仮面ライダービャクア   作:マフ30

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最終幕 続くキミとボクの放課後

 

 いやはや……久しくご無沙汰しておりまして、まことにご無礼を致しました。

 吾ながら久方ぶりにあの童女の世話を焼いて、あくせくと忙しく働いておりましてねぇ。

 お恥ずかしい事ですが似合わないことをすると調子が狂ってかまいませぬ。

 さて、宿命を背負わされた小娘と呪いを押し付けられた坊主の数奇なお話も此度で一先ずは一巻の終わりとなります。

 

 何卒、最後まで見届けていただければ幸いでございます。

 

 とある日の、とある町でのちょっとした出来事さ。

 連綿と受け継がれてきた怨念塗れのお面と危なっかしい童女、そしてなんてことのない小僧が紡いだ――ありふれた当世のお伽噺ってね。

 

 

 

 

 日輪の無い赤い空。

 生命の気配のない景観だけを写し取って真似た街並み。

 漂うは深く淀んだ穢れを孕んだ瘴気。

 暗天――化神が生み出す未知の異界にて、二つの巨影がぶつかり合う。

 

『オ゛オ゛オ゛ォオオオオ――――!!』

 

 化神獣が雄叫びを上げながら飛び掛かる。

 剣呑な重低音を響かせてビャクアが操る天地守りの大具足――クロウマルと激突する。

 

「なんのッ!」

 

 悪しき獣の牙を宝槍の柄で受け止めるとクロウマルは負けじと腹を蹴り飛ばす。

 更には間髪入れずに黄金の矛先を斜め下へと突きにいく。

 

『オ゛オ゛オ゛ォオオオオ――――!!』

「速い……ですが!」

 

 化神獣は巨体を鞠のように転がして槍撃を避けると角からの稲妻で反撃に出る。

 紫電が飛び散るが神通力が満ち交う黒鋼の装甲を破壊するに能わず。お返しとばかりに繰り出された文字通りの大鉄拳が異形の顔を盛大に歪ませる。

 全長三十メートル相当の巨躯を誇る決戦は周囲の建物を破壊しながら苛烈さを増していく。

 

「沙夜さん! これって腕とか飛んだりするロボかな!?」

「違うと思います。七つ道具の中でこれだけは気軽に稽古するわけもいかなかったので……ごめんなさい! 実はよく分からない装備もあったりなんです!」

「そりゃあそうだよね。大昔にコレ考えた人とか発想力おかしいでしょう!」

 

 クロウマルの胸部中央にて、操縦桿に相当する儀式剣を握りながらビャクアと永春は懸命に大具足を乗りこなして食い下がる。

 しかし、雷に炎、突風に地割れとまるで天災を操るような化神獣相手になかなか決定打を加えることが出来ずに少々焦りを感じ始めていた。

 

「槍の他に印象的なものですと連火砲あたりでしょうか? 両肩についてる大砲みたいなのです」

「それなら、ボクにいい考えがある!」

 

 ビャクアからクロウマルの武装を聞かされた永春は直感で思いついた作戦を伝えてすぐさま実行に移す。鴉面をした巨大な絡繰僧兵は宝槍で炎を斬り払いながら化神獣へと肉薄していく。

 

『オ゛オ゛オ゛ォオオオオ――――!!』

 

 猪突猛進に突っ込んで果敢に攻めかかるクロウマルの宝槍をまるで山猫のような俊敏な動きでかわしていく化神獣。攻撃ばかりで防御のことなど度返しといった荒っぽい動きに下卑た笑みを浮かべると隙をついて懐まで入り込んできた。

 

「いまだ!」

「連火砲……一斉掃射!!」

 

 全てを食らい尽くすような大顎を化神獣が開いた瞬間にクロウマルが素早く動いた。宝槍を手放すと両腕で上下の口を押さえ開き、相手の口内へと両肩の連装砲の射撃を絶え間なく撃ち込んでいく。

 零距離での怒涛の連続砲火。

 ジタバタと暴れるもクロウマルの全身全霊の力で拘束されている化神獣は逃れることも出来ずにやがて内側からブクブクと不格好な紙風船のように膨らんでついには上から半分の体が吹き飛んだ。

 

「倒せたのか?」

「……いえ、まだです!」

 

 唐突に訪れた静寂。

 二人の視線の先には下半身のみで僅かに痙攣する化神獣の残骸があった。

 淡い期待を抱いて安堵する永春を制して、ビャクアがクロウマルを操作して宝槍で更に容赦なく巨大な肉塊同然の下半身を真っ二つに切り裂いた。

 

『オ゛オ゛オ゛ォオオオオ――――!!』

 

 だがしかし、穢れに満ちた獣の嘲笑にも聞こえる雄叫びは再び轟いた。

 化神獣は肉体を八つ裂きにされて泥のように溶け崩れたかと思うと瞬く間に再生されてしまったのだ。

 そして、まるでこの闘争を何十回も何百回も繰り返してやるぞとばかりに化神獣は殺意を剥き出しにしてクロウマルに襲撃を再開。再び熾烈な接戦を繰り広げる。

 

「ハア……ハァ……あれ、どうなってるわけ!?」

 

 クロウマルの動力として生命力を吸い取られている影響もあって、滝のような汗を頬に滴らせる永春が問いかけた。あれではまるで自分と同じ不死ではないかと。

 

「うまく説明できる自信がないのですがアレに宿っている命が一つではないんです。天厳が最初に姿を変異した際に流れ込んでいった化神の幼体とも言える命が混ざり合ったり、分裂したりして内包されている」

「ゲームで例えるなら残機がメチャクチャあるってこと?」

「そう、そんな感じです。だから、仮に一度仕留めてもアレは一つ分の命を切り離し消耗することで全体の死を先送りにしているんだと思います」

 

 化神獣の突進を受け止め、ビルに背面を打ちつけながらも踏ん張るクロウマルの内部でビャクアは敵の不滅の仕掛けを冷静に見抜いていた。

 

「でも、つまり……倒し尽せばいつかは消えるんでしょ? いいよ、とことんまでやってやる!」

 

 最後の正念場にきて、途方もない長期戦を突きつけられた二人。

 だが、永春は疲労でガクつく両脚に力を入れ直させると根性を出して吼えた。

 

「いいえ。それには及びません」

「え……えっ!?」

 

 燃える気合に躊躇い無く水を掛けるようなビャクアの言葉が永春を困惑させる。

 彼女の意図が分からずにキョトンとした顔をしているとビャクアが落ち着き払った声で続ける。

 

「いくら命を切り売りして生き永らえているからと言って無限ではないのなら、私には一撃で片を付けられる手段があります」

「本当に!?」

「ただ……少し準備に時間が掛る代物でして」

「分かった。なら、ボク一人でコイツの動きを封じておく。それならいけるんだよね?」

 

 沙夜がなにを言いたいのか即座に理解した永春は何と躊躇いも不安も見せずに宣言した。あまりの即断即決っぷりに今度はビャクアの方が苦笑する番だった。

 

「いよいよ私の思考まで先読みするようになってきましたね。思い切りが良すぎることもですけど……心配で困ってしまいます」

「はは、ごめんね。でも……沙夜さんの言葉だもん。信じて頼まれる以外の選択肢なんてありえないね」

「――永春くんのそういうところ、ようやくちょっと慣れました。二人で、一緒に、勝ちましょう!」

 

 ビャクアの持つ秘策を永春はどんな内容なのか尋ねることなく時間稼ぎの囮役を引き受けた。そんな普通を自称しながらも窮地において抜きん出て勇気を振り絞れる少年にビャクアは誓いの言葉を残して単身外へと飛び出した。

 

 

 

 

 クロウマルから離れて近場のビルの屋上に降り立ったビャクアはおもむろに頭上を見上げた。赤く濁った穢れた空の下で永春が動かしている黒き巨兵が傷だらけになりながらも懸命に化神獣と戦っている。その動きを封じ込めようと足掻いている。

 

「いきますよ、永春くん。私たちが勝ちにいきます!」

 

 無数の命を持ち、限りなく不滅に近い大怪異へと変貌した化神獣を完全に打ち倒すべく、ビャクアは自らが持ちうる最強の一手を解禁する。

 

「万象剣・真打……鍛造開始」

 

 両腕の宝輪が金色に輝いて、闇を照らしていく。

 大袖を飾る勾玉に翠光が灯り、ビャクアの全身に活力を満たしていく。

 首に巻かれた羽衣が解けて、本来あるべくように彼女の双肩で浮遊する。

 ビャクア・セキシンはまるで戦神のような神秘的で壮烈な風格を醸し出す。

 

 それはまるで月夜の雪のように美しく、野山の清流のように麗しい佇まいだった。

 万象剣の鎺を胸当ての蒼い宝玉に押し当てる。

 ちょうど、彼女の心臓の上に当たる部分だ。

 清廉な声を始動の鍵として、万象剣は自らの拘束を解いていく。

 己に秘められた真の力を目覚めさせて、隠された真の刃を生み出そうと輝きを放つ。

 

「七幻よ、いまこそ束なり集え。神武よ、ここに極限へと至れ――!」

 

 赤き心の鼓動が響く。

 世界に鼓動が響き渡る。

 それはいま生まれようとしている剣の鼓動。

 それはいまを懸命に生きる人の命の鼓動。

 強く、熱く、清らかに――鼓動、鳴り響くこと七つ。

 

 柄を握るビャクアの手に力が入り、赤き双眸が改めて退けるべき敵を睨んだ。

 いま、御伽装士ビャクア(もちづき さや)の生命を玉鋼として、無双の刃が爆誕する。

 

「顕現せよ――魂魄剣」

 

 綺羅星のような輝きを掴んでビャクアは抜刀する。

 彼女の肉体を鞘として、右胸の宝玉から解き放たれた極光がゆっくりと剣の形となって世界に現れる。その鞘走る音色はまるでこの世の一切の不浄を断つような澄み切ったものだった。

 万象剣の真の姿は夜明けの青空のような色彩を持つ不思議な七支刀の姿形をしていた。

 その銘は魂魄剣。

 

『オ゛オ゛オ゛ォオオオオ――――!?』

 

 魂魄剣が放つ幻想的な光を目の当たりにした化神獣は怯え慄いた。その刃の恐ろしさを本能で感じ取ったのだ。

 胸をざわつかせる恐怖を取り除こうと化神獣は形振り構わず巨腕をビャクアへと振り下ろす。

 

「ハイヤァ――!!」

 

 裂帛の気合で薙いだ神威の刃が異形の巨腕を退ける。

 何も無い宙空をただ一振りしただけで、生み出された衝撃波が化神獣をはるか後方へと吹き飛ばしてしまったのだ。 

 

「オン・カルラ・カン・カンラ! いざ! いざ! いざッ!!」

 

 敵が怯んだ好機を逃す手は無いとビャクアは長く繰り広げられた決戦の幕を引くべく、退魔の印を結ぶと力強く空へと跳んだ。

 太陽よりも激しく、月よりも優しげで、星のように眩い魂の刃の凄絶さがいまここに開帳される。

 

「退魔覆滅奥義! 降魔一刀! ハイヤァアアアア――――ッ!!」 

 

 どこまでも煌めく七支の刃が化神獣を唐竹割りで真っ向から斬り裂いた。

 その一太刀に大きさの概念は無用であった。

 その一撃に穢れの色濃さは無意味であった。

 その一閃に蠢く命の膨大さは無力であった。

 

 鋼の剣が肉を斬り、骨を断つならば魂魄剣は生命を斬り落とす剣。

 担い手の生命を刃として相手の魂という対象を直接両断する神域に等しい力を秘めた霊剣なのだ。

 

『アァ……アアア、ァアア……アアアァアア――――ッ!?』

 

 魂魄剣による全身全霊の一撃を受けた化神獣についに必滅の二文字が突き刺さる。

 憎悪に満ちた絶叫とも恐怖と嘆きが溢れる悲鳴とも聞こえる断末魔が轟いて、化神獣と暗天を形作っていた赤い空が砕けていく。

 あれほどの巨体を誇っていた化神獣は驚くほどあっけなく、塵か霧かのように消滅霧散して果てたのだ。

 

「これにて、落着です」

 

 電柱のてっぺんに着地したビャクアが静かに残身を取ると暗天は完全に崩壊して、元の世界に戻っていた。濃紺の夜空に輝く月と星がビャクアとゆっくりと消えていくクロウマルを見守っていた。

 

 ここに長い戦いは幕を閉じた。

 沙夜と永春は運命を手繰り寄せて、勝利を掴んで見せたのだ。

 

 

 

 

 あの日からずっと、どこまでも続く濁った暗闇を理由もなく歩いているような毎日だった。

 味のしなくなったガムを吐き出すことも飲み込むこともせずに、ただ何となく他にすることもないから噛み続けているような日々だった。

 いつから、そんな風に生きることが殺風景でどうでもいいものに変わったんだっけ?

 

 夕凪さんからお呪いを渡されたあの日?

 事故に遭って、両親と死に別れた時?

 正直、そんな事柄ですらどうだっていいとボクは内心思っていたんだ。

 だって、極端なことを言ってしまえばボクはもう他のみんなのように生きていくのに本気になる必要なんてなかったから。

 

 不死とはそういうものだ。

 永遠に生き続けるというのはそんなものだ。

 夢のあるものじゃない。

 ずっと目を背けて、知らないふりをしてきただけ。

 何をしたって死なないということはその程度のものだ。

 自分が生きている世界が白黒テレビのように色褪せて、音だってノイズだらけでつまらなくて煩わしくなる。

 

 人間は――生き物とは生きるために頑張る生命体だ。

 少なくともボクはそういう風に考えている。

 

 衣食住を満たすために頑張る。

 仕事であれ、勉学であれ、趣味であれ、何もしなければ飢えてやがてはみすぼらしく力尽きる。

 だから、生活を充実させるためや富や名誉だとかを高めるために――限りある人生を自分好みに彩るためにがんばって生きている。

 

 喜びもある。

 怒りもある。

 哀しみもある。

 楽しみもある。

 

 誰もがいつかは自分と言う人間にも終わりが訪れると解るときが来るから、代わり映えのない日常だなんて言いつつもみんなその日、その瞬間を本気で生きていくことが出来る。

 

 自分にはもうそれがない。

 

 父母と同じように鉄パイプの濁流で体がグチャグチャに潰れてもほんの数分数秒で元通りに治ってしまう肉体になってから、生きるという行為が無意味に感じるようになった。

 まるで狭い病院の待合室で延々と呼ばれることのない診察の時間を待ち続けるような息苦しさだけがボクにまとわりついて離れなくなった。

 

 だけど、不思議とボクは泣き喚くことも、運命を嘆くこともしなかった。

 この呪い(不死)と向き合う度にあの雨の日の夕凪さんの顔と言葉と涙が脳裏に蘇ったから。

 だから、まだ壊れてしまうのは早すぎると意地のようなものがずっとボクを人間として繋ぎ止めている。

 

 友人たちが夢や未来を語る隣で悟られないように手を抜いて生きるようになった。

 とはいえ、露骨にそんな風に生きていけるわけでもないので少しでも気が紛れるように毎日をバイト漬けにしてみたり、色々と試してみたりもした。何でもいい、忙しさに追われている間はちょっとだけ、気が休まるようだった。

 

 兄夫婦のところで居候して暮らした一年と笛吹荘で一人暮らしをするようになった一年の合わせて二年ちょっとの時間だけでも味わった空虚はとても苦しいものだった。

 これが誰かに呪いを押し付けない限り、終わることなくいつまでも続くと考えたら、とても憂鬱で仕方がない。

 

 夕凪さんもこんな風に感情や心が色褪せ、磨り減っていたのだろうかと思うとあの日の自分の言動に強い後悔と憤りを覚えた。

 もっと違う言葉をかけてあげられなかったのか、彼女の救いになる何かが出来ていてあげれば良かったのにと。けれど、同時にこうも思ったんだ。

 

『それなら……わたしの代わりに、ずっとずっと苦しんでよ』

 

 夕凪さんの最期の願いを叶えるためにこの運命が巡り回ってやって来たのだとしたら、彼女の為に無意味に生きて、一日でも長く苦しんでボクを続けていくことも少しは意義があるのかなと。

 そんな時だったんだ。

 もう何にも感激することもないと思っていた心が高ぶりを覚えたのは。

 

 高校二年生、初めの一日目――ボクは一人の少女を知ったんだ。

 陽の差し込む眩しい場所にいるみんなを、暗く静かな日陰の中で優しく見守っているような雰囲気の少女。

 クラスの誰かがまるで幽霊だとからかっていたその控えめで、だけどどこか満足げな微笑みにボクは見惚れていたんだ。自分で言って照れ臭いけど、苦しいぐらいに胸の奥が熱くなっていたんだ。

 

 理由?

 そんなの一目惚れに決まってるじゃん。

 彼女のことが好きになったんだから、しょうがないだろ。

 

 

「ん……うん……あ、れ?」

 

 目が覚めるとぼんやりと見知らぬ天井が広がった。

 笛吹荘のボクの部屋でも病院でも無い。

 何の変哲もない和室の天井だ。

 

「よかった」

 

 すぐそばで聞き馴染みのある心地の良い声がしてボクは慌てて飛び起きた。

 

「うえっ!? ここって……え、待ってぇ!? 沙夜さん!?」

「おはようございます、永春くん」

「……おはようございます。あの、お邪魔してます?」

「遠慮なく。ただ、最初に永春くんに言わせてください。神社でのこと、病院で電話した時のこと……どれもひどいことをしてしまって、ごめんなさい」

「――大丈夫。もう、気にしてないよ」

 

 薄暗い六畳間の空間に年季の入った時計の音だけが淡々と聞こえる。

 ボクが寝ていた布団の隣で綺麗な姿勢で正座して柔和な顔をしている彼女と部屋の周囲を忙しく見渡したことでようやく、ここが沙夜さんの居候先――つまりは六角家の客間だという事に気が付くのにさほど時間はかからなかった。

 

「まだお疲れかと思いますが少し、付き合ってくれませんか?」

「うん。ボクも……沙夜さんに話したいことがたくさんあるんだ」

 

 楚々とした様子の彼女の声を渡りに船とばかりにボクもそんな風に返事をする。

 この時が来るのが怖かった。でも、ずっと待っていた。

 

 

 

 

 夜明け前の空気は六月だというのにまだ冷たくて、澄んでいた。

 深呼吸をすると心が洗われるようだった。

 いま、ボクは沙夜さんと六角モータースの近くにあるのどかな散歩道を歩いている。

 周りに他の人の気配はない。野良猫の類も見当たらない、本当に誰もいない。まるで二人だけの世界だ。 

 

 ここまで来る道中で戦いの後のことを彼女からも聞くことが出来た。

 沙夜さんの活躍のお陰で物部天厳は無事に討伐。

 盗まれていた猿羅の怨面も回収が完了。

 天厳が引き起こした儀式による混乱や人柱樹にされた人々なども光姫さんや安さんたちに加えて、他エリアを担当している近隣の御守衆の平装士たちが応援に駆けつけて急ピッチで鎮静化に当たり、どうにか丸く収まる目処が立ったという。

 

 一方でボクはと言うと普通なら二桁は死んでいるであろう怪我を負った疲労に、大具足を一人で暫く動かしていた反動が重なって知らぬ間に気絶していたらしく、同じく激戦の後で疲労困憊だった沙夜さん共々帰って寝ろと六角家に放り込まれたという。

 いま着ている上の服も噂の光姫さんの旦那さんか誰かの物だろう、サイズがちょっと大きいので少し落ち着かない。

 兎にも角にも、あれだけの大騒動でも最悪の事態にならずに済んで良かったと胸を撫で下ろす。

 

「それで……その、ですね」

「うん。今度はボクの番だね。どこから話そうか――」

 

 伏し目がちに言葉を詰まらせている彼女にボクはなるべく、世間話をするような気軽な空気を装って隠したり、嘘をついていた本当のボクのことをゆっくりと話し始めた。

 

 夕凪さんとなにが起こったのか。

 あの日の別れ方と受け継いでしまった人魚の呪いのこと。

 両親と事故に遭ったときに本当は自分も死ぬはずだったところを呪いのお陰で生き永らえてしまったこと。

 

「本当に……そんなことが」

「ボクも夕凪さんに聞かされたわけじゃないけど、彼女の心臓を食べさせられた時にね、テレパシーというか記憶とかだけが頭の中に焼きついたような」

「それじゃあ、件の女性が人魚本人と言うわけでもないんですね?」

「たぶんね。本物の人魚がどんな感じだったのか、最初に呪いを受けたのは誰だったのか肝心なところはボクにも分からないんだ。ただ、ボクや夕凪さん以外にも過去に呪いに振り回された人たちがいたことと、この呪いがどういうものなのかは感覚で教えられたみたいな」

 

 改めて人魚の呪いの親切なんだか不親切なんだか分からない仕様には参ってしまう。

 原因とか、解決の手掛かりとかそういうのは結局謎のままなんだから、正直に話したところでどう足掻いたって沙夜さんを不安と困惑を与えてしまうじゃないか。

 

「ずっと嘘ついていて、ごめん。適当なこといって隠してきて本当にごめん」

「謝らないで下さい! 誰だって、そんなものを背負わされていたら隠したくなります」

「そうかもしれないけど……その、これが光姫さんとか安さんだったらたぶん、本当にもっと早くに正直に全部話せていたと思うから」

「え?」

 

 最初に悪かったのも、全部の責任もボクにあるというのに沙夜さんは大きな声でその事実を拭おうとしてくれる。嬉しかった。その優しさに甘えたくないといえば嘘になる。

 でも、それじゃあ駄目なんだと、ボクはどんな未来が待っているのか恐くてずっと言葉に出来なかった想いをゆっくりと声に出していく。

 

「化神が切っ掛けっていうのに複雑な気はしたけど、沙夜さんと仲良くなれたことが嬉しかった。戦いで余計なお世話だったかもしれないけど、ちょっとでも役に立てたことが嬉しかった。買い物とか学校の生活で沙夜さんに頼ってもらえるのが嬉しかった――」

「永春くん……」

 

 ダムが決壊したように気が付けばボクはずっと押さえこんでいた不純塗れの気持ちを沙夜さんに向かって吐露していた。濁って汚い泥水のように自分では思える我欲塗れの真っ正直な想いばかりを。

 

「クラスのみんなが知らない沙夜さんの一面をボクだけが知れたことが嬉しかった。ファミレスではしゃいだり、牛乳大好きだったり、格ゲー上手かったり、結構負けず嫌いなところとか……君のこと、沙夜さんの素敵なところに一番近くで触れることが出来て嬉しくてしょうがなかった」

 

 壊れた噴水のように感情を添削もせずに荒削りしたような言葉が溢れ出して止まらない。

 破裂しても問題ないはずの心臓が激しく脈打って、怖いほど痛い。

 視線の先の彼女は胸元でぎゅっと両手を握り締めて、困惑した様子だ。それでも、あの宝石のように綺麗な瞳の眼差しは真っ直ぐにこちらに向けられている。

 

「だから、だから……ごめんね、いつの間にか沙夜さんにだけは嫌われたくないって、化け物だって思われたくなくて、本当のことずっと言わなきゃいけないって思っていたのに言えなかった。体をバラバラにされても平気な筈のくせして、沙夜さんに嫌われるかもしれないって、そう思ったら……呪いのことを言うのが怖くて、怖くて、言えなかった」

 

 ああ、本当にボクは嘘つきで身勝手でどうしようもない奴だ。

 こうして、言葉にして列挙するだけで嫌気がする。

 自分で言っていても本当に気持ちが悪い。

 完全に粘着質なストーカーみたいじゃないか。

 逃げ出してもらってもいいぐらいの反吐が出るようなボクの言葉を沙夜さんはいまも静かに耳を傾けて聞いてくれている。

 その真摯な姿が眩しくて、同時に彼女にこんな汚い言葉と本心を曝け出している自分に腹が立ってくる。殺せるなら殺してやりたい気分だ。ボクの首を刎ねることが出来た天厳がこの瞬間だけは少しだけ羨ましくも思えてくる。

 

 さあ、常若永春。

 前に行った言葉を本当の意味でもう一度、沙夜さんに伝えるぞ。

 いや、懇願するんだ。

 只でさえ、ボクの愚かさで沙夜さんの身も心も沢山傷つけてしまったその罰を受ける責任があるんだ。甘い夢はもう十分に見させてもらっただろう。

 

「沙夜さん。前に屋上で言った言葉をもう一度、今度は本当の意味で言わせて欲しい」

「……どういうことです?」

「ボクのことを君と御守衆に預けるよ。煮るなり焼くなり好きにしてもいいって意味で」

 

 捲し立てるように喋り続けたせいか肝心な部分を彼女に伝える頃には肩で大きく息をするほどに呼吸が苦しかった。だけど、一言一句言い間違えることも迷うこともなく言う事が出来た。これで人間らしい日々に未練はもうない。

 

「それは私たちに危険な存在として厳重に取り調べられて、実験や拷問の末にみんなの平穏のために処分か封印でもして欲しいという意味ですか?」

 

 眼差しと眼差しがぶつかり合ったまま、どれぐらいが経っただろう。

 太陽が顔を出しつつある、そんな空の明るさを意識する程度の長い沈黙を破って彼女が口を開いた。

 

「そうだよ。だって、恐いでしょ? 八つ裂きにされても死なない奴なんて? ボクにその意思が無くても、ボクが生きている限りは絶対にどこかで大勢の人が苦しむような厄介の火種になる……だから、お願いします。みんなの平和な毎日を守ると思って、ボクのことをこの世から片付けて欲しいんだ」

 

 怨面こそ被っていないものの、凛としたどこか抜き身の刃のような張り詰めた雰囲気のする声でボクに問いかける沙夜さんにボクは深々と頭を下げてお願いした。

 情けないと思いつつも、こうする他に手が見当たらなかった。

 天厳に立ち向かって、呪いの力を使った時にこうすることは決めていた。

 もう二度と、ボクのせいで傷つく沙夜さんを見たくないが為にボクはどこまでも愚者でいようと決めたんだ。

 

 ボクの申し出に答えは返ってこない。

 暫くしてから彼女の規則正しい足音だけが近付いてきた。

 

「永春くん、顔を上げてください」

 

 いつかの夜のように彼女の声が降ってきた。

 けど、今朝はどこか冷やかで棘のある声色。

 

「このッ!」

 

 黙って言う通りにするとボクは顔を上げ様に思いっきりビンタされた。

 首が折れて一回転しそうな力強くて、とても痛いビンタだった。

 脳と一緒に揺れる視界が一瞬だけ、歯を食いしばって怒りを露わにする沙夜さんの初めて見る表情を映していた。

 

「ぐ……いっ…うぅ?」

「今度いまと同じことを言ったら永春くんでも次はグーでいきます」

 

 突然に優しくて柔らかなぬくもりがボクを包む。

 顔を引っ叩かれて、ふらつくボクのすぐ耳元で彼女の声が囁かれた。

 熱い吐息を孕んだ、いまにも泣き出しそうな震えた声。

 ボクは殴られて、すぐさま沙夜さんに抱きしめられていた。

 

「あ、あの……えと?」

「――これがわたしの答えです。あなたは誰にも渡しません」

 

 何が起きているのかサッパリわからなかった。

 沙夜さんに両腕ごと強く抱きしめられていて恥ずかしいことに微動だに出来ない。あたふたと滑稽に驚いていると揺るぎのない意思が宿ったような呟きがボクに届いた。

 涙声の、でも強くて綺麗で清廉な彼女の声。

 

「運命にも、呪いにも、化神にも、この先永春くんのことを好きになるかもしれない他の女の子にも、御守衆にだって……誰にも、誰にも渡したくありません」

 

 痛いほど強く抱きしめられる。

 だけど、その痛みは想いの強さだとすぐに分かる。

 彼女の体温がじんわりと伝わってくる。

 沙夜さんがこんなにもすぐ傍にいることを否応にも意識する。

 

「だって、わたしはあなたに恋をしたから――」

 

 ボクの耳は確かに彼女の言葉を拾った。

 あまりにも予想していなかった出来事にどんな顔をしていいのか、どんな言葉を掛けていいのか分からないで固まっていると抱きしめる腕はそのままに彼女は顔を少し動かして、至近距離でボクを見つめてくる。

 

「だからもう二度とそんな悲しいことを言わないで下さい」

「沙夜さん……でも、ボクはさ――」

「嫌です。聞きたくありません。私も少しはワガママに生きてみようって決めたんです。それにまだ私の話は終わっていませんから、黙って聞いてください」

「は、はい」

 

 よく知る彼女とは思えない押しの強さと剣呑な雰囲気にボクは躾けられた犬のように首を縦に振った。

 うん、本当に不甲斐ない。

 

「永春くん。沙夜はあなたと同じ時間を少しでも長く、一緒に感じていたいです。あなたは嫌ですか?」

「……そんなわけ、ないじゃん。ボクだって、傍にいたい。いられるなら、沙夜さんの一番でいたいよ」

 

 沙夜さんからそんな風に思われていただなんて、夢みたいだった。

 熱い吐息を感じるようなすぐ目の前で真っ直ぐにボクを見つめてくる彼女の顔を勇気を振り絞って見つめ返す。

 くしゃりと可愛らしく乱れた前髪から露わになった紫瞳が鏡のように自分を映していた。

 すぐにぼやけてよく見えなくなったけど、いまにも泣き出しそうなやっぱり情けない顔をしていたと思う。

 

「だったら――いまから、これから、なってください。沙夜だけの永春くんになってください。嘘ついてたこと、隠し事していたこと……それで許してあげます」

 

 見惚れるばかりで、気が付かなかった。

 慕うばかりで、考えもしなかった。

 本当にボクはダメな奴だ。

 だけど、たったいまダメな奴では終われない理由ができてしまった。

 

「本当に……ボクでいいの?」

「あんなにも私への想いを滔々と語ってくれたのに、今更そんな弱腰にならないで下さい。沙夜の瞳は永春くんしか見えていませんよ」

 

 熱く透明な流れ星が一条、彼女の頬っぺたを落ちていく。

 夜を照らす満月のような優しい彼女の笑顔にボクの心と命はもう一度、燈を灯されたような気持だった。

 

「それで……いつになったら答えを教えてくれるんです」

「うん。その前にちょっとだけ、腕の力を緩めてもらっていいかな?」

「ふぇっ? あ、ごめんなさい! 痛かったですか? つい、夢中になって――」

「いや、そうじゃなくて……これがボクの答えってことです」

 

 いましがたの熱情に突き動かされるがままの積極的な彼女は何処へやら。

 あわあわと動転する彼女の背中に優しく両腕を滑り込ませて、ボクも沙夜さんを抱きしめた。

 手に伝わる彼女の透き通るようなサラサラした髪の感触が心地いい。

 

「沙夜さんにあそこまで言われたら、やらなきゃだよね。頑張って君の一番になる」

「ありがとう、永春くん。でも、気負わないで下さい。昨日、あなたが私を助けてくれたように……持ちつ持たれつでいきましょう。呪いも恋も私たちお互いに一人きりじゃあ荷が重そうです。でも、一緒ならきっと大丈夫」

 

 無邪気に苦笑する沙夜さんがとても愛おしくて、ちょっとだけ強く抱きしめた。

 彼女は最初少し驚いたようだけど、すぐに柔らかな佇まいになるとボクの体温や心臓の鼓動を感じようと体を深く寄せてきてくれた。

 

 ボクと沙夜さん――朝焼けの空の下でお互いに大切そうに抱きしめ合った。

 照れ臭くはあったけど、気恥ずかしくはなかったと思う。

 遠くで新聞配達のバイクのエンジン音が聞こえてくるまでボクたちはいままでの思い出とこれからの未来を夢見ながら、抱擁を交わしたまま幸せな気分を堪能していた。

 

 永い長い一日がこうして、ようやく終わりを告げた。

 そして、続く今日がやってくる。

 ボクの日常に色彩は完全に蘇っていた。

 もう二度と手を抜いて生きようだなんて思わないだろう。

 

 

 

 

 それは物部天厳の事件から数日が経ったある日の午後の一幕。

 

「ういー……やっとキリがついたぁ!」

「お疲れ様です姐さん。茶ぁ淹れました」

 

 六角モータースの事務所で連日に渡って机とパソコンに向かって事後処理に当たっていた光姫は最後の書類を送信し終えると豪快に応接用のソファーにダイブして伸びた。

 死人のように疲れ切った上司に四人組を代表して補佐についていた安が顔に似合わずハーブティーを用意して差し出した。

 

「一時は名古屋終わったと思いましたけど、なんとかなるもんでしたね」

「こんな大騒動二度とごめんだよ。我ながら学校や周辺の被害や混乱をよくもまあガス漏れとガス爆発で誤魔化し通せたと思うよ」

 

 据わりきった双眸で乾いた笑いを零す光姫に安は適当な相槌を打ちながら一人でせっせと散らかり切った事務所の片付けに精を出す。

 

「お嬢と永春、大金星でしたね。猿羅の怨面も無傷で取り戻せるとは流石に思ってもみませんでした」

「本当だよ。総本山も東北の面子も感涙ものさ。まあ、あの変態野郎が色々と弄ったせいですぐには使えないだろうがな。新しい担い手も鍛えにゃならないだろうし」

「浄化処置も俺らで執り行いますんで?」

「そこまで世話焼けるかっての。東北の古い名家があったろ? えーっと……」

「夜舞家のことですか?」

「おう。そこだ」

 

 小気味良く指を鳴らして、光姫は事後処理と同時進行でしたためておいた手紙が入った封筒を引っ張り出した。

 

「休暇も兼ねて、沙夜に届けさせようと思ってる。なんなら坊やも同行させてな」

「永春の奴は一応部外者なんですからあんまりこき使っちゃ可哀想ですぜ?」

「いいじゃねえか。どうせあのボンクラコンビはこれぐらい段取りしてやらねえと火遊びの一つもしやしねえさね」

 

 ハーブティーを豪快に飲み干すと光姫は悪党めいた不敵な笑みを作って見せた。

 

「ところで……永春のこと、他の連中には本当に隠しておくつもりですか?」

「なんのことだか?」

 

 本当に保護者代理の自覚あるのかと苦笑しつつ、安は咳払いを一つすると真剣な面持ちで切り出した。永春の抱える人魚の呪いの秘密は光姫や安たちも知る事柄になっていた。

 

「もしもバレたら、後々姐さんも大変なことになりますよ」

「――あたしら御守衆の仕事は無辜の人々の暮らしの安寧を守ることにある。ガキ一人の人生も守れないんじゃ、大店から店仕舞いした方がマシってもんさ」

「ハハッ! それでこそ俺らの姐さんだ!」

「それにあいつには沙夜がついてる。上手くやってくさ……あたしの自慢の妹分だぜ?」

 

 事件の傷跡は少しずつ癒えていく。

 大人たちは希望を信じて、託し見守っていく。

 こうして、季節は移ろいゆく――。

 

 

 

 

「ふー……すっかり、朝の空気が冷たくなりましたね。髪も乾きにくいから困ります」

 

 早朝の鍛錬を終えて、シャワーを浴びたばかりの火照った体から熱が抜けていく速さに秋の深まりを感じる。まだ少し濡れた長い髪の水気を手早くタオルで吸い取って、冬服のセーラー服に袖を通す。

 普通の女子高生ならここでメイクに時間を費やすものかもしれないけど、私の場合はナチュラルメイクと呼ぶことさえもおこがましい程度の簡単なものを少々で済ませる。

 彼が喜んでくれるのなら、将来的にはメイクの技術も一人前になりたいものですがいまのところ、不満や要望も出ていないので良しとします。

 

「それじゃあ、いってきますねナガハル」

 

 返事なんて返ってくるわけでもないのに殺風景な部屋で一等星のような光る存在になっている青い龍のようなマスコットぬいぐるみを軽く抱きしめる。

 以前、彼と一緒に遊びに行ったバッティングセンターの景品として手に入れた物だ。

 名前の由来はその……察して下さい。

 惚気るつもりはありませんがぬいぐるみ一つ抱きしめるだけでも、あの日のことはいまでも鮮明に思い出せてしまう。

 

「くふふ。二人とも、あれだけのことを言ったりやったりしていたのに言葉にするまで他に良い相手が現れるだろうだなんて考えて、気後れしていたなんて――私と永春くんらしいです」

 

 一方通行な慕情だと思っていたら、まさか彼も私にあんな深い好意を抱いていてくれていた――まさかの両想い。人生とは本当に不思議なものですと大人ぶって感慨に浸ってしまいます。

 

「さあ、張り切って今日を始めましょう」

 

 秋晴れの空の下、日々これ鍛錬と駆け足で学校への道を進み出す。

 以前は一人で通っていた通学路――いまでは一緒に通う人がいる。

 もちろん、彼のことだ。もう少し進めば永春くんが暮らす笛吹荘が見えてくる。

 

「沙夜さーん!!」

「永春くん!? そんなに慌てて、どうしたんですか!」

 

 そんな風に思っていたら通学路を逆走するように私を見つけて走ってくる彼の姿に目を丸くする。

 

「ハア……ハァ……それが! 駅前で車や自転車がひとりでに何かに踏まれたみたいに潰され出したって騒ぎになってて! 黒い靄っぽいのが神社の方に移動してるのも見かけたからさ! 電話するよりも走ればすぐに沙夜さんに会えると思って」

「十中八九で化神ですね。情報ありがとうございます」

 

 今日は朝から忙しくなりそうです。

 まさか、放課後を待たずにお仕事が始まるとは――いいえ、これなら今日の放課後はオフということで永春くんと楽しい時間を過ごせると前向きに考えていきましょう。

 

「では、いってきます!」

「気をつけて。ボクの方でも他に情報が手に入ったらそっちに送るよ」

「お願いします」

 

 あの後も永春くんは御守衆に所属こそしていないものの、私のサポートをしてくれています。

 ほぼ公認&専属ということで六角モータースに顔を出すことも格段に増えました。

 それから――いえ、まずはキッチリと私の務めを果たすとしましょうか。

 思い出話はまたどこかでゆっくりとお付き合いください。

 

「オン・カルラ・カン・カンラ」

 

 人目に付かないように家屋の屋根や電柱を飛び駆けながら、ブレスレットに見立てている白い鴉面を手に取ると心を研ぎ澄ます。

 

「白鴉の怨面よ、お目覚めよ」

 

 白い仮面に語りかけ、迷うことなく仮面を被る。

 私の全身の肌に無数の蛇が這うような赤い痣のような紋様が浮かび上がる。

 

 神通力と共にこの身に流れ込んでくる怨念無念の奔流とそれに伴う苦痛――かつてよりは和らいだ気もしますがこれはきっと消えることはない痛み。消えてはいけない痛みなのだと思います。

 超常の力を振るう者として、忘れてはいけない力への畏敬の証なのだから。

 そして、今日も私はその言の葉をどこまでも続く蒼穹に響かせる。

 

「――変身」

 

 白く輝く光の中で私は変わる。

 御伽装士としての戦いに終わりはない。

 いつまでビャクアとして戦い続けるのか、どんな終着が待っているのかは不透明だ。

 でも、大丈夫。

 だって――望月沙夜(わたし)の傍にはそう簡単には死に別れたりしない、常若永春(大切な人)がいつまでも一緒にいてくれるから。

 

「いざ――参ります!」

 

 私はどこまでだって羽ばたいていける。

 

 

 

 

 世界は呪いに満ちている。

 怒りがあり、悲しみがあり、憎しみがあり、恨みがある。

 万華鏡を覗いたような、色とりどりの怨念がいまも世界に芽吹いている。

 人が人として生きていく、この営みがある限り――それは続いていく。

 

 だけど。

 

 世界はそんなものよりも、もっとずっと眩しくてあたたかな祝福に溢れている。

 ボクたちはいつだって、そう信じていたい。

 彼女と一緒に生きるこれからの日々をそう信じて生きていきたい。

 

 

 終幕。

 

 





皆さま、ここまでお読みいただきありがとうございました。
仮面ライダービャクアの本編はここで一応の終わりとなります。
短編形式と言うことで、今後あと数話ほどの番外編を執筆する予定ではありますのでその際はどうかまたよろしくお願い致します。また作者の閃きがあれば長めのお話を書くかもしれません。
最後になりましたがお気に入り登録やご感想、読了報告などでたくさんの励ましを頂いた全ての読者様に本当に感謝しております。
またの機会にお会いしましょう。

それでは。




















 それは交わるべくして交わった二つの世界(仮面ライダー)の物語。
 仄暗い闇の底から放たれた陰謀が恐るべき牙を剥く。
 人知の領域を超えた生命体の魔手が伸びる。
 太古より夜闇に潜む穢れたちの悪意が忍び寄る。

 世界を救うことが出来るのは巡り会った二人の戦士たち。
 伝説たちの力を重ね結びし、不屈の守護者/白き怨面を纏い、七つ道具を操りし御伽装士。

 仮面ライダーデュオル! 
 仮面ライダービャクア! 
 いまこそ世界を守る疾風となれ!!

『仮面ライダーハーメルンジェネレーションズ外伝 デュオル×ビャクア ユニゾンウォー』

 制作決定。
 続報をお待ち下さい。
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