クリークとは別系統ですけど、ダスカはきっと同性からもお母さんっぽいって思われたりするんじゃないだろうか。そうだったらいいなぁ、と思う今日この頃です。
私はどこにでもいる普通のトレーナー。強いて違う所があるかと言われると……あのダイワスカーレットの担当であるということかな。
彼女はこの強豪ひしめくトレセン学園でもトップ層に位置する優俊だ。彼女のライバルであるウオッカを始めとした優俊達とレースで争うその姿。ライバル達に負けない圧倒的な成績……私は、彼女の担当を務める事ができる事。それがトレーナーとして最大の喜びであると感じるようになった。このトレセン学園において彼女ほどの優駿を支えられるトレーナーがいったいどれだけ居ると言うのだろうか?
そんな彼女のトレーナーとして、私も頑張らなきゃいけない。そう思って、今も彼女のトレーニングメニューの試作を作っている。彼女を支えた経験は、きっと今後のトレーナー生活においても役に立つはずだ。彼女の次、時代の育成の為にも、私は頑張らないと。
「トレーナー、居る?」
そう思って作業していると、スカーレットの声が聞こえてきた。何か用かな?
「スカーレット? 入っていいよー」
私が許可を出すと、彼女は部屋に入ってくる。どうしたんだろう、少し普段と雰囲気が違う気がするけど。
「ねぇ、今時間あるかしら?」
「え? うんまあ……貴女の為なら時間は作るけど、どうかしたの?」
「ええ。その……あんたにはいっつもお世話になってるし……たまにはさ、お返ししようかなって思ったのよ。でも、別に無理に時間を作ってもらう程じゃないから、時間がないなら別の日に……」
「いや、本当に時間は大丈夫だよ? えっと……それで、お返しって、何をしてくれるのかな?」
お返し……嬉しいなぁ。それだけ彼女が私の事を認めてくれているのだと言う事だ。しかし……何をしてくれるんだろうな? これが噂の黄金の浮沈艦とかだと逆に何をされるかわかったもんじゃないけど、スカーレットならそう言う心配もないよね。
「うん。ほら、トレーナーと言うか、ヒトって自分の耳の手入れを全然しないって聞くし。たまには耳かきでもしてあげようと思って。ダメかしら?」
「えっと……それって、色々とマズくないかな?」
「大丈夫よ。誰にも言わないとバレないんだから……ほら、やりたいならこっちに来なさいよ」
ベッドに座り、膝をポンポンと叩いてこちらを誘うスカーレット。これは……同性とはいえ社会的な死を迎える気配を感じる……でも、彼女の行為を無為にするのも躊躇われる……ええい、男は度胸。私女だけど。
「えーと……それじゃぁやっていくわね」
サリサリサリ……サリサリサリ……
サリサリサリ……サリサリサリ……
彼女の膝枕に頭を置くと、彼女は耳かきで耳の外側の掃除を始めた。あ、くすぐったい。後、思った以上に汚れが取れてるように思う。
「あんた、ちょっと汚れすぎじゃない? ちゃんとタオルで拭いたりしてるの?」
「……正直風呂上りぐらいしかやってないかなー。と言うか、真顔で汚いとか言われるとメンタルに来るからやめてくださいお願いします」
呆れてるような口調だけど、なんとなーく、彼女が真顔で居るような気がしてそのように返答する。美少女に真顔で汚いとか、その業界でしかご褒美にならないし、私はその業界には居ないんだよ。なんて事を思っている間に、新しい綿棒で汚れを掃除されていって。
「はい、外側は終わったわよ。じゃぁ中の方を……そんなに汚れてないわね」
ふー……どうやら中はそんなに汚れてはいないみたいね。外側みたいに真顔で汚れてると言われなかっただけマシなんだと思う、多分。そう信じないと心が辛い。
カリカリカリ……カリカリカリ……
ズリズリ……ズリズリ……
耳の中を耳かきの音が響き、ズリッと耳の中の汚れが引き出される。えーと? これで本当にそんなに汚れてないの? それとも外側の汚れが本当にヤバかったの?
「どう? 少しは耳の聞こえも良くなってるんじゃない?」
「あーうん……確かに、少しダスカの声が聞きやすくなったかも?」
心なし、ダスカの声がさっきよりも聞きやすくなった気がする。案外耳かきもバカにできないのかもしれない。
カリカリ……ガリガリ……
ゴリゴリ……ズリズリ……
更に掃除が続いていき……あ、耳かきが引き抜かれた。
「汚れは大体取れたから、ローションを塗っていくわね。少しヒヤッてするけど、我慢しなさいよね」
ぬりぬり……ぬちゃぬちゃ……
ぬちょ……ぬちょ……
ほおお……耳の中を粘着質なローションが塗られていく……なんかちょっと変な感触だなぁ。そんなに好きじゃないかも。
「確かにちょっとヒヤッてするか……ぬちょってするのが苦手かなあ」
「我慢しなさい、こうやって保湿しないと耳の中で肌荒れしちゃうんだから」
叱ってくる感じがウチのお母さんを思い出させるんだよなぁ……。あ、塗り終わったな。じゃぁ、これでお終いか……。
ふ~……ふ~……
ふ~……ふ~……
突然耳の中に息が吹きかけられて、ローションが塗られているのもあって、ヒンヤリした感覚に思わず体がビクッとしてしまった。
「……ビックリしたー」
「ふふ、何よお約束じゃないの。ほら、こっちが終わったから反対側もしていかないとね。よいしょっと」
声の調子は軽いけど、実際は成人女性を両腕だけであっさり動かすのは流石ウマ娘だと思う。でも、彼女のお腹が真正面にあるこの体勢はマズくないだろうか? 同性だけど、誰かに見られたらヤバいよね?
「……あの、スカーレットさん? この体勢大丈夫ですか? 私、社会的に死んだりしませんか?」
「誰にも見られてないんだから大丈夫よ。ほら、グズグズしてても仕方ないんだから、こっちの掃除をしていくわよ」
サリサリサリ……ザリザリザリ……
ズリズリ……ザリザリ……
私の問いも空しく、スカーレットは耳の掃除を続けていく。まずは外側の汚れが綿棒で擦られ、削ぎ落されていく。
「あんた、ちゃんと耳の手入れぐらいしなさいよ。調子が悪くなっても知らないわよ」
「前向きに善処します」
一応考えはするけど……それでも、毎日耳の手入れができる自信もなく、思わずお役所的返答をしてしまった。
カリカリカリ……ゴリゴリゴリ……
ベリベリベリ……ベリベリベリ……
「ふんふんふん♪ なんだか、耳かきしてると楽しくなるわね……でも、それはそれとして、ちゃんと耳の中も手入れしなさいよ」
「なんか理不尽な事を言われた気がするんですがそれは」
まぁ……うん、耳かきが楽しいって言うのは聞いたことあるけど、楽しいと言っておきながらちゃんと耳の掃除をするように言われるのはどこか違う気がする。理不尽だと思います。
ぬりぬりぬり……ぬりぬりぬり……
ぬちゃぬちゃ……ぬちょぬちょ……
「ローションもしっかり塗ってと……そんなに冷たいのが苦手だったら、今度は少し温めておく?」
「そうしてもらえると助かるかなぁ……」
感触が苦手だけど、温めたら少しはマシになると思う、うん。
ふ~……ふ~……
ふ~……ふ~……
「こーら、逃げるんじゃないわよ。良い大人がこれぐらいで逃げてるんじゃないわよ」
「いや、くすぐったくて……反射的に動いちゃうだけなのよ」
体が動いて落ちそうになったのをスカーレットに支えられる。これは条件反射によるものなので許して欲しい。
そんなこんなで耳かきも終わって……じゃぁ、後は。
「それじゃぁ、後はこのままお昼寝ね? やっぱりそこまでがお約束でしょ? あんた、いっつも疲れてる顔してるんだし、たまにはゆっくり休みなさいよ」
「なんか、本当にお母さんみた……痛い痛い痛い痛い」
「トレーナーさん? 減らず口を叩かないで、ゆっくりお休みしてくださいね?」
スカーレットに耳を引っ張られ、慌てて謝る。いや、そりゃぁね? 中等部にそんな事を言うのはおかしいと思うんだけど、それでもスカーレットってお母さんっぽいんだよなぁ……。いや、よそう、ここはもうおとなしく寝るしかない。
「……お疲れ様、トレーナー。いつもありがとうね」
意識が落ちる前に、そんな声が聞こえた気がした。