なんて言うか、こう、仲の良い二人が自然とわちゃわちゃしながら過ごすのって良いなぁって思いませんか? 私は思います。
トレセン学園の寮。大勢のウマ娘達が暮らしている寮の中では悲喜こもごも、毎日様々な事が起きている。
そんな寮の一室で一人のウマ娘がベッドに倒れ込み、グロッキー状態になっていた。
「うう……トレーナーさんのアホー……バカー……人でなし……」
「ミ、ミラ子先輩、大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃないよー……嫌だって言ってるのに何回もプールトレーニングさせられて……私の心はボロボロだよ」
ベッドに倒れているのはヒシミラクル。自分の事を普通のウマ娘だと言っているが、これでもG1ウマ娘である。トレセン学園に時折現れる自称普通のウマ娘詐欺の一人である。
そんな彼女に声をかけるのは同室のダンツフレーム。心優しい彼女はミラクルがプールトレーニングが終わるたびにこうしてトレーナーへの恨み言を言うのを心配しているのだ。
「えっと……ほら、トレーナーさんも別に悪意があるわけではないでしょうし……うわっ」
「うえーん、ダンツちゃん慰めてー」
急に抱き着くミラ子に驚くダンツだが、気を取り直してミラ子の頭を撫でると、ミラ子はだらしない笑みを浮かべながらダンツに抱き着き続ける。そうしてしばらくして機嫌の治ったミラ子を見て一息ついた後、二人は部屋の中で思い思いに過ごしていたが、不意にミラ子が眉間に皺を寄せて自分の耳の指を突っ込む。
「むー……やっぱり気になる……」
「どうかしたんですか?」
「トレーニングの後からずっと耳の中に水が溜まってて……出ない」
「あー……」
片足でケンケンする等しているミラ子だが、水が出る様子はないのか眉間の皺は寄ったままだ。それでもしばらくあれこれしてたが、最終的にダンツの方を向く。
「ダンツちゃん、ちょっと水取ってもらってもいい? 自分でやるの怖いし」
「良いですよー。えっと綿棒綿棒……あった。じゃぁ、こっち来てください」
自分のベッドの上に座るダンツに、遠慮なく膝枕をしてもらうミラ子。そしてダンツはミラ子の耳に綿棒を差し込む。
「えっと、この辺の水も吸わせて……もうちょっと奥ですか?」
「うん……まだ奥かな」
手前から水滴を綿棒に吸わせていきつつ、奥の方に差し込んでいく。そして、ダンツからは見えにくい角度にまで綿棒が差し込まれると、ミラ子の顔が解れた。
「あ、取れた……うん、取れた取れた。あー、スッキリしたー」
「良かったですね先輩。じゃぁ綿棒も抜いたので、起きて貰って大丈夫ですよ」
「えー……折角だし、耳かきもお願いしちゃダメ? 最近やれてなくて」
突然のミラ子の言葉にダンツは大丈夫と言いかけるも、慌てて口を閉じ、別の言葉を発する。
「でも、耳の中が湿ってる状態での耳かきって耳の中を傷つける可能性があるからダメって聞いたことありますよ。さっきまで水が溜まってましたし、流石にそれは……」
「じゃぁ反対、反対側だけでもお願い!」
「いや、それなら乾いてからでも良いと思うんですけど……」
「今がいいのー!」
一度断られてなおねだるミラ子。ダンツも困った顔をするが、生来の気質から、根負けしてしまう。
「うーん、じゃぁやってみますけど……痛かったらすぐに言ってくださいね?」
「大丈夫大丈夫、ダンツちゃんなら問題ないよ」
気楽なミラ子の様子に少し心配になるダンツだが、気を取り直して耳掃除を始める。
ガザガザ……グジュジュ……
ゴシュゴシュ……ズズズ……
水が残っていた側よりは若干乾いているが、それでも水を吸ってペースト状になっている粉が綿棒に絡みつき、普段の耳掃除とは違う感触を与える。
「うわわ……なんか、普段より怖いかも」
「だ、大丈夫ですか? やっぱりやめとく方がいいんじゃないですか?」
「あ、いや、大丈夫大丈夫。大丈夫だから」
心配そうなダンツの声に慌ててミラ子は否定する。それでもまだ心配そうなダンツだが、改めて掃除を始める。
グジュグジュ……ガザガザ……
ジュジュ……ズズズ……
ふやけた耳垢も剥がされ、しばらく掃除した後にはミラ子の耳は綺麗になっていた。
「はい、これでお終いです、痛くなかったですか?」
「あー……スッキリしたー。ねぇダンツちゃん、やっぱり反対側も……」
「駄目ですよ、もっと時間を置いてからにしましょう」
「ちぇー」
少し不満そうにしつつもダンツの膝の上から体を上げるミラ子。ダンツも綿棒を片付ける。
「じゃぁ、寝る前にお願いしていい?」
「はい、大丈夫ですよ」
そうして夜に改めて耳掃除をした後、スッキリした顔で眠りにつくミラ子と、普段通りに寝るダンツの姿があった。そして後日。
「ミラ子ー! 逃げるなー! プールトレーニングから逃げるなー!」
「うわあああああ! トレーナーさんのバカー!」
逃げるミラ子に追いかけるトレーナー。暫くの間逃げ続けたミラ子だったが、最終的には確保され、お米様だっこでプールへと連れていかれる。
「あはは……大変だなぁ、ミラ子先輩」
「いやいや、そんな事はないだろうね」
「うわ! タキオンちゃん!?」
二人の様子を見ていて苦笑するダンツだが、不意に後ろからタキオンに声をかけられ思わず声を上げる。
「びっくりしたー……でも、どういうことなの? タキオンちゃん」
「いやいや、考えてもみたまえ。私達ウマ娘なら、人間から逃げる程度できないわけがないだろう? ましてや彼女はG1ウマ娘、ああやってトレーナーに追いつかれること自体が、彼女が本気で逃げていない証拠じゃないか」
「あ……それもそっか。でも、じゃぁなんでミラ子先輩はそんな事してるの?」
不思議そうに首を傾げるダンツにタキオンは何でもないように答える。
「簡単な話さ。あれはいちゃついているんだよ。波打ち際でカップルが待て待てー。捕まえてみなさい。とやり取りしながら走ってるだろ? あれと同じさ」
「ふえ!? せ……先輩、そんな事してるの!?」
「そうでもなければ論理的な説明はできない、と私は思うがねえ、ダンツ君も君の所のトレーナーにああやって追いかけられて、捕まえられたと言う体で抱き着かれてみてはどうかね?」
「ふええええ!?」
タキオンの指摘に驚き、運ばれていくミラ子を顔を赤くして見つめるダンツ。そんな彼女をタキオンは面白そうに見つめるのだった。