サボり癖のあるセイウンスカイの面倒って、体力のある男より女の方がやっぱりキツく感じたりするんですかねぇ。
まぁ、ウマ娘のトレーナーしてる時点できっと一般人より優れてるので大丈夫なんでしょうが。
「うばぁぁぁ……づがれだぁ……」
大あくびををしながら半分猫背で歩いている私はどこにでも居る新米トレーナー。強いて違う所を上げるとしたら新米一年目の担当ウマ娘がG1レースに勝利してる所かな……って何をバカな事を考えてるんだ。
頭の中のどうでもいい文章を追い出しつつトレーナー室へ歩いていく。先日、私の担当ウマ娘であるセイウンスカイが菊花賞を制した。ハッキリ言って、新米トレーナーの私にG1ウマ娘に対する適切な行動なんてわかるはずもなく、ともかく一日一日が勉強と仕事の連続だ。おかげでしんどいのなんの……。
そんなわけで、もうトレーナー室で仮眠でも取ろうかと思って部屋の扉を開けると……そこではスカイが半分以上寝てる姿があった。気持ちよさそ……じゃない!
「こらスカイ! 今日は勉強の日でしょ! 寝ないの!」
思わず大声で叫ぶとスカイが眠そうにこちらを見上げてくる。
「えー……良いじゃんかー。こないだまで菊花賞の為に全力で頑張ったんだからー……しばらくはお休みしても良いでしょー」
「そうやって気を抜いたらすぐ皆に追い抜かれるんだって! 別に休み休みでもいいから勉強してって、ゴロゴロしてたらすぐに追い抜かれちゃうんだよ」
スカイの周り……スペちゃんやグラスちゃんとか、明らかにずば抜けてるんだもん! 今回はともかくこれからのG1レースでの戦いを考えたら少なくとも継続したトレーニングはさせないと!
「それじゃぁさぁ。集中力のトレーニング、付き合ってくれない?」
?? 集中力のトレーニング? それなら勉強で良いような気もするけど……いや、彼女が自分自身でやりたいと言ってきた事なんだ、トレーナーの私が付き合わなくてどうするの。
「良いよ、どんなトレーニングかわからないけど、付き合ってあげる」
私がそう言うと……あれ。スカイがいやーな笑みを浮かべたんだけど。もしかして早まった?
「はーい、言質頂きましたー。それじゃ、ちょっと待っててねー」
私が聞き返すより早くスカイがベッドから飛び起きて……なんで耳かきの準備をしてるんだろう? それが集中力のトレーニングなの?
「……ねぇスカイ? なんで耳かきの用意してるの?」
「えー? 鈍いなートレーナーさんは。トレーナさんの耳かきをするからに決まってるじゃないですかー、常識で考えて」
ちょっとイラッとしたけど聞き流そう……で、耳かきかぁ……いやいや、前は半分頭が寝てたからしてもらったけど、やっぱり教え子に耳かきしてもらうのは世間体が宜しくない。止めないと。
「ねぇスカイ。私達はトレーナーと担当ウマ娘だから、過剰なスキンシップをするのはちょっと……」
「えー? でも、前にやってくれましたよね? ほら、これ証拠ですよ」
そう言ってスカイが見せてきたのは、明らかに膝枕で寝てる私の寝顔だった。ちょ……ちょおっ!?
「ぐぐぐ……で、でも、あれは半分寝ぼけてたからだから……本位じゃないから……」
「えー? 社会人としてそんな言い訳が通用すると思うのー? 他の人にも意見を聞いてみようかなー」
そう言ってニヤニヤしてるスカイに何か反論しようとするけど……あー、うまく言葉が出てこないよー。なんか、何言って言い負かされそうな気配がするんだけど!
「ねぇねぇトレーナーさん。年下の女の子に言い負かされるのってどんな気持ち? どんな気持ち?」
「……スカイ。流石に怒るよ?」
ちょーっと調子に乗り始めてるスカイに釘を刺す。このまま調子に乗りすぎると数日間トレーニングサボったりするからなぁこの子。
「ごめんごめん。流石にセイちゃんも言い過ぎたって反省しちゃうよ。でも、耳かきはしても良いよね? 集中力のトレーニングにもなるしさー。ね、良いでしょ?」
「……わかった、わかったから……その画像を誰かに見せたりとかしないでよ。フリじゃないからね?」
うんまぁ、耳かきはある意味集中力は必要だけどさ、トレーニングになるのかなぁ……? でも、これ以上渋って暴走されても困るからなぁ。
「それじゃぁー……早速始めましょうか。ほら、トレーナーさん、早く早く」
ベッドに座ったスカイが自分の膝を叩きながら私を手招きする。それに従って彼女の膝枕に頭を横たえると、スカイが頭に手を置いてきた。
「ねぇー、トレーナーさん。そんな渋い顔をしないで欲しいな。そんなに私の膝枕って嫌なの? 本気でイヤなら、そりゃ……私もやめるけど」
「……嫌なわけないじゃん。嫌なわけじゃないから困るんだけど」
スカイは私の自慢の担当ウマ娘だ。どういう意図があるにしろ、そんな彼女の膝枕と耳かきを味わえるなんて幸せですらある。でも、これを当然だなんて思っちゃいけないのだから。
「……それじゃ、耳かきをしていきましょうか。温かいタオルでトレーナーさんの耳をゴーシゴシ」
反応するのに少しの間があったけど、スカイはタオルで耳をゴシゴシと擦っていく。あったかいタオルに包まれた耳がとても気持ち良い。
「どーお、トレーナーさん。気持ち良いでしょー。ちゃんと窪みもギュッギュッと擦っていくよー」
「ん……けっこう念入りにするんだね」
普段のあれもこれもてきとーにこなしてるスカイの印象からは全然思い浮かばないぐらい、丁寧に、念入りに、私の耳が掃除されている。この念入りな具合を普段のトレーニングで発揮して欲しい。
「ゴーシゴシ、ゴーシゴシ……うん、こんなところでしょ」
程なくしてタオルが耳から離れて、温かかった耳が、今度は外気に触れてひんやりとした感触に包まれる。そして、次に綿棒が耳を擦り始めた。
「外側は……そんなに汚れてないのかな? うーん、もっと汚れてると思ったんだけどなぁ」
「……いやいやいや、残念がる事じゃないでしょ? 汚れてないほうが楽じゃん」
面倒くさがりなスカイならささーッと終わらせてはいお終い。ってやりたい側だと思うんだけどなぁ……なんで肩をすくめるんですかねぇ?
「前回は外側も汚かったしねー。んー、それじゃぁ中はどうかなーっと……んー、んー?」
中を確認してるスカイの動きが止まって、ジーッと耳の中を覗いてきてる。あのー、何かあるの?
「ふっふっふっ~。汚れてるのはっけーん。さてさて……簡単にとれちゃうのかな? それとも、手強いのかな?」
楽しそうに、ふんふんふん♪ なんて音が聞こえてきそうなスカイの様子を見ていると、耳かきが中にススーっと入ってきた。
「カリカリカリ……カリカリカリ……トレーナーさん、痒いところはございませんか?」
「んん……特にないけど……早く取ってくれると嬉しいかな」
んー……すぐに指を突っ込みたいとかそう言うのはないけど、やっぱり早く取ってくれる方が嬉しいし……後、耳かきのせいか眠気が襲ってきてて……早くどかないと寝そう……。
「もー、トレーナーさんが鍛えた足なんだよー。もっと堪能して欲しいのになぁ」
そんな事を言いながらも、スカイは耳かきの手を止めることなく、耳垢をカリカリと掻いていって、掻いていって……あ、ベリィッ……って、取れたぁ……。でも、また耳かきが入ってきて、次の耳垢を掻き始める。
「ガリガリガリ♪ ガリガリガリ♪ うんうん、トレーナーさんの耳が綺麗になっていくのは楽しいなー」
「えーと? そんな事に楽しみを見出さなくて良いんだよ?」
耳掃除をしてるスカイからは確かに楽しいって気配がビンビンに感じるんだけど、でも、トレーナーの耳かきよりももっと楽しい事ってあると思うんだけど。
「もう、そんなつれない事言っちゃってー。はい、取り敢えずこっちは取り終わりましたよ」
なんてことを言い合っている間に耳かきは無事に終わったみたいで……うん、汚れてるって言われちゃったけど、難しかったわけじゃなかったみたい。
「後は、こまか~い汚れをザリザリっと……うん、これで良し。それじゃぁお待ちかね。ふ~……ふ~……」
「ひゃうっ! ……はぅぅ……」
耳かきが無事に終わった……って気を抜いていたら、突然息を吹きかけられた。これ……ヤバイって、こんな気持ち良いの、癖になっちゃう……絶対にばれないようにしないと、不意に息を吹きかけられたりされかねない。
「はい、こっち側お終いですから、次は反対側を……おやおやー? どこに逃げようというのかね?」
これ以上の事をされる前になんとか逃げようとするけど、そんな私の体をガッシリと抑え込まれ、私の顔がスカイのお腹に埋もれる形で取り込まれる。ダメダメダメダメ! これ、絶対にダメだって!
「ちょ……スカイ。もういい、もういいから……離して……離して……!」
「だーめーでーすーよー。はい、おとなしくこっち側をやっていきましょうねー」
体をバタバタさせて逃げようとするけど逃げれない。スカイの両腕でガッシリと抑え込まれちゃったら人間の私に抵抗する術はない。でも、逃げる……逃げないと……!
「ほらー、動かない動かないー。タオルでゴシゴシしてあげますから、動いちゃだめですよー。それに……おとなしくしてるほうが早く終わる……そう思いません?」
耳元で静かに囁かれた言葉に私は動きが止まり……そして暫くの間考え込んだ後に、体の力を抜いた。このまま逃げようとしても無益どころか、スカイの良い匂いで頭がおかしくなる。なら、さっさと終わらせてしまおう。
「あたたかーいタオルで、ごしごーし。ごしごーし。窪みもギューッと、汚れを拭き取っちゃいますからね」
「んん……これ……くやしいけど気持ち良いんだよぉ……」
もう覚悟を決めたおかげで逃げようって考えていた分の余裕が生まれたおかげか、今は純粋にスカイの耳かきの気持ち良さを堪能しちゃう。
「外側をゴシゴシ、ザリザリザリ。タオルで取れなかった分の汚れをゴーシゴシ♪」
「はぅ……けっこう隅々までグイグイいくのが……スゴ……溶けそう……」
先にやってもらった側の耳と同じように、隅々から窪みから、ギュッギュッギュッ、グーッ、グーッとツボも押してもらいながら汚れを掃除してもらっていく。はぁ……スカイの手が暖かいなぁ……。
「中は~、黄色く固まった耳垢とか~、細かい粉とかを~ゴーリゴリ、ザーリザリ♪」
「はぅ……痒い……めっちゃ痒いんだ……けど、気持ち良い……ゾクゾクしちゃう……」
はぁ~……スカイにやってもらう耳かきがこんなに気持ち良いと……もう、癖になっちゃいそうで癖になっちゃいそうで……怖い。このままじゃ、スカイが何かにつけてこれを利用してサボり癖が強くなりそう……! 気を付けないと……!
「耳かきが終わったらー……息をふ~……ふ~……」
「はわわわわわ……ちょ、ゾクゾクする……ッ」
綺麗になった耳の中にスカイの吐息が通り抜けて……ダメ……これ、これは本当に頭がおかしくなりそう……!
「……さてさて、耳かきはお終いですから……このままおねんねしましょうね」
「いや、大丈夫。大丈夫だからもう放してくれれば……」
このまま寝ちゃったらスカイの沼に完全に嵌っちゃう。逃げないと、寝ちゃう前になんとしても逃げないと……耳かきも終わったんだから、逃げても大丈夫なはず……! って、スカイの力が全然緩んでくれないんですけど!
「もー、人間はウマ娘には勝てないんですから、トレーナーさんは大人しくセイちゃんのお膝で、おねんねしてくださいってば……わかってるんですよ? トレーナーさん、最近そんなに寝てないでしょ。愛バのわたしにはよーくわかるんですからね」
「ナ、ナンノコトヤラー……」
スカイのお腹に顔を埋められたまま、被さるようにスカイが耳元に口を近づけて、息のかかる距離からの言葉。
やはり逃げようとしたのを抑え込まれて誘惑される。ヤバイ、これは悪魔の誘惑だ。負けない、トレーナーとして、悪魔の誘惑には絶対に負けるわけにはいかない……!
「セイちゃんにはわかるんですよ。トレーナーさんが私を見てくれてるように、私だってトレーナーさんの事を見てるんですから……明日からちゃんとトレーニングしますから、今日ぐらいは……ね?」
「ムムム……」
「何がムムムなんですかー。ほら、さっさと寝てください、寝ない限り離しませんからね」
……クソーッ、冷静な頭の部分でこのまま寝てしまうほうがメリットが多いというのを理解してしまった。このまま逃げようとしても時間と体力を無駄に消費するだけ……なら、さっさと寝てしまうほうが良い……そう、理解してしまったのだ。
(もう……このままスカイの手玉に取られる事が続いたらトレーニングをやらすときに支障が出ちゃうのに……)
このままスカイの良いようにさせてはいけない、いけないんだけど……今日はもう……寝よう。