ウマ娘耳かき小説   作:雨宮季弥99

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マチカネフクキタルの男トレーナー視点となります。

フクキタルのトレーナーってラッキーアイテム関連でけっこう振り回されてそうですけど、なんだかんだ言ってもフクキタルは一途なのでヨシ。


マチカネフクキタル(男トレーナー視点

 はぁー……今日はやっと休みだ。最近本気で疲れが溜まってたからなぁ。今日はゆっくりするぞ。

 

 大体、その原因はどう考えてもフクキタルなんだよ。あいつ、何かにつけてラッキーアイテムだのなんだのといって変な物持ってくるからなぁ……サイレンススズカも困ってるんだっけ。

 

寝起きの頭で今度向こうさんにどうお詫びをすべきかと考えていると、部屋の扉がノックされた。服を整えてから扉を開けると、そこには元凶であるマチカネフクキタルが立っていた。

 

「というわけでトレーナーさん、耳かきしましょう」

 

「……休日にいきなりなんなんだ……」

 

 開口一番の耳かき発言に俺は頭を抱えそうになる。なんなんだよ……なんでいきなり耳かきなんだ、わけがわからないよ。

 

「トレーナーさーん、良いですよね、耳かきしても。シラオキ様も夢でお告げしてくれたんですよ」

 

「いや……寝起きでするもんじゃないような……というか、シラオキ様のお告げって本当か?」

 

「本当です! さぁさぁ、こっちに来てください」

 

 俺の疑いの視線をものともせず、フクキタルは腕を掴んできてぐいぐいと引っ張って、そのままベッドに俺を座らせた。 

 

「……というか、耳かきってあの金の耳かき使うのか? あれ、壊れたりしたら怖いんだけどなぁ……普通の耳かきじゃダメなのか?」

 

 俺の言葉を聞いたフクキタルは、手は耳かきの準備のために動かしながらも、顔だけこちらを振り向いてきた。 

 

「何を言うんですか、道具は使ってこそです。それにあれは特注の純金耳かきなんですから、使わなかったら意味ないじゃないですか」

 

「いや、確かちょっと混ぜ物してるんだろ? それって純金じゃないんじゃ……」

 

「いいえ、日本では99.99%あれば純金ですので純金で間違いありません。そもそも、金は柔らかいので、硬度維持のためにちょっとの混ぜ物をするのはおかしい事ではないのです。さぁ、ごちゃごちゃ言わず、おとなしく耳かきを受けるのです」

 

 俺の問いを強引に打ち切り、準備を終えたフクキタルは俺を抑え込んで彼女の膝の上に俺の頭を乗せてくる。仕方ない、こうなったらもう逃げようがない。

 

「まずはこの、富士の水をお湯にして、温めたタオルで擦っていきますよ」

 

「だから、それは別に市販の水だから霊験も何もないんじゃ……」

 

 俺が疑問を呈するが、フクキタルは聞く耳を持たずに準備を続ける。仕方がないので、俺もそれ以上は言わないことにした。

 

「ゴシゴシ……ゴシゴシ……どうですかトレーナーさん? 痒い所はないですか?」

 

 温められたタオルが耳をゴシゴシと擦ってくれる。ホカホカと熱を帯びたタオルにくるまれ、フクキタルの指の動きに合わせて形を変えるそれの感触がとても気持ちいい。

 

「ん、ああ、大丈夫だ。痒くはないよ。このままやってくれ」 

 

「はい、わかりました」

 

 ゴシゴシ、ゴシゴシ。とタオルの気持ち良さに浸りながらフクキタルの膝枕を楽しむ。……あれ、これって傍から見たらかなりやばくないか? 

 

「さて、それでは。お待ちかね、この純金の耳かきを使いますよ」

 

 そんな俺の疑問をよそに、タオルが取られる。そして横目に見えたのは、窓から差し込む光を反射して輝く金の耳かきだった。

 

「……やっぱ使うのかぁ」

 

 見覚えのある金の耳かきに俺はため息がでそうになる。いや、嫌いじゃないんだけどな。嫌いじゃないんだが、いかんせん俺みたいな小市民には馴染みが無さ過ぎる。

 

「勿論です!」

 

 俺の言葉にフクキタルは実に良い笑顔で答えた。今はその笑顔が無性に腹立つ。 

 

「カリカリカリ……カリカリカリ……どうです? トレーナーさん、この黄金の触れ心地は」

 

「ああ……うん、馴染みはないが、気持ちいいよ」

 

 金の柔らかくしなやかで、それでいて確かな硬さを感じるその感触は、ステンレスや鉄製の耳かきよりも優しくて、俺は耳かきの気持ち良さと共にこの感触を楽しむ。

 

「カリカリカリ……カリカリカリ……トレーナーさんの耳垢を、カリカリっと掻いていきますよー。カリカリカリ」

 

 耳かきが掃除するたび、耳垢を取るたびにフクキタルのカリカリという言葉も良く聞こえるようになる。ああ、くそ、気持ちいいなぁ。こうして耳かきされていると、聞き慣れているはずのこいつの声ですら気持ちよく感じてしまう。

 

そうして気持ち良さに浸っていると、ペリッという音と共に耳垢が取れた。瘡蓋を剥がすような気持ち良さを感じている間に、ティッシュに耳垢が捨てられた。茶色く濁った耳垢が金の耳かきの上に乗っているという光景がどこか背徳的な感じがしてしまう。

 

「やはり、シラオキ様のお告げは正しいのです。トレーナーさんの耳の中、ちょうど掃除頃ですよ。ほら、次の耳垢に、カリカリカリ……カリカリカリ……」

 

 そう言ってフクキタルが次の耳垢に取り掛かる。こいつ、何かにつけてシラオキ様のお告げって言ってくるけど、実際どうなんだか……。

 

「本当なんだろうな……?」

 

 尋ねてみるが、フクキタルは俺の言葉を無視して耳かきに取り組んでいる。これ以上あれこれ言っても仕方なさそうだな。追及は諦めるか。

 

「カリカリカリ……カリカリカリ……次の耳垢も、カリカリカリ……ペリッといって……はい、取れましたよ、トレーナーさん」

 

 そんな事を思っている間に、次の耳垢はあっさりと取れて、最初に取れた耳垢の隣に捨てられた。うーん、これなら耳かきに集中してたほうが良かったかな。

 

「ではトレーナーさん、次は梵天をしていきましょう」 

 

「ん。ああ、わかったよ」

 

 軽く後悔してる間に耳かきは終わったようで、次は梵天をしてくれる。耳かきで熱くなったところをコショコショと梵天が擦るのは気持ちいいし、梵天が入ってくるのを待っていると……お、おおお!? 

 

「ゴーシゴシ、グールグル、トレーナーさんの耳の中をゴシゴシ、ゴシゴシ」

 

「おお……おぉ……なんだこの梵天……気持ちよすぎる……」

 

 なんだこれ? なんだこれ!? 今までの梵天なんかと比べ物にならない。フワッフワで、それでいて滑らかに耳の中を擦っていく。こんな極上の梵天、俺は知らないぞ。 

 

 ああ、ヤバ……これ、耳かきより気持ちいいかもしれない。これだけでもう幸せだ……。

 

「ふふふ、トレーナーさん、そんなにこの梵天が気に入りましたか?」

 

「ああ。これ、本当に気持ちいいな。ふわふわして……柔らかくて……耳の中が幸せって感じがする。こんな梵天、どこで手に入れたんだ?」

 

 こんな梵天があるなら、どれだけ高くても買ってしまうだろう。というか、今日休みなんだし、即買いに行くぞ。

 

「んー。では、実物を見せるので、当ててみてください」

 

 ん? 当てる? どういうことだ? お、これがその梵天か。ん? 白じゃなくて栗毛色? 珍しいな。

 

「ん? なんだこれ? フクキタルの尻尾とまったく同じ色……え、これってまさか」

 

 思わず頭を上に向けると、俺の愛バは実にいい笑顔を浮かべていた。 

 

「はい、トレーナーさんの想像通り、これは私の尻尾の毛を使った梵天です」

 

 ……え? マジで? これ、お前の尻尾の毛使ったのか? え、ウマ娘にとって尻尾ってめちゃくちゃ大事じゃん。え、本当に使ったの?

 

「え……いいのか? お前、自分の尻尾の毛をこんなのに使って」

 

 思わずそう聞くと、フクキタルは笑みを浮かべたまま答えてくれた。

 

「良いんです。トレーナーさんが気持ち良くなってくれてるんですから、これぐらい、貴方の愛バとして当然の範疇です! さートレーナーさん、もっと気持ち良くなってください」

 

 そう言うと、彼女は俺の頭の向きを戻して、再び梵天で耳の中を掃除する。グルグルと耳の中で梵天が回転するたび、ゴシゴシと上下に動くたびにふわふわで滑らかで、優しい肌触りの梵天の感触に、俺は癒される。

 

「さて~、それでは掃除は終わったので……顔を近づけてと……ふ~……ふ~……」

 

 おおお……フクキタルの吐息が……前の耳かきの時よりも直に感じてる……梵天で耳が気持ちよくなったところでのこれは反則だろ……。

 

「ふっふっふっ。トレーナーさん、気持ちよさそうですねぇ。さぁ、反対側もしましょうねー」

 

「お……おう。頼む」

 

 促されるまま、反対側の耳を上に向けると、最初と同じように、温められたタオルで耳が拭かれていく。タオル越しでもわかるフクキタルの指の動き。なんか、恥ずかしいんだよなぁ。

 

「なぁ、フクキタル。その……あんまり指でゴシゴシされるのって恥ずかしいんだぞ」 

 

「むむ、何を言ってるのですかトレーナーさん。これは健全なマッサージの一種であり、何一つやましい事はありません」

 

 俺の言葉にフクキタルはド正論で返してきた。クソッ、普段は頓珍漢な事を言うくせに……!

 

 俺の憤りをよそにフクキタルは再び金の耳かきで耳かきを始めた。

 

 あの、金の慣れない感触と、耳かきによる気持ちのいい感覚に、俺は今度は無言で味わっていく。

 

「ふふ、トレーナーさん、なんだかんだと言いながらも、やはりこの耳かきはお気に入りですね。作った甲斐があるというものです」

 

「そりゃまぁ……気持ちいいし。お前が用意してくれたものなら猶更だし」

 

「……トレーナーさん、真顔で凄い事言わないでください」

 

 俺の返答にフクキタルが一瞬声が詰まったんだが、俺何か変な事言ったか? 

 

「さぁさぁ、気を取り直して耳掃除しますよ。カリカリカリ……カリカリカリ……」

 

 そんな俺の疑問をよそに耳かきは進んでいくが、そんなに汚れてなかったのだろう、耳かきは比較的あっさりと終わった。そして、俺はそれをそんなに残念だと思わなかった。もうすぐ、あの梵天を味わえるんだ。

 

「ではでは、梵天でクシュクシュ……ゴーシゴシ……」

 

 あー……やばいなこれ、この梵天だけがもう、気持ちよすぎてこれだけをずっと味わいたい。耳の中までフクキタルで満たされるような、そんな錯覚すら覚えそうで、もう市販の梵天を使うなんて考えられない。 

 

「さぁ、梵天も終わりましたので……ふ~……ふ~……。はい、これで耳かきお終いです。トレーナーさん、どうでしたか? 癖になりそうですか?」

 

「む……いや、耳かきは癖にはできないんだよ。わかるだろ?」

 

 至福の時間だったが、耳かきはやりすぎると耳の中を傷める。ウマ娘に体調管理を徹底するよう指導してるトレーナーが、自分から体調を崩すような真似はできない。というか耳の中の異常って正直怖すぎて、いくら梵天が気持ち良くても、それよりも恐怖のほうが勝る。

 

「ええ、勿論。耳かきそのものは癖にはできませんが……ですので、こちらを差し上げます」

 

 そう言うと、フクキタルは梵天を俺の手に握らせてきた。

 

「ん? 良いのか? これ、作るのに相当手間がかかっただろ?」

 

「ええ。勿論手間はとてもかかりました。この毛の質を維持するのに何か月も手入れをしましたからね。大変なんですよ、これだけの艶を出すのって」

 

 実際その通りなんだろう。これだけ気持ちいい梵天が、普通の手入れがされてるだけの尻尾の毛で作れるとは思えない。相当手間暇がかかっていたはずだ。本当に良いのか?

 

「トレーナーさん、これだけ手間暇かけて作られた梵天……気持ち良かったですよね? これなら、頻繁に使っても耳を傷めませんし、何より、これでいつでもどこに居ても私の存在を感じられますよ」

 

 俺の葛藤を気にしないかのように、フクキタルは梵天を握った俺の手を握ってくる。いや、気持ちは嬉しいんだが、後半なにか重い事言ってないか? 大丈夫か?

 

「いや、そこまで深い意味を与えられても困るんだが……まぁいいや。ありがたく頂くよ」

 

 ここまで言われては断るのも申し訳なく、俺はありがたくフクキタルの梵天を貰う事にした。これでいつでも梵天の感触を味わえるが……これからもフクキタルが何かにつけて耳かきしてきそうなのは、やはりトレーナーと生徒という立場上、困った事なんだよなぁ。他のトレーナーはこんな事してないだろうなぁ。


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