今回が今年の初等となりますが、今年も頑張って投稿を続けれたらと思います。
12月。年末年始も近く、私達トレーナーも愛バのために色んな仕事が山積みになる時期だ。それは当然彼女達もなんだけど、その合間を縫って、今日はエアグルーヴが私の部屋の掃除に来てくれた。
「まったく、貴様はどうしてこうも部屋の片づけができないのだ、まったく」
「うう……返す言葉もございません」
まるでお母さん。と言った風貌で、エアグルーヴがてきぱきと散らかった部屋を掃除していく。だってだって、社会人してるとプライベートの余裕なんて減る一方なんだよー。もっと時間が欲しいんだよー……なんて泣き言もスルーされて、エアグルーヴは掃除を続けていく。
「これもゴミ、これもゴミ。これももう使わないなら捨てろ。物が多いから部屋が片付かないんだとなぜわからない」
「いや、だってだって、最近はエアグルーヴのレースで頭が一杯だったんだもん。私よりエアグルーヴのほうが大事だもん」
「ならば猶更自分の事もちゃんとしろ。トレーナーがウマ娘より先に倒れては本末転倒ではないか、たわけが」
「……はい、そうします」
うう……私のトレーナーとしての立場ってなんなんだろう……実家でお母さんに怒られてた記憶ばっかりぶり返すんだけど……そんなん言ったら怒られそうだし、おとなしく掃除しよう……。
そうして掃除をしていくけど、ほとんどエアグルーヴが手際よくやっていくからあっという間に部屋は片付き、天井や壁の埃も落とされて大々的に換気されて、掃除前と比べたら比べ物にならない程綺麗になった。
「ふぅ……これで大体片付いたか?」
額の汗を拭いて呟くエアグルーヴ。いや、申し訳ないなぁ。
「いやー……綺麗になったねぇ」
エアグルーヴには申し訳ないとは思いつつ、綺麗になった部屋がとても嬉しい。ちょっと、この状態を維持できるように頑張らないとなぁ。
「さぁ、こっちにこい。後はお前の耳の中も掃除するぞ」
「えーと……え、本当にするの? 流石に申し訳ないんだけど」
そう、今日は部屋だけでなく、私の耳掃除をするとまで言われてるのだ。うーん、部屋の掃除だけでも十分だからこれ以上手間をかけさせるのもなぁ……。
「気にするな。貴様が難聴になっても困るからな」
断ろうとした私を一刀両断に切り捨てられた。あれ、私の発言権ってなくない?
「さぁ、準備をするから少し待っていろ。言っておくが、前みたいに逃げようなどと考えるなよ」
うっ、しっかりと釘まで刺された。いや、確かに前回は逃げようとしたけど。でも、年下の女の子に耳かきしてもらうのって抵抗あるんだよ。
「さぁ、準備はできたぞ。さっさと頭を乗せろ」
そんな私を置いて、エアグルーヴは準備を終えると、正座して膝をポンポンと叩く。諦めた私はおとなしく彼女の膝に頭を置いた。
「さて……まずはタオルで拭いていくぞ」
温められたタオルで耳をゴシゴシと拭かれていく、タオル越しに彼女の指が動き、上手に耳を拭かれているのがわかる。
「あー……気持ちいい……」
伝わってくる温かさに思わずほう……と息が漏れ出した。
「年より臭い態度をするな。お婆ちゃんか」
グサッ! わ、私お婆ちゃんどころかおばちゃんでもないもん! お姉ちゃんだもん!
「グ……グルーヴ? それは流石に酷い……というか、トレーナー業が過酷だから疲れが溜まってるの! 大変だよ、グルーヴのレースの為にあれこれしたり、インタビューや雑誌の取材のタイムスケジュールとか……私、頑張ってるもん! だからちょっとため息が出ただけだもん!」
そう言って彼女を見上げると、彼女はやれやれと言わんばかりにため息をついていた。なんでえ!?
「ああ、そう言ってくれるのは嬉しいが。だからこそ、お前自身も健康でいて欲しいのだ。だから、あまり年寄り臭い事を言うな。気持ちがそちらに傾けば、体も傾くならな」
「……善処します」
うう、反論できない。病は気からなんて言うし、確かに気持ちに体が引きずられるのはあるけどさ。
そんなやり取りをしている間にもタオルは動いていて、程なくして外側は拭き終わったのか、タオルが離れていった。
「それじゃぁ、外側をやっていくぞ」
そう言って、彼女は綿棒で外側をゴシゴシと擦っていく。少しして視界の端の方に捨てられた綿棒が見えたけど、かなり黄色くなってた。あー、お風呂上りの耳を掻いてるとあれぐらい粉がゲル状になってたりするのよね。
「ふぅ、相変わらず粉が多いな。ツボは……この辺りとかどうだ?」
「あー……なんか耳が暖かくなってきてる……気持ちいい……」
綿棒で押された場所から、耳がジンワリと温かくなる。これも気持ちいいなぁ。エアグルーヴって耳ツボ押すのも上手なのよねぇ。
「うむ、ちゃんとツボを押せてるようだな。さぁ、それじゃぁ中をやっていくぞ。動くなよ」
綿棒が離れ、耳かきが中に入ってくる。ちょっと怖いんだけど……同時に期待もしちゃう。
「片っ端から取っていくぞ。痒くてもいきなり動き出したりするんじゃないぞ」
「善処しまーす」
大丈夫大丈夫、エアグルーヴならきっと上手にやってくれるから。だって、私の自慢の愛バだからね。
「カリカリカリ……カリカリカリ……」
私の期待を裏切らず、エアグルーヴは上手に耳かきをしてくれる。耳かきの動きに合わせて囁かれるオノマトペも、耳を抑えるしなやかな彼女の指も、オノマトペの合間に聞こえてくる彼女の息遣いも、全てが私を気持ちよくしてくれる。
「トレーナー、本当にこうやって呟きを聞くのが気持ちいいのか? 私はプロではない、なんならプロの音声でも聞いてみるほうが……」
「いやいやいやいや、エアグルーヴがしてくれてるのに貴女が呟いてくれなきゃダメダメ! ぜーったいダメ!」
とんでもない事を言うエアグルーヴを慌てて止める。なんで他の人のオノマトペなんて聞かなきゃだめなのよ、こんな至福の時に!
「……まったく、我儘だな」
ふぅ、とため息をつかれたと思ったけど、エアグルーヴは耳かきを再開してくれた。あー、良かったぁ。
「ガリガリガリ……カリカリカリ……」
再び聞こえてきたオノマトペと共に、耳かきの動きに合わせるように耳垢が取れていく。と言ってもなんかポロポロ下に落ちるんだけど、エアグルーヴはそれを上手に掻きあげてくれる。
「あー……うん、凄く良い。前の大きいのを取ってもらったのもすっごい気持ち良かったけど、こうして何回も耳の中を掻いてもらうのもいいわね」
「たわけた事を言うな。何回も掻いていたら耳の中が荒れる。できれば私としては普通にやりたいんだぞ」
んー。そんなこと言われても気持ちいいのは気持ちいいのにぃ。でも、文句言ってエアグルーヴの機嫌を損ねるのも嫌だし黙っておこう。
「ガリガリガリ……ガリガリガリ……」
そんな事をしつつも彼女の耳かきは続く。脆い耳垢が崩され、下に落ちた欠片が掻き上げられ、固い耳垢はそのまま剥がされ、耳の中が綺麗になっていき、通りが良くなった分、彼女の囁きがよく聞こえるようになる。とても綺麗で、とても優しい声だ。
「ザリザリ……ザリザリ……よし、もう少しだぞトレーナー。もう少しでほぼ取り終われる」
「ん……そうかぁ……もうちょっとやってほしいかなぁ……」
「たわけた事を言うな。まったく」
名残惜しそうに呟くけど、彼女は呆れるだけで取り合ってくれそうにない。残念。そうこうしていると、耳かきが抜かれ、代わりに綿棒が入ってきた。
「ザリザリ……ザリザリ……ザリザリ……ザリザリ……」
耳かきとは違う感触で耳の中を擦られ、粉が掻き出されていく。んー、捨てられた綿棒がこれでもかというほど黄色いと、なんか微妙な気分。
「よし、これで小さい物も取り終えたぞ。後はローションでケアをしていくから、まだ動くんじゃないぞ」
あ、ローションだ。これ、気持ちいいんだけど、冷たいんだよねぇ。いやいや、それでも冷たいのが来るのがわかっていたら驚いたりなんてしないから、ドーンとこーい……あれれ?
塗られていくローションは冷たくない。いや、程々に温かいからこれはこれで気持ちいいんだけど。
「ねぇ? 冷たくないの? このローション」
「ああ。ある程度暖めておいた。前に冷たいのでやった時は少し驚いていただろ? 今回は大丈夫か?」
あ、前の時に冷たくて驚いたの覚えててくれたんだ。んー、これだからエアグルーヴは、気配りができるんだよね。お嫁さんになってほしい。いや、なって!
「んー、気持ちいいし、心遣いのできる愛バがとっても嬉しい。ねぇグルーヴ、私のお嫁さんになってよ。ねぇねぇ。大事にするからさ」
気持ちのままにエアグルーヴにそんな事を言うと、いきなり綿棒が思い切り耳の中を擦ってきた。
「いっだ! いった!」
突然のあまりの痛みに思わず声が上がり、耳を抑えそうになる。うう……な、なんでぇ……。
「と、突然バカな事を言うな! まったく……他の者にそう言う事を言うんじゃないぞ」
なんか怒られたんだけど。なんでー。私、そんな怒られること言ってないのにー。
そんな抗議をよそにエアグルーヴはローションを塗り続け、あっさりと塗り終えてしまった。
「……ほら、どうだ? 大体塗り終えたぞ」
「んー、多分大丈夫……だと思うけど……ねぇ、終わり」
「む……わかってる、そんな期待した目で見るな」
私の視線からプイと横を向いて彼女だけど、軽くため息をついた後に私の耳元に顔を近づけてきて……。
「ふ~……ふ~……まったく、これのどこがいいのか……ふ~……ふ~……」
そんな事を言いながらも息を吹きかけてくれる私の愛バマジ愛バ。
「はふぅ……いやぁこれがないとダメなんだって。こう、背筋がゾクッ……てして気持ちいいんだから。ローション付きだと猶更気持ちいいんだって」
エアグルーヴにそう伝えると、彼女は理解できない物を見るような、怪訝な表情を浮かべるが、それ以上は突っ込みを入れてこず、優しく息を吹きかけてくれた。
「さて、こちら側は終わりだ。反対の耳を出してくれ」
「ん、わかった」
体を入れ替えて反対側の耳を上にする。すると、エアグルーヴはジッと私の耳の中を観察してきた。
「こちらもタオルで外側からだな。ゴシゴシ……ゴシゴシ……」
最初と同じように、まずタオルで耳の外側や裏側を丹念に擦ってもらう。ふやぁ……気持ちいい……。
「あー、痒い所もそうやって擦られると気持ちいいなぁ……やっぱり人にやってもらうのって気持ちいいんだよぉ……」
「まったく……だらしがない」
緩んだ顔になってるのが自分でもよくわかるけど、エアグルーブは口では呆れながらもタオルで擦り続けてくれる。
「さぁ、中の掃除に移るぞ。ふむ、こっちの耳垢も崩れやすいな。突いて崩して取りやすくして……」
中に耳かきが入ってきて、最初と同じように耳垢が擦られる。耳垢が崩れる音ですら心地よさを感じてしまう。
「ザリザリ……カリカリ……ガリガリ……」
「ガザガザ……ガザッ……ゴゾッ……」
耳垢が取れる時、耳かきが動く時、エアグルーヴのオノマトペが耳の中に響き、徐々に大きくなるのが楽しい。もっと、もっと聞いていたい。
「ガザガザ……ふぅ、こっちも大体取れてきたか。痒い所か、そう言うのは大丈夫か?」
「ん。うん、大丈夫大丈夫。特に痒いとかはないよ」
「それなら良かった。さて、仕上げに取り掛かろう」
もっと聞いていたいのに、もう終わっちゃうのが名残惜しくて、勿体なくて。でも、この後のローションや息の吹きかけを早くして欲しくて、矛盾した気持ちが自分の中に生まれている。
「耳垢を取ったところを重点的に……ヌリヌリ……ヌリヌリ……」
そんな事を思っている間に耳垢は全部取れていたようで、ローションが塗られていた。ああん、考え事なんてするんじゃなかった。
「さぁ、ローションも塗り終わったぞ。このまま、まだ動くなよ……ふ~……ふ~……」
今度は考え事なんかせず、エアグルーヴの息吹きかけを堪能する。はふぅ……ゾクッてしちゃうよぉ。さぁ、後はお昼寝だ。何と言われようと断固として動かないからね。
「ふぅ、これで耳かきは終了だ。さて、どうせこのまま昼寝するつもりだろ?」
「んぐ……バレた?」
心の中で決意を固めてるとズバリ、図星を突かれてしまった。あっれー、バレてた?
「バレないわけが無いだろう。前は私のスカートを掴んでまで昼寝をしたくせに……構わないから、今日もこのまま寝ていろ」
「う……悪いとは思うんだけど、エアグルーヴの膝枕も耳かきも気持ちよくて眠くなって……」
うん、普通に重いだろうし退屈な思いをさせると思ってるよ? 思ってるけど、愛バとの触れ合いが嫌なトレーナーなんかいないじゃん。つまりそう言う事なの。
「構わないと言っているだろ。さぁ、さっさと寝てしまえ」
そう言って、彼女は肩を一定のリズムで叩きながら子守歌を歌ってくれる。あー、これ、お母さんがやってくれたなぁ……あー……ねむ……ねむ……。
襲ってくる睡魔に抗うことなく、私は眠りに落ちていった。