ウマ娘耳かき小説   作:雨宮季弥99

36 / 172
エアグルーヴで書いてみました。彼女って何気に嫁力高いのでは? と思うのは私だけでしょうか?

夫を尻に引いて、なおかつ献身的に尽くしてくれるような気がします。


エアグルーヴ’(地の文あり)

 12月。年末年始も近く、私達もレースや行事など様々な事を片付けなければ行けない季節。私も会長と共に様々な事をこなしてきたが、それはそれとして、今日はトレーナーの部屋の片づけを行っている。

 

 というのも、以前来た時には既に相当物が散らばっており、その頃は私も大事なレースを控えていた故に諦めていたが……だからこそ、この時期に大掃除をしてやろうと、計画は立てていたのだ。

 

「まったく、貴様はどうしてこうも部屋の片づけができないのだ、まったく」

 

「あー……すまんな、面目ない」

 

 トレーナーはそう言って謝ってくるが、それならば少しは掃除をしてほしい。大体何なんだ、上着やズボンを脱ぎっぱなし、仕事机こそ整理されているが、それ以外は足の踏み場もないほどにごちゃごちゃと物が散乱しており、台所を覗けばレトルトやカップラーメンの山。これでよく私の体調管理などできていたものだ。

 

「これもゴミ、これもゴミ。これももう使わないなら捨てろ。物が多いから部屋が片付かないんだとなぜわからない」

 

「いや、だって、最近はエアグルーヴのレースで頭が一杯でさ。どうしてもこっちのほうが……」

 

「ならば猶更自分の事もちゃんとしろ。トレーナーがウマ娘より先に倒れては本末転倒ではないか、たわけが」

 

「……返す言葉もない」

 

 まったく、私のトレーナーと言うのなら、もう少しちゃんとして欲しいものだが……こうして片付けている中で見つかる、私のレースに関係する情報や計画等、そう言ったものを見つけるとどうしても強くは言えなくなってしまう。実際、私がもっと強ければこいつももう少し時間の余裕もあったのだろう。まったく、度し難いな。

 

 ……だからこそ、たまには私が礼をせねばなるまい。私だけが恩恵を受けるなどと言う関係は公平とは言えないからな。

 

「ふぅ……これで大体片付いたか?」

 

 ゴミを纏め、服や必要な物を纏め、天井や壁の埃を取り、床の掃除をしていき、窓やベランダを全開にして換気をする。そしてゴミをゴミ捨て場に持っていっている間にある程度の換気を終えたので窓やベランダを閉めて暖房を付ける。

 

「いやー……綺麗になったねぇ」

 

 大体の掃除を終えた部屋の中でトレーナーが嬉しそうに呟いている。ふふ、頑張った甲斐があるな。だが、今日はそれだけでは終わらないぞ。

 

「さぁ、こっちにこい。後はお前の耳の中も掃除するぞ」

 

「あー……マジでするの? 部屋の掃除だけでも申し訳ないんだが」

 

「気にするな。貴様が難聴になっても困るからな」

 

 申し訳なさそうにしているが、私は忘れていないぞ。貴様が前に耳かきした時に、そのまま昼寝したいと言い出して昼寝したという事を。

 

「さぁ、準備をするから少し待っていろ。言っておくが、前みたいに逃げようなどと考えるなよ」

 

 念のためそう釘を刺しておいて、私は準備を整えていく。事前準備をちゃんとしておかなくては、準備をしておらずにこいつの頭をどかす事は避けたいからな。

 

「さぁ、準備はできたぞ。さっさと頭を乗せろ」

 

 正座をして膝を叩くと、トレーナーはおとなしく頭を置いた。さぁ、始めるぞ。

 

「さて……まずはタオルで拭いていくぞ」

 

 事前に温めておいたタオルでこいつの耳を拭いていく。人間の耳はどうも私達とは形が違うが……窪みもちゃんと掃除しなければならないな。

 

「あー……気持ちいい……」

 

「年より臭い態度をするな。お爺ちゃんか」

 

 気持ちよさそうに息を吐いているトレーナーに私は思わず突っ込みを入れた。

 

「いや……なんかさ、社会人してると、しんどいんだよ。特にこの仕事はお前達の人生を背負ってるようなもんだから、気を抜くわけにはいかないだろ?」

 

 緩んだ顔で言われても少々説得力はないが、だが、確かに普段のトレーナーは真面目に仕事をこなしてくれている。だからこそ私も信頼しているし、こう、私の事に強く責任を感じているというその姿勢も好きだ。

 

「ああ、そう言ってくれるのは嬉しいが。だからこそ、お前自身も健康でいて欲しいのだ。だから、あまり年寄り臭い事を言うな。気持ちがそちらに傾けば、体も傾くならな」

 

「……善処する」

 

 さて、そうしているうちに耳の外側は拭き終わったか。さて、それでは次は綿棒だな。

 

「それじゃぁ、外側をやっていくぞ」

 

 綿棒で耳の外の内側、広い所も窪みの所も満遍なく綿棒で擦っていく。水分を吸って湿っている粉はすぐに綿棒に絡みつき、黄色く汚していく。

 

「ふぅ、相変わらず粉が多いな。ツボは……この辺りとかどうだ?」

 

「あー……なんか耳が暖かくなってきてるな……気持ちいいよ」

 

「うむ、ちゃんとツボを押せてるようだな。さぁ、それじゃぁ中をやっていくぞ。動くなよ」

 

 耳かきを中に入れ、耳垢に引っ掻けていく。ふむ、今回は……大きくはないが、少々量があるな。

 

「片っ端から取っていくぞ。痒くてもいきなり動き出したりするんじゃないぞ」

 

「善処する」

 

 了解も得たのでまずは一番手前。ふむ、少々粉っぽいな、これなら引っ掻いているだけで崩れ落ちるだろう。

 

「カリカリカリ……カリカリカリ……」

 

 耳かきを動かすのに合わせ、擬音を呟いていく。以前耳かきをするときには擬音を呟いてくれると嬉しい。という風に言われた時には何を言っているのかと思ったが……。

 

 どういうものか調べるために自分で耳かき動画とやらを見ている時にこの擬音を聞いてみたが、確かにこれは悪くない。だが、私が呟いても気持ちいい物だろうか?

 

「トレーナー、本当にこうやって呟きを聞くのが気持ちいいのか? 私はプロではない、なんならプロの音声でも聞いてみるほうが……」

 

「いやいやいやいや、エアグルーヴがしてくれてるのにお前が呟いてくれなきゃ意味ないだろ。頼むよ」

 

「……まったく、我儘だな」

 

 まったく、本当に我儘だなこのトレーナーは。だが、こうして我儘を言ってくれるというのも嬉しい物だ。これぐらいの我儘なら付き合ってやれるというものだ。

 

「ガリガリガリ……カリカリカリ……」

 

 耳垢を削って行くと、ポロポロと欠片になっていき、下に落ちたものや小さくなった耳垢を掻き出していく。

 

「あー……うん、良いなぁ。前のでかいのを取ってもらうのも気持ち良かったけど、こうして何回も耳の中を掻いてもらうのもいいな」

 

「たわけた事を言うな。何回も掻いていたら耳の中が荒れる。できれば私としては普通にやりたいんだぞ」

 

 バカな事を言うタワケに付き合っていてはいつまでも終わらぬな。まったく。

 

「ガリガリガリ……ガリガリガリ……」

 

 最初はいくつも見えた耳垢だが、どれも崩れやすいのとそこまで大きいのが無いのとで、少しずつ崩しつつ、確実に掻き上げていく。おかげで随分と見やすくなった。この調子ならそろそろ終わるだろう。

 

「ザリザリ……ザリザリ……よし、もう少しだぞトレーナー。もう少しでほぼ取り終われる」

 

「ん……そうかぁ……もうちょっとやってほしいかなぁ……」

 

「たわけた事を言うな。まったく」

 

 軽くトレーナーの頭を叩き、耳かきを再開する。よし、塊はほぼ取れたな。後は、綿棒で粉を絡めとっていくか。

 

「ザリザリ……ザリザリ……ザリザリ……ザリザリ……」

 

 塊を大体取り終えた耳の中を綿棒で擦っていき、小さい粉や欠片をかき集めていく。外側を掃除したように真っ白であった綿棒が瞬く間に汚れていくのを見るとなぜか達成感を感じてしまうな。

 

「よし、これで小さい物も取り終えたぞ。後はローションでケアをしていくから、まだ動くんじゃないぞ」

 

 汚れた綿棒を捨て、タオルで温めておいたローションを別の綿棒に付ける。そして、そのままトレーナーの耳の中を塗っていく。

 

「ん? 冷たくないんだなローション」

 

「ああ。ある程度暖めておいた。前に冷たいのでやった時は少し驚いていただろ? 今回は大丈夫か?」

 

「ああ、気持ちいいよ。やっぱり、エアグルーヴは心遣いができる良いやつだなぁ……お前みたいなのが嫁に来てくれると嬉しいよ」

 

 突然そんな事を言われると、心臓が高鳴ってしまう。自分の顔に熱が篭るのを自覚してしまい、思わず綿棒の力加減を誤ってしまった。

 

「いっだ! いった!」

 

「と、突然バカな事を言うな! まったく……他の者にそう言う事を言うんじゃないぞ」

 

 嫁に来てほしいなど……いや、こいつにそんな気が無いのはわかってる。わかってはいるが……それでも動揺するなというのは無理があるだろ。

 

「……ほら、どうだ? 大体塗り終えたぞ」

 

 耳垢の量が多かったために全体的に塗る事になったが、まぁ大丈夫だろう。これで耳の中が荒れる事もないだろう。

 

「ああ、多分大丈夫……だと思う。これで終わりか?」

 

「む……わかってる、そんな期待した目で見るな」

 

 横目でこちらを見上げるトレーナーにため息をつきつつも、私は顔を近づけ、そして、そっと息を吹きかけた。

 

「ふ~……ふ~……まったく、これのどこがいいのか……ふ~……ふ~……」

 

「うお……いやぁ、これしてもらうと背筋がゾクッ……って感じがして気持ちいんだよ。ローション付きだと猶更な」

 

そう言っているトレーナーの口元の緩み具合を見ていると本当に気持ちいいんだろうが……まったく、普段のこいつとはギャップがありすぎるな。少なくとも人前でこんな顔などしたことがないくせに、私には見せてくるんだから。

 

「さて、こちら側は終わりだ。反対の耳を出してくれ」

 

「ん、わかった」

 

 体を入れ替え、反対側の耳をこちらに向けたトレーナーの耳をよく見ていく。どうやらこちらも汚れ具合は似たり寄ったりと言ったところか。

 

「こちらもタオルで外側からだな。ゴシゴシ……ゴシゴシ……」

 

 耳の外側をタオルで包んで熱を伝えつつ、裏側を擦り、表側の窪みを指にタオルを纏わせてギュッギュッと押し込んで擦っていく。

 

「あー、痒い所もそうやって擦られると気持ちいいんだなぁ……人にやってもらうのって気持ちいいんだよなぁ……」

 

「まったく……だらしがない」

 

 緩んだ頬でそんな事を呟くトレーナーに呆れつつ……だけど、どこか心が温かくなるのを感じながら、タオルを置いて綿棒を手に取る。

 

「さぁ、中の掃除に移るぞ。ふむ、こっちの耳垢も崩れやすいな。突いて崩して取りやすくして……」

 

 崩さずに取る。というのは難しい。なので、いっそのこと、崩れる分はそのままにして、崩れなかった分を掻きとった後に、下に落ちた分をかき集める。これが耳かきがもっと上手なものならうまく崩さずに掃除できるのだろうが、ままならないものだ。

 

「ザリザリ……カリカリ……ガリガリ……」

 

「ガザガザ……ガザッ……ゴゾッ……」

 

 耳垢の取れ方に合わせて囁く言葉を選びつつ、掃除を続けていく。ふぅ、改めて掃除していて思うが、こいつは耳の掃除が疎かになっているな。部屋の掃除もそうだが、私がもっとキチンと世話をしてやらなければならないな。

 

「ガザガザ……ふぅ、こっちも大体取れてきたか。痒い所か、そう言うのは大丈夫か?」

 

「ん。ああ、大丈夫大丈夫。特に痒いとかはないよ」

 

「それなら良かった。さて、仕上げに取り掛かろう」

 

 今回は特にしつこい耳垢もなかったから順調に追われそうだ。さて、新しい綿棒にローションを付けて……と。

 

「耳垢を取ったところを重点的に……ヌリヌリ……ヌリヌリ……」

 

 耳垢を取って赤くなってる部分を塗りつつ、トレーナーの反応を確認するが……うん、反対の耳をした時と同じようだな。安心した。

 

「さぁ、ローションも塗り終わったぞ。このまま、まだ動くなよ……ふ~……ふ~……」

 

 顔を近づけ、静かに息を吹きかけて……よし、これで終わりだな。

 

「ふぅ、これで耳かきは終了だ。さて、どうせこのまま昼寝するつもりだろ?」

 

「んぐ……バレた?」

 

 困ったように私を見上げるトレーナーに私はため息が出そうになるが堪える。

 

「バレないでか。前は私のスカートを掴んでまで昼寝をしたくせに……構わないから、今日もこのまま寝ていろ」

 

「う……悪いとは思うんだけど、エアグルーヴの膝枕も耳かきも気持ちよくて眠くなって……」

 

「構わないと言っているだろ。さぁ、さっさと寝てしまえ」

 

 そう言って私は子守歌を歌いながらトレーナーの肩を一定のリズムで叩いてやる。すると、徐々にトレーナーの目が閉じていき……程なくして閉じきり、穏やかな寝息を立て始めた。

 

「……まったく、この寝顔を見たいと思ってるなんて言ったら、頭に乗りそうだな」

 

 申し訳なさそうな顔をしているこいつについ言いそうになったが、あまり頭に乗られても困るからな。とは言え。

 

「……こういう時ぐらい、ゆっくり見続けても良いよな」

 

 寝続けるトレーナーの顔を見ながら、私は自分の口元が緩んでいるのを自覚していた。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。