追記
恐らく眼精疲労だと思いますが、長時間のパソやスマホしてると目や頭が痛くて作業どころじゃなくなっています。来週更新できるかは未定です。更新できても短くなると思います。
「あのー……スズカさん? 何をしているのでしょう?」
「何って……これからちょっと走りに行くつもりなんだけど」
彼女の部屋の前でジャージを着ているスズカ。それを見かけたマチカネフクキタルが声をかけたが、スズカの返答にフクキタルは呆れかえっていた。
「あの、スズカさん? 天皇賞が近いから、体の調整のためにスズカさんのトレーナーさんとのトレーニング以外での練習はやめるよう、言われていませんでしたか?」
「トレーニングじゃないわよ。ちょっと走るだけだから」
「そのちょっと走る。で十キロ以上走って怒られてましたよね?」
フクキタルの問いにスズカは露骨に視線を逸らした。
「フクキタル……行かせて?」
「いけません! スズカさんのちょっとはちょっとじゃないのですから、行かせるわけにはいきません!」
「むー……」
頬を膨れさせ、少しずつ体を横にずらそうとするスズカだが、そんな彼女をフクキタルはしっかりと抱き留めて妨害する。
「むー……それじゃぁ、フクキタル、何か気晴らしになる事……ない?」
「むむ、ならばこのフクキタル厳選のラッキーアイテムの数々を……」
「そう言うのはいいから」
フクキタルの提案をスズカはバッサリと切り捨てる。それに対してフクキタルは一瞬悲しみに包まれるが、すぐに気を取り直したのか、スズカの顔を見ながら答えた。
「わかりましたスズカさん。それでは、耳かきはどうでしょう? こう見えてもこのフクキタル、耳かきは得意なのです」
「え……? 耳かき……?」
思いもよらぬ単語にスズカは耳を疑う。今までフクキタルとは1年以上の付き合いのある彼女だが、フクキタルからは今まで耳かきなんて言葉を聞いた事すらないのだ。
「はい、耳かきです。ほら、スズカさん、物は試しと言いますし、今日は耳かきを受けてください」
「んぅ……わかったけど……痛くしないで……ね?」
未だ疑問に思いながらも好奇心に負けたスズカはフクキタルに耳かきを頼むことにした。
「りょーかいです! スズカさんがメロメロになるような、素敵な耳かきをしてあげましょう!」
そう言ってフクキタルはスズカの手を取って自分の部屋へと連れていく。今日は同室のタンホイザはレースの為の外泊によって学園の外にいる為、フクキタルは気兼ねなくスズカを連れ込む。
「さぁ、スズカさんは私のベッドに座っていてください。今、準備をしますからね」
大量のパワーグッズが所狭しと並ぶフクキタルのスペースで、以前贈られた金のしゃちほこ等を思い出して微妙な気分になるスズカだが、程なくしてフクキタルが戻ってきたのでそちらに意識を戻す。
「さぁスズカさん。早速やっていきましょうか。どうぞ横になってください」
ベッドに座り、膝をポンポンと叩くフクキタル。少し警戒しながらも、スズカは体を横にしてフクキタルの膝の上に頭を置いた。
「さてさて、それではスズカさんのお耳の状態は……ムム、これは凝ってますね。走りすぎで耳にも風圧がきますから、それがストレスになってますね」
そう言うと、フクキタルは慣れた手つきでスズカの耳を揉み始めた。親指で凝っている部分をグーッと力を籠め、滞りがちになっていた血流を促進していく。
「んぅ……ッ」
「あ、すみませんスズカさん。痛かったですか?」
「ん……大丈夫……続けて……」
込められた力の気持ち良さにスズカは思わず声が漏れる。それを痛みと勘違いしたフクキタルが問いかけると、スズカは先を促した。
「はい、それではこの辺りと……うーん、ここも凝ってますねぇ。スズカさん、やっぱり耳のマッサージはもっと念入りにしたほうがいいです」
モミモミ……グッグッ
ギュッギュッ……グーッ
普段誰かに触られる事のないスズカの耳をフクキタルが大事に摘まみ、筋肉の凝っている部分を指圧でしっかりと揉んでいく。
「どうですかスズカさん。痛くはないですか?」
「ん……大丈夫……フクキタル、もしかして、手馴れてる?」
「んー、どうでしょう? 自分で耳のマッサージはしますので慣れているとは思いますが……」
そんな事を言いながらもフクキタルの指はスズカの耳を的確に揉み解していく。その快感に、スズカは思わず顔を赤める。
「フクキタル……触り方がちょっと、イヤらしい……」
「それはちょっとスズカさんの考えすぎです……さて、マッサージはこんなところで良いでしょうか」
揉み続けていた手を離し、フクキタルは耳かきに手を伸ばす。それを目にしたスズカはその色合いに疑問を感じた。
「フクキタル? その耳かき、なんで金色なの?」
「はい、これは金で作られた耳かきです。これほどのパワーアイテムは中々ありませんよー」
そう言うと、フクキタルは楽しそうにスズカの耳に耳かきを這わせていく。ザリザリ……ザリザリ……と、汚れが浮かんだスズカの耳を、金の耳かきが汚れを掻き取っていく。
「ほら、見てくださいスズカさん。こんなに汚れが溜まっているという事は手入れが疎かになっている証拠です。走るより先に体のケアが大事だという事です。それに、耳かきは気持ちいでしょう?」
「そんなことないわよ。走るほうが気持ち良いし、別に体のケアを怠ってるわけじゃないんだから」
「むむ、スズカさんは頑固ですね。では、私も気合を入れてやりましょう」
スズカの言葉にフクキタルは一層気合を入れると、耳かきを念入りに動かしていく。金色の耳かきに白や茶色の汚れが絡みつき、掬い上げられティッシュに捨てられていく。汚れのない黄金の耳かきが汚れる。それはどこか背徳的な光景であった。
「ほらほらスズカさん。よーく見てください、こんなに汚れが取れているんですよ」
「あの……わかった、わかったから……もうやめて……」
その光景に羞恥心を覚えたスズカが目を逸らして懇願する。
「では、分っていただけたところで耳の中を掃除します。スズカさん、動きたくなったら言ってください」
「……気を付けてお願いね」
未だフクキタルに対して心配を覚えるスズカの懇願に一つ頷き、フクキタルは耳かきを穴に差し込んでいく。
「ふむ。中もちょっと汚れていますね。一つ一つ、確実にとっていきましょう」
カリカリカリ……カリカリカリ……とオノマトペを呟きながら耳かきを動かしていくフクキタル。普段は誰かに触られる事のない耳の中を覗かれ、弄られ、それが気持ち良い。羞恥心と気持ち良さでスズカの頬は徐々に赤く染まっていく。
「フクキタル……早く……終わって……恥ずかしい……」
「うーん、中途半端な所で放り出すと余計に悪化する恐れがありますので……もう少し、このままでお願いしますね。カリカリカリ……」
そう言ってフクキタルは耳かきを続ける。黄金の耳かきがスズカの耳の穴の手前からカリカリカリ……と小さかったり薄かったりする耳垢を掻いていき、ペリペリと剥がしていき、ティッシュの上に捨てていく。そして、徐々に耳かきは奥へと進んでいった。
「んー、奥の方も少し汚れてますね。でも安心してください。幸い大きな汚れは無さそうなので、特に面倒なく終わりますよ」
「良いから……早くして……」
笑みを浮かべるフクキタルを急かすスズカ。それに応えてフクキタルは耳かきを穴の奥に差し込み、汚れを掻き出していく。
「カリカリカリ……カリカリカリ……♪ さぁ、スズカさん。綺麗になっていってますよー。あとちょっとで耳垢が取り終わりますので、待っていてください」
そう言ってからしばらくして、フクキタルは耳かきを抜いて横に置く。それでようやく耳かきが終わったとスズカがほっとしていると、不意に耳の中に滑らかなふわふわの物が入り込んできた。
「ひうっ!? フ、フク!? 何? 何してるの!?」
「何って、梵天で細かい粉の掃除ですよ?」
「梵天って……ヒャウッ、こ、こんなに気持ち良いの……?」
今スズカの耳に差し込まれている梵天。それはスズカの知っている梵天の気持ち良さでなく、不意を突かれたこともあって、彼女の頭は混乱に陥っている。
「あ、この梵天は入念に手入れした私の尻尾の毛を使ってます。いやー、トレーナーさん用に作る前の試作品なんですが、スズカさんが気持ち良くしてくれて嬉しいです」
「自分の尻尾の毛って……ん……んん……♡ はぁ……ん……♡」
予想外の素材にスズカは更に驚くが、それを塗り潰すかのようにフクキタルの梵天が耳の中を掃除していき、スズカの口から徐々に艶のある声が漏れ出てくる。
「ふぅ、大体これぐらいですかね。それでは最後に……ふ~……ふ~……」
「ひゃぁ……♡」
最後に息を吹きかけられ、耳掃除で垢が取られ、敏感になっているスズカの耳の中をフクキタルの吐息が入り込む。その感覚にスズカは背中を震わせた。
「さて、これでこちら側はお終いです。では反対側をしていきましょうか」
「ちょ、フク……待って、お願い、待って……」
「さー、やっていきましょうスズカさん」
「ひゃああああッ」
「……あの、スズカさん? そろそろ機嫌を直してもらっても……」
「……知らない。フクキタルが悪いもん」
「スズカさーん……」
容赦なく反対側の耳かきをされたスズカは、フクキタルのお腹の部分に抱き着き、顔を埋めながら抗議をしている。
「それで……あのー、スズカさん。これで今日はもう走り込みはしないですよね?」
「……それは……うん、わかったわ」
取り敢えずの目標は達成できたので、フクキタルは安堵の表情を浮かべる。それを上目づかいで眺めたスズカは軽く息を吐いて再びフクキタルの腹に顔を埋める。
「……それで、スズカさん? えーと……いつまでこの状態なのでしょうか? そろそろ離れて頂ければ……」
「……ヤダ」
「スズカさーん……」
ここから暫くの間、スズカはフクキタルの腹に顔を埋め続け、更に後日、天皇賞秋を勝利するまで、時折フクキタルが耳かきをし、その後にフクキタルに顔を埋めるスズカの姿があったという。