オラリオに最悪の呪詛師がいるのは間違っているだろうか? 作:五月雨@ノン
アーキタイプ:アース引けなかった奴いるぅ!?
いねぇよなぁ!?(100連爆死)
「リリ、ただのリリです」
目の前の小さな少女はフードを深く被り直し、少し下へと俯いた。普通の人ならば男に襲われて恐怖に震えているのだろうと思うだろう。
だが、呪術師と教祖という人の感情に多く触れてきた夏油はリリと自称する少女が抱いているのは恐怖では無いことを見抜いた。
あるのは、目の前にいる夏油に対する嫉妬と憎悪、そして傍観の情であった。
普通に生きている人間ならばこれ程までにもドロドロと混ざり合った感情など抱かないことを知っている夏油は、目の前の少女には何かがあると推測した
「へぇ、リリ。良い名前じゃないか」
「....ありがとうございます」
リリから目の前にいる夏油ではない誰かに向けた憎悪の情を僅かに洩らしたことを夏油は直ぐ様に察知し、成程ねぇと心の中で呟いた。
夏油は目の前の少女のその反応から、リリという名前は偽名ではなく、本名又は愛称か何かだと確信する
「ああなった経緯は話せるかい?」
「はい...リリはあの人達にサポーターとして雇われたんですが、道中で少しだけ遅れてしまって。それに怒って賃金は無しと言われて...それは可笑しいと反論をしたらああいう風に....」
ハァと溜め息を着いたリリの姿から嘘の気配は感じられず、ただただ憂鬱だという感情がヒシヒシと伝わり、それがリリという少女にとって日常茶飯事であると察せた
実際、サポーターはダンジョンに潜る上で荷物運びや魔石の採取等の中々に重要な役割を熟すことを求められる役職であるが、その殆どが冒険者としての才能が無かった者が大半である為に下に見られやすい。
それに加えて、小人族特有の身長の小ささと女性という比較的に非力な性別であることも相まって、こういうことは嫌という程に体験してきたのだろう
「それは災難だったね」
「はい。だから、リリはとても感謝しています。本当にありがとうございました」
リリは慣れたように腰を九十度に折り曲げ、如何にも感謝していますと言わんばかりに深く頭を下げる。
しかし、夏油がリリから読み取っている感情には感謝など一欠片も含まれておらず、ドロドロとした負の感情のみであった
特に目立った(表向き)動きをしていない夏油は、目の前にいるリリに対してそんな感情を抱かれる覚えは一切ない。
そのことからリリの負の感情の対象であるのは夏油という個人ではなく、冒険者そのものであると推測した
だが、リリが今まで会ってきた野蛮な冒険者と自分か同レベルに見られているという事実が癪に触った為、ここで夏油はちょっとした仕返しをすることにした
「所で、君は私に感謝をしているんだよね?」
「···はい」
夏油の言葉に裏があると直ぐ様に察知したリリだが、実力で劣っている上に助けてもらったという恩も一応はある為に、ただ夏油に用意された返事を返すことしかできない。
リリはこれから夏油の口から発せられるお願いという名の命令に、せめて性的なことでは無いようにと自らの裾を握り締めた
「私のサポーターになってくれないかな?」
「は?」
リリは想定だにしていなかった夏油のその言葉に呆気に取られ、間抜けな声と顔を晒す。その反応に溜飲が下がった夏油は人好きするような笑みを意図的に浮かべた。
それをリリは探るような目を夏油に向けるが、その瞳の奥には未だに予想外に対する混乱があった
「···何が狙いですか」
「と言うと?」
「私から見たらサポートなんて要らない程の力をお持ちなのに、どうして態々足手まといになるかもしれないリリなんですか」
「いや、サポーターというものが気になっていてね···一度雇ってみたいと思っていたんだ」
ニコニコと人好きする笑みを浮かべる夏油に、ジトリとした目付きで視線を送るが、笑みを浮かべるだけの夏油にリリは溜め息を吐いた
「勿論、働きに見合った報酬は出すから安心して」
そんなことを呑気に口にする夏油に、リリの中の夏油という人物像がグニャリと霧のように掴めない人物となっていく。
最初の印象は、複数人の冒険者相手でも真っ向からそれを捩じ伏せることの出来る恐ろしい冒険者。
次の印象は何を考えているのか全く理解することの出来ない変わり者。
そして、今は何処にでもいる呑気で現実を知らないような好青年のような人物像へと印象を変えた
怪しいと思いつつも、恩や路地裏で夏油と対面しているという現在の状況もあるのでリリには、最早拒否権などは無いに等しかった
「···分かりました。今日からリリは冒険者様のサポーターになります」
「ありがとう。それと冒険者様はやめてくれるかな」
「分かりました。では、お名前を伺っても?」
「夏油傑」
夏油がそう言うとリリは頭を傾げて、何かを考えるようにう〜んと悩ましげな声を洩らした
「ゲトウスグル···それでは、ゲトウ様ですね!」
「!」
リリのゲトウ様という慣れないイントネーションながらもそう呼ぶ声に、夏油は己が嘗て
『ゲトウ様!』
(ミミ、ナナ···君達は今、何をしているのかな)
夏油はそっと空を見上げ、この世界にはいない家族へと思いを馳せる。胸を占めるのは二人に対する罪悪感。
あの二人を逃がしたことに夏油は一切の後悔はない。だが、二人を救い、育てたが故に、無責任にも命を落としたことに後悔はある。
もし、二人があの場にいたのなら死にゆく夏油の後追いをするということは簡単に想像できた。
それ程までにも二人は夏油という救世主に依存し、敬愛を示し、信頼をしていた。そんな夏油の為ならば二人は命でさえ容易く棄てるだろう
だが、夏油はそれを良しとしなかった。手前に勝手に助けたのは自分であり、
しかし、最後まで自分と共にいて欲しくはなかった。二人を本当に愛しているが故に、夏油が死んだ後位は自らの人生を自分で歩んで欲しかった
(私は、幸せな日々を送っているよ。こんな私でも幸せを掴めることが出来た。二人も私のことなど忘れて、どうか自分だけの幸せを掴んでくれ)
「ゲトウ様!」
「ッ!済まない、少し放心していた」
夏油がそう言うと、リリは態とらしく頬を膨らませて如何にも怒っていますというアピールをしている。それに夏油は表面上申し訳なさそうな顔をしつつも、目の前の少女をどう扱うか思案する
「期間はどうしますか?」
「そうだね····約1ヶ月程かな。もし、不満等があれば直ぐに辞めてもらっても構わないよ」
「成程。ゲトウ様は優しいんですね、サポーター如きにそこまで気を配って下さるなんて」
「そんなことはないよ」
夏油はあくまでも自由意志ということを強調してリリへと伝える。それにリリは少しばかり安堵したようにホッと胸を撫で下ろす。
リリの中では自分が何時でも辞めることの出来るという環境は都合の良いことであり、少しばかり夏油への警戒心が薄れる
だが、夏油はリリに優位な契約をした訳でなく、これ迄の彼女の境遇を考えた上で敢えてそう感じれる契約にしたのだけであり、得るものは夏油の方が圧倒的に多い
「それじゃあ明日から宜しく頼むよ」
「はい!宜しくお願いしますゲトウ様!」
それじゃあ明日の八時に広場で集合ねと夏油はそう言うと、リリへと背を向けて自らのホームへと向かって歩き出した。それをリリは見えなくなる迄愛想良く笑いながら手を振った後に、路地裏の更に奥へと足を進めた
「取り敢えず、収入源はゲット出来ました。ゲトウ様もあまり此方側のことは知らないようでしたし、搾れるだけ搾ってやるとしましょう」
リリから見た夏油の強さはレベル1の上位からレベル2の下位程であり、本来ならばサポーターをあまり必要としない強さである
だが、そんな夏油が態々サポーターとして自分を選んでくれたのは奇跡に近いことであり、何より夏油の腰には冒険者ではない自分でも業物だと分かる程の刀が腰に差してあった
(あれを盗めれば、もしかしたらリリは自由になれるかもしれません····!)
「その為にも、先ずはリリが信用に値する働きをしなければいけませんね」
明日から頑張りましょう!とリリが気合いを入れるが、自らのホームにもう着いたことに気が付き、憂鬱そうな溜め息を吐いた
「只今戻りました···」
なるべく音を立てないようにしつつ、リリは自らのホームへの扉を開いた。そんなリリを出迎えたのは、三人程の厳つい風貌の男達がリリを出迎えた
「よぉ、待ってたぜリリィ」
「ッ、ゲド様····」
リリが震える口でゲドと呼ばれた男はニィと厭らしく口角を吊り上げ、リリが背負っている大きな鞄へと目を向ける。それにリリは何かを堪えるように口を強く噛み締め、タラリと口端からは血が流れる
「今日は何をくすねてきたんだァ?」
「きょ、今日は冒険者様達から何も頂けなかったので、何も入って―――」
ゴン!という鈍い音と共に、リリは木造の床へと叩き付けられた。鼻が折れたのか木造の床に絵の具でもぶちまけたかのように紅が彩られていく。
リリは、声にならない悲鳴と吐き、遅れてやってきた痛みに悶えた
「バレバレの嘘つくんじゃねぇよ小人の餓鬼が」
「ッ〜!」
「おい、コイツの鞄取れ」
ゲドの取り巻きらしき男達がリリから無理矢理背負っていた大きな鞄を取り上げ、中身を漁り始める。
すると、鞄からはモンスターの核やドロップアイテム、多少傷は付いているが斬れ味の良さそうなナイフなどが出てくる
「良いもん持ってんじゃねぇかよッ!」
ドゴォという鈍い音と共にリリの腹がゲドに蹴られ、リリは壁へと衝突をする。カハッとリリが体内を巡っていた空気が吐き出され、ズルズルと地面へと倒れ込んだ。
それを気にすることなく、ゲド達はリリの鞄の中を漁っては、売れそうな物を巡って言い争っている
(なんで、リリばっかりこんな目に合わなきゃいけないんですかッ···畜生、畜生!)
ポタポタと目から流れる涙が、木造に床にシミを作っていく。体は痛みでまともに動くことも出来ず、ただ痛みが全身を循環しているようで、リリは歯を噛み締めて、声が洩れないように我慢をする
「じゃあなぁ、リリ〜。次も
ギャハハハ!と下品な笑い声を零しながら、ゲド達は振り分けられた部屋へと悠々と戻っていく。それをリリは、鼻血を未だに垂れ流しながら、血走る程にゲド達の背中を睨み付ける
「この、神酒の奴隷共め···!」
無力なリリはそんな悪態を着くことしか出来なかった
(噂には聞いていたがソーマ・ファミリアがここまで酷いとは)
夏油は目の前で蹲っているリリとゲドと呼ばれる目にする価値も無いゴミが言っていた言葉から、これらに似た行為が毎日のように続いていることを悟った
(外でも問題を沢山起こしているのだろう。もし、それがヘスティアにも及ぶ可能性はあるかもしれない)
実際、ソーマ・ファミリアが飲食店で金を奪おうとした事件や売り物の剣を盗んだという事件など様々な資料がギルドには保存されている。
中には神相手にも喧嘩を売ろうとした人物もいたらしく、これはかなり有名な話だった
(利用するか、それとも潰すか、だな)
夏油は潜り込ませた呪霊に帰還を命じ、ソーマ・ファミリアへの処遇について頭を回し始めた
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