やめて、枕営業の意味を知ってしまったら、ファル子の純情が一つ失われてしまう。男トレーナー、お前が負けたら純情なファル子が恥ずかしい思いをしてしまうぞ。学園長やたづなさんとの約束はどうなっちゃうの?
次回、男トレーナー負ける!?。 デュエルスタンバイ
というネタはさておき、ファル子には純情なままでいて欲しいと思う今日この頃です。
「よし、今日のライブも無事に終わったな……ファル子、今日も輝いていたぞ」
ライブを終えてファル子がステージ袖に姿を消すのを確認し、俺は一人小さくガッツポーズをする。ダートでめきめきと実力を付けた彼女のファンは日を追うごとに増えていき、こうしてライブにも多くの人が来てくれるようになった。
「さて、ファル子を労ってやらないとな」
俺は足をファル子の居る楽屋へと向けた。そして楽屋の扉を開けると、そこでは椅子に座りながら満足そうに笑っている彼女が居た。
「お疲れ様ファル子、今日も最高のライブだったよ」
俺が声をかけるとファル子は俺の方を向いて、先程とは違う笑みを浮かべた。
「えへへ、トレーナーさんにそう言ってもらえると嬉しいな。これからもファル子、もーっと頑張っちゃうよ」
「ああ、応援しているさ。なんたって俺は、ファル子のファン第一号だからな」
嬉しそうに笑うファル子に俺も更に頑張らないとな。と気合が入る……が、そこで不意に眠気が襲ってきた。
「ふぁ……ぁ……」
「あれ? トレーナーさん、もしかしてお疲れ?」
「ああ……ちょっとやることが多くてな……ふぁ……」
うーん……ダメだ、ファル子のライブが無事に終わって緊張感が解けたのか、眠気がキツイな……俺も仮眠を取っておくべきか。
「ねぇ、トレーナーさん。私に何かできる事ってない? トレーナーさんにはいっつも助けられてるもん。私も何か力になりたいな」
「ん? いや、大丈夫大丈夫。ファル子もライブの後で疲れてるだろ? 今日は後は帰って休んで大丈夫だから……ふぁ……」
ライブが終わった後のファル子に無理をさせたくないし、さっさと帰らせて休息をとってもらおう。俺も後片付けとかが終わったら休むか……。
「……そうだ、トレーナーさん。後でトレーナー室で待ってるから、絶対に来てね。絶対だよ」
「ん? あ、ああ? よくわからないけど……わかったよ」
一体何をするつもりなんだろうか? 俺としてはもう休憩をして欲しい所だが……まぁ、まさか突然トレーニングをしたいとかも言わないだろうし、付き合うとしよう。
そうしてファル子と別れた俺は後片付けを終えてからトレーナー室に向かうと、ファル子が既に待っていた。
「ファル子。それで、どんな用事なんだ?」
「えへへ。トレーナーさん、今日は普段のお礼に耳かきしてあげるね。最近してないでしょ?」
そう言ってファル子が俺に見せてきたのは耳かきだった。あー……そう言えば最近は忙して耳かきとかぜんぜんしてなかったな。
「そう言えば最近はしてなかったな……ああ、頼むよ」
「はーい。それじゃぁトレーナーさん、こっち来てね」
正座したファル子の横に腰を下ろし、そのまま彼女の膝の上に頭を置く。ふー、横になると思わず力を抜いてしまう。彼女に体重をかけてしまうが……。
「ブルボンさんやスズカさんもトレーナーさんに耳かきをしてるって聞いて、色々教えてもらったんだ。えーと、まずは温かいタオルで耳を擦っていくんだね」
そう言うと、上を向いてる方の耳をタオルでゴシゴシと擦られ始める。温かいタオルで擦られると、思わず、はぁ……と息が漏れてしまう。
「ほらほらトレーナーさん。気持ちいい? 耳の汚れが落ちていくよー」
「おー。気持ち良いなぁ、これ。自分でもできそうのがありがたいな」
今度から、疲れたら俺もやろうかな。耳を擦られるのがこんなに気持ち良いとは思わなかった……なんて考えてると、いきなり耳を擦る力が強くなって……痛い痛い痛い!
「いた……痛い痛い痛い! ちょ、擦る力が強いって!」
「ふーんだ。折角私がやってるのに、自分でもやれる。なんて考えてるトレーナーさんにはお仕置きだもん」
俺が抗議するとファル子がふくれっ面になって俺を見下ろしていた。何が悪かったのかよくわからないが、ともかく悪かったと謝ると、なんとか機嫌を戻してくれた。いや、痛かったぁ……。
「それじゃぁ改めて……って程じゃないのかな? うん、これでタオルはお終い」
そう言って彼女はタオルを横に退けて、耳かきを手にして俺の耳の中を覗いてきた。前は綿棒だったけど、今回は耳かきなんだな、そう言えば。
「うーん。トレーナーさん、最近耳の中掃除してないでしょ。前にやった時より汚れてるよ」
「うぐっ……さ、最近はちょっと時間がなかっただけだ。普段はちゃんとしてるから」
嘘である。ぶっちゃけ、耳掃除なんてそうそうしない。しなくてもそんな問題があるわけでもないし。ウマ娘からしたらあんまり考えられないんだろうけど。
「さてさて。前は綿棒でやったけど、今回は耳かきでチャレンジだよ。まずは、手前から順番に、カリカリカリ……」
カリカリカリ……ガリガリガリ……
ザリザリ……ベリッ
軽く耳の中を耳かきが掻いていると、意外とあっさりと耳垢が取れた感触がした。浅い所にあったんだな。
「カリカリカリ……カリカリカリ……トレーナーさんの耳の中をカーリカリ♪」
楽しそうに、鼻歌を歌うように囁きながらファル子の耳かきが耳の中を動き回る。カリカリカリ、と耳壁を掻かれ、溜まった粉をティッシュの上に捨てていく。粉も意外と溜まってるな……ふぁ……眠……。
「んーと、次はこの耳垢をカリカリ……トレーナーさん、痛くない?」
「ん……うん……大丈夫……」
やば……これ、寝る。マジで寝る。このままファル子の膝枕で完全に寝落ちする。
カリカリカリ……という耳かきの音とファル子のオノマトペが子守歌のように俺を眠気に誘い……あ、ダメだ……もう……ダ……メ……。
「ふ~……ふ~……」
「おわっはあ!?」
突然耳に刺激が走り、俺は奇声を上げていた。な、なんだ? 何が起こった!?
「おはようトレーナーさん、まだ片方だけだから、もう片方が終わるまでお昼寝はもうちょっと待ってね。はい、反対向いて♪」
「お……おう……」
混乱した俺はファル子に促されるまま、体を反対側に向ける……って、おい、これファル子の腹側だよ。どうすんだこれ……でも、一度向いたのをまた動かすのもなんかあれだし……ヤバイ、動けない。
「えへへ。それじゃぁこっちの耳かき、いっくよー」
俺が混乱してる間に、なんか反対側の耳がタオルでくるまれ、ゴシゴシと擦られていく……うん、落ち着こう……落ち着いて、耳かきを堪能することに集中しよう。それが多分ベストの行動だ。
……あ、ダメだ。また眠くなってきた……今、中を掃除してるのはわかる。わかるんだが……あー、ダメだぁ……眠い……んー……。
なんか耳の中が痛いような……眠……意識が……眠……。
「カリカリカリ……カリカリカリ……」
ああ、ファル子の声、気持ち良いなぁ……もう、寝よう。寝ても大丈夫……許される……グー……グー……。
「ふ~……ふ~……」
「ひょうわ!?」
な、なんだな……あ、そうか、息か。息かぁ……あー……ビビった。最初もだけど、後の方がほぼ寝てたから余計にビビった。
「ねぇトレーナーさん。耳かき、気持ち良かった?」
上を見上げると、ファル子が笑顔で俺を見下ろしている。ふぁ……驚いたけど、まだ眠いな……ファル子ならこのまま寝ても許してくれるだろう。
「んん……ああ……ほとんど寝てたよ……気持ち良くて……悪いがこのまま寝させて……」
「それは良いんだけどさ。ねぇトレーナーさん、枕営業ってなんなの? 前は結局教えてくれなかったよね」
その言葉を聞いた瞬間、俺の脳は一気に覚醒し、そのまま扉に向けて全力で逃げようとして……う、動けない! 頭と腕を抑えられ身動きが取れない!
「ファ……ファル子……俺にはそれを言う権利はない!」
「むー。なんでー? 友達に聞いても知らないって言うし、トレーナーさん、知ってるんだったら教えてよー」
頬を膨らませてプリプリしてるファル子だが。こればかりは何がどうあっても口を割る事はできない。というかもし言ったらたづなさんらへんに半殺しにされても文句も言えない。
「む……無理なんだー!」
悲痛な叫びをあげてなんとか逃げようとするが、ファル子はまったく力を緩めてくれない。だが、俺は言わない。なにがどうあっても絶対に言わないからな!