「あ~……ダル重~……セイちゃん、疲れちゃったー」
トレーナーさんの部屋のベッドに身を投げて、全力で気を抜く私。いや、仕方ないじゃん、こないだまでずーっと菊花賞に向けての練習練習また練習。レースは勝ったけど、もうセイちゃんお疲れモードに入っちゃった。
「んー……ごーろごろ。ごーろごろ」
ベッドでゴロゴロとしながら、窓から差し込む太陽光を浴びてボーっと過ごす。んー、良い気持ち♪ これはこのままお昼寝確定。このままのんびりと……お昼寝……。
「こらスカイ! 今日は勉強の日だろ! 寝るな!」
んー……折角気持ち良く寝れそうだったのに……もー、トレーナーさんは無粋だなぁ……。
「えー……良いじゃんかー。こないだまで菊花賞の為に全力で頑張ったんだからー……しばらくはお休みしても良いでしょー」
「そうやって気を抜いたらすぐにライバルに追い抜かれるんだぞ。別に全力で勉強しろとは言わないけど、ゴロゴロしてたらすぐに衰えるからな」
んもー、煩いなぁ……何か上手い事言い訳とかできないかなぁ……。あ、そうだそうだ。
「それじゃぁさぁ。集中力のトレーニング、付き合ってくれない?」
「トレーニングならいくらでも付き合うぞ」
「はーい、言質頂きましたー。それじゃ、ちょっと待っててねー」
トレーナーさんに時間を与えずにベッドから起き上がってさっさと耳かきの用意を始める。付き合ってくれるっていったもんねー。
「……なぁスカイ。なんで耳かきの用意してるんだ?」
「えー? 鈍いなートレーナーさんは。トレーナさんの耳かきをするからに決まってるじゃないですかー、常識で考えて」
私の言葉にトレーナーさんはすっごい顔をしてきた。ヤダなー、怖いなーもー。
「スカイ。俺達はトレーナーと担当ウマ娘であり、過剰なスキンシップと言うのはだな……」
「えー? でも、前にやってくれましたよね? ほら、これ証拠ですよ」
そう言って私はこないだの耳かきの時にこっそり撮影しておいたトレーナーさんの寝顔を見せる。私の膝枕で寝てるのは過剰なスキンシップに含まれないのかな?
「んぐっ……だ、だが、あの時は眠気で判断力が鈍っていて……」
「えー? 社会人としてそんな言い訳が通用すると思うのー? 他の人にも意見を聞いてみようかなー」
そう言うと、トレーナーさんが言葉に詰まったみたいで何か言おうとするけど、口のなかでもごもごと呟くだけ。
「ねぇねぇトレーナーさん。年下の女の子に言い負かされるのってどんな気持ち? どんな気持ち?」
「……スカイ。流石に怒るぞ?」
ありゃ、流石にちょっとからかいすぎたかな。この辺で止めとこうか。
「ごめんごめん。流石にセイちゃんも言い過ぎたって反省しちゃうよ。でも、耳かきはしても良いよね? 集中力のトレーニングにもなるしさー。ね、良いでしょ?」
「……わかった、わかったから……その画像を誰かに見せたりとかするなよ。フリじゃないからな?」
そりゃぁ、見せるわけないじゃん。トレーナーさんの寝顔なんて誰かに見せて変に騒がれるなんて嫌だもん。まぁ、そんな事言わないけどね。
「それじゃぁー……早速始めましょうか。ほら、トレーナーさん、早く早く」
ベッドに座ってポンポンと膝を叩くと、トレーナーさんは渋い顔をしながらも膝枕に頭を置いてくれた。
「ねぇー、トレーナーさん。そんな渋い顔をしないで欲しいな。そんなに私の膝枕って嫌なの? 本気で嫌なら、そりゃ……私もやめるけど」
「……嫌なわけないだろ。嫌なわけじゃないから困るんだよ」
えー……そんな顔を赤くしてそっぽ向かれるとさー。私だって恥ずかしくなるんだけど……。困っちゃうなー、もー。
「……それじゃ、耳かきをしていきましょうか。温かいタオルでトレーナーさんの耳をゴーシゴシ」
恥ずかしさを誤魔化すためにトレーナーさんの耳をタオルでゴシゴシしていく。ふんふんふん♪
「どーお、トレーナーさん。気持ち良いでしょー。ちゃんと窪みもギュッギュッと擦っていくよー」
「ん……けっこう念入りにするんだな」
そりゃぁね。やるからにはちゃんとやらないと。トレーナーさんの耳が汚れっぱなしって言うのも、担当ウマ娘としての沽券に関わりますから。
「ゴーシゴシ、ゴーシゴシ……うん、こんなところでしょ」
タオルで擦り終えた後は、綿棒で湿った粉をゴシゴシゴシ……ってありゃ、そんなに無い感じかな? んー、これは中に期待かな?
「外側は……そんなに汚れてないのかな? うーん、もっと汚れてると思ったんだけどなぁ」
「……いや、残念がる事か? 汚くないほうがいいだろ」
もー、わかってないなぁトレーナーさんは。やりがいってのは大事なんだよ? 汚くなかったらやりがいがないじゃん。
「前回は外側も汚かったしねー。んー、それじゃぁ中はどうかなーっと……んー、んー?」
暗くて見えにくいけど……ありゃ、なんか汚くない? 今回は中のほうが汚れてるパターンかぁ。こりゃやりがいはあるかな。
「ふっふっふっ~。汚れてるのはっけーん。さてさて……簡単にとれちゃうのかな? それとも、手強いのかな?」
耳かきでカリカリっと掻いてみて……ふむふむ、ちょっと固目……力を入れ過ぎず……慎重に行きましょうか。
「カリカリカリ……カリカリカリ……トレーナーさん、痒いところはございませんか?」
「んん……特にないけど……早く取ってくれると嬉しい」
えー? このセイちゃんの膝枕からそんなに簡単に離れられると思ってるのー? 甘いなぁ、トレーナーさんは。
「もー、トレーナーさんが鍛えた足なんだよー。もっと堪能して欲しいのになぁ、酷いなぁ。セイちゃん、泣いちゃいそう」
そんな事を言いながらもちゃーんと耳かきを動かすセイちゃんって偉いと思わない? ガリガリっと、固い耳垢もちゃーんと取っちゃうからね。
「ガリガリガリ♪ ガリガリガリ♪ うんうん、トレーナーさんの耳が綺麗になっていくのは楽しいなー」
「そんな事に楽しみを見出さなくて良いんだぞ」
えー、つれないなぁトレーナーさんはー。
「もう、そんなつれない事言っちゃってー。はい、取り敢えずこっちは取り終わりましたよ」
汚れてたけど、まぁまぁ早めに終わっちゃったかなー? まぁいいや。反対側が残ってるもんねー。
「後は、こまか~い汚れをザリザリっと……うん、これで良し。それじゃぁお待ちかね。ふ~……ふ~……」
「んぐっ……はぁ……」
もー、なんで我慢するのかなー。もっと背筋をビクッてしてくれたら可愛いのになぁ。
「はい、こっち側はお終いですから、次は反対側を……おやおやー? どこに逃げようというのかね?」
体を起こそうとするトレーナーさんの捕まえ、無理やり私のお腹の方に顔を押し付ける。ふっふっふっー、前もそうだったから、予想の範囲内ですよー。
「ちょ……スカイ。もういい、もういいから……」
「だーめーでーすーよー。はい、おとなしくこっち側をやっていきましょうねー」
もぞもぞと動くトレーナーさんを抑え込んでと。もー……そんなに動かれると……恥ずかしくなっちゃうじゃないですかぁ……。
「ほらー、動かない動かないー。タオルでゴシゴシしてあげますから、動いちゃだめですよー。それに……おとなしくしてるほうが早く終わる……そう思いません?」
耳元で囁いてあげると……あ、少し悩んだけど落ち着いてくれた。じゃぁ、やっていきましょー。
「あたたかーいタオルで、ごしごーし。ごしごーし。窪みもギューッと、汚れを拭き取っちゃいますからね」
「んん……これ……気持ち良いんだよなぁ……」
あー、トレーナーさんの顔が解れてきた。良い顔良い顔♪
「外側をゴシゴシ、ザリザリザリ。タオルで取れなかった分の汚れをゴーシゴシ♪」
「おお……けっこう隅々までグイグイいくなぁ」
微妙に残ってる湿った粉をこうして絡めとって、掃除してっと。
「中は~、黄色く固まった耳垢とか~、細かい粉とかを~ゴーリゴリ、ザーリザリ♪」
「んぐっ……痒い……けど、気持ち良い……」
ふっふっふっー、気持ち良いですよねー? このまま、セイちゃんの耳かきなしじゃ生きられない体にしてあげよっかなー、っと。
「耳かきが終わったらー……息をふ~……ふ~……」
「うぉぉぉ……ちょ、ゾクゾクする……ッ」
あーもう、トレーナーさん、可愛いなぁ。こっちもゾクゾクしちゃうよ。
「……さてさて、耳かきはお終いですから……このままおねんねしましょうね」
「いや、大丈夫。大丈夫だからもう放してくれれば……」
だから……逃がすわけないじゃないですか。
「もー、人間はウマ娘には勝てないんですから、トレーナーさんは大人しくセイちゃんのお膝で、おねんねしてくださいってば……わかってるんですよ? トレーナーさん、最近そんなに寝てないでしょ。愛バの私にはよーくわかるんですからね」
「いや、そんな事は……」
言い淀むトレーナーさんの頭をコツンと叩いて、トレーナーさんの耳元に口を近づけて……。
「セイちゃんにはわかるんですよ。トレーナーさんが私を見てくれてるように、私だってトレーナーさんの事を見てるんですから……明日からちゃんとトレーニングしますから、今日ぐらいは……ね?」
「ムムム……」
「何がムムムなんですかー。ほら、さっさと寝てください、寝ない限り離しませんからね」
更に促すと、トレーナーさんは諦めたのか体勢をモゾモゾと微調整して……しばらくしたら寝息が聞こえてきた。うんうん、寝てくれたね。
「ふぅ……まったく、困った人だねー、トレーナーさんは。ねぇトレーナーさん、どんな気持ち? 貴方の愛バの膝枕で寝るのはどんな気持ち?」
疲れてるなら疲れてるで、セイちゃんが珍しくやる気出して頑張ってる時にはオーバーワークにならないように注意するのに、自分はオーバーワークを平気でするんだから……でも、そう言うところも含めて、私はトレーナーさんの事が好きなんだろうなぁ。
「おやすみなさい……大好きなトレーナーさん……」