今作品はフジポケからの続編となります。これ単体でも問題ないですが、フジポケを読んだ後の方が話の流れはわかるかと思います。
あの作品の世界観はあの作品の世界観で、個人的には好きだと思う今日この頃です。
「♪~~♪~~」
トレセン学園の廊下を一人のウマ娘が鼻歌を歌いながら歩いている。彼女の名前はダンツフレーム、アグネスタキオンやジャングルポケットと言った優俊達と同世代のウマ娘である。
レースの成績においては彼女達に一歩及ばぬ所もあるが、その事実を受け入れつつも、乗り越えようと日々研鑽を積んでいる。だが、普段の彼女は非常に穏やかな性格をしており、ジャングルポケットたちをライバルとしつつも、普段は気の良い友人として接している。
さて、そんな彼女はご機嫌な事があったのか、楽しそうに鼻歌を歌いながら歩いている。きっと、彼女のトレーナーに褒められたりでもしたのだろう。そんな彼女に声がかけられた。
「おーい、ダンツ、悪いんだけど、ちょっと手貸してくれないか?」
そう声をかけたのはジャングルポケットであった。
「ポッケちゃん? 良いよー、何すればいいの?」
内容も聞かずの即答。何かと怪しい薬を飲ませようとするタキオン相手でも同じ調子であるためたびたびポッケやカフェから修正するように指摘される彼女の癖だが、今回はポッケも何も突っ込まない。
「あー……その、耳かき、頼めないか?」
「耳かき? 別にいいけど、ポッケちゃんどこか耳の具合が悪いの?」
「あー……いや、前にフジさんに耳かきをちゃんとしろって怒られてさー。でも自分でやるのは苦手なんだよ……だから頼む!」
軽く音を立ててポッケの手が合わされ、そのままダンツにお願いされる。
「うん大丈夫だよ。今からやっちゃう?」
「おう、頼むぜ」
こうしてポッケの耳かきをすることになったダンツは、彼女を自室へと連れて行く。幸い同室のヒシミラクルはプールトレーニングに連れ出されているため、今ならゆっくりと耳かきができるだろう。
「えっと耳かきは……あったあった。じゃぁポッケちゃん、そこで横になってね」
「お、わかった」
ダンツに促されて彼女のベッドで横になるポッケ。そして、ダンツが彼女の隣に座り、膝の上に頭を乗せる。
「ん? うーん……? ポッケちゃん、別にそんなに汚れてないよ? これなら別に掃除しなくてもいいかも?」
「そうか? ……いや、でもフジさんに見つかったら掃除されるかもしれないし、やっといてくれねえか?」
「ポッケちゃん、フジさんに耳かきされるのが嫌なの? 大抵の娘だと喜びそうだけど」
「……恥ずかしいんだよ! フジさんの顔がずっと近くにあって、視線も逸らせねえし……」
「……うん、言いたい事はわかったよ」
ポッケの言葉にダンツは頷く。フジは麗しの三冠ウマ娘と呼ばれ、所謂男装の麗人と言う言葉が似合うタイプであり、彼女自身もそれに見合う振る舞いをする。いくら同じチームとして普段から接しているとはいえ、ずっと見つめ続けられれば恥ずかしくもなるだろう。
「じゃぁ、耳掃除やっていくね。でも、すぐに終わっちゃうかも」
「頼んだぜ」
ダンツは耳かきを手にしてポッケの耳を見つめ、そして掃除を開始した。
カリカリ……ペリペリ……
カリカリカリ……ペリペリペリ……
軽い音がポッケの耳の中で木霊し、瘡蓋を剥がすような感触と共に耳垢が剥がされ、ティッシュの上に捨てられる。だが、それはダンツが言うようにかなり小さな耳垢でしかない。
「んあ? ……マジでこんなもんなのか?」
「そうだよー? だからそんなに掃除する必要はないと思うんだけど……フジさんにお掃除された時はもっと汚れてたの?」
「ああ、もうちょいでかい耳垢がけっこう出てたぞ」
「そっかー。まぁ、このままやっちゃうね、折角始めたんだし」
カリカリカリ……カリカリカリ……
カリカリカリ……ペリペリ……
再び耳垢を剥がし始めたダンツだが、一つ取ったところで改めてポッケの耳の中を覗き込む。
「んー……もうない……かな? うん、こっち側はもうないよ、ポッケちゃん」
「お、おう……てかダンツ、流石に顔近すぎねえか?」
「そうかなぁ? こんなもんじゃないの?」
耳を覗き込む為に顔を近づけているダンツ。いくら普段から仲が良いとはいえ、ここまで至近距離になる事など滅多になく、ダンツの吐息や体温を感じてポッケはどこか恥ずかしくなる。
「じゃぁ反対側もやっていっちゃうね」
「た、頼んだぜ」
耳かきに意識が向いている為か、ダンツは気恥ずかしさなど欠片も感じる事無く、残る耳の掃除に移る。
カリカリ……パリパリパリ……
ペリペリ……ズリズリ……
耳かきが耳垢を剥がし始めるが、こちらも最初に掃除した方と同じ感じで、軽い音や、剥がれかけている瘡蓋を剥がすような感覚に留まる。
「うん、こっちもそんなに汚れてないから、すぐに終わらせちゃうね」
「わかったぜ」
パリパリパリ……ズリズリズリ……
カリカリカリ……カリカリカリ……
引き続き耳垢が剥がされていくが、それも程なくして終わってしまう。
「これでお終いだね、お疲れ様」
「おう……でもやっぱ掃除されるとスッキリするなぁ」
耳かきが引き抜かれた事でポッケは緊張を解いてそのまま体を伸ばす。そこでふとダンツが何かに気づいた。
「いけない、お約束忘れてたね。ポッケちゃん、もうちょっと動かないでね」
「ちょ、ダンツ!?」
ダンツは体を倒してポッケの耳に口を近づける。そして。
ふ~……ふ~……
ふ~……ふ~……
片耳ずつに吐息が吹きかけられ、思わずポッケの体が跳ね上がる。
「なな、何しやがる!?」
「え? 耳かきの時のお約束だよ。ポッケちゃんもしかして知らない?」
「え? な、フ、フジさんはそれお仕置きだって言ってたぞ!?」
ポッケの言葉にダンツは首を傾げる。
「うーん……私はお約束だって聞いたんだけどなあ……ポッケちゃん、イヤなら次はやらないでおこうか?」
「い、イヤじゃねえけど……さ、最初に言えよな! いきなりは驚くだろ!?」
「う、うん、わかったよ」
顔を赤くして言うポッケに戸惑いながらもダンツは頷く。
「と、取り敢えずこれで耳かきは本当にお終いだよ」
「おう……助かったぜ。また頼むかもしれないけど構わないか?」
「うん、大丈夫だよポッケちゃん」
ダンツの膝枕から体を起こしたポッケはダンツに礼を言って部屋を出る。取り敢えず、自分でもできるようにならないと。と考えながら。