私、メジロマックイーンは先日、メジロ家の悲願である天皇賞を制覇。更にそのままエリザベス女王杯、ジャパンカップを制し、今は有馬記念に向けた僅かばかりの休養期間となっています。
三回連続のGIレースへの出場……それは私にとってとても過酷なものでしたが、トレーナーさんと人バ一体、文字通り二人三脚で歩んだ道のりは、全てのレースにおける勝者と言う道へと続いていました。
この道を途切れさせないためにも、今は休息をとらなければならない……だから、今こうしてトレーナーさんと一緒にアフタヌーンティーを楽しんでいるのは必要なことですわ。
「しかしまぁ……メジロのアフタヌーンティーは本格的だな。俺、このお菓子乗せるやつって映画とかぐらいでしか見た事なかったんだよ」
「うふふ、それでは今度メジロ家に招待した時はもっとちゃんとしたものをお見せしますわ。おばあ様からもトレーナーさんにご挨拶したいと聞いておりますから」
「お……おう」
メジロ家に招待すると言ったらトレーナーさんがちょっと困った顔をされましたが、トレーナーさんはメジロの悲願を達成させてくれた方なんですから、これからはどんどん家に関わっていただかなければならないのですよ、分ってらっしゃるのでしょうか?
「さて……トレーナーさん、本日はまだ時間に余裕がありましたよね?」
「ん? ああ、先輩からも休息日は作るように言われてるからな。今日はメディアからの取材とかもないし、本当にフリーだ」
そう言ってトレーナーさんは紅茶を一口飲み、大きく息を吐かれました。このG1三連戦はトレーナーさんにとっても多大な負担をかけました。だからこそ、今日はトレーナーさんにも十分な休息を味わっていただかなくては。
「さて、と。トレーナーさん、後片付けはこちらでしますので少し待っていて頂けますか? 耳かきの準備も一緒に行いますので」
「ん……わかった」
使い終えた道具を片付け、次に耳かきの準備を行う。さぁ、トレーナーさんには、満足していただかなければ。
「お待たせしましたトレーナーさん。それでは、こちらに頭を置いてくださいませ」
ベッドに座るトレーナーさんの横に座り、膝を叩くと、彼はおとなしく頭を乗せてくださいました。
「さぁ、始めますわよ。くすぐったかったりしたら言ってくださいね。自分で変に動くと危ないですから」
一言注意をしてから、まずはウェットティッシュでトレーナーさんの耳をゴシゴシ……ゴシゴシ……裏側も、窪みも、念入りに掃除していきます。
「ふぅ、こんなに黄色い汚れがついて……粉が多く出てる証拠ですわ。さて、それでは耳かきで、残りの汚れがないかを確認しまして……」
カリカリ……カリカリ……
サリサリ……サリサリ……
うん、もう大した汚れは残っていませんね。それでは、中の掃除をしていきましょう。
「カリカリ……カリカリ……ウフフ、こうしてトレーナーさんの耳かきをしていると、なんだか普段とは立場が逆になった気分になりますわ」
「お……おう、言われてみればそんな気もしなくもないが……」
いつもお世話になってる方のお世話をするというのは中々楽しいものですわね。さて、奥の方も確認しましょう。
「ん……ちょっと見辛いですわね。えーと……」
顔を近づけてよーく覗いて見て……んー、それらしいのが見えましたわね。掃除していきましょう。
サリサリ……サリサリ……
ガッ……ベリベリ……
「はい、綺麗に取れましたわね。どうでした? 痛くはなかったですか?」
「ああ、大丈夫……と言うより、もうちょっとその辺、掻いてくれないか?」
「この辺……ですか? 見た限り、特に汚れはありませんが……」
トレーナーさんが言ったらへんを取り合えず搔いてみますが……特に汚れはありませんわね。という事は……。
「……トレーナーさん? 前に言いましたよね、やりすぎれば耳の中が悪化すると」
そう言って耳の中を耳かきでこつこつと突くと、トレーナーさんは体をビクッと震わせて、横目でこちらを見上げてきました。
「……バレるの早くないか?」
「以前ももっと掻いてほしいなんて仰っていたからです。さぁ、バカな事を言うのはこれでお終いにしてくださいまし……その代わり」
トレーナーさんの耳元に口を近づけて、静かに、囁いてあげます。
「こうして……囁いて差し上げますわ」
必要以上に顔を近づけ、カリカリカリ……と囁きながら耳かきを動かして差し上げますと……ふふふ、気持ちよさそうですわね、トレーナーさん。
「マ、マックイーン……そんなに囁かれたら……」
「うふふ、気持ち良いでしょ? こうして……貴方の愛バが耳元で……囁いてあげてるのですよ。カリカリカリ……カリカリカリ……」
耳元で囁き続けていると、トレーナーさんが体を震わせ、耳まで赤くして……うふふ、年上の方なのに可愛らしいと思えてしまいますわ。クリークさんのように母性を刺激されるのでしょうか?
「カリカリカリ……掃除はこの辺りにしておきましょうか。それでは、梵天で細かい粉の掃除していきますわ」
みみかきをひきぬき、次に梵天で取り切れなかった小さい粉や耳垢の欠片を絡めとって……くるくる~……ふわふわ~……と。
「んん……前のより柔らかいか?」
「はい、今回のは毛が柔らかい物をご用意しました。ですので、以前のよりも優しくて……気持ち良いでしょう?」
ふわふわの梵天で掃除されるのは私も気持ち良いと感じていますので、トレーナーさんも気持ちよさそうで何よりですわ。
「さぁ、梵天も終わって……ふ~……ふ~……」
顔を近づけたまま、耳元で息を吹きかけて差し上げますよ、トレーナーさんがビクビクッと体を震わせました。ふふふ、可愛らしいですわね。さぁ、こちら側はこれでお終いですわね。
「ふお……おおお……」
「あらあら、そんなに悶えちゃって。やはり梵天の後の息は気持ち良いのですね。これからもして差し上げますわ」
身悶えするトレーナーさんに声をかけながら、軽く持ち上げて一気に反対側を向かせます。さぁ、こちら側をしていきますわよ。
「さぁ、こちら側の掃除をしていきますわよ。体の力を抜いて、大人しくしていてくださいませ」
「う……わ、わかったけど、体勢は変えても良いんじゃ……」
「問答無用、ですわ」
トレーナーさんがごちゃごちゃと言ってくる前に先手を打って耳をウェットティッシュで拭いていきます。ゴシゴシ……ゴシゴシ……こちらも汚れてますわね。
「ふぅ、やはりトレーナーさんは耳のお手入れが疎かですわね。これからもメジロのウマ娘として、パートナーの身だしなみには私も参加しなければなりませんわね」
「あ……と、うん、頼むわ……」
トレーナーさんからも了承を得れましたし。それでは、まずは目の前の掃除から……。
カリカリカリ……ガリガリガリ……
ザリッ……ベリッ……ズズ……
「耳垢を一つ一つ……丁寧に掻き出して……耳の中を傷めないように……」
「うお……そこ……気持ち良い……もっと掻いてくれれば……」
またバカな事を仰るトレーナーさんを無視して、次は梵天ですわ。
コシュコシュー……コシュコシュー……
クルクル……フワフワ……
「耳かきで終わりではなく、こうした細かい汚れも取ることが大事ですわ。粉が固まったら困りますもの」
「ん……まぁ、理屈はそうなんだろうけど……気持ち良かったらどうでも良いかな……」
トレーナーさんとしてその発言はどうかと思うのですが……それだけ気を抜いていらっしゃると思っておきましょう。
「最後は……ふ~……ふ~……」
「ふぉぉぉ……」
ふふふ、楽しかったですが……これで耳かきはお終いですわね。
「さぁトレーナーさん。耳かきはお終いですが、後はお昼寝をしましょうね」
「……いや、前にやってもらった時は確かに俺から昼寝をねだったけど、今はマックイーンは疲れが溜まってるんだし、ここまでしなくても……」
そんな事を言うトレーナーさんの耳を少し力を入れて引っ張って、広がった穴に向かって囁いてさしあげましょう。
「良いんですの。私がやりたいんですから。トレーナーさんは……文句を言わず、大人しくお昼寝してください」
「……はい」
まったく、この程度の事で気を使ってもらわなくても大丈夫ですのに。それに……レース続きだからこそ、たまにはこうしてのんびりと過ごしたいのですわよ。
「トレーナーさん? これからも人バ一体、宜しくお願いしますわね」