の混じったなんとも言えない感覚が堪らない。
クルクル……ススー……
ススー……コシュコシュ……
「はぁ~……ふぅ~……」
「あはは、気持ち良さそうだね、トレちゃん」
気持ち良さに思わずため息が漏れる。あ~……癒されるなぁ……やってくれてるのが担当ウマ娘じゃなければもっと気が抜けるんだけどな……。
ふー……ふ~……
ふ~……ふ~……
「おお……ゾクッてしたわ」
「本当? じゃぁ、もうちょっとしちゃおっかな」
背筋がゾクゾクッとしたと思ったら追撃の吹きかけでもう一度ゾクッとする。
「それじゃ、耳掃除はこれで終わりだよん。後はお昼寝だねー、逃がさないからね」
「ん。それじゃぁ体の位置変えるから……流石に変えさせてくれよ?」
「え~、このままの姿勢でもいいじゃん。ダメなん?」
「流石にな。ちょっとお前のお腹に顔埋めることになったの思い出すと恥ずかしさのほうが勝つんだよ」
冷静に考えてみろよ。自分より一回りは年下の女の子の腹に顔を埋めるとか、普通に犯罪臭半端ないぞ。トランもいくら俺らの関係とはいえ、もう少し距離感と言う物を大事にしてほしい。俺の理性的な意味でもヤバいんだから。
目を閉じてなんとか眠りに逃げようとする俺の頭をトランが撫でてくる。その優しい手つきと温かさが気持ち良くて……あー寝そう。寝そうだわ、これ……。