彼は特殊な訓練を受けています。他の方がバクシンで寝れる保証はありません。でも、戦場で生まれて銃声とかが子守歌替わりだった。なんてキャラをたまに見ることがありますので不可能ではないと思います。
ん……うーん……眠い……まだ昼間だってのに妙に眠い……。そう言えば、最近は睡眠時間も中途にしか取れてないから、それのせいか……?
いや、こないだスプリンターズステークスを終えたばかり、次はマイルチャンピオンシップに向けて、必要なレースへの勝利、トレーニング。それから、インタビューとかも入ってるから、それへの対応……。
やることが多いが、バクシンオーにレースに集中してもらうためにも頑張らなきゃ……頑張らな……きゃ……
……あれ? なんだ? なんか、視界がおかしい……頭の横……柔らかい何かに頭を乗せてるし、良い匂いがしてきて……なん……だ?
「ん……ん……? な、なんだ……?」
「おはようございますトレーナーさん。どうやらお疲れのようですね」
「うおっ! バ、バクシンオー!?」
ボーっとした頭の中に突然聞こえてきたバクシンオーの声に意識が覚醒し、上を向こうとして変な動きをしたせいで体が下に落ちそうになるのをバクシンオーに支えられる。な、なんだ? なんなんだ!?
「本日のトレーニング内容を聞くためにここに来たところ、トレーナーさんが机に突っ伏して寝入っていたのでここまで運びました。どうですかトレーナーさん? 私の膝枕は気持ちいいでしょう」
「お……おう、そうなのか。あ、そうだな……確かに気持ち良かったよ。じゃぁ起きた事だし俺はどくから……」
説明を聞いて、ようやく自分がベッドの上でバクシンオーに膝枕をされてる事に気づいた。そりゃ気持ち良いわけだが……起きるか。このままじゃ心臓に悪い。
「では、トレーナーさんも起きたのでここから耳かきを始めましょうか」
起き上がろうとした頭を抑え込まれ、そのままバクシンオーの顔が俺の耳に近づいた。う、耳にあいつの息遣いが聞こえてきて、さっき以上に心臓に悪い。
「ちょ、バクシンオー。い、いきなりすぎて何が何だか……」
なんとか起き上がろうとするが、バクシンオーに抑えられてたらどうしようもない。くそ、加速力の為に最近は筋力強化のトレーニングを積ませていたのがこんな形で仇になるとは。
「トレーナーさん、私は日頃トレーナーさんに大変お世話になっています。なので、今日はそのお礼も兼ねてトレーナーさんに耳かきをしたいと思います。トレーナーさんも、耳かきをするのは随分と久しぶりのようなのでちょうどいいわけです」
「あ……? ああ、そう言えば前にやってもらってからけっこう時間は経ってるが……いや、だからって寝込みを襲うな。本気で何事かと思ったぞ」
机で仕事してたはずが気づけば愛バの膝枕で寝てたとか、本気でわけがわからなかったからな。次はもうやらないでほしい、心臓に悪すぎる。
「はい、大変失礼しました。では、説明もしたのでこのまま耳かきをしていきましょう!」
こいつ……反省してないだろ。そんな俺が考えているのをよそに、バクシンオーはタオルを手に取って俺の耳を拭いてきた。
ゴシゴシ……ゴシゴシ……
ギュッギュッ……ゴシゴシ……
暖かいタオルにくるまれ、耳を全体的に、それでいて窪みなども念入りにゴシゴシと擦られる。凄い気持ち良いんだが……前に耳かきしてもらった時にはこれ、なかったよな。
「うお……前はこんなのなかったよな? どうしたんだ?」
「以前ミホノブルボンさんから教えてもらいました。その様子ではトレーナーさんも気持ちよさそうで何よりです」
そう言えばミホノブルボンとは仲が良いんだったな。仲が良いというか、バクシンオーの方からぐいぐい行ってると言うか……彼女、感情が良くわからないんだよなぁ。
なんてことを考えてると、タオルが耳から離れた。水で濡れ、さっきまで温かさに包まれていた耳が外気に触れてひんやりとする。
「トレーナーさんの耳垢は粉っぽいので、綿棒で絡めとっていきますね……ふむふむ、水分を吸った分、粉がペースト状になっていますね。なるほど、これは取りやすいです」
……なんというか、耳の中にどろッとした汚れがこびりついてると思うとなんかやだな。早く取ってくれるといいんだが。
「ゾリッ……ゾリッ……ふむふむ、外側の広い部分も、窪みの部分も、綿棒で念入りに、掃除をしていって……」
ゾリッ……ゾリッ……
ズリッ……ザリッ……
綿棒が耳の中でドロドロの汚れをこそぎ落していくたびにそんな音が耳の中に響く。前に乾いた状態で掃除してもらった時よりも湿っていて……うん、聞いててそんな愉快な音じゃないな。でも、タオルマッサージは気持ち良かったんだよなぁ。でも、普段の耳かきに比べると新鮮さはあるな。
「あー……風呂上りの耳垢みたいな感じだな。耳かきでこんなの見ることないから、なんか新鮮な感じだな」
「ふむふむ、そう言う視点もあるのですね。さて、外側はこれぐらいにして、中を掃除していきましょう」
そう言うと、バクシンオーは外側を掃除していた綿棒を捨てて、新しい綿棒を中に差し込んできた。
「ゾリゾリ……ザリザリ……トレーナーさんの耳の中をお掃除していきますよー」
ザリッ……ザリッ……
ゾリッ……ゾリッ……
外側の時よりも大きく響くドロドロの粉を掻き出していく音。そして、綿棒が耳の中を擦るたびにゾクリ、ゾクリ、と背筋に気持ち良さが走る。
「くぅ……耳の中をそう擦られると……ゾクッてするな」
「それは迷走神経を刺激してるからですね。トレーナーさんが気持ち良くなって何よりです」
俺の言葉にバクシンオーは笑顔で答えたけど、こいつ迷走神経の気持ち良さが何なのか知ってるのか? 知らないで言ってる気がするんだが。
「ゾリゾリ……んー、やはりトレーナーさんの耳垢は粉っぽい為か、大きい塊になる前に崩れているようですね。ザリザリ……」
「そう言えば、昔から大きい耳垢が取れたことは確かにないなぁ……。そうか、でかくなる前に崩れるんだな」
どうりで、今まで耳垢が詰まったとか、そう言うのがなかったわけだ。同期の連中に聞くとちょこちょこ耳垢で痒くなったりとかあるって言ってたけど、俺は全然ないもんなぁ。
「はい、ですのでこのまま、綿棒で擦り取っていきますね」
ザリザリ……ザリザリ……
ガッ……ペリッ……ベリッ……
綿棒で擦られていると、時折僅かな痛みと共に固い物が剥がれる音がするのは崩れていない耳垢が剥がれた証拠だろう。耳かきじゃなくて綿棒で取れる当たり、やっぱり取れやすい耳垢なんだろうな。
「ふむふむ……ふーむ、粗方取れたでしょうか。やりすぎては耳の中を傷めますので、この辺りで終わりましょう」
「お、これで終わりか……うおっ、冷たッ」
終わったと思って安心していたら急に耳の中に冷たい物が塗られた。なんだこれ?
「後は肌荒れ対策のローションを塗っていきますので、もう少しお待ちください」
ヌリヌリ……ペチャペチャ……
ズチュ……ヌリヌリ……
「はい、これでローションもお終いです。では、最後に……」
ふ~……ふ~……
ふ~……ふ~……
うおおっ! 濡れてる耳の中に息吹きかけるな! ビ、ビックリしたぁ……。
「ッ……! み、耳の中が濡れてる状態のそれは……ちょっとクルものがあるな」
「なるほど。では、もう一度行きますね」
「ちょ、まっ……」
ふ~……ふ~……
ふ~……ふ~……
止めようとしたのを問答無用に息を吹きかけられ、背筋がビクッと動く。ちょ、これは本当にキツイ。
「ッ……つ、次はもうやるな、頼むから……」
「おや、気持ち良いと思うのですが……仕方ないですね。それでは、反対側もやっていきましょう」
なんでそこで不思議そうな顔をするんだよ、ウマ娘だって耳は敏感だろ。察してくれよ。
なんて思ってると、今度はゴロンとひっくり返されてバクシンオーの腹の方を向かされる。問答無用でやるなよ……。
「さてさて、こちらも……粉が多いですね。では、先程と同じようにしていきますよー」
「あ、ああ。頼むぞ」
もはや反論にも疲れた俺はそのまま身を任せることにした。そうだよな、こいつはこういうやつだよな。
ゴシゴシ……ゴシゴシ……
ギュッギュッ……グリグリ……
気疲れしている俺の耳が暖かいタオルで擦られ、気が抜けていく。
ゾリッ……ゾリッ……
ザリザリ……ゴシゴシ……
水気が残る耳の外側を、綿棒でゴシゴシと擦られ、汚れを削ぎ取られていき。
ザリザリ……ガリガリ……
ゾリッ……ベリッ……ガリッ……
綿棒でドロドロになった粉と、固めの耳垢を一緒に掃除されていき……固い耳垢はちょっと取りにくかったのか、ガリガリと何回も擦られる事になったけど。
そして、ローションを耳の中にペタペタと塗られていき……よし、ここだ。ここで止めるぞ。
「な、なぁ、バクシンオー。ここまででいいから。な? ここまででいいから」
「何を言うのですかトレーナーさん。さぁ、おとなしくしてください」
身を捩り、全力で逃げようとするのを強引に抑え込まれ、それでも頭をずらそうとするも、それも片手で抑え込まれる。待て、おい、マジで待ってくれ……ッ。ヤバッ、今までで一番、背筋がビクッて動いたぞ。
「ふむふむ……トレーナーさんは耳が弱いのですね。んー、でもここまでするのが耳かきのお約束ですから、次からもしていきますね」
息の吹きかけが終わった後にバクシンオーに真顔で言われてしまった。
「ちょ……えぇ……」
なんでこいつはそこに拘るんだよ……明らかな短距離向きなのに長距離走りたがるくせに、なんでそこは律義にお約束を履行しようとするんだ。
「それではトレーナーさん。このままお昼寝をしましょう。大丈夫、私がこのまま膝枕をしてさしあげますから」
「……いや、ここまで来たらもう諦めるけど。で……もしかして、また子守歌か?」
「勿論です。さぁ、トレーナーさん、行きますよー。バクシンバクシンバクシーン」
ああ、そうだよな、こいつの子守歌ってこうなんだよなぁ……でも、聞かされ続けたせいか、それともこいつはこういうやつだという安心感からか、なんだか……ねむ……く……。
「バクシンバクシンバクシン、バクシンバクシンバクシン、バクシン、バクシン、バクシンシーン♪」