オラリオに最悪の呪詛師がいるのは間違っているだろうか? 作:五月雨@ノン
リリの視点で話が進みます
リリが夏油様のサポーターとなってから二週間程が経ちました
最初はどんな無茶な要求をされるのか、どんな狙いがあるのかと勘繰っていたリリですが、ダンジョンに潜り、食事を共にするなどの交流を何回も繰り返すと夏油様はただのお人好しだということが分かりました。
それに安堵なのか怒りなのかぐちゃぐちゃと混ざり合ったような感情を抱きましたが、それを何時もように自分の心の底に沈め、サポーターとしての職務を真っ当する
夏油様にはその働きぶりをよく褒められるが、私は何時も心の中で毒を吐き続ける。
だってそうでしょう?何年も積み重ねてきた
これを堂々と口に出来れば良いのだが、夏油様をそれを何の
少しでも悪意が含まれているならば目に付かない場所で愚痴を吐くことが出来た、けれど純粋にそう言われてしまえばそれを悪く口にすることは気が引けた
そんな相手など長く付き合いたいとは思わないけれど、夏油様の普段の動きに不満は無いし、何よりも金の羽振りが良かった。今までの冒険者とは段違いでその割合は5:5という破格のものであった。
それに最初は困惑し、働きに見合っていないと思わず一部を返金しようとしたのですが、それを優しく却下されてしまえばサポーターであるリリは黙って受け取るだけでした
それが二週間も続けば少しは慣れてしまいましたが、夏油様のサポーターを辞めた後に少しの不安を抱いてしまうが、何とかなるでしょうと自分に言い聞かせて今日とて魔石の回収を行う。
夏油様の戦闘スタイルは腰に携えた業物の刀を使用した接近戦であり、その大きな図体からは考えられない程の速度でモンスターに接近し、首を刎ねるというパターンが多くを占めています
それに最初は度肝を抜かれながらも、まるで風のような速さだと褒め称えると彼は少し居心地の悪そうな顔をした後にこの刀のおかげだと言い、この刀について話しをしてくれました。
どうやら夏油様の持つ剣は家で代々受け継がれている業物であり、持つ者の能力を向上させるというリリが思っていたよりもとんでもない業物らしく、それを聞いた時は信じられない位であったが、レベル1とは言い難い程のスピードとパワーを目の当たりにした私は無理矢理納得されたような形でそれを信じました
ですが、経験はまだまだ浅いようで、何回か危ない場面もありました。ほら、こんな風に
「夏油様!後ろです!!」
ズルリと壁から這い出て来るキラーアントに気が付いていない夏油様にリリは簡潔ながらも分かりやすいように指摘をすると夏油様は焦ったように後ろを振り返る
「ッ!」
キラーアントの強靭な顎から放たれるその一撃必殺に遅れながらも反応し、刀でそれを受け止める。ギリギリと火花でも出そうな程のぶつかり合いだが、夏油様がキラーアントの腹部を強く蹴り上げ、宙を舞ったキラーアントの首に霞む程の速さで刀を振るってその首を刎ねた
「お見事です!流石夏油様です!!」
「いや、リリがいなかったらどうなっていたか分からないよ。ありがとうリリ」
夏油様が魔石を拾いながらリリにお礼を言うので少し心がポカポカとまるで雪解けの春のように暖かいものが広がりましたが、それを意図的に無視する。
夏油様もどうせ冒険者なのだからと自分に言い聞かせ、それを表に出さずに照れるような演技をする
「さ、サポーターとして当然のことをしたまでですよ····それよりも!もうそろそろ良い時間だと思うので昼食にするとしませんか?」
「確かに、良い時間だろうし昼食にするとしようか」
夏油様がダンジョンの壁へと向かって大きく刀を振るうと裂け目のような傷が壁へと深く刻み込まれる。それを夏油様はしっかりと確認した後に懐に仕舞っていた皮袋からその中に入っているであろう保存食を取り出そうとするが、それを私は控え目に夏油様の裾を引く。
それに夏油様は何だい?と言わんばかりに此方へと向くと、私はリュックの中からランチバックを取り出し、夏油様へと手渡す
「これは····」
「リリが作ってきたサンドイッチです!!何時も干し肉などだけでは味気ないのと思ったので·····迷惑でしたでしょうか?」
上目遣いで夏油様を見つめると、成程と呟くと夏油様はランチバックの中にあるサンドイッチをまじまじと見つめる。
その動作にドキマギしていると、栄養バランスがちゃんと考えられていてとても良いねと夏油様は私に笑い掛け、私の頭をポンポンと撫でる
「うぇ!?」
「あぁ、済まない。つい撫でてしまった···気に触ったらのなら謝るよ」
「い、いえ!驚いただけなので気にしないで下さい!!」
そうリリは誤魔化すが、赤くなった顔までは誤魔化すことが出来ないのでそれを隠す為にフードを深く被ってそれを見えないようにする。
だが、まるで微笑ましい物でも見るかのような夏油様の暖かい雰囲気に包まれて更に顔を赤くなるのを感じつつ、じんわりと凍った氷が溶けるようなそんな暖かさを胸に流れていた
「それじゃあ戴くよ」
「は、はいッ!どうぞお召し上がり下さい!!」
夏油様はトマトとチーズ、レタスとハムを挟んだサンドイッチを手に取り、口にする。珍しく静かなダンジョンで夏油様のサンドイッチを咀嚼する微かな音がハッキリと聞こえる。
それを耳を傾け、じぃと夏油様の反応を伺うという自分はなんとも変態のような気がしたがそれよりも夏油様の反応の方が気になるのでドギドキしながら口を開くのを待つ
「うん。トマトの酸味とチーズの特有の癖の強さ、ハムの旨味を損なうことなくマッチさせていてとても美味しいよ。それにレタスのシャキシャキ感もアクセントとなって飽きない工夫がされているね」
リリが作ったサンドイッチが思いの外夏油様に好評であることに安堵しつつ、サンドイッチ一つでここまで褒められると思っていなかったのでニヤケてしまう
「ありがとうございます!!まだまだあるので是非お食べ下さい!!」
リリも自分の分のサンドイッチを取りつつ、自信作である特製のサンドイッチを夏油様に差し出すと夏油様も嬉しそうに口角を上げてありがとうと言い、サンドイッチを受け取ります。
誰かとこうやって面を合わせて取る食事に自分らしくもなく心を浮かばせるが、これで良いなんて根拠の無い確信をリリは抱きながらリリもサンドイッチを頬張る
久しぶり食べたサンドイッチは今までの何よりも美味しいような気がした
「美味しいですね!」
「あぁ、本当に美味しいよリリ」
こんな穏やかな時間が永遠に続けば良いなんて、叶いもしないことを思いながらリリはサンドイッチを頬張った
「お疲れ様でした夏油様!!」
「あぁ、お疲れ様リリ」
リリ達はダンジョン探索から切り上げ、時刻は夕方の五時を過ぎており、橙色の夕日がリリ達を優しく照らし、今日も頑張ったなんて達成感を抱いた
今日は魔石や不要なドロップアイテムが多かったことから何時もよりも多めの十四万ヴァリスでそれを半分に割った七万ヴァリスがリリの握っている皮袋に詰められていました。
その幸福な重みに頬を緩めながら、それをリュックに仕舞って、盗まれたりしないように厳重にリックの紐をきつく締めてホームへと帰る準備をする
「送ろうかい?」
「いえ!態々夏油様の手を煩わせる訳にはいきませんので!!それに近いので大丈夫です!!」
憂鬱な気持ちを隠しつつ、そう元気一杯に答えると夏油様は眉を少し下げてそれなら良いんだけど····と心配そうな声で小さく呟く姿に暖かい気持ちが溢れてしまう。
誰かに心配されるなんてここ数年で一度も無い上に、そこに今までの冒険者のような下卑た欲望なんて一つも無い、そこには純粋なただリリを気遣う心しかなかった
だからこそこんなにも心を弾ませ、心を許してしまそうになる
それこそ、全てを委ねてしまうほどに
「では!失礼します夏油様!」
「あぁ、また
私は路地裏へと入り、コソコソとなるべく気配を殺しながらもホームへと戻ろうとする
広場とは違うジメジメとした嫌な雰囲気が、嫌な予感を脳裏に過ぎらせるが気の所為だと自分自身を無理矢理納得させ、足を進める。
だが、曲がり角で体格の良い男と衝突し、バランスを取れずに尻餅を着いてしまう。ジンジンと痛む臀部に目の前の男を思わず睨み付けようとするが、その顔を認識した瞬間にヒュッと息を呑んだ
「よぉ、リリィ〜。今日の成果はどうだったんだよ?」
「ゲド、様」
今、一番会ってはいけない男に出会ってしまったことにリリの顔から血が引くのを感じ、全身が目の前の男の恐怖からガクガクと震える
「あ、あ」
「なぁ、何とか言えよッ」
ガシリと髪を掴まれて無理矢理にリリの顔は上へと向けさせられると、目の前には下卑た笑みを浮かべる汚い顔がリリの目に映り、思わずえづきそうになる
「見た所、あの男は随分と金の羽振りが良さそうだなぁ、それなら金もたんまり貰ってんじゃねぇのか?」
「そ、そんなことありませんよ···」
漸く口に出来た言葉は随分と震え、自分で聞いていても今にも消えてしまいそうな程に小さな声だった
「嘘は良くねぇよ···俺はちゃあんと見てたんだからなぁ!!」
そう言うとリリの腹に膝蹴りが叩き込まれる
「ッ!!」
痛みのあまりに声にならない声がハクハクと口から洩れ、バタリと床に腹を抑えて倒れ込む
リリの上からは下卑た笑みが響いており、それが憎くてどうしようもなかった
(クソ、クソッ!!なんで、どうしてッ···)
先程までの夢のような時間から、どうしようもない理不尽な現実に目の前が真っ暗になるようなそんな絶望がジワジワとリリの体を包んでいくように感じた
「それじゃ、もう一発いっとくか!」
自身の上から振り上げられる拳をギュッと目を瞑った
「助けて、夏油様」
(来る訳無いですよね···こんな汚れたリリの元に)
「呼んだかい?リリ」
「え」
路地裏に響いたリリでもゲド様でもない声に、リリは声の発生源へと顔を向ける
そこには、リリが助けを求めた主である夏油様が笑みを浮かべて立っていた
「やぁ、無事···ではないようだね」
心配そうに下げられた眉と目元にリリは思わず泣いてしまいそうになる。こんな汚れた自分でも、心配してくれているという事実に
「お前は、コイツとパーティを組んでる奴だな。そんな奴が何の用だ」
「何、嫌な予感がしたから急いで彼女を追い掛けただけだよ。それより、こんなことして大丈夫かい?」
そんな夏油様の言葉にゲド様はピクリと眉を顰める
「ファミリアの問題だ。部外者が口を出すことじゃねぇ」
「確かにそうだが、それにも限度があるんじゃないか?これをギルドに報告したら懲罰は免れないだろうね」
夏油様がそう言うとゲド様は舌打ちをして、リリに向かって振り下ろそうとしていた拳を下げ、怒りを隠せない様子でズンズンとホームのある方向へと足を進めていきました
「大丈夫?骨は折れてないかい?」
「だ、大丈夫です···暫くすれば痛みも収まると思います」
そう言うと夏油様がホッと息をつく
「あれはソーマ・ファミリアのゲド····ということは君はソーマ・ファミリア所属なのかい?」
「····はい。リリはソーマ様の眷属です」
一番知られたくない相手に、一番知られたくなかった事実を知られてリリは罪を自白するように顔を下に向けた
「どうしてソーマ・ファミリアに?」
「それは、両親が元々ソーマ様の眷属だった、からです」
もうどうにでもなれと言わんばかり、リリの口からはペラペラと今までの人生と罪を夏油様に自白する。その度に、夏油様の反応が怖くなり見ないように顔を更に下に向ける。
もしこれでリリに失望したら、裏切り者だと糾弾されれることが怖くて、怖くて、怖くて仕方がなかった
「····君はソーマ・ファミリア、自らを理不尽に虐げた者をどう思う?」
「へ?」
思いもしなかった言葉に、リリは思わず呆気に取られてしまう
「言い方を変えよう。君はこのままの現状を良しとするかい?変えようとは思わないのかい?」
「·····」
リリは思わず黙り込んでしまう。そうでもしなければ目の前にいる夏油様に掴み掛ってしまいそうだったから
「良いのかい?ただ、自由を望むまま沈んでいく自分に、変えたくないか己の現状を」
「――さい」
「惨めだと思わないのかい?ただ夢を見上げるだけの自分を!」
「――うるさい!!」
感情が爆発した
「じゃあどうしろって言うんですか!?惨め?そんなことリリが一番良く分かってますよッ!!」
「冒険者としての才能も!誇れる程の才能も、精神も無いリリにどうしろって言うんですか!?」
「変えれるならとっくに変わってますよ!!どんなに足掻いても!どんなに努力しても変えられなかったからこんな吐き溜めにいるんですよ!!」
「自由なんて喉から手が出る程に欲しいですよ!!けれどリリでは届かなかったッ!!手にすら掛けられなかったッ!!」
「腹立たしいですよ!ただリリを都合のいいサンドバックとしか見ていない冒険者も!リリを嘲笑っている奴等も!!」
「けどッ、リリには何かを変えれる力なんて無いんです!」
「そんなリリは、私はどうすれば良いんですかッ····」
「私が君を救おう」
その声にリリは思わず上を向くと、そこにはリリへと慈愛の視線を向ける夏油様がいた
「君を虐げた者に罪を与えよう」
「君を
「君を変えてあげよう」
「君に、自由を与えよう」
夏油様が美しく笑う
「あ、ぁ」
間抜けな声が上げるが、そんなことも気にならない程に夏油様に私は意識を注いでいた
「君は素晴らしい人間だ、困難な状況でも立ち上がれることの出来る勇気のある人間だ。」
「そんな君を、君だからこそ私は欲しい」
「だから、私と共に来てほしい」
そんな言葉と共に、夏油様がリリへと手を差し伸べた
その姿はまるで神のようであり、サラサラと心の奥底に凝り固まっていたドス黒い何かが消え、夏油様という希望がリリの胸に刻み込まれていく
「あ、あぁ」
私は夏油様へと手を伸ばし―――――
「さぁ、共に往こうリリ」
「はい、夏油様」
その日、リリは本当の
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ちなみに、ソーマの眷属は極一部を除いてオラリオから追放されました。一体、誰の仕業なんだ····
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