ウマ娘耳かき小説   作:雨宮季弥99

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シリーズ開始1周年記念(最初に投稿したのがピクシブで4月13日のため)として、やはりウマ娘には外せない、温泉旅行でのミホノブルボンを書きました。

1年、週1更新で頑張ってきました。これからも頑張れればと思いますので、どうか皆さん、これからもどうか宜しくお願いします。

久しぶりに活動報告も更新しますので、そちらも見て頂ければ幸いです。

追記 
本来なら作品投稿時に投稿する予定の活動報告でしたが、ネット切断によって投稿がこの時間まで遅れてしまい申し訳ありません。



注意 作中のギンシャリボーイはギンシャリボーイ主役で小説を書きたいけど書いてる暇と文章力がないために溜まったモヤモヤと、実際に育成ストーリとURA優勝クリアしたウマ娘なんて絶対にすぐに温泉旅行へ行けるほどの時間的余裕ないだろうなぁ。なんて考えが組み合わさった結果なので特に気にしないでください。


ミホノブルボン(温泉旅行)

「つ……疲れた……」

 

 真昼のトレーナ室で一人のトレーナーが机の上に山積みされた書類の前でそう呟いた。彼は、先日、新設されたGIレースであるURAファイナルで優勝したミホノブルボンのトレーナーである。

 

 ミホノブルボンは現在の日本ウマ娘界における歴史的名ウマ娘であり、無敗三冠、天皇賞春秋、宝塚記念、有馬記念と言った数々の名レースにおいて勝利している。そんな彼女は当然世間から最も注目されているウマ娘であり、今後のレースをどうするか……特に海外遠征に関して注目されている。

 

 同時に雑誌やテレビ等、メディアへの出演も飛躍的に数が増えており、そして、当然ながらそんな彼女のトレーナーである彼自身もそれらへの対応として多忙な生活を送っていた。

 

 勿論、時間が過ぎればやがて世間の目は他へ行く。今年は既に朝日杯FS、ホープフルステークスの連覇を果たし、そのまま無敗で皐月賞を勝ち抜いたギンシャリボーイというウマ娘が話題に上がっている。それゆえに最近は多少なりとマシになってはいるが、それでも落ち着けるのは先になりそうだと、トレーナーは眠気に襲われながら考える。

 

「……とは言え、そろそろブルボンも気晴らしがしたいだろうな……前にアイツの実家にお邪魔してから、全然遊びに行ったりできてないみたいだし……」

 

 世間で最も注目を集めるウマ娘とは言え、彼女自身は未成年の少女だ。そろそろ何か気分転換をさせてやりたいとトレーナーは考えるも、すぐには妙案が思い浮かぶ様子はない。

 

 うんうんと悩みながらも彼が仕事を続けていると、トレーナー室の扉がノックされた。それに気づいたトレーナーが入室を促すと、彼の愛バ、ミホノブルボンが部屋の中に入ってきた。

 

「お忙しい所申し訳ありません。マスター、少しよろしいでしょうか?」

 

「ああ、大丈夫だよ。何の用だ?」

 

 トレーナーが答えるとミホノブルボンは彼の傍に来て、そして懐から何かを取り出した。

 

「マスター。最近仕事続きでお疲れかと思います。なので、今こそこれを使う時ではないかと」

 

 そう言って彼女が差し出したのは、以前彼女達が一緒に回した商店街の福引で当たった温泉旅行券だった。

 

「……すっかり忘れてた。そうか、これがあったなぁ」

 

 マジマジと旅行券を見つめるトレーナー。あのくじ引き以降は多くのGIレースへの対策に奔放していたため、彼はすっかりと忘れていたのだ。

 

「はい。私はマスターと一緒にこの温泉旅行に行きたいと思っています。ダメ……でしょうか?」

 

 不安そうにトレーナーを見つめるミホノブルボンに彼はすぐに返答できず、しばし悩む。トレーナーと愛バである二人はレース等で外泊することはあるが、温泉旅行は完全なプライベートである。未成年の異性との外泊は世間から当然良い顔はされない。下手をすれば醜聞になる可能性すらある。だが、と、トレーナーはミホノブルボンに視線を向けた。

 

 「……?」

 

 彼の視線の先にいるミホノブルボンは視線を向けられ小首を傾げる。

 

(今やブルボンと親しいウマ娘も大半がGIレースの勝利者という事で色々と忙しいみたいだし、そうじゃなくてもこの時期には色々忙しいだろう。日を跨ぐ用事を一緒にできる時間があるかどうか……)

 

(かと言って一人旅なんて危ない事はさせれない。特にこいつ機械音痴だから、スマホが旅先で壊れたら危ないし……ああ、俺が一緒に行くべきだよな)

 

 等と心の内で考えるトレーナーだが、実際の所は彼自身ミホノブルボンと一緒に温泉に行きたいと思っていて、それの理由付けに色々と考えているに過ぎないのだが。

 

「ああ、俺で良ければご一緒させてもらうよ……とは言え、理事長とかに話を通しておきたいし、色々と調整も必要だろうから、しばらくは待っていてくれ」

 

「……! ありがとうございます、マスター。是非、楽しい旅行にしましょう」

 

 不安な表情から一転、笑顔を浮かべるミホノブルボン。普段はサイボーグだ何だと言われている彼女だが、実際は感情豊かで、親しくなればこうして笑顔を見せるようになる。そして、この笑顔を守りたいと思ったトレーナーは早速翌日から行動を開始した。

 

 レース及びその練習の調整、並びに仕事関連のスケジュールも調整し、理事長やたづなに話を通しておくことで世間への対応も根回ししていく。そして二人にとってラッキーな事に、皐月賞まで無敗であったギンシャリボーイがそこから更にNHKマイルカップ、日本ダービー、そして菊花賞まで全てを無敗で勝ち進んだため、世間の目はギンシャリボーイに向けられていた。その間に、二人は温泉旅行へと出発することに成功したのだった。

 

 道中、新幹線やバスを使い、外の景色を楽しんだり、駅弁や地域の土産物等を楽しむ二人は昼頃には温泉街に到着していた。商店街のくじびきとあって人気の温泉街と言うわけではないが、逆に、人通りが少なく、静かなこの温泉街はレース、そしてその後の様々な仕事、活動によって疲れ切っていた二人にとってとても心地よく感じられる静けさであった。

 

「とても静かですねマスター。心地良さを感じます」

 

「ああ。都会に疲れた人間が田舎に憧れる……なんて良く言うけど、今はその気持ちが良くわかるよ。さ、取り敢えず旅館に行くか」

 

 互いに荷物を持ちながら道を歩いていく。程なくして目的の旅館に着いた二人はさっそくチェックインを済ませた後、荷物を部屋に置いて街の散策に出た。

 

 普段トレセン学園を中心とした生活をしている二人、特に学生であるミホノブルボンにとっては温泉街で見かける物の多くが新鮮で、道のあちこちで見られる源泉を使った名物や、土産物屋に並ぶ様々なお土産……特に食べ物に強く興味を惹かれ、散策の途中に難度も道草を食い、それを楽しみながら二人は歩いていく。

 

 そうして普段ならば味わう事のない様々なものを味わっているうちに徐々に日が落ちていき、二人は旅館へと戻った。

 

「あー……良い意味で疲れたなぁ……」

 

 男性用露天風呂に浸かりながらトレーナーは大きく伸びをする。長距離の移動に、慣れない場所の散策と、疲労はあるが、それ以上の楽しいを得ることができた。トレーナーは今日の事を思い返しながらそう結論付けていた。

 

「ブルボンも、これで良い気分転換になってるだろう……あの時、温泉チケットが当たってくれていて良かった良かった」

 

 あの日商店街に行き、くじ引きで特賞を当てれた幸運に感謝を込めていると、ふと後ろから水音がトレーナーの耳に届いた。

 

「もしかして、そちらに居るのはマスターですか?」

 

「え? ブルボンか? そっち、女湯か」

 

 トレーナーが寄りかかっている竹の柵。その後ろは女湯のようだ。もちろん、柵は3m近い高さであり、直接の姿の確認はできないが、聞こえてくる声は確かにミホノブルボンの声である。

 

「はい、そちらは男湯なのですね……マスター。今日はとても楽しかったです。こんな楽しい一日、とても久しぶりで……」

 

「ああ……俺も久しぶりだよ。最近は本当、忙しかったからな……」

 

 URAファイナルで勝利してから数か月。二人は多忙を極めた。こうして温泉旅行に来れたのも、ギンシャリボーイという特級のウマ娘の登場によって世間の注目がそちらに向かったという偶然も大きい。もし彼女が居なければ、温泉旅行も更に先になっていたかもしれないのだ。

 

「あのギンシャリボーイには感謝だな……だけど、同時に強力なライバルにもなりそうだ……ブルボン、お前はどう思う?」

 

「私もマスターと同意見です。トゥインクルシリーズは終わりましたが……今後、海外遠征やドリームトロフィーリーグ等も考えれば、いずれ彼女と戦う時は来ると思います。ですが……私は、負けません。マスターと一緒である限り」

 

 顔は見えない。だが、絶対の自信が込められたその言葉にトレーナーは思わず涙がでそうになった。

 

「……そうだな、俺も頑張るよ、ブルボンがここからも更に上へ行けるように……俺は、本気で行くから」

 

「はい。私も、マスターの期待に応えてみせます」

 

 互いに決心を固める二人。その二人を、満天の星空だけが見下ろしていた。

 

 露天風呂から出た二人が部屋に戻ると、そこには旅館が用意した夕食が二人を出迎えた。海の幸をふんだんに使用した料理の数々はトレセン学園の食堂に負けずとも劣らずの出来栄えであり、普段口にすることのない料理の数々に二人は舌鼓を打ちながら食事を楽しむ。そして食事を終えた後、一息ついているトレーナーにミホノブルボンが見せたのは一本の耳かきであった。

 

「マスター。そろそろ以前に耳かきをしてから3週間が経ちます。最近は忙しくて耳かきをする暇がありませんでしたので、このまま耳かきを行っても宜しいでしょうか?」

 

「えーと。別に無理にしなくて良いんだぞ? 折角の旅行なんだし、もっとのんびりしても……」

 

「学園に戻れば再び忙しくなる可能性は高いです。それに、今のマスターは非常にリラックスしていますので、耳かきを行うのに最適なコンディションだと判断します……ダメ、でしょうか?」

 

 普段は見せない、不安そうなブルボンの表情に、トレーナーは降参とばかりに両手を上げる。

 

「そんな顔をされたらお願いしないわけにはいかないだろ……それじゃぁ、頼むよ」

 

「はい、お任せください。それでは、道具を用意しますので少々お待ちください」

 

そう言うとブルボンは一度部屋から出る。そしてしばらくすると、桶に幾つかの道具を入れて戻ってきた。そして、桶の中の道具を全て出すと、内風呂から源泉を入れて戻ってくる。

 

「では、これよりマスターの耳かきを開始します。今回はここの工房で販売されていた特注の耳かきを使用しますので、このまま膝の上に頭を置いてください」

 

 そう言って正座したミホノブルボンの膝にトレーナーは頭を置いた。普段の制服やジャージとは違う、浴衣の滑らかな感触、そして、横たわる畳から薫るい草の香りや、ミホノブルボンから漂う石鹸の香りに学園とは違う新鮮さを覚えるトレーナーの頭にブルボンの手が置かれる。

 

「では、まずはこの源泉から直接引かれているお湯で温めたタオルでマスターの耳をマッサージします。既にお風呂で外側の汚れは取っていると思うので、今回はマッサージを重点的に行います」

 

 そう言うと、ブルボンは温めたタオルでトレーナーの耳を包み込む。温められたタオルから伝わる熱はじんわりと耳を温め、そのままギュッギュッとタオル越しにツボを押され、凝っている部分を念入りに指圧で解されていく。

 

「あー……温かいなぁ……」

 

「お気に召したようで何よりです、マスター」

 

 学園では見られないような蕩けた顔をするトレーナー。そんな彼を見下ろすブルボンの口元もまた僅かながらに緩んでいる。

 

「ギューッ……ギューッ……マスターはこれぐらいの力加減が好きですが、どうでしょうか?」

 

「ああ、これぐらいで頼む……あー……気持ちいい……」

 

 いつの間にかタオルは外され、ミホノブルボンの指によって直接マッサージされていく。サイボーグ等とあだ名を付けられる彼女だが、機械にはあり得ない暖かな体温は温泉の熱に負けない優しさを持って、トレーナーの耳を癒していく。

 

「マスター。マスターの耳の凝りの解消を確認しました。マッサージを継続しますか? それとも、耳かきの方に移行しますか?」

 

「ん……それじゃぁ、耳かきを頼む」

 

「了解しました。それでは、これより耳かきを開始します」

 

 耳かきを手にしたミホノブルボンがトレーナーの耳に顔を近づける。耳に手を置き、穴を広げた彼女は真剣な表情で中を覗き込んだ。

 

「対象、奥に大きめの物。そして、途中でいくつかの小さい物を確認しました。これより、耳垢の除去を開始します」

 

 その言葉が聞こえたと思うと、耳かきがトレーナーの耳の中に差し込まれる。普段使われている耳かきと異なる感触が、まずは手前の耳垢に触れた。

 

 カリカリカリ……ガリガリ……

 

 感触は異なるが、聞き慣れた音がトレーナーの耳の中に木霊する。耳かきが小気味よく動き、痛気持ちいい感覚と、いつ取れるのかと言う心の高鳴りを感じさせる。

 

「カリカリカリ……ペリッ……ガリッ……マスター、取れました」

 

 心地よい感触と共に耳垢が剥がれ、耳から掻き出されていく。ティッシュの上に捨てられた耳垢を見て、ふぅ……と息が漏れた。

 

「マスターの安堵を確認。引き続き、耳垢の除去を行います」

 

 再び耳かきが耳の中に入っていき、耳垢を引っ掻き始めた。

 

 ガリガリ……ゴゾッ……ミヂッ……

 

 カリカリカリ……カリカリカリ……

 

「少し奥の方を掃除していきます。このまま、動かないでください」

 

 カリカリカリ……カリカリカリ……

 

 カリカリ……ガッ……ミヂッ……

 

 トレーナーの耳の中、ピンポイントで耳かきが汚れを掻き取っていく。それによって生じる痒みもそのまま一緒に掻き出されていくかのように、痒みが収まるように耳かきが掻いていく。

 

 ガリガリ……ガリガリ……

 

 カリカリカリ……カリカリカリ……

 

 痒みが快感に変わる瞬間が耳かきの良い所だと、トレーナーは感じていた。それが、自分の愛バによってもたらされているならば猶更だ。今も、絶妙な力加減で、耳垢が剥がされていく。

 

「次の耳垢は……このまま……力を加えれば……」

 

 ガリ……ミヂッ……ベリッ……

 

 軽い音でなく、重く、湿った音がトレーナーの耳の中に響く。

 

「どうやら、温泉の湯気でかなり湿っていたようです。このまま、引き剥がしていきます……ガリ……メヂッ……」

 

 そのまま、ガリガリ……ミヂッ……ミヂッ……と音を響かせながら耳垢が剥がされていく。やがて、メヂヂッと鈍い音と共に耳垢が剥がれていった。

 

「うお……やば……癖になるぐらい気持ちいい……」

 

「それは良かったです、マスター。それでは……あと一つ、固そうな物が見えますので、恐らくそれで最後だと思います」

 

 そう言うと、ミホノブルボンは真剣な表情で耳かきを差し込んでいく。奥の、少し曲がった先にある耳垢は、湿気がそこまで届いていなかったのか、耳かきに確かな固さを伝えてくる。

 

 ガリ……ガリ……

 

 ゴリ……ガリ……

 

 先程の湿気ていた耳垢とは比べ物にならない、固さ故の感触にミホノブルボンは慎重に耳かきを動かしていく。まるで化石を採掘しているかのように慎重に、丁寧に、耳垢の掃除を行っていく。

 

「おおお……痒……ってか、なんで、これだけこんな……」

 

「恐らく、掃除をしていない間に窪みに溜まった耳垢が、汗などを吸った後に更に固まったものだと予想されます。これが最後と思われるので、どうか我慢してください」

 

 ガリガリ……ゴリゴリ……

 

 ガッガッ……ガリ……ガリ……

 

 固い耳垢を耳かきで何回も引っ掻き、上辺を削りつつ、耳に引っ付いている部分を少しずつ剥がしていく。

 

 ゴリっ……ゴリッ……

 

 ゴッ……ガッ……ガッ……

 

「ガリ……カリ……かた……固い……です」

 

 耳垢の固さにミホノブルボンは手間取る。力を入れて無理やり剥がす事もできるが、それをすればかならずトレーナーに相応の痛みを与えるだろう。下手をすれば耳を傷つける恐れもある。その為、彼女は少しずつ、丁寧に力を込めて耳垢を剥がしていく。

 

 ミヂッ……ベリッ……ミヂッ……

 

 少しずつ、耳垢が剥がれていくのが、音ではなく感触で伝わってくる。それに伴い、痛い、痒い、でも気持ちいい。と言う感覚も強くなっていく。トレーナーはその感覚を楽しみつつも、最後の解放を今か今かと待ち望んだ。

 

 ズッ……ゴズッ……

 

 浮き上がってきた縁の部分に、耳かきの先端が差し込まれる。そして……。

 

 ベリッ……ベリッ……!

 

「耳垢の浮き上がりを確認。このまま持ち上げます」

 

 そのままスーッと耳垢が引き上げられ、トレーナーの耳の中から運び出される。ティッシュの上に捨てられた耳垢を確認し、トレーナーは大きく息を吐いた。

 

「かなりの大きさです。痒みを実感する前に取ることができて良かったと判断します」

 

 そう言ってミホノブルボンが捨てたのは、耳かきの先端にしっかりと乗るほどの大きさの、茶色く変色した耳垢であった。彼女が耳かきで突くと、形が崩れることなく転がる。

 

「うーん。俺の耳の中、こういうのができやすいのかな。確か、前にもあったよなこんなの」

 

「はい。やはりマスターの耳は定期的に掃除をする必要があると判断します。それでは、梵天による清掃に移行します」

 

 耳かきの反対側の梵天を下に向け、彼女はそのままトレーナーの耳の中に差し込んだ。そして、上下に動かし、左右にクルクルと回し、耳の中の細かい粉を絡めとっていく。

 

「おお……おおー……癒される……」

 

「マスターの顔の蕩け具合を確認。気持ち良くて何よりです、マスター」

 

 先程まで耳かきで引っ掛かれ、熱を帯びていた耳の中を柔らかく繊細な梵天が優しく撫でていく。その感触の心地よさを感じ、トレーナーの口元はどんどんと緩んでいく。

 

「梵天による清掃の完了を確認。これより吐息に移行します……ふ~……ふ~」

 

 そして、梵天の清掃が終わると、最後にミホノブルボンが耳の中に息を吹きかける。梵天で敏感になり、耳垢が取れて通りが良くなった耳の中、ミホノブルボンの吐息が通り過ぎていく。

 

「おお……なんか、普段よりも気持ちいいような……」

 

「それは良かったです、マスター。さて、それでは、反対側の掃除に移行します」

 

 そう言うと、ミホノブルボンはくるん、とトレーナーを持ち上げ、反対向きに転がす。トレーナーも何も言わず、されるがままに反対側を向いた。

 

 反対側を向いたトレーナーの視界にミホノブルボンの腹部がアップで映る。しっかりと帯を結ばれ、閉じられているが、それでも先程まで温泉に入っていたこともあり、一瞬温泉に入る彼女の姿を想像した事を咎める事は無粋なのだろう。

 

「では、こちらもマッサージから始めていきます。耳のツボ、凝りを指圧、揉み解しで刺激を与えて……」

 

 再び、ミホノブルボンによるマッサージが行われる。先にやった耳と同じように、指圧、揉みによって耳の凝りを解消し、ツボを刺激することで血流を促す。耳の全体が仄かに赤くなってきた所で、彼女はマッサージを止めた。

 

「耳の中を確認します……細かい物はありません。手前に少しあるぐらいなので、今回は手早く終わらせたいと思います」

 

 その言葉と共に、耳かきがトレーナーの耳の中に差し込まれていく。そして、程なくして耳垢に触れると、そのまま耳垢を剥がすために動き始めた。

 

「カリカリ……カリカリ……こちらも、固そうです。カリカリ……」

 

 先程の耳垢と同じように、しっかりとした固さの耳垢らしく、ミホノブルボンは何回も耳かきを動かしていく。だが、取れそうな気配を感じないのか、彼女は耳かきを耳から抜いた。

 

「プラン変更。ピンセットを試したいと思います」

 

 そう言うと、ミホノブルボンは耳かきを横に置き、代わりにピンセットを手に取った。

 

「ピンセットを挿入します。冷たいと思いますが、どうか我慢してください」

 

 差し込まれたピンセットが耳の中に触れると、木製の耳かきにはなかった冷たさに一瞬トレーナーの体が硬くなる。だが、すぐに力を抜いたのを確認すると、ミホノブルボンは耳垢をピンセットで摘まんだ。

 

「このまま引っ張って……マスター、痛くはないですか?」

 

「ん……うーん……違和感はあるけど……大丈夫……」

 

 普段使われる事のないピンセットによる耳掃除に違和感を覚えつつも、トレーナーは耳かきを続ける意思を見せる。それに答えてミホノブルボンは耳垢を摘まんだまま、上下左右に揺らし、少しずつ剥がしていく。

 

 メヂリ……メヂリ……

 

 ビリッ……ビチッ……

 

「全体的に少しずつ剥離していくのを確認。このまま一気に剥がします」

 

 少しずつ剥がれていく耳垢の様子を見つつ、ミホノブルボンは一気に耳垢を剥がしにかかる。

 

 メヂ……メヂ……メヂ……

 

 ビリッ……メヂ……メヂィ……

 

 耳かきとは違う剥がれかたにトレーナーの体は一気に固くなるが、耳垢は取り出され、それを確認すると、ホーッ……と安堵の息を吐き出した。

 

「あー……やっと取れたか……慣れない道具の感触は、ちょっと緊張するな」

 

「申し訳ありません。次からは耳かきでも取れるように精進します」

 

 しゅん、と耳が垂れ下がるミホノブルボンにトレーナーは慌てて声をかける。

 

「あ、いや、違うからな? ブルボンの耳かきが下手とか、そういうわけじゃないからな?」

 

「はい、勿論、マスターならそう言ってくれると信じていました。それでは、続きを開始します」

 

 そう言うと、ミホノブルボンは再び耳かきを手にして耳掃除を再開した。

 

「残りは小さい物が多いので、手早く済ませたいと思います。カリカリカリ……カリカリカリ……」

 

 オノマトペのリズムに合わせて動く耳かきがトレーナーの耳の中を掃除していく。小さい物をカリカリと引っ掻き、剥がれたものを引き上げ、次の耳垢に取り掛かる。

 

 互いが互いを補うかのように、合わさった二つによって、トレーナーは加速的に気持ち良さを感じていく。

 

「はぁ……このまま……ずっと、耳かきをされたいな……」

 

「申し訳ありませんが、耳かきのやりすぎは耳の中を荒れさせる要因となりますので不可能と判断します」

 

 思わず出た言葉に律義に返すミホノブルボンに苦笑するトレーナーに首を傾げるミホノブルボンだが、気を取り直して耳かきを再開する。

 

 カリカリカリ……カリカリカリ……

 

 カリカリカリ……カリカリカリ……

 

 部屋の中にミホノブルボンのオノマトペが囁かれ、吸収される。二人が発する音だけが静かに、僅かに部屋の中に響くこの空間の中で、トレーナーは快感を享受し続ける。

 

 やがて、耳垢を取り終えたというミホノブルボンの声によって、耳かきが終わりを告げられる。耳垢が引き抜かれ、梵天によって細かい粉が絡めとられ、最後に息を吹きかけられ、こうして両耳の耳掃除が終わってしまった。

 

「耳かき、終了しました。マスター、お疲れ様です」

 

「ああ、ありがとう……ふぁ……」

 

 礼を告げるトレーナーだが、次の瞬間には大きくあくびをした。

 

「マスター、このままお休みされますか? 既に時間も遅いので、お布団を敷いて本格的な就寝をして頂くのが望ましいですが」

 

「ああ……そうしようか。ふぁぁ……今日は良く寝れそうだな……」

 

 そう言って立ち上がろうとしたトレーナーだが、その頭が押さえられた。

 

「……ブルボン? どうかしたのか?」

 

「申し訳ありません……マスター、少しだけ……勇気を出すまで少しだけ……待ってください」

 

 ミホノブルボンの言葉の意味が分からず困惑するトレーナーだが、言われた通りおとなしく彼女の膝の上に頭を置いたままにする。そして少しして……ミホノブルボンは言葉を紡いだ。

 

「……マスター。私は貴方のおかげでウマ娘として大きな名誉を手に入れました。三冠だけでなく、無敗として三冠を。国内最高峰のレースである春秋天皇賞を、世界のウマ娘と覇を競うジャパンカップを、制することができました。貴方の指導が、貴方の優しさが、貴方の支えがなければ、私はこのような名誉を、実力を、得ることはできなかったでしょう」

 

「……マスター、これからも……これからの生を……死が二人を分かつその時まで……共に歩んでも……構いませんか?」

 

 顔を赤くしながら、それでも、確かに伝えられたその言葉は、直接的な表現ではない。だが、その言葉の意味を理解できない程、トレーナーは幼くはなかった。そして、それはトレーナーと学生の間では決して許される事のない発言であった。

 

「……ブルボン、トレセン学園という閉鎖的な空間の中、自分の人生を預けるトレーナーとの信頼関係は、時にそう言った関係に発展することがある。だが、世界はトレセン学園を中心とした世界だけじゃない。俺は……ブルボンにはより多くの世界を知ってほしいと思っている」

 

 トレーナーの返答も直接的な表現ではなかった。だが、その言葉の意味するものに気づかぬはずもなく、ミホノブルボンは目を見開き……そして、顔を伏せた。

 

「そう……です……か、マス……ター……」

 

顔を伏せたミホノブルボン。その顔は先程と違った意味で赤くなっており、目からは雫が零れ落ちる。口を一文字に結び、それ以上を堪えようとするも、涙はいくつも零れ落ち、彼女の顔を濡らしていく。

 

「ちょ、待て、待てブルボン! まだ全部言ってないから! 断るわけじゃないから!」

 

 慌てたトレーナーが頭を上げ、ミホノブルボンの顔を上げる。互いの目線が合い、少しの間、互いに見つめ合った。

 

「それは……どういう……?」

 

「ブルボン、俺達はトレーナーと学生だ。そう言った交友は許されないし、正直、俺はお前に、俺以外の男も見て欲しい。そして……そして……だ」

 

 ミホノブルボンから視線を逸らし、少しの間言葉を溜めるトレーナー。そして、意を決し、彼は再びミホノブルボンに視線を合わせて答えた。

 

「……22歳……世間では大学を卒業し、社会人になる年齢だ。もし……もし、その年になっても俺の事をそう思ってくれているなら……俺は、お前の気持ちに応えるつもりだ」

 

 真っすぐに見つめられ、告げられたその言葉。トレーナーの表情は真剣そのものであり、嘘もごまかしもない。ミホノブルボンは涙で濡れる視界の中でその表情を確認し、人よりも良く聞こえる耳で、その言葉を聞き取った。

 

「……任務……了解。これより22歳まで……貴方に絶対に受け入れられる……良いウマ娘であり続けます」

 

 トレーナーを見つめるミホノブルボン。瞳から涙は落ち続ける。だが、その表情は今まで誰も見たことがないほどの満面の笑みを浮かべていた。

 

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