タキスカで書きました。この二人のCPも大好きです。スカーレットに懐かれて満更でもないタキオンとか皆さん好きじゃないですか? 私は好きです。
「はぁ……はぁ……」
トレセン学園のとあるターフ。そこで今、一人のウマ娘が大きく、荒く呼吸していた。彼女の名はダイワスカーレット。既にいくつかのレースにて勝利している優駿である。
だが、彼女は特訓を、努力を、緩めることはない、常に一番を目指す彼女にとって、特訓する事、努力することは当たり前なのだから。故に、今日もトレーナーから下された内容を超えるトレーニングを行っている。本来ならそう言うオーバーワークはトレーナーが止めるのだが、生憎今日トレーナーは所用によってトレセン学園を離れているため、彼女のオーバーワークを止める存在は居ない。
「まだ……頑張れる」
呼吸が整った彼女は再び走り出そうと構える。だが、そんな彼女に不意に背後から抱き着くウマ娘が居た。
「やぁやぁスカーレット君、元気そうでなによりだ」
「ひょああああ!?」
慌てて後ろを向くと、そこには白衣を着たウマ娘、アグネスタキオンが居た。
「タ、タキオンさん!?」
「いやぁ、すまないすまない。君にはついつい抱き着きたくなるんだ、許してくれたまえ」
そう言って謝るタキオン、だが、笑みを浮かべている彼女からは特に悪びれている様子はない。
「それは良いですけど……どうしたんですか?」
「何、君にちょっと新薬の試飲をしてほしいんだよ。どうしても君でなくてはいけなくてねぇ」
「えっと……すみません、今日はトレーニングが……」
「何、君の意見は求めていない。これは決定事項だ」
断ろうとするスカーレット。だが、タキオンはそんな彼女をひょいと持ち上げると、そのまま米俵を持つかのように肩に載せ、歩き出す。
「ちょっ!? タキオンさん! 離してください!」
「いやいや、そう言うわけにはいかないさ。ああ、君のトレーナー君には話を付けてるから、心配しなくていいよ」
「そうじゃなくてー!」
暴れるスカーレットをいなしつつ、タキオンは自分の研究室まで彼女を連れていくと、ベッドの上に座らせた。
「何、簡単な治験さ。これを呑めばすぐに効果が現れるから、遠慮なく飲みたまえ」
そう言って、試験管を差し出すタキオン。中には無色の液体が入っており、それをスカーレットはジト目で睨む。
「……わかりました。でも、早く戻してくださいね」
諦めたスカーレットは、タキオンから試験管を受け取り一息に中身を飲み干す。
「さぁ、呑みましたよ。これでしつれ……い……しま……」
ベッドから立ち上がり、ドアへ向けて歩こうとするスカーレット。だが、足が動くよりも先に、彼女の頭の中は靄がかかったように不明瞭になり、瞼が力なく降りてくる。
「おおっと、大丈夫かいスカーレット君、どうやら君はお疲れのようだ、このまま横になると良い」
倒れそうになるスカーレットを支えたタキオンは彼女をベッドに横にして、自分もベッドに座り込むと、彼女の頭を膝の上に置く。
「ふゃ……わた……し……れん……しゅ……」
「まぁ待ちたまえ待ちたまえ。今君は疲れている、私が言うんだから間違いない。だからこのままで居なさい。ほら、耳かきでもしてあげるから……ね」
そう言うと、タキオンはベッドの隣にある棚に手を入れる。すると、どういうわけか、そこから湯気が立つタオルを取り出した。
「まずは温めたタオルで耳を拭いてあげよう、気持ちいいよ」
そう言ってタキオンはスカーレットの耳を拭いていく。熱を帯びたタオルはスカーレットの耳を包み、全体的に優しく、しかし凝っている部分は強く、タオルの熱を移すかのように摩り、揉み上げ、コリを解していく。
「ん……ぁ……そこ……」
「ふむふむ、この辺りだな。痒いとこは大丈夫かな?」
「そこ……もっとぉ……」
蕩けた顔でタキオンを見上げるスカーレット。だが、その瞼もどんどんと下がっていき、やがて完全に閉じられると、そのまま穏やかに寝息を立て始めた。
「ふむ、服用から大体5分か。やはり相当疲れているようだなスカーレット君」
そう呟きながら、タキオンはスカーレットの耳のマッサージと続けていく。
「ん……んん……」
タキオンの指がスカーレットの耳を擦り、ツボを押し、固くなっている部分を指圧で解していく。そのたびにスカーレットは気持ちよさそうに体を震わせ、熱い息を吐く。
「ふむ、眠りも深いな。これならしばらく起きる事はなさそうだ。さて……耳かきも始めようか」
タオルを片付けると、タキオンは耳かきを取り出す。まずは耳の穴の中に先端を差し込んでいく。
「クリーク程上手にはいかないが……まぁ、許してくれたまえ。その代わり……耳元でタップリと囁いてあげよう。なんでも、ASMRでは、その声も催眠効果があるようだからね」
カリカリカリ……カリカリカリ……
ペリッ……ペリッ……カリカリカリ……
スカーレットの耳元で、耳垢を掃除しつつ囁くタキオン。小さく細く、だが、確実に届く音量で囁き続けられるその声に、スカーレットの吐息が少しずつ荒くなっていく。
「ん……やぁ……やぁ……ん」
「ふむ、安眠効果だと聞いたが、なんだか息が荒くなっているようだね、顔も赤みが差しているが……起きる様子はなさそうか。では、続けよう、カリカリカリ……」
スカーレットの様子に少し首を傾げるが、囁きを再開するタキオン。耳かきの動きに合わせ、擦る音、剥がす音、引きずる音、それらを声で表現し、囁き続ける。
「ほら、スカーレット君中々大きな塊だよ。これは少々とるのに手間がかかりそうだが、その分タップリ囁いてあげよう。カリカリカリ……ガリ……カリカリ……」
「ひゃぁ……ん……ぁぁ……」
「よしよし、もうちょっとで取れそうだ。ガリガリガリ……ガリガリガリ……さぁ、これで全部剥がれる……ぞ」
「んっ……あっ……♡」
ベリベリ……とひと際大きな音を立てて剥がれる耳垢。その途端、スカーレットは体を逸らせたと思うと、大きく息を吐いた。
「ふむ、気持ちよさそうで何よりだスカーレット君。しかし、これでも起きないとなると……どうやら、私の予想以上に疲れが溜まっていたようだ。やれやれ、困ったものだね」
片耳の耳垢を取り終えたタキオンは一息つくと、改めてスカーレットの顔を覗き込む。
「ふむ……肌荒れもしてるな。まったく、傍から見ていても相当な練習量だ、体がもたなくなっては仕方ないだろうに」
「ん……パパぁ……」
「ッ!!」
それは何気ない一言、寝言だった。勿論スカーレットがタキオンの事を父親と認識しているわけではない。だが、その一言にタキオンは自分の心臓が高鳴り、顔に熱が篭るのを自覚した。
「これ……は……なんだ? パパと呼ばれて……父性……とでもいうのか? 私が、スカーレット君に?」
自分に戸惑うタキオン。だが、見下ろし眺めるスカーレットの寝顔を見続けるうちに、やがて諦めたように息を吐いた。
「……いや、悪い気はしないな。そうか、スカーレット君の父親か……初めて会った時から他人の気がしなかったが、もしや、前世のウマソウルが、私とスカーレット君が親子だったのかもしれないな」
だとすれば、自分が思った以上に彼女に入れ込むのも頷ける。勿論彼女の両親が普通に生きているためタキオンが父親になるなどできるはずもないが……それでも、この学園にいる間は代わりぐらいはできるだろう。
そう思っていると、不意にタキオンの携帯が振動する。確認すると、そこにはウオッカからの着信の知らせが表示されていた。
「やぁウオッカ君、どうかしたのかい?」
「あ、タキオンさん。スカーレットのやつを知りませんか? 一緒にトレーニングする予定なんですけど見当たらなくて。電話しても出ないしで」
どうやら、スカーレットはウオッカとトレーニングの予定を組んでいたようだ。タキオンは申し訳ない事をしたなと一瞬思ったが、疲労が溜まっているスカーレットに気づかずにトレーニングをしようとするウオッカに少々苛立ちを覚えた。
「すまないね、彼女には新薬の治験をお願いしたのだが……副作用でしばらく寝てしまっているんだ。今度、私がトレーニングに付き合うから、今日は彼女を寝かせてやってくれないか?」
「あ、ああ……わかりました。その時はお願いします」
ウオッカが了解の返事をしたのを確認すると、タキオンは通話を切って再びスカーレットの顔を覗き込む。
「まったく、同室でライバルと言うならもう少し相手の体調にも気づくべきではないのかね……まぁいい。私が適宜検査すれば済む話か」
タキオンの視界の先に映るスカーレットの顔。よく見れば肌荒れ等、疲労によるであろう症状がいくつか見て取れる。既にいくつかのレースで好成績を収める彼女だが、彼女自身はまだまだ子供なのだ。自分が見守ってあげなければ。とタキオンは強く思った。
「んん……パパぁ……♪」
不意にスカーレットが体を動かし、タキオンのお腹に顔を埋めてくる。その拍子に彼女の髪が動き、僅かだが側面にある耳が髪の中から出てくる。タキオンはそれを見て、彼女の髪を掻き揚げ、側面の耳を覗き込む。
「……ふむ、そう言えばここの耳もあるんだったな」
現れた耳を見てタキオンが呟く。人間と同じ部分にある耳……だが、これは正確には耳ではなく、外側や穴があるのは人間と同じだが、奥には鼓膜もなく、途中で塞がっている。恐らくは人間とウマ娘は同じ祖先を有しており、進化の過程で残った名残であると言われている。
「……ここの掃除をしてあげるのもいいかもしれないな。こうして……お腹に顔を埋められるのも良いものだ、まったく、可愛い子だなスカーレット君」
タキオンの腹に顔を埋めたまま、幸せそうに寝息を立てるスカーレットの頭を優しく撫でるタキオン。それは普段の彼女を知るものからは少し想像し辛い、愛情に溢れる笑顔であった。