タイシンみたいな小柄で意地っ張りな子って、こっちが尽くして尽くしてした結果、デレッてしてくれたりする瞬間って良くないですか? 私は思います。
俺はナリタタイシンのトレーナー。小柄で意地っ張りの彼女は周りと衝突しやすく、自分の才能を発揮しきれない部分があったが、俺は何とか彼女の才能を発揮できるために打てる手を全て打ったつもりである。
そのおかげか、彼女はビワハヤヒデ、ウイニングチケットの二名と並んで世代を代表するウマ娘となる事ができた。これからも俺は様々なウマ娘を指導する事になると思うけど、タイシン程心に残るウマ娘は居ないかもしれない。
と言うわけで、俺は今日も今日とて仕事に邁進する日々である。実際、タイシンと言うG1ウマ娘を担当する事ができた俺は他のウマ娘の指導にも手をかける事になった。タイシン程深く関わる事はないけど、それでも彼女達の今後の為にも手を抜かずに頑張るしかあるまい。
「トレーナー、ちょっといい?」
「ん? どうしたタイシン。何かあったか?」
パソコンで資料を確認しつつ、仕事を進めているとタイシンが部屋に入ってきた。はて、今日は休養日だが、何かあったか?
「あんた、最近疲れてるんじゃないの? 顔色悪いよ」
「え、そうかな? ……まぁ、中央のトレーナーはそれだけ厳しいって事なのはわかってるつもりだったけど……後で少し休んでおく方が良いかな。まぁ、この仕事がひと段落がしたら少し休憩しようかな」
タイシンにそう言って俺はパソコンに向き直る。え、この娘、本当に今年入学した生徒なのか? フォームも完璧だし、マイルを短距離走レベルのタイムで走ってるぞ。何か間違ってないか? ……間違ってないな……。
「あんた、そう言ってまた仕事をやり続けるだけでしょ。素直に休みなよ」
「え、いや、一応仕事はちゃんとやらないといけないからな」
「あーもう、そう言ってズルズル仕事して気づけば寝る時間ってパターンでしょ! ほら、こっち来て!」
今見ている娘の状態に驚きながらタイシンに返事していると、不意に手を掴まれ、そのまま無理やり引っ張り上げられてベッドに投げられる。イテテ……何なんだ?
「いたた……タイシン、流石にちょっと痛いんだが」
「アンタが素直に休もうとしないからでしょ。ほら、おとなしくしててよ」
体を起こそうとするも、隣に座ったタイシンに頭を掴まれるとそのまま彼女の膝枕に連れ込まれた。
「あの、タイシンさん? これはいったいどういうことですか?」
「いいから。ほら、耳かきしてあげるから、動かないでよね」
え、タイシンから耳かき? 以前お願いした時には割と渋々と言った感じだったと思うんだが、そんなタイシンが自分から耳かきをしてくれる? 明日は雨か?
ゴシゴシ……ゴシゴシ……
ゴシゴシ……ゴシゴシ……
頭の上にハテナマークが浮かびそうなほど困惑していると、綿棒が耳の外側を擦り始める。
「なんか、前にやった時にも汚かった気がするんだけど。やっぱり汚いんだよね、トレーナーの耳」
「……あのー、そう言う言葉は心にグサッとくるので止めてくださいお願いします」
年下の少女に真顔でそう言う事を言われるのは本当に心に来る。言葉のナイフとはこういう事か。
そんなショックを受けていると、綿棒が捨てられて、耳かきが入ってきた。
「うーん、なんか耳垢はそんなにないけど……これ、固くない? 突いてみてるけど、どう感じる?」
「うーん。突かれてる感じはするけど、痛いとかそう言うのはないよ」
耳かきが少しの間耳の中を擦った後、一点を突いてくる。うん、痛くはないな。
ガリ……ガリ……
ガリ……ベリ……
お、耳垢が少しずつ剥がれてきているのがわかる……少し痛いけど……まぁ、こんなもんだろう。
「あ、少し剥がれてきた。このまま剥がしていくから……こう、力を入れて……よし、取れた。血は出てないけど、大丈夫?」
「ああ、大丈夫だよ。うん、少し痛いぐらいだから」
心配してくれるタイシンは、やっぱり意地っ張りなだけで根っこは優しいんだよなぁ……。意地っ張りじゃなければもっと友達も増えると思うけど……この意地があるからこそ頑張ってきたって言うのもあるから難しいものだ。
ゴシュゴシュ……コシュコシュ……
クルクル……クルクル……
耳かきが終わった耳の中を梵天が優しく擦っていく。柔らかい毛の感触はむず痒くも心地よい。
「はぁ~……梵天ってむず痒いけど気持ちいいなぁ」
「まあ、その気持ちはわかるけど……顔が緩みすぎじゃないの? 別に良いけど」
いやいや、愛バに膝枕の耳かきをしてもらっている。しかも自主的にしてくれてるんだぞ? 顔が緩んでも仕方ないじゃないか。
「じゃぁ、後はお約束、やってくから」
ふ~……ふ~……
ふ~……ふ~……
おうっふ。ちょっと、息の吹きかけの勢いが強い気がするのは気のせいですか? タイシンさん?
「あの、タイシンさん。ちょっと勢いが強いと思うんですが」
「何、文句あるの?」
「……ありません」
鋭く睨まれ、これ以上は何も言えなくなってしまった。
「それじゃ、こっちもやっていくから。動かないでよね」
「ア、ハイ」
簡単に持ち上げられ、タイシンのお腹の方を向く形になる。これ以上何か言っても不機嫌になられても困るから、おとなしくしておこう。
ゴシゴシゴシ……ゴシゴシ……
グリグリ……ゴシゴシ……
「うっわ、こっちも黄色くなってるし」
「あの、そう言うのを正面から入れると心に来るんですよ、はい」
再びグサリと言葉のナイフが俺の心に突き刺さる。でも、人間で耳の手入れをそこまでする人って本当に少数だと思うんだよ。風呂上りにタオルでしっかり擦るぐらいで十分だと思うんだけどなぁ。
ゴリゴリ……ゴリゴリ……
ガリガリ……ガリガリ……
「あんた、体質的に耳垢が固いタイプなの? 前にやったときもそうだったし」
「うーん、そう……なのかな? 自分じゃわからんから」
流石に他人と耳垢の固さを比べる事なんてないからなぁ。粉っぽいとは思わないけど。でも、耳かきが耳垢を掻いている感じから、やっぱ固いのかなぁ? とは思わなくもないけど、タイシンがうっかり力を入れすぎて酷い事ならないかと少し心配になる。
クルクル……クルクル……
コシュコシュ……ススー……
「はぁ~……耳かきの後の梵天ってなんでこう気持ち良いんだろうな」
「そんなの知らないから」
やっぱ梵天って気持ちいいんだよなぁ。このフサフサの毛で擦られるのが堪らない。
ふ~……ふ~……
ふ~……ふ~……
「はい、これでお終いね。少しは休憩できたでしょ?」
「うん、タイシンに耳かきしてもらえると、心が休まるよ」
こうしたリラックスできる時間と言うのはとても大切だと実感する瞬間だ。これで少しは仕事の効率も上げられるかもしれない。
「さて、それじゃぁ気分の切り替えもできたし、仕事の再開を……」
「は? あんな時間で休めてるわけないじゃん。ほら……昼寝していきなよ」
「え、マジ? 良いの? タイシンの方から言ってくれるなんて嬉しいな。じゃぁ、お言葉に甘えて」
あのタイシンが膝枕で昼寝まで自分から言ってくれるなんてチャンス滅多にない。これは仕事の事を置いといても堪能させてもらおう。
「……お休みなさい、トレーナー」
そんな声が聞こえたけど、取り敢えず反応はしないでおいた。