オラリオに最悪の呪詛師がいるのは間違っているだろうか?   作:五月雨@ノン

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ネタクダサイ







邂逅

 

「おい!凶狼がランクアップだとよ!」

 

「おいおい!一体どんな偉業を成したんだよ!」

 

 オラリオはレベルアップを果たした、凶狼ことベート・ローガの話題で持ち切りであった。これがレベル2や3などであれば、ここまで話題にはならない。だが、ベートはレベル5という第一級冒険者であり、冒険者はレベルが高くなれば高くなる程にステイタスの伸びは低くなり、成すべき偉業も困難なものとなる。

 それ故に人々は心踊らせる。困難を乗り越えたその一人の英雄に、自分達もああなりたいと希望を抱いて、遥か高みに君臨する男のこれからの冒険譚を期待して

 

「....」

 

 夏油はそんな沸き立つ有象無象を意識外へと排除し、今日も今日とてダンジョンへと潜る為に足を進める

 

 チクチクとやけに熱の篭った気色の悪い視線がバベルの塔の最上階から向けられたので、中指と口パクでヘスティアには聞かせられない程の悪口を口にしながら。

 そうすると、視線が固まったことにより相手が如何に動揺しているのかを察した夏油は、ニコリとひと仕事終えたように笑い、ダンジョンへ続く道へと歩みを進めた

 

ダンジョンは何時もよりも賑わっており、ベートのレベルアップに感化されたのだろう。その冒険者達が賑わう様を夏油は鼻で笑いながら夏油は奥へと潜る

 

 

 

夏油の目的地は17階層

 

標的は――――ゴライアス(階層主)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オォォォォォ―――!」

7メートル程もある灰褐色の巨人が叫び声を上げた

 

 十七階層の嘆きの大壁と呼ばれる場所にて夏油は目の前で雄叫びを上げるゴライアスを見上げていた。ゴライアスとは、階層主とも呼ばれるモンスターであり、そこいらに現れるモンスター達とは格が違う存在である。

 下級冒険者は勿論のこと、第二級冒険者すら萎縮させてしまうような存在感を放つゴライアスに夏油は特に気負った様子もなく、ただ興味深いモルモットを見るかのようにゴライアスを観察している

 

(デカイな....やはり、階層主とはそこら辺のモンスターとは比べ物にはならないか。通りでパーティで討伐をする訳だ)

 

 チラリと背後を見れば、十八階層にあるリヴィラの街から来たであろう冒険者達が()()()()()()剣や、魔法を放っていた。

 それに夏油は自分がそうなるように仕向けたのだが、あまりの無様さに嘲笑ってしまう。彼等が何も居ない空間に向かって円形を組むようにしながら、剣や魔法を放っているのは彼等がそこに()()()()()()()()()認識しているからだ

 

 

「そこそこに使い勝手が良くて助かるよ、本当に」

 

 夏油は彼等の上に浮かんでいる微かに甘い臭いを放っている呪霊を見つめ、満足そうに笑う。そう彼等は夏油が使役する呪霊の呪術によって幻覚を見せられているのだ。

 その呪術は至ってシンプルであり、呪霊が吐き出した微かに甘い臭いのする無味無色の煙を吸い込むことによって幻覚を見せるというものだ

 

 それだけ聞けば強力な呪術なのだが、その効果が適用されるのは自分よりも弱い相手であり、呪力も自身よりも少ないことが条件である。それに、呪力が少なくとも、自身の周りを呪力で固めれば普通に防がれるというなんとも微妙なものである。

 しかし、此処(オラリオ)には呪術師は存在しない為に後者の条件は弾かれ、準一級の呪霊ならばレベル4程度の冒険者と同等であり、リヴィラには最高でレベル3しかいない為に呪霊の呪術はその効果を遺憾無く発揮していた

 

 

「さて、そろそろ此方も始めるとしようか」

 

それを合図にゴライアスは夏油に向かってその巨大な拳を振るった

 

 巨体に見合ったその鈍さではあるが、その攻撃範囲の大きさとパワーがそれをカバーしており、下級冒険者ではひとたまりもないだろう。だが、夏油はそれを呪力を纏い、真正面から受け止める

 

「―――!?」

 

 それにゴライアスは衝撃を受ける。このゴライアスは生まれて間もないが、自身の戦い方を良く理解していた。小細工無しで、真正面からただ拳を振るうこと。これがゴライアスの戦い方であった。それはあまりにもシンプルであったが、ゴライアスの巨体や尋常ならざるパワーによってそれは戦い方として機能していた。

 けれど、目の前の男は自身の拳をその小さな体で真正面から受け止めてみせ、微塵もダメージを受けた様子は無かった

 

 

「これが階層主か」

 

(中層で戦ったモンスターよりも当然だが強いな。それにパワーもある。まぁ、オッタル程ではないが)

 

 当然である。ゴライアスは推定レベルは4であり、オッタルはレベル7。比べることすら烏滸がましい程の差である。だが、此処(オラリオ)に来てからの夏油のまともな戦闘はオッタルとロキ・ファミリアとの戦闘のみであり、夏油の比較基準は狂っていた。

 まぁ、そんなことは露知らずに夏油は二級の呪霊を七体程呼び出し、ゴライアスへと攻撃させる。これに反応が遅れながらもゴライアスも呪霊達を殺さんと拳を振るうが、夏油の的確な指示と二級の中では動きの速い個体が選ばれたということもあり、拳を難なく回避をし、一撃を与える

 

 

 動きの速さが重視されているこの呪霊達は攻撃力が低く、ゴライアスに傷を与えることは出来ない。だが、それはそのままの場合であり、夏油は中層で集めた魔石をその呪霊達に事前に与えてきた。

 それにより全てにおいて呪霊達は強化され、浅くはあるがゴライアスに傷を付けることを可能にした

 

 

(やはり、モンスターの強さにによって強化率も変わる訳か.....)

 

夏油は自身の考察と二級の呪霊がレベル4相当のゴライアスに傷を与えたという成果に口角を上げる

 

その夏油の様子に気に食わなかったのか、ゴライアスは拳を夏油や呪霊に向けて何度も、何度も、何度も叩き付けるが呪霊はそれを尽く回避し、夏油は攻撃を受けるのも面倒だと考えたらしく、御用達である防御特化型の呪霊に自らの呪力を流し込み、その堅牢さをより強固にし

た上で、呪霊に全てを受け止めさせる

 

(二級の呪霊が中層の魔石を2〜30個で準一級の一歩手前....いや、二歩手前だとすると階層主一体の魔石はどれ程か気になるな)

 

 

「さて、知りたいことも知ること事が出来た。とっとと倒すとするか」

 

夏油は収納型の呪霊から一級呪具の刀を取り出し、蒼色の呪力を纏わせ、振り抜いた

 

纏わせた呪力が斬撃となってゴライアスへと放たれ、それにゴライアスはギリギリで反応をし、右手でそれを遮るように防御をする

 

スパッと軽快な音と共にゴライアスの右腕は切り落とされ、貫通したその斬撃はゴライアスの片目を切り刻んだ

 

「――――!!」

 

 声にならない絶叫と共に、ゴライアスはジタバタと痛みに悶えるように暴れる

 

 

「そんなことしてて大丈夫かい?」

 

夏油はゴライアスの頭上へと姿を現す。それにゴライアスは驚愕し、反射的に夏油を左手で握り潰そうとするが、その左手すらもいとも簡単に切り刻まれ、遂にゴライアスは反撃の手段を失う

 

「ァァァァァアアア!!!」

 

来るなと言わんばかりのその咆哮に、夏油はユルリと口角を上げた

 

「生憎だけど、殺す機会なんて何回もあった。それこそ腐る程にね」

 

それじゃあと夏油はゴライアスの核へと刃を振るった

 

 

パキンという硝子が割れるような音が鳴ると、ゴライアスの体が段々と崩れていく。後に残ったのは普通のそれよりも一回り以上も大きい魔石が1つだけであり、ついでに取っておきたかったゴライアスのドロップアイテムは見当たらず、それに少し落胆してしまうがお目当ての物は手に入ったので良しとした

 

「ドロップアイテムは無しか...まぁ、別に良いか」

 

夏油は地面に転がっている魔石を手に取り、収納型の呪霊に仕舞わせ、夏油は上機嫌そうに地上に向かっての道へと歩みを進めようとしたが、ピタリと足を止める

 

 

「あ、幻覚を解いていなかったな」

 

どうしようかと夏油は考えていると、ふと閃いた

 

「記憶を消せば良いか」

 

 

(バク)

 

 現れたのは般若の顔と動物の体を持った二メートル程もある呪霊だった。その呪霊は元々の姿は幻獣と呼ばれる存在であったが、人々が獏に抱いた異形なる姿への恐怖と、人によって捻じ曲げられていく真性によって誕生した呪霊である。

 獏の階級は特級に格付けられている。その能力は相手の記憶を奪い取り、その記憶の中の人物に姿を化けることが可能というもので、その記憶の中の人物の能力を制限がある場合もあるが使用することの出来るという特級に相応しい能力の持ち主であった

 

「あの集団の記憶を吸ってくれ」

 

「......」

 

夏油がそう言うと獏は集団へと無数の管のような物を突き刺し、ストローのように何かを吸っていく

 

そうするとバタリ、バタリと吸われた者達から気を失い倒れ、三十秒もすると夏油以外は倒れ伏しているという阿鼻叫喚の図が出来上がっていた

 

「さて、暫くすれば起きる筈だが...流石にそのまま放置する訳にはいかないか」

 

夏油は溜め息を吐き、幻覚を見せる呪霊を十八階層へと先行させ、運搬に適した呪霊を複数体を呼び出し、冒険者達を抱えさせた

 

「ゴライアスの魔石を手に入れる時に毎回これをしなければいけないのか....」

 

夏油は面倒くさいなと言葉を吐き、十八階層へと降りて行った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん?」

 

 リヴィラの街の冒険者達を誰にも疑問を抱かせることなく、完璧に送り届けた後に地上へと戻って来た夏油の耳に路地裏で荒らげる男の声と悲痛な声を上げる女性の声が聞こえた。

 それに夏油は只事ではないと確信し、必要であれば女性を助けようと路地裏へと足を進めた。決して暴力を振るっている冒険者にギルドの罰則をチラつかせ、金や情報などを搾取しようなどとは考えていないのだ。決して

 

 夏油はルンルン気分で路地裏を進むと大きなカバンを背負っているサポーターであろう小人族の女性とそのサポータの髪を掴んでいる男性とニヤニヤと周りを囲むように厳つい風貌の男達が立っていた。

 小人族の女性はそれに酷く怯えた雰囲気と共に、何処か冷めたような雰囲気も感じ取られた。それに夏油は疑問を抱きつつ、助けに入ろうと路地裏の影から姿を現した

 

 

「やぁ、こんな所で暴力なんて随分と小さいことをしているんだね」

 

「!誰だテメェ!!」

 

夏油のいきなりの登場に男達は驚き、腰に携えている剣に手を伸ばした

 

 

「なに、ただの通りすがりの冒険者さ。それよりも、そんな小さい女性に暴力なんて、ギルドに報告されたらただじゃ済まないんじゃないかい?」

 

「テメェ...!俺達を脅してんのか!?」

 

「さぁ?よく分からないな」

 

夏油がそうおちょくると男達は青筋を浮かばせ、腰から剣を抜いた

 

「おや?これ以上罪を重ねるのかい?」

 

「テメェをぶっ殺して有耶無耶にしてやるよ――!!」

 

リーダー格の男が夏油へと飛び掛るのと同時に、サポーターを囲んでいた男達もその男の後に続いて、夏油へと斬り掛かる

 

「逃げてくださいッ!」

 

サポータの切迫した声に夏油は笑った

 

「大丈夫」

 

夏油が出来るだけの手加減を行い、リーダー格の腹に拳を突き刺した

 

パァン!という風船でも割れたかのような強烈な衝撃音と共に、男は壁に叩き付けられていた

 

 

「は」

 

間抜けた声と共に、シンと静寂が走る

 

「お前達も、こうなりたいかい?」

 

ハイライトの消えた目を細め、夏油が残った男達を見つめれば、膝をガタガタ震わせてまるで極寒の地にいるかのように顔を青くした

 

それに夏油は小心者と内心で吐き捨てる

 

 

 

「さぁ、どうする?」

 

夏油がニッコリと笑うと男達は更に膝を震わせた

 

「ひ、ヒィィィ!!」

 

「ぁ、ァァァァァァ!!」

 

リーダー格の男など気にせず男達は夏油に背を向けて、走り出した

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ。さて、大丈夫かい?」

 

「は、はいっ!」

 

夏油がサポーターの女性に手を伸ばし、女性は手を掴み立ち上がる

 

「あ、ありがとうございました。あのままだったらどうなってたか分かりませんでした」

 

「いや、気にしなくて良いよ。別に気になったから来ただけだしね」

 

夏油がそう言うとサポーターはそうですかと平坦な声で返す。それに夏油は何かあるなと考えるが、それを相手に悟られることなく、会話を進める

 

「そう思えば、君の名前は?」

 

夏油がそう問い掛けると、少し間を置いた後にサポーターは口を開いた

 

 

「....私の名前はリリ。ただのリリです」

 

そう言い、サポーター―――――――リリはフードを深く被り直した

 

 

 

 







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