ジェンティルの気高くも圧倒的筋肉を味わいながら耳かきをされたい……部屋がくそ寒いので基礎体温がめっちゃ高そうなジェンティルに膝枕とかされてみたい。そう思う今日この頃です。
俺はどこにでもいる一般的な中央トレーナー。名前を言うよりも、こう言った方が伝わると思う。ジェンティルドンナのトレーナーと。
名前で憶えて貰えてないのは悲しいけど、それもまぁ仕方ない。あのジェンティルドンナの存在に比べれば俺の存在なんてちっぽけなものだ。彼女は単なるG1ウマ娘と言う以上の圧倒的な存在感を有しているのだから、主に筋肉で。
そんな彼女の存在を少しでも輝かせるために俺は頑張っている。恐らく、これから先どれだけトレーナーを続けていても彼女以上の逸材には出会えないだろう。そんな確信があるのだから。
……いや、そう言えば最近、めちゃくちゃ素質のある新人ウマ娘を見かけたな。名前はギン……ギン……後で確認しておこう。
まぁそれはそれとして。今日も今日とて俺はジェンティルの為に色々と考えているわけだけど、突如トレーナー室にジェンティルが入ってきた。何かあっただろうか?
「と言うわけでトレーナー? 日頃の疲れを癒して差し上げますから、こちらに来てくださいな」
「……え、俺ってもしかして死ぬ? 俺、まだまだやりたい事がたくさんあるんだけど……」
「何をバカな事をいってらっしゃるの? ほら、前も耳かきをしてあげたではありませんか。殿方は女性に耳かきをされるのがお好きでしょう?」
「流石に担当ウマ娘にしてもらうのは問題があるんですがそれは。じゃぁ、そう言う事で……あ、ちょ、離し……離して……」
ナチュラルにトレーナー室から出ようとしたら、そんな俺を彼女は後ろから抱きしめてくる。あ、ダメだ、柔らかいなぁ。とかより先に死へのカウントダウンが脳裏を過る。彼女の手にかかれば俺をこのまま鯖折りする事なんてたやすいだろう。
「ウマ娘から逃げられるとお思いでして? ほら、おとなしくしなさいな」
「いや、他意はないんだ他意は。ほら、やっぱり世間体と言うものがあるじゃないか」
「誰に見られると言うのかしら? いい加減にしなさいな」
なんとか世間体を理由に逃げようとするも、あっさりと持ち上げられた俺は、有無を言わさずベッドに寝かされる。そして、ジェンティルは俺の傍に座ると、そのまま俺の頭を掴んで自分の膝の上に乗せた。当然逃げる余地はない。
「では、始めますわね。ほら、おとなしくなさって」
俺の耳が摘ままれた時点で下手に動いてはいけない事を悟りおとなしくなる。と言うかおとなしくならざるを得ない。
ゴシゴシ……ゴシゴシ……
ゴシゴシ……ゴシゴシ……
そんな俺の心情とは裏腹に、ジェンティルは優しい手つきでウェットティッシュで耳を拭いてくれる。命の危機に体温が高くなっている俺の耳にウェットティッシュの冷たさが染みる……と言うか、ドキドキで体温が高くなってるのにジェンティルの体から温かさを感じるんだが。やはり筋肉が多いと基礎体温が高くなるのか……。
「ふぅ。私のトレーナーともあろう人が、こんなに耳を汚しているようでは示しが付かないわ。後、触っている感じですと凝ってもいるようですし……やはりマッサージも一緒にやらないといけないですわね」
「うん、今度から注意するから、この辺りで切り上げて貰えれば……」
「いい加減、諦めなさいな」
悪あがきだろうと逃げようとするが提案を一蹴されてしまう。悲しいなぁ。
グリグリ……グリグリ……
モミモミ……ギュッギュッ……
ウェットティッシュでヒンヤリした後の耳を温かい彼女の手でマッサージされると言うのは正直に言ってかなり気持ちいい。下手なマッサージ店よりも満足感は高いと思う……こんな感想を持ったらいけないんだけどな。
「こうして、自分の体調管理も疎かにしている方が、私のトレーナーが勤めるのかしら、ね?」
「いや、人間はウマ娘と違って耳の手入れはそんなにしなくてもいいから……力を入れないでくださいお願いします」
一瞬、ジェンティルの指に力が入り、慌てて止める。マジで怖いんだよなぁ。
「さ、て、と。マッサージはこの辺りにしてあげましょうか? 程よく汗を吸ったみたいですし……そろそろ耳かきをしてあげますわ」
「ア、ハイ、お願いします」
カリカリカリ……カリカリカリ……
ガリガリ……ガリ……
思ったよりも優しい手つきで耳かきがされていく。いや、確かに彼女は自身のパワーをちゃんと制御しているから、あっちこっちで物損しまくってるカワカミとかよりは十分信用できる……あれ、なんか手つきが微妙に怪しいような。変な事考えてないか?
「ジェンティルさん? 何か不穏な事を考えていませんか? 怖いので止めてくださいお願いします」
「あら、心外ですわね。トレーナーの事を傷つけるつもりなんてありませんわよ」
本当だろうか? 時折、耳垢にてこずってる時に特に不穏な気配を感じるんですが。大丈夫? 耳垢ごと皮を剝がしたりしない?
「まったく、この辺りで耳垢は大体取れましたわよ。少し臆病すぎるのではなくて? そんなに愛バの事が信じられないのかしら?」
「いや、信じてるよ? 信じてなかったらヴィルシーナさんとかにお願いしてでも全力で逃げるから……」
実際逃げれるかどうかは置いとくとしても、彼女に頼んだら絶対に力になってくれると言う確信めいたものを感じてはいる。実際逃げられるかはわからないけど、少なくとも時間稼ぎにはなるだろう。
「それでは……そろそろお約束、して差し上げますわ」
ふ~……ふ~……
ふ~……ふ~……
彼女のイメージには似つかわしくない優しい吐息が耳の中に入り込み、思わず体が震えてしまう。余りもギャップが激しい。
「ようやくおとなしくなりまして? これまでは無駄な抵抗であったとようやく自覚したのかしら?」
「いや、無駄とかそう言う問題じゃなくてな? ジェンティルだって年頃の女の子なんだから、こう安易に異性を膝枕するのはいかがなものかと思うんですよ」
「見つからなければセーフ。見つかっても握り潰せばセーフですわ。さぁ、反対側をしていきますわよ」
果たしてそれはセーフなのか? と言うかそもそも、ジェンティルはそう言う慎みはあると思ってたんだけど。
なんて考えている間にあっさり俺は引っ繰り返され彼女のお腹の方を向く形になる。
ゴシゴシ……ゴシゴシ……
ゴシゴシ……ゴシゴシ……
抵抗する間もなく、ウェットティッシュで、丁寧に外側が拭かれていく。
「なぁ、ジェンティル。そんなに汚れてるのか?」
「ええ。しっかりと汚れていますわ」
それは成人男性として少々心に来るものがある。でも、別に俺殊更耳の事を放置してるわけでもないんだけどなぁ。
モミモミ……グリグリ……
グリグリ……ギュッギュッ……
ウェットティッシュが終わったと思うと、今度はジェンティルの温かい手が俺の耳を包み、マッサージを行っていく。
「もしかして、私にこうしてマッサージとかをして欲しいから耳の調子を放っているんじゃないかしら? それならそう言ってくだされば、いつでもしてあげますわ」
「いや、そんな事はないです。ないからやらなくていいから」
変な誤解を生む前に必死に否定する。こんな誤解から何かにつけてジェンティルにマッサージをされ続けるようになったら心臓がいくつあっても足りないぞ。
カリカリカリ……ガリガリガリ……
ゴリゴリ……ゴリゴリ……ベリベリ……
「ふぅ、少しばかり力が入ってしまいそうですわね」
「やめてやめてやめてやめて」
冗談のつもりなんだろうけど、正直冗談にならない。心臓に悪いから止めて欲しい。
ふ~……ふ~……
ふ~……ふ~……
「これには文句はないでしょう?」
「あの……うん……はい」
文句とは言わないけど……でも、やっぱり距離感は大切にしたほうが良いと思うんだけどなぁ。
「さあトレーナー、お休みなさいな。起きるまで、ちゃんとこうしておいて差し上げますわ」
「いや、ジェンティルも暇になるだろ? だから無理をしなくても……」
「お・や・す・み。なさいな?」
「ア、ハイ」
拒否を許さぬその言葉。所詮弱者の俺には歯向かう事は許されず、俺はこのまま寝る事しかできなかった。