オラリオに最悪の呪詛師がいるのは間違っているだろうか? 作:五月雨@ノン
「今帰ったよヘスティア」
そう言い、夏油がボロボロの木の扉を開くとギィィと聞く人を不安にさせる気の軋む音が鳴る。相も変わらずの古び具合だが、脳内で微調整すればこの木の軋み具合もご愛嬌だと考えれるように―――はなれないけども、それでもヘスティアという家族が待っているということだけで胸が満たされる。
ミミやナナ、そして他の家族との比較なんて出来る訳がないが、自分の大義や呪術師達に勘づかれないように気を配る必要がないこの場所は夏油にとって心安らぐ場所であった
「おかえり!夏油君!」
廊下の奥からトタトタと可愛らしい足音と共にこの教会の主人が姿を現す。背丈は平均的な女性の背丈のそれ以下であり、普段の言動や童顔であることも含め、年齢は夏油より圧倒的に上ながらもどこか世間知らずの幼子のように感じられる。
その神らしくないヘスティアの在り方は夏油にとってとても好ましいものであった。故にそんな彼女が自分を待ってくれているこの教会は夏油にとって帰る場所になりつつあった
「お疲れ様!怪我はな――って、どうしたのさ!?その怪我!!」
「いやぁ、ちょっとね....」
「ちょっとね....じゃないよ!レベル6の君が怪我を負うなんてどんなバケモノを相手してきたんだい!?」
ヘスティアは一応の為に奥に保管していたハイポーションを取りに慌てて廊下を駆けていく。その姿に申し訳なさを感じるが、こんな自分でも心配してくれる人がいることに心の奥がほんのりと温かくなった。
元の世界では自分の実力や立場、その他諸々含め、自分は誰かに心配されるという経験は極端に少なく、それよりも誰かの為に行動を起こす経験の方が圧倒的に多かった。
両親でこそ、何回かは心配をされたことがあるが呪霊の存在を相談した際に、夏油を懐疑の目で見られたその瞬間から、夏油は大人になざるを得なかった。故にヘスティアの夏油に対する接し方は夏油にとってこそばゆくも嬉しいものだった
「ほら!このハイポーションを飲んで早く!」
「あぁ、すまないね...」
夏油がそう言うとヘスティアはビシッと人差し指を夏油へと勢いよく突き出した
「違うよ!こういう時は、ありがとうで良いんだ!」
ヘスティアがそう言うと夏油は呆気を取られたように口をポカンと開き、目を見開いた後に、穏やかに、心底幸せそうに笑った
「そうだね。ありがとう、ヘスティア」
「うん!よろしい!」
夏油がゴクリとポーションを口に流し込む
子供の用に作られた薬のように甘く出来ている訳でもないハイポーションはお世辞にも好んで飲むとは言い難く、良く言えば独特な味、悪く言えば不味い。
けれども夏油は呪霊を取り込む度にこれより何十倍もの苦痛を受け続けてきた、それ故に夏油の舌は常人よりもエグ味や苦味等に強くなっていた。
実際、夏油はハイポーションを飲み込んで“案外いけるな”などイカれたことを考えていた
「これは凄いな」
夏油がハイポーションを飲み終えると服や肌に着いた血痕などはそのままだが、顔や腕などに開いた傷口は跡も残さずに綺麗に閉じられており、出血も止まっていた。
夏油は反転術式に似たような効果を持つハイポーションに驚きつつ、これは確かに高い金銭を払う価値があるなと感服すると同時に、これをどうにか自力で作れるようになれないかと内心そう呟いた
「よし!傷は治ったところだし、何があったのか聞こうじゃないかぁ?」
スチャリとありもしない眼鏡を弄るようなヘスティアの動作を微笑ましく思うと同時に真実を言うか言わないかの二択をどう答えるか思考する
(正直、オッタルとの闘いは内密にしておきたい。だが、ヘスティアも一応は神だ、私の嘘などお見通しだろう。騙せなくもないが、これをするのは私としても余り良い気分ではない....正直に答えるか)
「分かったよ。正直に答えるさ」
私はヘスティアに包み隠さずに全てを話した
オッタルと戦ったことも、命を落としそうになりながらもオッタルを打倒したことも、そして、
「あのオラリオ最凶のオッタルを倒して、しかも、よりにもよってあのフレイヤに目を付けられただって!?」
「あ、うん。そうだね」
夏油がヘスティアのオーバなリアクションに少し驚きつつもそう言葉を返す
すると、ヘスティアがギリギリと歯を強く噛み、ワナワナと怒りで震えた。その一連の動作は夏油の脳内に噴火前の火山を過ぎらせた
「あの野郎っ、では無いか....あの女郎!よぉ〜くもボクの家族である夏油君を誘惑しやがってぇ!!もう!許さないぞぉ!次会ったらケチョンケチョンにしてやる!」
うがぁ!とまるで獣のように暴れ回るヘスティアに本当に幼子のようだという感想を抱きつつ、いい加減宥めようかとヘスティアの肩に手を置く
「大丈夫だよヘスティア。私にとって家族となり得る神など君ぐらいしか存在しないさ」
そう言うとヘスティアはピタリと動きを止める
「....本当?」
「勿論だとも、私が見た中でも君は一番の神さ」
「......えへへ、そうかなぁ」
夏油の嘘偽りない褒め言葉に、ヘスティアは頬を緩める
「何より、私は女神フレイヤが嫌いだからね」
「そうなの!?あの男なら誰でも好きにさせてしまうあのフレイヤを!?」
「あぁ、嫌い...いや、
夏油がそう言うと、ヘスティアは目を大きく見開いた後に、夏油の背中へと回り込みバシバシと背中を叩く
「さっすが夏油君!それでこそボクの家族さ!」
ヘスティアはニヤけた顔も隠しもせずに、上機嫌に声を弾ませながらそう言う。
夏油はそれに追い打ちを掛けるように懐から巾着袋を取り出し、ヘスティアの眼前へと垂らす。
その中身は夏油が集めた魔石を換金させたヴァリスであり、パンパンと巾着袋をパンパンに膨らませていた
「こ、こんなに稼いだの!?一日もしないで!?」
「あぁ、というかこれからはこれが普通。いや、これ以上稼いで来るよ」
「ほ、ほへぇ....やっぱり君は規格外だな夏油君」
ヘスティアが驚愕に満ちた表情を見せると夏油は一気に畳み掛ける
「だから、今日は豪華に外食でもしないかい?」
「!が、外食!なんて甘美な響きなんだ!」
ヘスティアにとっての今までの食事は自らが働いてる出店であるじゃが丸くんが余った物であり、外食など貧乏であるヘスティアにとってそれは最早一種の伝説であった。
しかし、それが今、この瞬間に叶えられようとしている。しかも、唯一の家族である夏油に誘われている。こんな素敵なシチュエーションをヘスティアが逃すわけがない
「何してるんだい夏油君!さぁ、今すぐ用意して!美味しい料理店ならボクが知ってるから!」
余りの変わり身の速さに夏油はある種の感嘆をヘスティアへと抱くが“やはり幼子だな”と内心密かに呟いた
「はいはい、じゃあ私は着替えてくるから外で待っていてくれ」
「了解さ!」
勢いよく外へ駆け出したヘスティアを横目に、夏油はクローゼットに仕舞っていた濃藍のジャンバーと白色のシャツ、烏羽色のズボンを取り出し、現在着用している物から素早く着替える。
先程、ヘスティアのことを内心幼子のようだと呟いた夏油だが、夏油も夏油で年甲斐もなく心が浮き立っていた。元の世界での夏油の存在というのは指名手配中の凶悪殺人犯と同義であり、ミミやナナの要望で何回か外食をしたことはあるが、呪術師に見つからぬようにと細心の注意を常に払っており、心休まる暇なんてものは無かった。
だが、この世界で夏油は殺人は勿論、犯罪等は何も起こしてもおらず、表向きはレベル1ということになっているので無名そのもの。
故に人目を気にする必要は一切無く、心置きなく食事を満喫することの出来るこの環境に歓喜していた。それを表情には出さないようにしているが、口角は上を向いていた
「さあ、行こうか。案内よろしく頼めるかな?」
「うん!任せておいてよ!」
ヘスティアが夏油の手を引いて歩き出した、その二人の姿は血は繋がっていなくとも家族の形を成していたが、周囲の人からしては見た目麗しい女児と顔が整っているが胡散臭さい笑みを浮かべている長身の男性という組み合わせに、仄かに犯罪臭を感じ取ったのかハラハラと見守っていた。
しかし、初めての家族との外食で周囲にまで気が回らない程に機嫌が良いヘスティアと知りもしない有象無象に興味など無い夏油にとっては些細なことだった
暫くし、ヘスティアがある店の前で足を止めたので夏油も足を止める。その店の前にあった看板には豊饒の女主人と綺麗な文字で大きく書かれており、その店の中からは芳ばしい肉の香りを始め、様々な料理の匂いが漂っ
ており、二人の胃袋を刺激する。
ゴクリとヘスティアが唾を飲み込み、扉に手をかけ、開いた
中は冒険者で賑わっており、ガヤガヤと騒がしくも、何処かアットホームな雰囲気を感じられるような騒がしさで、テーブルや椅子なども木で作られてるおり、暖かみの感じられる内装で、質素ではあるがとても魅力的な店だった
「いらっしゃいませ。二名様でよろしいでしょうか?」
緑髪のエルフの麗人が、ヘスティアへと声を掛ける
「あ、う、うん!二名で合っているよ!」
ヘスティアは内装に呆気を取られていたが、声を掛けられ、正気に戻ったのか少し声を震わせて返答する
「此方へどうぞ」
言葉少なにそう返された後に、テーブルへと案内される
ヘスティアは上機嫌の様子から一転し、カチコチに緊張した様子でテーブルへと足を進める。その様子を夏油は少し楽しみながらも足を進める。
エルフの麗人に椅子を引かれ、ヘスティアはおずおずとぎこちない動作で着席し、それと同時に夏油も席へと座る
「メニュー表です。御注文がお決まりでしたら、お呼び下さい」
頭を浅く下げ、カツカツと厨房へと戻っていった。その様子を二人は見守り、バタンと厨房への扉が閉じられた瞬間にヘスティアは息を吐き出した
「はぁ、凄い緊張したよ....なんだか雰囲気のある女の子だったね」
「.....そうだね」
(体の軸に全くブレが無かった、服の上からで見えにくかったが体も鍛えられていた。実力は隠しているようだが、あの雰囲気....只者ではないことは確かだ。しかも、あのエルフ以外にも実力を隠している者が多数、そして、
夏油はメニュー表を覗きつつ、思考を続ける
(この店がただの料理店ではないことは何となく分かった。だが.....)
チラリと灰色の髪を持つ、麗しき女性を横目で見る
(アレはなんだ....?人であるのは確かな筈、だが
「.....とう君、夏油君!」
「ッ!どうしたんだヘスティア?」
「どうしたってこっちの台詞だよ!いきなり喋らなくなって....ボクがいるんだから、よそ見厳禁だぞ!」
ヘスティアはプンプンと怒りを露わにする
「すまないね....そうだね今は君との食事を楽しもう」
「よろしい!さて、注文するのは決まったかな?」
「あぁ、決まったとも。この茸とベーコンのソテーと鶏のグリルに私はしたよ」
ヘスティアが先程の店員を呼び、注文をしていく
店員は手元にある紙に注文した料理名を文字一つ間違いなく、完璧に書き写していく。
ペンの動きには無駄な動作がなく、最低限の労力且つ完璧な仕事をこなすその動きは間違いなくプロそのものであり、夏油はそれを横目にヘスティアの注文する姿に小動物のような微笑ましさを感じていた
その店員の醸し出す、人を殺した者特有の雰囲気を無視しながら
「間違いなどは御座いませんか」
「だ、大丈夫だよ」
「了解致しました」
スタスタと再度、厨房へと戻っていく店員の後ろ姿にヘスティアはホッと安心から息を吐いた
「いやぁ、悪い子ではないと思うんだけど....何だかボクを拒絶されてるみたいで緊張しちゃうなぁ」
「馴れればいいさ。これから、何度も此処に来ることになるんだからね」
夏油がそう言うとヘスティアは目を大きく見開いた後に、ニコリと可憐な笑みを浮かべた
「そっか!楽しみだよ」
「あぁ、そうだね」
二人の間に和やかな空気が流れる
だが、それを切り裂くようにドアが勢いよく開けられた
「邪魔するでぇ!」
そんな快活な声と共に赭色の髪の女性が現れる
その女性の名は―――
「なッ!お前はロキ」
終焉を告げる者、道化の神 ロキその人であった
「ん?なんやチビ?お前も此処にいたんか」
「だァれぇがチビだってぇ!?このまな板女!」
先程の和やかな雰囲気が夢のように崩れ去り、二人の女神の幼稚な喧嘩が始まる。
どちらも語彙力が小さい子供のそれであり、なんとも低レベルな喧嘩だった。巻き込まれたくない夏油はそのまま傍観をしようか止めるか迷っていると、そんな二人の肩に窘めるように手を置く存在が現れた
「ロキ、それと其方の女神も、此処は喧嘩をする場所じゃなく、食事を取る場所だろう?それに今のはロキが最初に喧嘩を売ったんじゃないか」
ロキファミリアの団長であり、
「フィン!?私は悪くないやん!全部このちんちくりんが悪いねん!」
フィン・ディムナレベル6の第一冒険者に名に恥じない程の実力者が、二人を宥めていた。
だが、ロキは納得いかないのか屁理屈のような言葉を幾つも並べるが、ロキの背後に凄まじい怒気を放つ、エメラルド色の麗しい女性が青筋を浮かべ、拳を振り上げ、拳を落とした
「いい加減にしないか!」
「ッテェ!?何すんのリヴェリアおかん!」
「誰がおかんだ!」
ゴツン!と再度、ロキの脳天に鉄拳が落ちた。音からして痛そうなその一撃にヘスティアを知っている人物なら目を見開き、驚愕する程の真顔になる。
ロキに拳を落とした女性は痛がる主神を無視し、ヘスティアへと頭を下げた
「申し訳ない。ロキによく言っておくからどうか落ち着いてはくれないだろうか」
「ア、ハイ」
ヘスティアは目の前で行われた惨劇に身を震わせ、カタコトになりつつも答える。望む返答に満足したのか、痛みで転げ回るロキを無視して奥のテーブルへと足を進める。
それを期に、次々と様々な人物が店内に入って来るが、共通して彼等はロキファミリアのメンバーだった
地面へと未だに転げ回っているロキに一人の、女性が近寄ってくる
「大丈夫?」
その鈴の音ような可憐な声を聞いた途端にロキはピタリと動きを止め、その女性に勢いよく抱き着いた
「アイズたん!大丈夫!こう見えて頑丈やからな!でもまだ少し痛むからその胸揉ませくれんかぁ!!」
剣姫の二つ名を持つ金髪の麗しき女性であるアイズ・ヴァレンシュタインがロキを心配そうに覗き込んでいた。
それに反比例するようにロキはアイズの一声で痛みで転がり回るのをやめ、興奮したように早口で堂々とセクハラ行為を働こうとしていた
「駄目」
「ノォォォォォォ!!!」
当然の結果にロキは床に崩れ落ちた。それに夏油は侮蔑の目を向けていると、アイズ・ヴァレンシュタインが此方を見ていることに気が付く。
夏油は何か気に障ることでもしたか?と内心呟くが、夏油はただ見ていただけであって何も気に障る行為など出来る訳が無かった。夏油は少し様子を見ていると、アイズ・ヴァレンシュタインが此方へと近付いてくる
「ねぇ」
「うん?どうかしたかい?」
「貴方、名前は?」
そんな在り来りな質問に夏油は拍子抜けする
「私の名前は夏油傑」
「ゲトースグル。私はアイズ・ヴァレンシュタイン。よろしく」
スッと手を差し出され、握手を求められる
「あぁ、宜しく」
夏油も手を差し出し、握手を交わそうとした瞬間
パチンと夏油の手が誰かに叩き落とされる
「は?」
「雑魚が気安く触ろうとすんじゃねぇ。アイズもだ、そんな奴に構おうとすんな」
夏油の手を落とした人物は
「.....君、礼儀ってものを知らないのかい」
「ハッ!誰がテメェみたいな雑魚に礼儀なんて払わなきゃいけねぇんだよ」
「おい!ベートッ!!」
「うるせぇよ、クソババア。俺はなーんも間違ったことなんぞ言ってないぜ。コイツが雑魚なのも礼儀を払う必要がないのも当然のことだろうが」
ビキリと夏油の額に青筋が盛り上がり、怒りを露わにする。それにいち早く気付いたヘスティアは夏油の怒りを鎮めようとする
「げ、夏油君!お、落ち着いて!」
「あ?なんだこのチンチクリンはよォ!眷属も眷属なら、神も神でこのザマとはァ!!雑魚すぎて逆に同情しちまうぜ!!!」
ギャハハハ!とベートは下品な笑い声を上げる
ビキリビキリと青筋が更に盛り上がり、夏油から僅かに
ベートのいきすぎた発言と夏油の怒気に気が付いたフィンは流石に止めに入ろうとするが、もう遅かった
「なぁ!なんとか言ってみろよ猿野郎!!」
夏油が最も憎むその忌々しいその名を、よりにもよって夏油相手にベートがその言葉を口にした瞬間、夏油から完全に表情が消え去った。
それと同時に、フィンの親指が激しく疼いた
夏油が常に浮かべていた胡散臭い笑みは鳴りを潜め、その整った顔が全面的に醸し出されているが、表情が消え去ったせいか、その整った顔は相手に恐怖を与えるものに変化した
「潰す」
夏油のドス黒い怒気の込もった呟きが店内に響き渡った
ロキの本来の意味は“閉ざす者”ですが、それだとちょ
っとインパクト足りないかなぁと思ったので、個人的にはカッコ良く修正しました。
そこら辺はご了承して頂けると幸いです
お願い!死なないでベート・ローガ☆
アンタが死んだら怒れる夏油を誰が止められるって言うの?
まだ体力は残ってる、ここを耐え凌げば勝機は見えてくる筈よ!さぁ、反撃開始よ!
次回、ベート・ローガ死す☆
デュエルスタンバイ!
ベート君は死にます
死にます
投稿頻度は?
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もっと遅くても良い
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もっと早く
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作者のお任せ