王座の上で俺たちに背を向けて立っている少年が、マントをひるがえしてこちらに不敵な笑みを浮かべて見せた。お前それ好きだな。
「よく来たねルーベルト! チョウチョ! ……と、どなた?」
「ガシャン。ガシャン」
ラグナローはまず膝立ちになって、そのあとレッドカーペットに手をつけた。響き渡る金属音が哀愁を誘う。
「吾輩、認知されてない…!?」
「マガジ…」
「まだ1回しか出てきてませんよルーベルトさん」
たしかに。今回はまだ一回だな。
「す、すまない。よければ自己紹介をしてくれないか?」
「我が名は勇者ラグナロー!」
「そうか。勇者か。勇者……勇者!? なんでここに勇者がいるの!? アイエエエ!? ユウシャ!? ユウシャナンデ!?」
「落ち着けルーザ。それは忍者だ」
「スイランさんですね」
「いやチョウチョ。厳密に言うとあれはくノ一と言う奴だ」
「吾輩みんなが何言ってるかさっぱりわからんぞ」
会話のテンポが良いし、意外と俺ら相性いいのかもな。
こんな感じで5分くらいわちゃわちゃした後。
「……コホン! というわけで本題に入るよ。みんなにはボクが魔王になるための修行の1ヶ月の間に、してもらいたいことがあるんだ。特にラグナローさんに」
「わ、吾輩…?」
「オデオン」
「ここに……」
ルーザが呼び出した瞬間、オデオンさんがルーザのそばに膝を立てて現れた。
「みんなの知ってる通り、我が魔王軍の隊長。暗黒騎士オデオンだ」
「ルーベルト殿。チョウチョ殿。ラグナロー殿。お久しぶりです……」
……なるほど、話が読めてきたぞ。
「ラグナローさんにはボクの修行期間の間、この魔王城を、このダルスモルスを守ってほしいんだ」
つまりルーザは今回のラグナローの貢献度から鑑みて、これからもダルスモルスを防衛して欲しいということだな。
「わっ、吾輩が!? ム、ムリだ吾輩は……吾輩は臆病者だ。13の時に祖国クルブルクを出てダルスモルスに渡り、もう10年も魔王に挑もうとして、その度に辞めてきた。わがはいは……ただの……おくびょう者だ」
ラグナローはとても悲しそうな声でそう呟いた。
……いや、言ってることは事実なんだろうけど──
「「「いやめっちゃ強かったじゃん」」」
──満場一致で声が揃った。(オデオンさん以外)
だってそうだろ。こいつ急に現れたと思ったら一人で黒影怪物を足止めしてたんだぜ。なによりそのメンタル。俺と同じレベルで死を恐れないやつ初めて見たよ。しかも俺は相棒が居るし、国王からの
お前絶対戦闘系ライフだったらマスターだよ!!!
「……え?」
なのに当の本人は、それが理解できてないらしい。
「ラグナローさん」
チョウチョがキラリと光りながら、ラグナローのそばに近づいた。
「飴ちゃんあげます」
いや大阪のおばちゃんかよ。……なんか脳内に流れてきたけど大阪ってなんだ? 地名っぽいけど…? でもおばちゃんが飴をくれるという意味ではクルブルクの大通りみたいなところなんだろうな。
「……ラグナローさんの夢はなんですか?」
よかった女神の娘してたわ。あぶねー相棒が急におばちゃ……
シュン! シュン! シュン! シュン!
背後から4回ほど魔法陣の音が聞こえた。
振り返ると、そこには──
「あら、久しぶりね。ユエリア」
「ノーラ……」
──人間の時のユエリアによく似た少女が立っていた。ユエリアとは対照的な黒のローブに身を包み、紫の長い髪がフードから妖艶に伸びている。
まさにそんな言葉がよく似合う少女だった。
「ユエリアの妹か」
「えぇ、そうよ。そういうアナタはルーベルト」
「……んー。さすが女神ステラの娘だな。雰囲気や態度はツンツンしてるけど、優しいな」
「あの、ルーベルトさん。お母様のことは……」
「「女神ステラ!?!?!?」」
あぁしまった。勇者と魔王が完全に同じリアクションをとってるよ。
……というか、ノーラの後ろにいるやつら。
「メガミサマ……ステキ❤️」
「ア、アニキィッ! あの方は女神様じゃなくてその娘さんですし、何より早く正気に戻ってくださいっス!」
「ミー!」
グルッチェとハッポとチコじゃねぇーか!
どういうことだ? あいつらは今はヒューズのもとでドクロ石の研究の助手をしていたはずだぞ? ……なによりグルッチェのあの姿。どぉーもみょーに既視感があるんだよな。
「ノーラ……あなたトサカあたまさんに
「あら? おかしいわねユエリア。アンタだって使っているはずよ?」
「ぐっ…! でも!」
「でももどうしたもないわよ。……だいたい、
「……えっ、そうなの?」
ユエリアの言葉にノーラはやれやれといった雰囲気で。
「知らなかったの…? ……アンタはお母様のことを聖人君子の完璧人間だと思ってたの? あの人意外とお茶目で破天荒よ?」
「……女神は人間じゃないだろ」
ユエリアがノーラのペースに飲まれ始めているのを感じた俺は、少し助太刀をすることにした。
「あら? 可愛らしい女の子の会話に割って入るなんて、あなたのポリシーにはないんじゃないの?」
「あいにくうちの相棒はレスバよわよわなんでな。2対1で挑ませてもらうぜ」
「レスバよわよわ!? ル、ルーベルトさんうそですよね?」
「本気と書いてマジと読みます」
ふはは! ユエリアは置いといて、この俺のツッコミはばっちり決まったな! どうだ! ノーラ!
「ま、お母様は元人間なんだけどね」
「マジかよ」
話は最後まで聞くものだな。
「……さて、そろそろ本題に行きましょうか。ねぇ、可愛らしい魔王様?」
「……ルーザだよ。女神の娘、ノーラさん」
「年上にさん付けができる。……うん、好評価ね。…………そんなあなたにご褒美かしら? ……古代遺跡のドクロ石は
「……一応聞いてみていいかい?」
「いいわよ? 答えるかどうかは私の気分次第だけどね」
「……キミの目的はなんだい?」
「……飛行石を集めることよ」
「……飛行石?」
「…………まぁ、そのうちわかるわよ。あなたのお友達の、そこのポンコツ2人がね」
「「だれがポンコツじゃ(ですか)!」」
「ということでそこの勇者さんをもらっていくわね。『
「メガミサマ……マモル❤️」
しまったやられた!
「どうするルーザ!」
判断を仰がれたルーザは、俺の予想していた姿よりも遥かに冷静に状況を分析していた。
「……うーん。……一つ、聞いてみてもいいかな?」
「なにかしら?」
「キミは……君にはラグナローさんが必要なの?」
「まぁ、そうね。後ろの3人……コホン。2人と1匹は手先は器用だけど、戦いはてんでダメだもの。私もユエリアみたいに盾になってくれる人が必要なの」
なるほど、つまりラグナローは俺と同じポジションなのか。まぁ多分向いてるな。
「……わかった。手の内を明かしてくれないが、少なくとも悪い人じゃなさそうだ。オデオン、この方々をお送りしてくれ」
「御意に……」
ノーラたちが次々と魔法陣の上に移動して、去るまぎわに。
「……次は、コモレビィで会いましょう」
「……わかったわ。お姉ちゃんのハグは必要?」
「いらないわよ!」
「俺は欲しいぞ」
なんだか騒がしいやつらだったな。
魔王の間には俺とチョウチョとルーザだけだ。
「……ドクロ石もなくなったようだし、ボクはもう、今から古代遺跡で修行を始めるね。1ヶ月で片付けてくるよ」
「おう! がんばってな! ルーザ!」
「がんばってくださいルーザさん! 応援しています!」
「ありがとう2人とも。エリック王には申し訳ないが、女神の宝についてはもう少し待って欲しいと伝えてくれ」
「了解だぜ。……もう、行くのか?」
「ああ、善は急げというだろう? ……ま、ボクは魔王だけどね!」
「かっこいいですルーザさん!」
「フフフ……ありがとうチョウチョ。……じゃあ……またね!」
「ああ! またな!」
「また! です!」
目元に深いクマを浮かべた、若き魔王と別れをつげ、俺たちは、俺たちのやるべきことを見据え始めたのであった。