オラリオに最悪の呪詛師がいるのは間違っているだろうか? 作:五月雨@ノン
決着だと言ったな?あれは嘘だ
視線の先には獣がいた
肉体に浮き出た筋肉は更に盛り上がり、血管はより力強さを現すかのようにビキビキと太い血管を浮かばせ、身に纏う覇気は最早先程よりも比べならない程に大きく膨れ上がり夏油の体にのしかかり、オッタルという存在を大きく主張している
ここからの戦いが本番、ということは誰から見ても明白であった
夏油は相手の動向を何一つ見逃すことのないように目を鋭くさせ、オッタルの動向を伺う。
ピクリとオッタルの脚の筋肉が一瞬、動いたのを夏油は見逃さなかった。
来る―――!
オッタルが動き出した瞬間、その一つ一つの細かな動向まで捉え、遊雲を強く握り締めて何時でも迎撃が出来るように構える。
オッタルが1歩を踏み出した瞬間
「は」
夏油の視界からオッタルが完全に消失した
(一体何処に――ッ!)
首元に悪寒が走り、第六感が警鐘を鳴らした
すると突如としてオッタルの気配が夏油の右方に現れた。それに目を見開き、動揺を隠せない夏油だったがオッタルはそんな夏油へと大剣を迷わず振るった
オッタルの大剣が夏油の首を撥ねんと最早目視すら不可能なレベルの早さだった
「ッ」
夏油は自身の勘に従い、体を反ることでなんとかそれを回避する。黒曜石のように艶やかな髪がハラハラと数本斬られ、宙を舞った
それだけではオッタルの攻撃は終わる筈もなく、ギチギチという筋肉が引き締まる音と共に横薙ぎされた大剣を正眼へと構え、反った体勢の夏油に追い討ちを掛ける
「ッ、壁!」
夏油は自身が重宝している防御特化型の呪霊を自分とオッタルの間に呼び出し、オッタルの攻撃を防ぐ為の盾にする
激しい衝撃音と共に、呪霊と大剣はぶつかり合い、火花を散らす。オッタルの恐るべき力で振るわれた大剣は大きく風を巻き起こし、地盤を衝撃だけで崩れさせるが呪霊は確かにその一撃を防いでいた
だが、その代償は大きかった
「ッ...!」
鋼鉄の如きその体躯にヒビが入り始め、そこから赤紫色の血が溢れ始める。
夏油は咄嗟に重要な手駒を壊されぬようにと呪霊を術式で仕舞い込み、呪霊がオッタル相手に作った一瞬の隙を一瞬の隙でバックステップをして大剣の一撃を回避する
地面に突き刺さった一撃は、クッキーを割るが如くに容易に亀裂が入り、床が崩落する
夏油はそれに一瞬顔を顰めるが、直ぐ様に着地体制に入り、傷一つなく着地することに成功させる。オッタルはというとフレイヤに柱に寄り掛かっていたフレイヤを抱き抱え、ドスンと重量感のある音を立てて着地する
「申し訳ございません、フレイヤ様。お召し物を汚してしまいました」
「気にする事はないのよ、オッタル。幾らでも代えなんてあるもの」
そんな日常会話の如き緩やかな会話を目の当たりにした夏油はピキリと額に青筋を浮かべ、舌打ちを漏らす
(随分とまぁ、余裕だな)
グツグツと夏油の腸が煮え滾る。夏油は自身のすぐ傍にあった瓦礫を片手で掴み取り、それをフレイヤの顔面へと呪力を纏わせ、プロ野球選手も飛び上がる程の速度で勢いの如くそれを投げる
フレイヤはそれをチラリと横目で見るが、どうでもいいと言わんばかりにまたオッタルの会話へと戻った
このまま何もしなければフレイヤの顔面へと着弾する瓦礫はフレイヤの傍にいたオッタルの拳の一振で木っ端微塵になった
オッタルはクルリと何事もなかったかのように夏油の方へと振り返る。それが却って夏油の気に障った
その振る舞いが圧倒的強者のそれであり、それをして許されるのは最強である五条悟だけだと感じているが故に、そして自分が五条悟以外の相手に余裕を持たせているという現実に、夏油は腸が煮え滾った
怒りを抱くがそこは元特級呪術師と言うべきか、怒りを戦意へと変換し、自らのモチベーションを上げ、目の前の
先程のオッタルの攻撃を躱せたのは夏油がこれまで戦いの中で伸ばした勘が働き、回避することが出来た。だが、これは二度とは起きることは限りなく低いだろうし、何よりもし勘が外れれば夏油の命はオッタルの一撃によって落とすことになる
そんなほぼ運任せのものに頼る程、夏油は落ちぶれてはいないし、何よりまだ取れる策も残っている。
夏油は無数の呪霊の内から、一体の羽虫の形をした呪霊を呼び出す。呪霊が呼び出された瞬間、呪霊を中心に霧のようなものが拡がった
オッタルが身構え、霧にどんな効果があるのか注意してみるが、特に自分の体に異常は見つからず、この霧は視界に遮る又は気配を消す類のものだと判断する
そのオッタルの推測は当たっていたようで先程までそこにあった夏油の呪力はまるで元から何もいなかったかのように無が広がっていた
オッタルは試しに大剣を大きく振り上げ、霧を掻き分けんと風が吹き荒れるようにと力強く大剣を振るう。
ゴオッ!という音と共に突風が吹き荒れる。それはさながら台風の中心部にいるが如く、猛々しい風だったが夏油の呪霊の霧は雲散することは一向になかった
夏油が呼び出した呪霊は呪力で霧を作り出している為、これを退けるには呪力を使った又は呪具を使用しての攻撃でなければ退けることは出来ない。
それに加えて、この呪霊の等級は一級に辺り、生半可な者では攻撃どころか呪力の圧によってまともに動くことも出来ない
だが、
(....魔力が感知出来ない。随分と面倒な真似をしてくれる)
オッタルは呑気にそんなことを思いながらも、目を閉じ、自身の耳をへと神経を集中させる。
するとコツコツと地面を闊歩する音が鼓膜を揺らした
(これは、右.....いや、背後ッ)
オッタル自身の右足を軸に背後へと大剣を勢いよく横に薙ぎ払った
だが、そこに夏油の姿は見えず、無が広がっていた
「....何?」
オッタルは口から疑問を漏らすが、また大剣を構え直しては夏油がいつ、何処からでも来ていいように意識を研ぎすまさせる
だが、それを邪魔するかのようにまた足音が鳴った。
しかし、今度は背後ではなく全方向から同時に足音が鳴り始めた。これには流石のオッタルも動揺を隠せないでいた
(全方向だと、有り得ない....奴が使役していたモンスターを俺の周りに配置しているのか?いや、奴はそんな無駄な手は使って来ない。なら、先程のモンスターと同じでなにか魔法を使ったのか....あぁ、全く本当に)
「面倒だ」
オッタルは再度目を閉じ、意識を集中させてこの空間を精確に読み取っていく。すると自分の周りを魔力に似た何かがグルグルと駆け巡っており、それに触れた部分
から足音が鳴っているのが分かる
だが、オッタルの目的はそれではない。更に意識を深く沈め込み、より緻密に、寄り広く気配を探っていく
「捕捉した」
全身の筋肉を駆使して地面を蹴り上げ、夏油のもとへと一直線に向かって行く
それを夏油は距離が空いていたことからギリギリ感知し、迎撃の構えを取る
(くそ、気付くのが速い...だが、用意は整っている)
夏油との接敵まで残り4メートル程に差し掛かった瞬間、オッタルの目の前に壁が立ち塞がった。
その壁は夏油の使役している呪霊の術式で自分の一定範囲内の地面を操作するというものだ
だが、操作をする際に複数操作することになると途端に精度が低くなる上に、操作する際に呪力が漏れるという点が欠点であった
そこで夏油は、呪力を隠蔽する術式を持つ呪霊を使い、呪力をカモフラージュをした上でオッタルの攻撃方向を一つに絞らせることでそれをカバーした
整えられた環境で、発動されたその術式は最早準一級の域を超え、一級の領域へと手に掛けていた。
だが、悲しいかな。
「無駄だ」
オッタルがショルダータックルの体勢で土の壁へと勢いよく突っ込んだ
壁とオッタルは拮抗し合う――――
ことはなく、オッタルの鋼の肉体の前にまるでいとも容易くぶち破られ、オッタルはその勢いのまま夏油へと迫る
絶体絶命、このまま夏油が何もしなければ夏油はまるで柘榴のようなその中身弾けさせ、無惨にも殺されてしまうだろう
だが、夏油は壁を破られることも含めて備えていた
「いいや、無駄なんかじゃないさ」
夏油には壁とぶつかった瞬間のその一瞬の速さの緩みだけで事足りた。
突如、地面から鎖のようなものが飛び出し、オッタルの体へと巻きついた。だが、それだけでは即座に鎖を破壊されるだろう。そこで夏油はある手を加えたそれは
「やれ」
瞬間、オッタルの全身に電流が走った
「ッギィ、ガァッ!」
バチバチと突如自分に走った電流に驚きを隠せないが、電流はバチバチとオッタルの筋肉を揺らし、オッタルの体幹を崩す
痛みは感じないが、その分相手の行動を阻害するという方向に特化させたその電撃は如何に現オラリオ最強
だが、そう長く足を止める程現オラリオ最強の名は軽くはない。
オッタルは未だ電流が流れる中、オッタルは自らの魔力を全身から発することで無理矢理電流を吹き飛ばした
「無駄だと言っているッ!!」
まだまだ微かに体に流れる電流をものともせずにオッタルは雄叫びを上げ、夏油へともとへと足を踏み出す。
だが、夏油の顔に焦りはなかった。むしろニヤリと厭らしい笑みを浮かべた
「敢えてもう一度言おう、無駄じゃないさ」
ズシンと突如、凄まじい重力がオッタルのその身へと襲い掛かった。オッタルは体が未だ麻痺していることも含めて、膝を着いてしまう。
オッタルは忌々し気に夏油を睨み、自身が相手の罠にまんまと引っ掛かったことに腹を立てる。
「チェックメイト」
オッタルの第六感が警鐘を鳴らした
「ッ、上!」
オッタルが上を見上げるとそこには自身の脳天を丁度穿つように配置された一本の短剣があった。ゾクリとオッタルの背筋に悪寒が走り、自身の頭上にある短剣が自身に致命的な一撃を入れることを即座に理解した
一級呪具
その呪具の能力は、加速時による威力の上昇
これは禪院甚爾が保持していた呪具の一つで、五条悟との戦いでは使われなかったものの、一級の中では破格の性能で甚爾が重宝している程だった
夏油は疾毀鋼の効果と、呪霊の呪力操作を組み合わせることによって自らが振るうことなく、尚且つ最高の一撃を編み出すことに成功した
オッタルは自身へと迫り来る死に冷や汗が大量に流れ、如何にか回避しようとするが焦っていることも含めて全く解決策は見つけることは出来なかった。
夏油の腕が振り下ろされる共にオッタルの脳天目掛けて刃が落とされる。その速さは最早、音速を超え、この一撃を喰らえばオッタルといえど絶命は免れないだろう
(死ぬ、俺が...?)
有り得ない、有り得ていい訳がない
(負けるのか俺は....?)
そんなものは認められない
(フレイヤ様の期待を裏切るのか.....?)
否!否!否!
(俺は、フレイヤ様の忠実な下僕!主人の期待を裏切るなど断じて許されない!!)
故に、越えろ己を!越えろ限界を!!
「オォォォォオァァァァァ!!」
ギチギチと筋肉が悲鳴を上げるがオッタルは自身の大剣を拾い上げ死へと全身全霊で振るった。
「あの中で動けるだと!?出鱈目だッ!!だが、疾毀鋼を止められる訳が無い!」
大剣と疾毀鋼がぶつかり合い、金切り音が階層全体に響き渡る。ギギギギという音共に火花がまるで花火のように激しく散る
最高速で振り下ろされた疾毀鋼を相手に重力という枷がありながらもオッタルは恐るべき身体能力と勘によって拮抗している
だが、重力というディスアドバンテージはあまりにも大きすぎた
拮抗していた筈の衝突は徐々に徐々にと疾毀鋼の方へと天秤が傾いてゆく。オッタルは苦々しく顔を一瞬だけ顰めるが、ギチリと大剣を強く握り締める。
力を更に入れ、押し戻さんとするオッタルの耳にピシリという音が鼓膜を震わせた。
「ッ!」
オッタルの大剣が衝撃に耐え切れず、亀裂が入っていた。これは不味いと出来る限りの力を再度入れ、退けようとするが一向に押し戻る気配はなかった。
ブチブチという筋繊維がちぎれ、オッタルの脳天へと疾毀鋼が近付いくが、オッタルは抗うことを、剣を振るうことを止めなかった
“何故、そこまでして抗う?”
そんな自分の声が脳内に響いた。これに、オッタルは決まってるだろうと言葉を漏らす
(我が女神に勝利を、我が女神の栄光を捧げる為だ!!)
「ウオォォォオォ!!」
思考すら出来ない程の全身全霊を振り絞り、大剣の勢いを加速させてゆく。ピシリピシリと更に亀裂が入るがオッタルに最早その音は聴こえていない
あるのは自分に迫っている死を退けるということのみ
オッタルの大剣が疾毀鋼を押し戻し始める。その代償に更に亀裂が入り、刀身の半分まで亀裂が走った。
それでもオッタルは止まらない
「そこを、退けェェェッ!!」
その圧倒的不利な状況から火事場の馬鹿力で振るわれた大剣は遂に、疾毀鋼を打ち破った
突風が吹き荒れ、その大剣の一撃は自身に課せられた重力でさえも断ち切った。これに夏油は驚きを隠せず、大きく目を見開き、動きを止めた
これを見逃す程、オッタルは甘くはない
一瞬で夏油の前まで移動をし、正眼へと構えた大剣を夏油の脳天目掛けて振り下ろした。
夏油の視界がまるでスローモーションの如く、遅くなり自身へと迫る大剣を見つめ、これをどう対処するかを焦る頭を駆使してなんとか見つけようとする
回避?いや、もう既に懐に入られている
呪霊?今から呼び出しても手遅れ
游雲による迎撃?威力が乗り切っていない状態での一撃など
詰み、夏油の優秀な頭が導き出した答えはそれだった
“なら諦めるのか?·
脳内に響く自問自答
“裏切るのか?誓いを”
(けれど、もう打つ手が....)
“勝ち目が無いのは、諦める理由にはなるのか?”
(それは.....)
“それともまた
声がいつの間にか夏油のものから変わっていた
幻聴にしては、精密で暖かみがある声は此方を発破する
“なぁ、本当に打つ手はないの?”
(....回避は不可能、呪霊ももう遅い、游雲での迎撃では圧倒的に力が足りない。打つ手なんて、何処にも....)
“拳があるだろ、お前には”
(それは.....)
“お前は難しく考えすぎなんだよ、どん詰まったら我武者羅にやるのだって手なんだぜ?”
“だからさ
やって見せろよ、傑!
夏油は親友のその言葉に笑った。どれだけ己が罪を犯そうとも、どれだけ落ちぶれようとも己をただ一人の親友だと無垢な信頼を向け続ける男に
だから私もその信頼に報いよう、お前が信じた男として、お前が唯一認める親友として!
夏油は拳を強く握り締め、迫り来る大剣に向けて拳を振るった
(拳だと!?血迷ったのか、あの男は)
オッタルは内心、驚愕も疑問で満たしていたがそれを気にせすに大剣を勢いよく振り下ろした
唸る剛腕から振り下ろされた大剣は突風を巻き起こし、階層全体を吹かせる。その威力はこれまでの戦いで裏付けされており、このままでは夏油の拳は切り裂かれ、夏油の脳天へと大剣が突き刺さるという結末でこの戦いは幕を下ろすだろう
オッタルはそうビジョンを描いた
実際はその通りだろう。
だが、此処にいるのは最強と呼ばれた男の唯一の半身にて、最悪の呪詛師とも呼ばれた類稀なる男
そんな男が普通という檻に囚われる器などである訳がなかった
拳と大剣がぶつかり合う瞬間、夏油の拳に黒い閃光が走った
さぁ、覚醒の時だ
Tips:作者は最近、閃光のハサウェイを視聴した
投稿頻度は?
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もっと遅くても良い
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もっと早く
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作者のお任せ